ごく普通の空き家を現代的に大胆リノベ。快適性と工芸美を追求した建築家・山川智嗣+山川さつきの自邸

富山県南砺市を拠点に活動している建築家の山川智嗣さんと山川さつきさん夫妻。

2人が率いる「コラレアルチザンジャパン」は、一級建築士事務所であると同時に、日本初の職人に弟入りできる宿「Bed and Craft」をはじめ、日本の職人の手仕事を生かした宿泊施設のブランディング・プロデュース事業も行っています。

「この街に多く残っている古い建物を活用し、よいかたちで後世に残していこうという思いで宿をつくってきました」という2人が、事業と一貫した志で空き家をリノベーションし、職人の手仕事をふんだんに取り入れた、魅力的な自邸を完成させました。

無価値だと見なされがちな中古物件にこそ価値を与えられる, 古さを生かすより、現代的な快適性を担保するリノベーション, 富山の厳しい冬でも緑と生き生き暮らせるよう、家を温室に, シンプルな空間に光る、地元の職人たちによる手仕事の美, 昨今活気づく井波から、日本の手仕事の魅力を発信し続けていく

Ken Ohki

無価値だと見なされがちな中古物件にこそ価値を与えられる

賃貸暮らしなどを経て、いよいよ自邸を構えようと決意した2人が求めたのは、一軒家。それも、あえて「古すぎず新しすぎずの空き家」だったといいます。それはなぜでしょう。「築100年以上経っている古民家は歴史的な価値が高いと評価されることが多い一方で、築50年も経っていない空き家は大した価値がないとされ、解体して更地化されがちです。しかしそう簡単に壊して新しく建て直してばかりいると、街並みが失われていってしまうのではないでしょうか。対抗策として、建築家ならではの回答を考えたいと思っていました。そこで、無価値だと見なされた中途半端な古さの物件にこそ、設計の力で価値を与え、現代に蘇らせる。そのモデルケースをつくることを、家づくりのコンセプトに据えたんです」〈写真〉外観。築30年ほどの空き家をリノベーションした。外壁は全体的に塗り直したが、建物の形は変えていない。

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Ken Ohki

古さを生かすより、現代的な快適性を担保するリノベーション

古い建物のリノベーションというと、元からあった特徴や古さを味として大切に残し、生かすのが定石かと思いきや、山川さんはそうはしません。「この建物にしかない個性をポイントにすると、中古物件に価値を付与するための提案として汎用性がないプランになってしまいます。そのためあえてまったくもって大したことのない、どこにでもある、無個性な建物を選びました(笑)。ただし、RC造や鉄骨造では間取りの変更が難しいため、可変性を発揮できる木造であることは条件でした。取り立てて残したい特徴がないぶん、全体を思い切りスケルトンにしてから、自分たちの暮らしに合わせてつくっていったんです」街並みになじんでいる建物の外観はほぼそのままに、中身を大胆に刷新。断熱性や気密性をしっかり高め、古さに甘んじず現代的な快適性を担保するリノベーションを目指したのだといいます。〈写真〉1階。手前は玄関土間兼温室。奥はダイニング、リビング・キッチンと、スキップフロアで上りながら続く。

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コラレアルチザンジャパン

〈写真〉先ほどの写真とほとんど同じ立ち位置で撮影したリノベーション前の様子。

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Ken Ohki

富山の厳しい冬でも緑と生き生き暮らせるよう、家を温室に

山川さんは大の植物好き。だけれど、富山の冬の厳しさと長さは一筋縄ではいかない。よく枯らしてしまうのが積年の悩みでした。そこで、寒い時期も植物が健やかに育ち、共に暮らせるようにと、まず家の入口から入ってすぐの場所に玄関土間兼温室を構えることにしました。屋根に新設したトップライトと庭に面した窓から自然光が注ぐ明るい空間に、さまざまな植物が生き生きと並んでいます。よく人が集うという山川さん宅で最初に来客を迎える、家の顔ともいえるスペースです。〈写真〉温室には植物と共にピアノやオブジェも配され、趣味性の高い空間になっている。中央にあるのが玄関口。

