中国人留学生激減か…「日中緊張」が大学を襲う

日中関係に緊張が走るたびに大学現場は動揺, 日中関係の緊張で8割が「学生募集に打撃」, 中国人にとって日本留学の象徴は「早稲田」, 米国のビザ発給厳格化で、日本が再評価, 求められる次の一手は?

現在、中国人留学生が数多く在籍する上位校には早稲田を筆頭に、東京大学、立命館大学、京都大学といった名門が名を連ねる(写真:梅谷秀司撮影)

日本における外国人留学生の36.7%(国別でダントツの1位)を中国出身者が占める現状――。日中関係に緊張が走るたびに、日本の大学関係者は神経をとがらせてきた。

【結果まとめ】筆者が独自に行った「日中関係の緊張が大学の学生募集に与える影響」の調査結果を見る

日本の大学経営は、世間の想像以上に中国人留学生という存在に依存している。とりわけ「早稲田大学の受け入れモデル」は、日本の大学経営における「成功の方程式」として全国に波及した。

だが今、その前提が根底から揺らぎ始めている。全国5000の学習塾(2万人の関係者)を取材した筆者が実施した独自調査をもとに、大学が直面する危機の正体と、求められる「次の一手」を解き明かす。

日中関係に緊張が走るたびに大学現場は動揺

日本は長寿の優良企業数が世界一だ。優秀な経営者を生み出してきた秘密を早稲田で研究したい――。そう語るのは、早稲田大学政治経済学部で学ぶ中国人留学生だ。

昨今、日中関係の緊張が高まっている。現在、文部科学省によれば、日本における外国人留学生33万6708人のうち、中国からの留学生は12万3485人と、全体の36.7%を占めるダントツの1位だ。

日中関係に緊張が走るたびに大学現場は動揺, 日中関係の緊張で8割が「学生募集に打撃」, 中国人にとって日本留学の象徴は「早稲田」, 米国のビザ発給厳格化で、日本が再評価, 求められる次の一手は?

出身国(地域)別留学生数

中国人留学生は、とりわけ地方や都市部の私立小規模大学にとって「経営の安全弁」として機能してきた側面がある。

それだけに、日中関係に緊張が走るたびに大学現場には動揺が広がってきた。仮に学生募集面で多大な影響が出た場合、大学の統廃合や撤退といった決断を迫られる大学が出てくる可能性も否定できない。

今のところ、大学関係者の多くは、日中間の緊張では、大学経営や学生募集といった教育業界内部に限られると見ている。

日中関係の緊張で8割が「学生募集に打撃」

そこで筆者は、日中関係の緊張が次年度の中国人留学生募集に与える影響について、緊急の聞き取り調査を行った。

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調査の結果、日中関係の緊張が次年度の中国人留学生募集に「減少」という形で影響すると答えた関係者は約8割に上った。さらに80%が学生募集において「打撃だ」と回答。

これは主に中国人留学生への依存度が高い小規模大学であり、依存度が深刻なほど危機感が強い傾向が見られた。

一方、「影響は限定的」と答えたのは、もともと受け入れ数が少ない大学や、上位の大規模大学が大半を占める。また、中国人留学生の減少分を他国からの募集で「代替できる」と答えたのはわずか9%にとどまり、多くの大学が代替の困難さを吐露した。

中国人にとって日本留学の象徴は「早稲田」

早稲田大学は、中国人留学生にとって特別な存在である。その背景には、20世紀初頭から中国の知識人が同校で学んできた歴史的経緯がある。

彼らにとっての比較対象は慶應義塾大学よりも、むしろ東京大学に近い存在として意識されてきた。

とりわけ早稲田は、政治・経済・文学・理工学分野を中心に「日本留学の象徴」として記憶されている。近年、その象徴性を決定づけたのが、2004年の国際教養学部の新設だ。

英語で完結するカリキュラムを前面に打ち出し、日本人学生と留学生を同じ土俵に置くという設計は、欧米の留学生に強い上智大学や国際基督教大学(ICU)とともに、日本の大学界において先駆的な取り組みであった。

