小田原厚木道路「不正取り締り」起きて当然の理由

そんなに出していなかったはずなのに……, すべてが自動取締装置なら, 混雑しがちな「時速100km」から空いた「時速70km」へ, 自転車の青切符にも懸念

神奈川県警の不正な交通取り締まりに注目が集まっている(写真はイメージ、写真:あおぞら / PIXTA)

この2月、ドライバーならば誰しも関心のある事象で、衝撃的ともいえるニュースがテレビや新聞を賑わしている。

【写真】小田原厚木道路はついつい速度超過をしてしまいがち、だけど…

神奈川県警第2交通機動隊(2交機)が、不適正な交通違反の取り締まりを繰り返していたというのだ。

交通反則切符に虚偽の内容を書いたり、現場に出向いたかのように装って実況見分調書を作ったりしたというもので、県警と警察庁は2月20日、警察への信頼を揺るがしたとされる関係者24人を処分したと発表。

22年3月から24年9月までの2年半の交通違反2716件が取り消され、およそ3500万円の反則金を違反とされた人に還付するという、前代未聞ともいえる不祥事である。

同じ20日には、反則金の還付などに関する24時間対応のコールセンターも設置された。この対応も、事態の深刻さを象徴する。

そんなに出していなかったはずなのに……

この出来事は、2つにわけて考える必要がある。

1つは、交通違反の取り締まりのあり方そのものについて、どう考えるかという視点。もう1つは、今回の不正取り締まりの主要な舞台となった「小田原厚木道路」、通称“小田厚=おだあつ”の特殊性である。

高速道路などを走っていて、運転中に後ろからパトカーに迫られて停止を求められたり、前方に待機していた覆面パトカーに路肩へ誘導されたりする驚きの経験をしたことがある人は、少なくないであろう。

そんなに出していなかったはずなのに……, すべてが自動取締装置なら, 混雑しがちな「時速100km」から空いた「時速70km」へ, 自転車の青切符にも懸念

覆面パトカーに誘導され、路肩に止められたクルマを見たことがある人も多いだろう(写真はイメージ、写真:macha / PIXTA)

「時速25km以上オーバーしていました」などとデータを突きつけられれば、「そんなに出していなかったはずなのに……」という思いも少しはありながら認めざるを得ないのは、警察という誰をも逮捕できる権力に逆らっても、かえって自分の立場が悪くなることがわかっているからである。

しかし、その数字が正確なデータではなかったとしたら……。

そんなことが、実際に何千件も起きていたのである。交通違反は反則金だけでなく点数によっては、免停や免許取り消しになったり、運転免許証の色、ひいては自動車保険の料額にも影響するなど、違反とされた人にとってはきわめて大きなペナルティとなる。

そんなに出していなかったはずなのに……, すべてが自動取締装置なら, 混雑しがちな「時速100km」から空いた「時速70km」へ, 自転車の青切符にも懸念

反則金は返ってきてもゴールド免許は返ってこない(写真はイメージ、写真:tkyszk / PIXTA)

今回の不正では、パトカーによる追尾距離が規定より短いのに「違反」と決めつけて捕捉するなど、不正の手口が具体的に明らかになりつつあるが、これが本当に2交機による2年半だけのことだったのか。さらに調べればより深い闇があるのではないか、といった疑念も浮かんでくる。

また、交通違反の取り締まりについては、公平性などから以前より疑問を呈す意見も根強い。今回の再発防止策も発表されつつあるが、警察内部だけの取り組みで本当に信頼が回復できるのか、注視していく必要があるだろう。

すべてが自動取締装置なら

実は、筆者も数年前に関西の高速道路で「車間距離不保持違反」で、いわゆる違反切符を切られた。反則金9000円と違反点数2点のペナルティである。

その時も、流れに乗ってゆっくり走っており、特に前方を走るクルマとの車間距離を詰めた意識はまったくなく、釈然としなかったことをよく覚えている。

それを不正だったというつもりはないが、違反の目安はあるものの「車両距離」に明確な数字の基準はないとのことで、恣意的な運用をされやすいように思う。

そんなに出していなかったはずなのに……, すべてが自動取締装置なら, 混雑しがちな「時速100km」から空いた「時速70km」へ, 自転車の青切符にも懸念

車間距離に明確な取り締まり基準がないことは問題だ(写真はイメージ、写真:MediaFOTO / PIXTA)

ちなみに、ヨーロッパを中心に海外でもかなりレンタカーで走っている筆者は、恥ずかしながらオーストリアやイギリスでスピード違反をし、反則金の支払いを命じられたことがある。

しかし、すべて速度違反自動取締装置、いわゆるオービスによる計測と撮影で、後日証拠となるデータと写真がメールで送られてきて、レンタカー会社が使用時に登録したクレジットカードから罰金を強制的に差し引く形で決着した。

