えっ、吉沢亮はこのまま退場? ドライすぎる「友との別れ」に込めた制作意図〈ばけばけ第95回〉

『ばけばけ』第95回より 写真提供:NHK
今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第95回(2026年2月13日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)
ヘブンが松江中学を辞めると発表
トキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)は久しぶりに対岸に来ている。
川を眺められる井戸端でサワ(円井わん)に熊本行きを報告。
「おトキは川のあっち側を飛び越えて、私の知らん、遠い南へ」とサワはしみじみ。
川の向こうに行くのも一苦労なのに、さらに遠くに行くとは。そのうち、海外に行くかもしれないトキがサワにはまぶしいのかもしれない。
でもサワはもうへこんだりはしない。いつか松江に帰ってきたときは「お祝いしてよ。立派な正規の教師になっちょるけん」と希望を語る。いまはまだ、結婚を断って、貧しい地域にいるけれど、いつかきっと川の向こうに行く。
「ここに来てもおらんけんね。川のあっち側におるよ。おるよね 未来のわたしー」
「おるよー 未来のおサワ あっち側におるよー。そして私、熊本におるよー」
「熊本、おトキを頼むぞ」
「おサワを頼むぞあっち側」
トキとサワは泣きながら背を向けあって叫ぶ。泣き顔を見せないために見える。
それからお互いを見るときは笑顔、でも頰に涙は残っていて、抱き合って泣き笑い。
「なんかようわからんけどスキップしよう」とサワはささやく。
不思議な友情で、主題歌。
主題歌明けは、雨。
松江中学の廊下で、庄田(濱正悟)に「サワちゃん あきらめる ない」とヘブン(トミー・バストウ)がささやく。
「もう今いいですよ。それ」
「ソーリー」
学校で何を話しているんだこのふたりは、と思ったら、庄田は教室に入ると衝撃の事実を生徒たちに伝える。
「突然だが、ヘブン先生が11月から熊本の高等中学校へ行くことになった。つまり本校をおやめになる」
ざわざわざわ。
「なぜですか? 理由を教えてください」と教室は騒然となった。
「理由はとてもシンプル」「簡単な話だ」
「クワイエット!」
ヘブンは大きな声で制す。
「理由はとてもシンプル。これが人生だから。1年と少し光栄でした。ありがとございます」
ヘブン、情熱的だし、やさしさもあるけれど、時々、こんなふうにやけに乾いている。
教室の後ろで聞いている錦織(吉沢亮)のうなじが、第94回から続いて物悲しい。
お知らせはまだあった。庄田が次の校長になるというのだ。これはヘブンも知らなかったことで、教室は大騒ぎとなる。
「静粛に」と声をふり絞る錦織。
「簡単な話だ。わたしは帝大を出ていない」と告白する。
「簡単な話だ」はヘブンの「理由はシンプル」と合わせているように感じる。
「私は残念ながら落ちてしまった。帝大卒業はもちろん、英語の教員資格免許すらもっていない。そんな男が校長になれるわけない。簡単な話だ。だましていて申し訳なかった」
2度繰り返した「簡単な話」。この言葉が胸をつく。
ヘブンはシンプルに、松江との別れを決めた。このシンプルさが、錦織の心を深く傷つけたのではないだろうか。なにしろ、ただの通訳のように言われたときもかなり傷ついていたから。
どうせ簡単に切り捨てられるんだと、自分なんてとるに足らないと思ったのではないだろうか。錦織はあまりにもナイーブ過ぎる。
去っていく錦織をヘブンが追いかける。
ヘブンが(校長の件を)なんとかすると言うと、「そんなことじゃないんで」と、ずぶぬれで去っていく錦織。
悲しいかな、ヘブンは錦織の気持ちをわかっていない。ヘブンが松江を去るなら校長になる意味なんて錦織にはないのだ。
明治24年(1891年)11月15日、出発の日。桟橋。多くの人が見送りに来ているが、錦織は来ない。
トキは錦織に会いに行こうとヘブンの手を引っ張る。
「大丈夫
もう、大丈夫
別れる しました」
なんだか恋人同士の別れのような感じがする。
ヘブンの本を読みながら、錦織は…
ヘブンは錦織がこっそり置いていった虫かごを抱えている。
錦織は自宅にいて、ヘブンの本を読んでいる。革のしおりがはさんであるのは、きっと錦織を「親友」と書いてある一節のページだろう。
咳き込んで、口を覆った手のひらを見ると――。
先週末の予告のカットはここだった。
リーンリーンと悲しい虫の声。
えええこのまま熊本編になってしまっていいの?
制作統括の橋爪國臣チーフプロデューサーのコメントを紹介しよう。
「あの虫かごは船の形をした有名なものです。いまの小泉八雲記念館にも同じデザインのものが展示してあります。
ヘブンが次に書く本の題材には虫がいいと、錦織は虫が苦手にもかかわらず、ヘブンのために虫を飼っていた。ヘブンに持ってきたのも虫に関する本なのでしょう。ところが熊本に行くと聞いて絶望し、彼なりに思うこともあって、あれを玄関先に置いてそっと帰った。あとでそれをヘブンが見つけたのでしょう。そのあとの雨の学校のシーン、錦織が見送りに来ない船着き場と、ふたりはお互い思い合いながらすれ違い続けるという流れになっています」
「錦織は実際どういう思いでヘブンたちの見送りに行かなかったのか、体調が悪かったからか、それ以外の理由なのか、また、彼が本当になりたかったものは何なのかということもこの先、描きます」
「トキとヘブンと錦織はもう一度また会います」
「今後描かれるヘブンとトキと錦織のシーンは、すごくいいシーンに仕上がっています。編集はすでに終わっています。まだ音などはついていませんが、編集の段階でとてもいいシーンに仕上がっています。ご期待ください」
気もそぞろで、来週から熊本編!
フォトギャラリー
主なシーンより
第19週(2月9日~2月13日)
「ワカレル、シマス。」あらすじ
松野家を襲った騒動もひと段落。トキ(高石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)は再び平和な日常を歩き出していた。しかし、突然ヘブンが「マツエ、フユ、ジゴク。ハナレルシマショ。」と松江を離れたいと言い出す。同意も納得もできないトキの反発を受けるが、ヘブンは司之介(岡部たかし)やフミ(池脇千鶴)、勘右衛門(小日向文世)、タエ(北川景子)たち家族にも、一緒に松江を離れないかと問いかける。
連続テレビ小説『ばけばけ』
作品情報
連続テレビ小説「ばけばけ」。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描きます。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語です。
【作】 ふじきみつ彦
【音楽】 牛尾憲輔
【主題歌】 ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
【出演】高石あかり(「高」の表記は、正確には「はしごだか」) トミー・バストウ / 板垣李光人 さとうほなみ 円井わん 濱正悟 大西信満 杉田雷麟 日高由起刀 下川恭平 重岡漠 / 渡辺江里子 木村美穂 / 吉沢亮 / 北川景子 / 岡部たかし 池脇千鶴 佐野史郎 小日向文世 ほか
【放送】 2025年9月29日(月)から放送開始