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コラレアルチザンジャパン

玄関土間のみならず「家全体を温室のように温かく快適にしたい」という思いもありました。樹脂サッシや断熱材によって気密性と断熱性を高めたうえ、新設した床と既存の床の間に生まれた床下空間に空調を設置したのがポイント。家の内側から床下空間を通って外壁側の床から吹き出された温風が、2層分の吹き抜け空間に立ち昇り、天井のシーリングファンで下方へ送り戻され循環する。この仕組みづくりに実験的に挑戦した結果、見事に功を奏したそうです。〈図〉断面図。

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Ken Ohki

1階のフローリングは床暖房のように機能し、冬も裸足で歩けるほどの温かさ。吹き抜けの大空間ながら、真冬でも上下階でほとんど差のない温熱環境を実現。夏は2階のエアコン1台、冬は1階のエアコン1台(どちらも8畳用)で家全体の空調をまかなうことが可能という、快適性の面でも省エネの面でも満足の住み心地となりました。〈写真〉2階の浴室の窓から吹き抜けの天井を見る。シーリングファンは浴室の湿気を室内に循環させ、家全体を加湿する役割も担っている。

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Ken Ohki

シンプルな空間に光る、地元の職人たちによる手仕事の美

コラレアルチザンジャパンが手掛ける宿「Bed and Craft」のいちばんの特徴は、職人に弟子入りできる宿であること。地元で活躍している木彫刻家や仏師、漆芸家、陶芸家、染色家らと協力し、手仕事の魅力を伝える空間・サービスを提供してきました。この自邸においても「『シンプルだけれど、工芸の美しさを内包した空間にしたい』という点には、かなりこだわりました」と山川さんは語ります。「ここ井波は昔から木彫刻の産地なんです。なかでもベストセラーは、欄間彫刻。ところが欄間がある家が減るに連れ、産業も衰退しつつあります。そんななか、今の暮らしに寄り添うかたちで欄間づくりの技術を生かしたプロダクトをつくり、ご覧になった方から『こんなこともできるんだ』『こういう暮らしがしたい』と感じていただけたら、職人さんたちの助けにもなるかなと、願っているんです」そうして生まれた照明は、日本伝統の手仕事の妙技が感じられつつモダンなアートとして現代の生活空間で楽しめる、独自の存在感を放っています。〈写真〉照明は山川さんが一昨年立ち上げたブランド「IPPA」より「ペンダントライト クラウドL」(手前)と「ブラケットランプ クラウドB」(奥)として発売されている。オーダーを受け受注生産。

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Ken Ohki

お気に入りのダイニングチェアに合わせてつくった大きな丸天板のダイニングテーブルは、木彫刻家の田中孝明さんに依頼し、オーク材に繊細な名栗(なぐり)加工を施してもらったもの。とある一部には、山川さん夫妻が自らの手で削った跡も、思い出深く残っています。表情豊かで手触りもよい天板は、この場に集う人々を温かく迎え、会話を弾ませてくれているそうです。〈写真〉ダイニングチェアは宮崎椅子製作所と家具デザイナーの村澤一晃さんが初めて協働した作品。すでに廃番だが、憧れと敬意からどうしてもこの家に置きたく、全国の家具店に呼びかけ探し集めた。

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Ken Ohki

昨今活気づく井波から、日本の手仕事の魅力を発信し続けていく

井波のなかでもここ「中京通り」は昨今、特に若い起業家が多く移住してきているエリア。空き家を活用した高感度なお店が続々と誕生し、訪れる人も増え、活気づいてきているところなのだとか。喜ばしい追い風のなか、今後も地元の職人たちや新たな人々とのつながりを大切に築きながら、建築設計や宿泊施設のプロデュースを通じて日本の手仕事の魅力を発信し続けていくという山川さん。現代的な機能性を確保した生活空間のなかで人間の手仕事の価値を堪能できるこの家のあり方は、より文化的で心豊かな暮らしを探し求めている人々にとって、温かな希望の光となることでしょう。〈写真〉左の壁沿いに置いた木製の棚は中国の家具ブランドFNJIのもの。職人技術が凄まじい造形に惚れ込み、本国から取り寄せた。

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Ken Ohki

〈写真〉玄関ドアのノブは、ダイニングテーブルと同じく田中孝明さんが制作。木の丸皿をつくる要領でろくろ挽きし、名栗加工で仕上げたもの。ドアを開ける瞬間から手触りが快い。ときを経て色合いと味が深まっていくのが楽しみだという。