反則金の支払いは悔しいが、これだと恣意的な運用が入る余地が少なく、自身を反省するしかない。

さて、この取り締まりの主要な舞台となっていたのが、神奈川県厚木市の東名高速道路と小田原市の「小田原西IC」を結ぶ自動車専用道路、小田原厚木道路(小田厚)である。

片側2車線で、しかもカーブや勾配もゆるく走りやすいが、制限速度は時速70kmと、ついついスピードを出してしまいがちな道路構造のため、取り締まりが多い道路として以前よりよく知られていた。

そんなに出していなかったはずなのに……, すべてが自動取締装置なら, 混雑しがちな「時速100km」から空いた「時速70km」へ, 自転車の青切符にも懸念

小田原厚木道路は空いていることが多く速度が高くなりやすい(写真:m.matsuyama / PIXTA)

東京方面から箱根や湯河原、そして熱海や伊東などの伊豆半島東部に行く場合、主に使われる道路でもあり、首都圏のドライバーにもなじみのある人が多いはずだ。

この道路の全線開通は1969年。これは東名高速道路の全線開通の年とまったく同じであり、かなり古い道路であることがわかる。

歴史を紐解くと、小田原市出身の当時の剛腕の建設大臣が、東名が小田原を通らないことから、小田原に通じる高規格道路の建設を命じたという説があるなど、かなりいわくつきの道路であったようだ。

そんな経緯もあってか、小田厚は全線が国道271号線となっており、平塚より東側は自動車専用道路、西側は一般道路扱い(ただし、歩行者や軽車両、原付などの通行は禁止)という変則的な道路で、路肩も高速道路に比べて狭い。

しかも、この道路の下りを使うドライバーの多く(特に観光利用の場合)は、東名の「厚木IC」から直接流入する。

混雑しがちな「時速100km」から空いた「時速70km」へ

東名の制限速度は時速100kmだが、特に「横浜町田IC~厚木IC」間は、大和トンネル、綾瀬バスストップ、海老名サービスエリア、海老名ジャンクションと渋滞の名所が目白押しで、なかなか時速100kmをキープしての走行ができない。

そんなに出していなかったはずなのに……, すべてが自動取締装置なら, 混雑しがちな「時速100km」から空いた「時速70km」へ, 自転車の青切符にも懸念

週末ともなれば多くの人で賑わう海老名サービスエリア(写真:t.sakai / PIXTA)

そんな環境から、交通量も比較的少なく走りやすい小田原厚木道路に出たとたん、制限速度が一気に30kmも下がってしまう。すると、多くのドライバーがそのギャップに戸惑いつつ、周囲の車に合わせて時速70kmを超えるスピードで走行する。それらのクルマが取り締まりの対象になりやすいのは、容易に想像できるだろう。

日本が法治国家である以上、制限速度を順守するのは当然とはいえ、その速度が本当に実態に即しているのかといった点は、再検討する必要もあろう。

この連載の第101回目「高速道路『最高速度150km/hへ』欧州で新たな動き」で、ヨーロッパでは最高速度を時速130kmから150kmに引き上げる動きが強まっている状況を紹介した。

日本でも新東名や東北道などの一部で、時速120km走行が認められるようになっているが、以前よりクルマの性能や安全対策も向上している昨今、接続する東名と小田厚の制限速度の差が30kmもあることについても、再検討する必要があるのかもしれない。

自転車の青切符にも懸念

おりしも4月からは、自転車の運転者にも青切符が切られることになる。

たとえば、自転車の歩道走行は例外的にいくつかの場合で認められているが、これも「工事などで車道左側の通行が困難な場合や、車道の幅が狭く交通量が著しく多いなど、車道通行に危険がある場合」という文面になっており、「通行が困難」とか「車道の幅が狭い」といった判断は、誰がするのかという問題がある。

そんなに出していなかったはずなのに……, すべてが自動取締装置なら, 混雑しがちな「時速100km」から空いた「時速70km」へ, 自転車の青切符にも懸念

自転車の「車道通行に危険がある場合」の判断基準は難しい(写真:xiaosan / PIXTA)

しかも、自転車の利用者は、こうした自転車の交通規則を体系的に学ぶ場がほとんど設けられていない。こうした中、信頼が揺らぐ警察の取り締まりが果たして実効力を持つのか、心配が募る。

さらに、今回多くの還付金が発生する事態となったことは、新たな還付金詐欺事件につながる可能性も否定できない。詐欺事件を取り締まるべき警察が、詐欺事件の引き金を引くという笑えない事態まで想像してしまう。

私たちが安心してハンドルを握れる環境のために果たす、警察の役割が大きいことをあらためて確認しつつ、揺らぎつつある信頼の回復に努めてほしいと強く願わずにはいられない。