『それスノ』完コピ企画はなぜここまで面白いか

『それスノ』の完コピ企画が画期的なのは、ファンの「感動」を否定せずに、それを他者と共有できる“言葉”へと翻訳してくれる点にある(『それSnow Manにやらせて下さい』TBS公式HPより)
「あの人のダンス、本当に凄いんです」
【画像】魅力たっぷり!器用で多彩なSnow Manのメンバーたち
推しのパフォーマンスを誰かに伝えたい。ライブを見て、MVを見て、心が震える。でも、言葉にならない。「何がどう凄いの?」と聞かれて、「キレがあって」「そろってて」「えっと……全部?」などとしか答えられない。結果、「とにかく見ればわかる」と言うしかなくなる……そんな経験はないだろうか。
三宅香帆さんは、著書『「好き」を言語化する技術』の中で、「好き」を言語化するための第一歩として「よかったところを細かく具体的に挙げる」ことを勧めている。「何分何秒の、どの動きが、どう良かったのか」を具体的にメモすること。その理由は、「感想のオリジナリティは細かさに宿るから」だと語っている。
まさに、それを叶えてくれるのが、TBS系『それSnow Manにやらせて下さい』の人気企画「ダンスノ完コピレボリューション」だ。
「うまさ」を「速さ」に置き換えた発明
ルールはシンプルだ。
とある楽曲の振り付けを、その場で3分間だけ練習し、完璧にコピーできるかを競う。間違えたら失敗。正確に再現できれば成功。Snow Manのメンバーと、さまざまなゲストが対抗戦形式で挑む。
このフォーマットには画期的な「発明」がある。
「ダンスがうまい」という曖昧な評価を、「短時間で振り付けを覚えられるか」「正確に再現できるか」という、誰にでもわかる基準に置き換えているのだ。
詳しくない人がダンスを見ても、「キレがある」「この振りのここがなんかいい感じ」といった曖昧な褒め方になりがちだ。しかし、本企画は「短時間での振りコピ」という企画性をもたせることで、初心者向けに「凄さ」を翻訳することに成功しているのだ。
一方で、完璧にコピーできなくても番組は盛り上がる。振りが飛んでも全力で踊り切る姿に「かっけー!」と声が上がり、「ショーとしてパーフェクト」と評することもある。
「完コピ」という明確な基準があるからこそ、そこからはみ出したときの個性やタレント性も際立つところが、ファンからしたらたまらない部分だ。
「職人集団」Snow Manの実力

25年8月にリリースしたDigital Single「カリスマックス」。ユーロビートサウンドに乗せた“パラパラ”を思わせるような振り付けがキャッチー(Snow Man公式HPより)
ここで、Snow Manというグループについて触れておきたい。
彼らは2020年にデビューし、スタジアムライブを成功させるなど快進撃を続けている。しかし、デビューまでグループを結成してから約11年もの下積み期間がある。その間に培われたダンススキルは折り紙付きだ。
例えば、リーダーの岩本照は、グループの楽曲の振り付けを多数手がけるなど、振付師としての顔も持つ。彼の振り付けは、9人それぞれの個性を活かしながら、全体としての完成度を高めるものだと評価されている。

