「早くしろごみ屋!」清掃従事者の理不尽すぎる日常

鼻をつまんで「臭い」, 「ば~か、運ぶのが仕事だろ」, 清掃従事者を不快にさせる「ゴミ」という表記, ブルーカラー職の今後

ごみ収集の現場で清掃従事者に向けられる、理不尽な「カスハラ」の現実とは(写真:Ystudio/PIXTA)

「カスハラ」(カスタマーハラスメント)が社会問題となっている。サービスの提供を受ける側が提供者に対して、暴言、誹謗中傷、土下座の強要、SNSでの拡散等、従業員の人格や尊厳を否定し、精神的・身体的苦痛を与える行為だ。

【写真】路上駐車の車の横をすり抜けて現場に向かうことも…

ごみ収集や不適正排出者への清掃指導時のカスハラはそれほど話題になっていないが、実際に街で清掃作業をしていると、住民から清掃従事者へ心ない言葉が浴びせられ続けている。あまりにも理不尽なクレームや要求も見受けられる。

鼻をつまんで「臭い」

筆者は清掃行政の研究を始めてから、数々の自治体でごみ収集業務や屎尿収集業務に参加し、実態の把握に努めてきた。ごみ収集作業時にその場に人がいれば、「いつもありがとうね」と声をかけてくれる時がある。ごみの積み込みで体力を消耗するため、このような言葉で不思議と力が湧いてくる。

また、集積所に人がいなくても、綺麗にごみを揃えて纏めてくれていたり、小さな袋のごみを繋いでくれて取り易くしてくれたりすると、「感謝の意」が伝わってくる。排出者のちょっとした言葉や行為により、収集者のモチベーションが向上し、住民に寄り添ったサービスを提供していくような流れを生む。

鼻をつまんで「臭い」, 「ば~か、運ぶのが仕事だろ」, 清掃従事者を不快にさせる「ゴミ」という表記, ブルーカラー職の今後

カラスに荒らされて散乱したごみを集める様子(筆者撮影)

一方、稀ではあるが、作業中に「心ない言葉」を浴びせる人がいた。よく言われるのが「臭い」という言葉だ。時には鼻をつまんでそそくさと歩いていく人もいる。

臭いのはごみや屎尿自体であるが、まるで清掃従事者が臭いというような言いっぷりである。子どもが悪ふざけで言うのならまだしも、いい歳をした大人が私たちの生活に必要不可欠な仕事をしている人に向けて心ない言葉を発するのはとても恥ずかしい。

また、道幅が狭い場所で収集している時に、後ろから来た車がクラクションを鳴らし(時にはずっと鳴らし続け)、「早くしろ!ごみ屋!」と罵声を浴びせる人がいる。住宅街の抜け道などでは早く通りたい気持ちはわからなくはないが、その道路上に住む人のごみ集積所が一本道に何箇所もありそれを回収していくため、わざと邪魔をしているわけではない。

人員や機材は常にギリギリの状態で多くの収集現場を受け持つため、効率的な一筆書きのルートで収集作業をする必要があり、終わるまで待ってもらうしかない。急いでいるのであれば、「急がば回れ」で迂回し、大通りを利用してほしい。また、「ごみ屋」という表現についても悪質な表現と感じる。

「ば~か、運ぶのが仕事だろ」

対面で言葉を浴びせなくても、清掃従事者を見下げて困らせたり、不快な気持ちにさせたりする行為をする人がいる。

清掃職員の方からは、収集作業時の嫌がらせで、先述した道幅が狭い場所での収集時に、わざと収集車に車をピタ付け(密着させる)行為をする人がいたという話を聞いた。車をピタ付けし、収集したごみを投入口へ入れさせないようにしてきた。こうなっては、どうしようもなく収集車を一周させて当該車を先に行かせたとのことである。

鼻をつまんで「臭い」, 「ば~か、運ぶのが仕事だろ」, 清掃従事者を不快にさせる「ゴミ」という表記, ブルーカラー職の今後

路上駐車の車の横をすり抜けて現場に向かうことも(筆者撮影)

また、これは筆者も経験したが、集積所のあるところに車を路駐し収集車が到着してもその場からどこうとしないドライバーがいる。路駐している車を避けて収集車を停めるので、多量のごみを何往復も持ち運ばねばならず要らぬ体力を消耗させられた。

トラブルになるため、その時は何も言わずこちらが折れる形で黙って作業をしたが、多くの45リットルの大きなごみ袋を両手で持てるだけ持って運んでいるのをドライバーは無表情で見ていたのを今でも忘れない。

似たようなケースは頻発しており、「ごみ収集をしますのでちょっと動いて頂いてよろしいですか」と丁寧にお願いしても、無視されるケースや「ば~か、運ぶのが仕事だろ」といった暴言を浴びせる者もいたという。余計なトラブルを招くこともあり我慢して収集していることがほとんどだ。