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Ken Ohki

〈写真〉ダイニングから温室を見る。窓越しに見える外の庭も含め、生活空間と一体に緑が感じられて心地よい。

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Ken Ohki

〈写真〉ダイニングからリビングとキッチンを見渡す。床レベルと天井高をぐっと上げた空間を低めの家具でゆったりと囲み、プライベートなくつろぎ感を高めたスペース。

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Ken Ohki

〈写真〉リビング。断熱性と気密性を高めるため開口は大きくはとらず、要所で採光・通風のため効果的に用いている。

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Ken Ohki

〈写真〉オープンキッチンの背面には格子の引き戸を設置し、裏にある冷蔵庫や電子レンジの置き場とパントリーへの動線の目隠しとした。工芸的な意匠が目を惹くフォーカルポイントとしつつ、奥へ抜ける視線を程よくカットすることと通気性を確保することを両立している。

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Ken Ohki

〈写真〉リビングからキッチン側の見上げ。吹き抜けの角にRをつけて壁・天井をなめらかにつなげ、職人の手仕事の跡が感じられる左官風の特殊塗装で仕上げた。光と空気が穏やかに巡る空間。

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Ken Ohki

〈写真〉階段の手すりはウォールナット材に名栗加工を施したもの。無骨な樹皮のような仕上がりが、頼もしい味のある握り心地をもたらす。

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Ken Ohki

〈写真〉フローリング張りの1階から寝室のある2階へ上る階段の折り返し地点で、寝室と同じカーペット張りへと床材を切り替えた。宿泊施設設計の経験から虜になった「堀田カーペット」製のロールカーペットを高い職人技術で敷き込んだ、こだわりの仕上げ。

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Ken Ohki

〈写真〉2階の寝室。吹き抜けを介し1階と一体のオープンな空間にしたことにより、常時1階とほぼ同じ温熱環境を実現。就寝時、カーテンで囲めばこもり感も得られる。

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Ken Ohki

〈写真〉2階浴室。屋外側と屋内側の対面に窓を開け、開放感と通気性抜群の空間に。家のなかにいながら外のような雰囲気を味わえるよう、温かみのある快活なテラコッタ色で仕上げた。

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Ken Ohki

〈写真〉寝室から見た浴室の窓。空気循環を誘発するためラタン編みでつくった建具やカラーリングが、東南アジアなどの温暖な地を彷彿とさせる。視覚的にも寒さを感じさせない空間デザイン。

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コラレアルチザンジャパン

<1階平面図>

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コラレアルチザンジャパン

<2階平面図>DATAHOUSE IN YAMAMI□設計監理_コラレアルチザンジャパン 山川智嗣+山川さつき□敷地面積_223.59㎡□延床面積_138.27㎡□1階_101.84㎡□2階_36.43㎡□家族構成_夫婦+猫2匹□所在地_富山県南砺市□用途地域_第1種住居地域□構造_木造 □工事期間_2022年04月~2022年11月□施工_藤井工業□キッチン製作_Indigo Furniture□造園デザイン_根岸造園設計事務所MATERIALS●外部仕上げ屋根_既存のまま外壁_リシン吹付塗装●内部仕上げ□リビング・キッチン床_複合オーク190幅t14 ニッシンイクス壁・天井_ポーターズペイント 一部ヘイムスペイント□ダイニング床_土間コンクリートt100 金鏝抑え+防塵塗装壁_ポーターズペイント天井_既存のまま□寝室床_ロールカーペットt9 堀田カーペット壁_ポーターズペイント 一部ヘイムスペイント天井_ポーターズペイントINSTRUMENTS□厨房機器/ガスコンロ:ハーマン DW35S9JTKSTED食洗機:三菱電機 EW-45R D1SU水栓金具:ミラタップ KT07879レンジフード:富士工業 薄型レンジフードステンレス□衛生機器/ バスタブ:ミラタップ バルカ 水栓:カラン TA05179シャワー水栓:ミラタップ サーモシャワー混合水栓洗面ボウル:平田タイル CIE -SHCOLAR60/BR 山川智嗣+山川さつき/コラレアルチザンジャパン【建築家プロフィール】

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