岩崎う大が投げ飛ばされスタジオがシーン…トミー・バストウ「怒りの演技」に緊張〈ばけばけ第87回〉

『ばけばけ』第87回より 写真提供:NHK
今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第87回(2026年2月3日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)
嫌がらせがはじまった
おコメを研ぐ画からはじまる。
トキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)が思い詰めた表情でおコメを研いでいる。
ひそひそと、彼女のことを「洋妾(ラシャメン)」と呼ぶ声を聞いて不安が募るトキ。事情はわからないがふさぎ込んでいる娘を心配する司之介(岡部たかし)とフミ(池脇千鶴)。
その司之介の顔に擦り傷がある。
心配するトキに「ええありませんが」とフミもとぼける。
「あるがね」
「ないがね」
「あるがね」
「ないがね」
トキと司之介が押し問答しているとヘブンが来て、喧嘩(けんか)でもしたのかと問えば「もうじき50じゃぞ」とそんな年齢で喧嘩などするわけないと言う。
「ただ転んだだけじゃ、ちょっと配達中に転んでの」
結局、認める司之介。
そのとき玄関で物音がして、見に行くと、トキグッズのうちわに「ラシャメントキ」と墨で書かれて捨てられていた。
誰かの嫌がらせ。司之介の顔の傷ももしかして……。
今日の主題歌「毎日難儀なことばかり」はハマって聞こえる。
司之介は配達中に通りすがりの人物からからまれ、トキのことを悪く言われてカッとなって手をあげたところ、相手が相撲取りで力ではかなわなかった。
「心配いらんけん私たちがついちょるけん」とフミ。
つまり、司之介もフミもトキが洋妾と言われ始めたことに気づいていた。そして、大事な娘をどんなことをしても守る気なのだ。
今度は「突然申し訳ございません。失礼してもよろしいでしょうか」と爽やかな風のような声で錦織(吉沢亮)がやってくる。彼もまたトキの噂(うわさ)を耳にして「心配になってしまい、なにかお力になれることはないかと」と飛んで来たのだ。錦織のこういう礼儀正しい物言いが気持ち良い。
現代的な言葉遣いを用いずともこうやって若い俳優がちゃんと丁寧な言葉を使えば、受け入れられるのではないかという気がした。
人の噂も75日。すぐに収まるといいけれど
錦織をヘブン(トミー・バストウ)は「本当の友達」と感動する。
錦織によれば、松江新報に、松野家が莫大(ばくだい)な借金を完済した記事が出たため、トキが借金のために洋妾になったと思われてしまったのだ。
「そげな誤解はどうしたら解けるんでしょう」とフミ。
「それは私も今思案中でして、ただいまのところ良い策は」と錦織。
そこへ梶谷(岩崎う大)が謝罪に来た。
「いや、わしもそげなつもりなかったんですが、勝手に火がついてしまって」
訂正の記事を出せと司之介が迫るが「それはちょっとやぶへびじゃ」とごまかしつつ、「なら1つ確認させてごしなさい。おトキさんは本当に本当にラシャメンだないんですよね」。
こんなことを聞くから、ヘブンが鬼の形相で怒って、梶谷を投げ飛ばす。
第87回のヘブンの怒りの表現は凄まじいものがあった。制作統括の橋爪國臣チーフプロデューサーはこう語る。
「これまでのヘブンはひとりで怒っていることはよくありましたが、他者に強い怒りをぶつけることはありませんでした。平太(生瀬勝久)に『ジゴク』と怒っていたのは深刻なことではなかったですし、どちらかといえば自分の中での怒りの表出でした。今回がほぼはじめての怒りで、たぶんそれをトキが見るのもはじめて。その重要なシーンを、トミーさんの解釈どおりに演じてもらったら、あそこまで激しいものになり、スタジオも静かになりました。
投げ飛ばされた梶谷役の岩崎う大さんは、『けっこうちゃんと投げ飛ばされたな』なんてことを言っていました。ちゃんとアクション指導もついて本格的にやったんです」
怒りも激しいが、愛情も激しい。ヘブンはトキを強く抱きしめる。
朝から血圧上がりそうなひと騒ぎがあって、ヘブンは出勤。
外には梶谷以外の記者が張っている。
人力車夫の永見(大西信満)が「不器用ですが。人の噂も75日。すぐに収まりますけん」と不器用ながら、松野家への忠誠心で励ます。
松野家の人たちが「ありがとう永見さん」とか言わず、黙って深く頭を下げるのが良い。
トキ、石を投げられ出血
トキの洋妾疑惑は町中に広がった。
雨清水家でもトキのことを心配している。
学校でも、ラシャメン派、ラシャメンじゃない派に分断する。
「どっちを信じる? 新聞かヘブン先生か」
トキとフミは変装して買い物に出かける。憧れられていたときも変装していたが、そのときはフミなんて逆に目立つような平安装束だったが、いまや、本気で目立たないように手ぬぐいを深くかぶってこそこそしている。トキは眼鏡をかけて本気で変装している。こう見ると、人気のときは気づかれることを少しばかり楽しんでいたように思えてくる。
ところがいまや、すっかり町の人たちの態度が変わってしまった。
何も売ってもらえない。
この場にいたら、身の危険すら感じて、フミは「走るよ」とトキを促す。
が、その途中、石を投げられ転倒するトキ。額から血がにじむ。
いざとなると意外と敏捷(びんしょう)なフミと恐怖にこわばるトキ、池脇千鶴と高石あかりの追い詰められたときの演技に見応えがあった。
なんとか帰宅して、包帯を巻いて手当しながら、こんな姿をヘブンには見せられないと言っているところへ「ただいま戻りました」とヘブンが帰って来た。
包帯を見られまいと手ぬぐいをかぶり、顔を背けて逃げるトキ。あはは、あははとふざけたフリをするも、ヘブンに包帯がバレてしまう。
ヘブンは再び、怒りに燃えて、勘右衛門(小日向文世)の木刀をつかんで、報復しようと駆け出す。
それを全力で止めるトキ。あんなに固まって震えていたトキが「大丈夫!」と力を込める。ことを大きくしたくない。その健気(けなげ)さが胸を打つ。これまでのんきな描写が多かった分、衝撃も大きい。
フォトギャラリー
主なシーンより
第18週(2月2日~2月6日)
「マツエ、スバラシ。」あらすじ
ついに借金を返済したトキ(高石あかり)、司之介(岡部たかし)、フミ(池脇千鶴)。ヘブン(トミー・バストウ)に感謝を述べる一同は、銭太郎(前原瑞樹)も交えて借金完済パーティーを開催する。そこにたまたま取材に訪れた梶谷(岩崎う大)が訪れ、松野家借金返済がヘブン先生日録の記事になる。すると、その日を境に松江の人々の様子が一変。トキたちの生活に影が落ちていく。
連続テレビ小説『ばけばけ』
作品情報
連続テレビ小説「ばけばけ」。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描きます。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語です。
【作】 ふじきみつ彦
【音楽】 牛尾憲輔
【主題歌】 ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
【出演】高石あかり(「高」の表記は、正確には「はしごだか」) トミー・バストウ / 柄本時生 板垣李光人 さとうほなみ 円井わん 濱正悟 大西信満 岩崎う大 前原瑞樹 杉田雷麟 日高由起刀 下川恭平 / 渡辺江里子 木村美穂 / 吉沢亮 / 北川景子 / 岡部たかし 池脇千鶴 佐野史郎 ほか
【放送】 2025年9月29日(月)から放送開始