興味深いのは、こうした動きが中国人にとって「日本の大学全体」の評価を底上げする要因となった点だ。

現在、中国人留学生が数多く在籍する上位校には、早稲田を筆頭に、東京大学、立命館大学、京都大学といった名門が名を連ねる。

さらに近年では、武蔵野美術大学や多摩美術大学などの美術系、そして東京科学大学、東京理科大学のような理系大学の人気も急速に高まっている。

ちなみに首都圏の中学受験現場でも、開成や桜蔭といった最難関校を目指す層に、中国にルーツを持つ子どもたちが増えている。

中国人留学生の増加を語るうえで、日本では、約800の大学のうち、大半が私立大学である点は欠かせない。私立大学は入試制度や学部設計、留学生の受け入れ方針を各校が独自に決定できる。

こうした背景から、全国で一気に中国人留学生の受け入れ態勢が整い、人数が拡大していったのは自然な流れだった。さらに、近年の上位大学を中心とする大学院の定員増も、その傾向に拍車をかけた。

少子化で日本人学生の進学が減る中、母国の過酷な学歴競争を逃れ、日本の名門大学の学位を求める中国人学生たちが定員を埋めている。

地方私大を卒業した留学生が、いわゆる「学歴ロンダリング」として上位大学の大学院を目指すルートも確立されている。関西のある私立大学教授は「ゼミの8割が中国人というケースも珍しくない。彼らの向学心は凄まじいが、多様性の担保という本来の目的が、数合わせの論理にのみ込まれている」と話す。

一方で、中国からの留学生比率が高まりすぎると、多様性を重視する層が距離を置く「特定国への過度な集中」への懸念といった課題も見え始めている。

筆者が複数の大学関係者を取材したところでは、昨今の日中間の緊張を受け、すでに「留学生施策の見直し」に動く大学が増える傾向にあった(独自調査参照)。

特定の国に過度に依存した施策は、政治や外交の影響を受けやすく、大学経営や日本経済にとって大きなリスクを孕む。今回の事態は、特定の国に偏らないポートフォリオへと転換するための好機と捉えるべきではないだろうか。

米国のビザ発給厳格化で、日本が再評価

減少が叫ばれる一方で、新たな動きもある。なお、中国人の最上位層が第一に目指す留学先は、本来アメリカである。

北京大学や清華大学といった国内の最難関重点大学と並行し、アイビーリーグへの合格を目論む層だ。日中関係が緊張する前は、こうした優秀層にとって日本は必ずしも優先順位が高い選択肢ではなかった。

しかし目下、トランプ政権以降のビザ発給厳格化や、経済安全保障を理由とした研究分野への制限により、渡米を断念する中国人留学生が相次いでいる。

その結果、アメリカ一択だった層の一部が、進学先を日本へと分散させる動きが強まっているのだ。

地理的な近さや治安、政治的な安定に加え、進学ルートの透明性は大きな魅力だ。中国政府による留学への注意喚起強化が予想される中であっても、日本は極めて現実的な選択肢として再評価される結果となった。

一方で、EJU(日本留学試験)の内容については「高校1年生レベル」との指摘もあり、当の中国人受験生コミュニティからさえも、制度の妥当性を疑問視する声が出ている。現場からは「入学後の課題提出やディスカッションへの適応力など、学習意欲こそが重要」という意見も多い。

経営基盤を数に頼ってきた小規模大学が「減少」に怯える一方で、難関校にはアメリカを諦めた「最優秀層」が押し寄せる。現在、日本の大学はこうした二極化の渦中にある。

求められる次の一手は?

最後に、これから日本の大学がすべきことは何か。それは「量」から「質」への転換だ。

まず、アメリカのように外国人留学生の学費を適正化(引き上げ)する。これは安易な出稼ぎ目的の流入を抑え、結果として「教育の質の担保」と「意欲ある学生の選別」につながる。

その原資を日本人学生の学費軽減や無償化に充てるという施策もあろう。同時に、留学生を大学の長期的なステークホルダーとして位置づけ、卒業後を見据えたネットワーク構築や寄付文化の醸成も欠かせない。

受け入れ後の「出口」の設計も甘い。日本で学位を取った優秀な中国人の多くが、日本の硬直的な採用慣行や賃金水準に見切りをつけ、外資系企業や母国のテック企業へ流出している。

「日本を第2の故郷」と慕う知日派を育てるはずが、単なる「便利な通過点」として消費されている現実は、日本社会全体の損失だ。日本社会に付加価値をもたらす層に対し、キャリア形成を国策レベルで支援する仕組みが不可欠だ。

どのような将来像を描き、その中で留学生をどう位置づけるかという設計思想が必要だ。短期的な学生数の増減に一喜一憂するのではなく、教育・研究・財政を一体で捉えた中長期戦略がなければ、日本の真の国際競争力は生まれない。