鼻をつまんで「臭い」, 「ば~か、運ぶのが仕事だろ」, 清掃従事者を不快にさせる「ゴミ」という表記, ブルーカラー職の今後

狭小路地に入っていくことも(筆者撮影)

また、繁華街の収集時に、酔っ払いが収集車に乗り込んで来て、「清掃工場に連れてって~」といった悪ふざけをした人もいたと聞いた。車からなんとか降ろしたが、自分が真剣に仕事に取り組んでいる最中に、悪ふざけで妨害されたらどう思うのであろうか。清掃従事者へのリスペクトがないためこのような行為に及ぶのであろう。

自治体の清掃職員はごみ収集だけではなく、分別ルール無視や不法投棄など、不適正排出者等への排出行為の確認や是正を求める清掃指導も行っている。その際は不適正排出者と顔を突き合わせて直に話す。

自らの非を問われたり、自らの要望や要求が受け入れられなかったり、不利な立場になったりすると、逆切れして清掃職員を罵倒する人がいる。その際によく言われる言葉が、「(自治体の)首長(市長・区長)に言うぞ!」、「議員に言うぞ!」、「税金泥棒!税金を払っているのだからそれぐらいしろ!」などである。

非を認めざるを得ない場合や、要望が通らない状況になったら、「お前の口の利き方が悪い!」、「態度が悪い!」と、論点をずらして口撃してくる。

一方で、収集し忘れなどといった何らかの手落ちが生じてしまう時がある。

大概は電話連絡が清掃事務所に寄せられその事実に気づくのであるが、自治体の担当者がお詫びに訪問した際に、執拗に「誠意を見せろ」と言う人がいる。どのような誠意を見せれば納得してもらえるのか。何時間もクレームを言い続け解放してもらえないケースや土下座を強要されることもある。明らかなカスハラだ。

清掃従事者を不快にさせる「ゴミ」という表記

ちなみに、読者の皆さんは「gomi」という語を書く時、ひらがなで「ごみ」と書くのであろうか。それとも「ゴミ」とカタカナで書くであろうか。もちろんどちらで書いても間違いではない。しかし、清掃事業に携わっている方々は、「ごみは『ごみ』とひらがな表記してほしい」と望んでいる人が多い。

鼻をつまんで「臭い」, 「ば~か、運ぶのが仕事だろ」, 清掃従事者を不快にさせる「ゴミ」という表記, ブルーカラー職の今後

街に落ちているごみ(筆者撮影)

そもそも「gomi」という言葉は外来語ではないため、カタカナで書く必要はない。カタカナ表記が外来語以外で使われるときは、人名、擬音語・擬態語、専門用語の場合や、対象を強調する時に使われることが多い。

ごみは日々の生活で排出する身近なものであり、何も特別に強調する必要はないと考えているからだ。カタカナで表記されることによって、「汚い・臭い」といったイメージを強調されているような印象を受けるという。

心ない言葉を浴びせられた際の清掃従事者の対応は人ぞれぞれであり、統一的なマニュアルはない。筆者が接している清掃職員の方々のほとんどは、①相手の土俵にのらない、②感情に感情を重ねない、③ぐっとこらえる、で対応している。経験上、相手を刺激すると収拾がつかなくなるとわかっているため、自治体が定めたルールに則った回答をするのみである。

相手が冷静さを失って感情的になってくるとなだめるしかない。清掃指導は大変精神的にストレスがたまる職となっている。

それぞれのストレス発散方法があり、清掃従事者はさまざまな趣味を持っており、中にはプロ級の腕前を備えた人もいる。筆者は情報収集を兼ねて清掃職員の方と飲食をするが、そのような場もストレス発散の場となっている。

ブルーカラー職の今後

ごみ収集や屎尿収集といった清掃従事者は、私たちの生活空間の衛生状態を保つという、社会にとって必要不可欠な仕事に従事している。にもかかわらず、大人の中には見下げた態度で接する人がいる。これらの根底には、ブルーカラーと言われる現場労働者を蔑視する意識があると思える。

読者の皆さんは、アメリカで起きている「ブルーカラービリオネア」現象をご存じだろうか。AIでは代替不可能なブルーカラー職がホワイトカラー職よりも多く給与をもらう現象が生じている。日本ではまだそうではないが、AIが進化していくと中途半端なホワイトカラーの中間管理職は淘汰され、機械ではできない現場仕事が残っていくようになると予測される。

日本でも「ブルーカラービリオネア」現象が生じ、両者の立場が逆転する未来において、かつての蔑視がいかに的外れなものであったかを、私たちは思い知ることになるかもしれない。