「Dangerholic」は公式TikTokで岩本による振り付け講座が配信されている(Snow Man公式Xより)(Snow Man 公式X より)
最年少のラウールは、小学生時代にダンスの世界大会で準優勝した経験を持つ。身長190センチでパリコレモデルとしても活躍しており、長い手足を活かしたダイナミックでしなやかなダンスは圧巻。
宮舘涼太は、華のある所作と品のあるポージングが持ち味で、同じ振り付けの中にも独自の色気がにじむ。プロから「ポージングの貴公子」と評されたように、止まった瞬間の美しさに思わず目が止まる。
メンバーからも「振り覚えが一番早い」と公認されている深澤辰哉は、番組内でも短い練習時間で高い完成度を見せる。バラエティではMCやツッコミ役を担うことが多いが、ダンスになると正確さと安定感を見せる。職人的な実力がこの企画で可視化されているのだ。
番組を見ていると、彼らのゲストへの接し方も魅力的だ。ミスをしても「すごい!」「かっけー!」と全力で盛り上げる。日頃からバラエティで活躍する、佐久間大介や向井康二の盛り上げ方はさすが。渡辺翔太や阿部亮平が女性アーティストの楽曲で見せる愛嬌のあるかわいらしいダンスも評判だ。できなかったことを笑うのではなく、挑戦したこと自体を称える空気がある。だから、ゲストも萎縮せず、のびのびとパフォーマンスできるのだろう。
そんなふうに考えると、本番組はSnow Manというグループの、9人のメンバーたちの人間的な魅力、アイドルとしての魅力をこれ以上なく引き出してくれる、奇跡のような番組なのかもしれない。それぞれの個性が邪魔することなく、しかし掛け算となって、あの多幸感にあふれる空間を作っているのだ。
プロの言葉が「見る目」を変える
この企画のもう一つの魅力が、審査員を務める世界的ダンサー・TAKAHIROの存在だ。マドンナのワールドツアーの振り付けを手がけるなど、国際的に活躍する振付師でもある。
彼の役割は、単に「うまい」「下手」を判定することではない。「なぜそのダンスが良いのか」を、私たちにもわかる言葉で解説してくれることだ。
また、不定期で放送される「プロが選ぶ完コピダンスグランプリ」では、DA PUMPのKENZO、振付師の仲宗根梨乃、東方神起など各界のプロがパフォーマンスを評価する。
といった形で、私たちが「凄い」としか言えなかったものに、プロは名前を与えてくれる。
TAKAHIROはこの企画についてこう語っている。「たった3分です。でも3分じゃない。彼らのアーティスト人生プラスの3分です」
この言葉が、企画の本質を突いている。3分間で見えるのは、その場の記憶力だけではない。何年もかけて体に染み込ませてきた基礎、舞台経験、表現者としての厚みなのだ。それが、一瞬のパフォーマンスに凝縮される。
ファンは「推しの凄さ」を知っている。でも、それを言葉にできなかった。TAKAHIROの解説は、「言いたかったこと」に輪郭を与えてくれる。
冒頭で紹介した三宅香帆さんの言葉を借りれば、『それスノ』の完コピ企画は、まさにこの「細分化」を視聴者の代わりにやってくれている。
事務所の枠を超えたコラボも楽しい

(『それSnow Manにやらせて下さい』公式Xより)
この企画には、さまざまなゲストが登場する。
LDHからは三代目J SOUL BROTHERS、GENERATIONS。ももいろクローバーZ、元AKB48メンバーらも。さらにはK-POPから、LE SSERAFIM、Kep1er、IVE、そして、同じ事務所の先輩・後輩まで。バラエティでの共演は珍しいアーティストたちが、「完コピダンス」でプロとしてのプライドをぶつけ合う。
23年12月、初回放送では、GENERATIONSの関口メンディーが「歴史が動いてる感じがする。ドッキリだと思っていた」と心境を語った。音楽番組で顔を合わせることはあっても、バラエティで共演するのは初めてだったという。
同じ事務所内の対決も熱い。目黒蓮は、timeleszに加入した同期の原嘉孝とtimeleszの楽曲「Anthem」で激突。「ぶっ潰します」と火花を散らして盛り上がった。
また、K-POPアーティストたちの実力もやはりインパクトがある。Kep1erのダヨンが踊ったBLACKPINKの「LIKE JENNIE」には、プロダンサーたちが「奇跡」「化け物」と絶賛。胸だけを独立して動かすアイソレーション、3分で完璧に仕上げる吸収力に触れながら「シンプルに実力者です」という解説に、ダンスを見る視点がまた一つ増えたように思った。
番組内では韓国の音楽番組の話題や、「チッケム」(推しカメラ)文化についても触れられる。エンターテインメントを通じた日韓の交流が、自然な形で生まれている。
事務所の垣根を超えて、互いのパフォーマンスにリスペクトを送り合う。SNSでは、「普段追っていないグループだけど、この人のダンス凄い」「もっとみんなに知ってほしい」という声をよく見かける。完コピという共通のフォーマットが、新たな「発見」を生んでいる。
推しを語る言葉を手に入れる
冒頭で、「推しのダンスが凄いことはわかるけど、何がどう凄いか説明できない」と書いた。
『それスノ』の完コピ企画は、このもどかしさに一つの解を示してくれる。「3分で覚えられる」という即興性が、プロの記憶力と身体能力を可視化する。プロの審査員の言葉が、細分化して凄さを教えてくれる。
そして、さまざまなアーティストとの対決を通して、同じ振り付けをしているなかでの「その人ならではの個性」を浮かび上がらせるのだ。アイドルに限らず、言葉にしたい!と思うような「好きなもの・こと」がある人にとって、見ていて気持ちの良い企画だろう。
筆者も、この企画に出てほしいタレントが何人も頭に浮かんでいる。いつか叶う日を妄想しながら、さまざまなアーティストのダンスを毎回楽しみに見ている。