「まぶしくて迷惑です」新車の9割に搭載されながら、なぜハイビームは公道の嫌われ者であり続けるのか?

普及率と利用率の乖離

 交通事故総合分析センター(ITARDA)が2024年12月に発表した「イタルダ インフォメーション No.147」によれば、国が普及を進める高機能前照灯(オートハイビーム、アダプティブドライビングビーム(ADB)など)の新車装着率は、乗用車全体で90%を超えている。

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 米国でも同様で、米国の非営利団体MITREが運営する「PARTSプロジェクト」が2024年9月に公表したデータでは、装備率が2015年モデルの7.5%から2023年モデルでは89.8%へと跳ね上がった。このように高度な照明システムは、短期間で爆発的に普及したといえる。

 しかし、実際の夜道では大多数の車がロービームのままだ。栃木県警が2020年10月に行った調査では、ハイビームの使用率は13.9%」に過ぎない。県警が

「依然、8割超がハイビームを使用していない」

と指摘するように、いくら呼びかけても状況は上向いていない。さらにITARDAの分析でも、過去10年間の夜間歩行者死亡事故の約95%が

「ロービーム走行時」

に起きており、全国的にロービームが当たり前になっている。

 普及率と利用率がこれほどかけ離れているのは、メーカーが安全性能アセスメント(NCAP)で高評価を取ることを優先したからだ。星の数を増やして売りやすくするため、ユーザーの使い勝手よりも評価基準を満たすための装備化を急いだ。つまり、作り手の点数稼ぎという都合と、使い手の必要性が結びつかないまま、数だけが増えてしまったのである。

操作の複雑さと誤解

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夜間歩行者死亡事故の約95%がロービーム走行時に発生した現場の前照灯状況(画像:交通事故総合分析センター)

 これほど装備が進んでいるにもかかわらず、なぜオートハイビームへの風当たりは強いのか。そこには複数の事情が絡み合っている。

 多くの人が突き当たっているのは、そもそも使い方がわかりにくいという壁だ。ITARDAの資料でも、この機能は決して「完全自動ではない」とはっきり書かれている。オンとオフを自分で切り替える手間が必要なうえ、メーカーや年式によってそのやり方はバラバラだ。なかにはオートライトの場所に合わせるだけで勝手に動き出す車もあり、知らないうちにハイビームが点灯しているケースも珍しくない。各社が足並みを揃えず、使い勝手を置き去りにして普及のスピードばかりを追い求めたツケが、今になって利用者への重い負担となって跳ね返っている。

 仕組みの限界も無視できない。カメラで相手の明かりを捉えて判断するが、雨や霧といった天候、あるいは看板や鏡の反射に惑わされることがある。そうなると、切り替えが遅れたり、不自然な動きをしたりする。特にITARDAが指摘するように、自ら光を発しない歩行者や自転車に対しては反応が鈍いという弱点がある。費用を抑えたあり合わせの組み合わせで済ませようとしたことが、結果として周りの車をまぶしがらせる不快感に繋がっている格好だ。

 さらに、ネット上での感情的なやり取りが、この機能のイメージを一段と悪くしている。一瞬の切り替え遅れが対向車をいらだたせ、実際にパッシングなどのいさかいに発展する例も報じられている。こうしたトラブルの体験談が瞬く間に広がることで、本来は身を守るためのものが、すっかり

「オートハイビーム = 迷惑」

として扱われるようになってしまった。2020年の法改正であおり運転への罰則が厳しくなったが、機械側の不完全さがドライバー同士の対立を生み出す火種となっている事実は変わっていない。

法規と安全の矛盾

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ハイビームの適正使用を呼びかける埼玉県警のページの一部(画像:埼玉県警察)

 オートハイビームが敬遠される背景には、今の決まりが抱える大きな矛盾がある。警察庁のウェブサイトでは、夜間のハイビームを強く勧めている。遠くの歩行者に早く気づき、事故を避けられるからだ。法律の基準で見ても、ハイビームは前方100m、ロービームは40m先まで見える必要があるとされ、その視認距離には2倍以上の開きがある。

 埼玉県警が出している数字はさらに切実だ。時速50kmで走っているとき、暗い色の服を着た歩行者に気づいてからぶつかるまでは、わずか2秒ほどしかない。50kmで急ブレーキをかけて止まれる距離が32mなのに対し、ロービームで見える範囲は26mにとどまる。つまり、気づいた時にはもう間に合わないのだ。だからこそ県警も、下向きのライトだけでは防げない事故があると警鐘を鳴らしている。

 一方で、道路交通法の第52条第2項は、対向車や前の車がいるときには明かりを落とすよう求めている。これを守らなければ、反則金6000円と点数1点が引かれる

「減光等義務違反」

に問われる。さらに2020年には妨害運転罪も加わった。わざとハイビームを浴びせ続けたとみなされれば、重い罰を受ける恐れさえある。

 結局、今の仕組みは「安全のために使え」という一方で、「対向車がいる状態でのハイビームは違反」という

「真逆の重圧」

を同時にかけている。万が一の事故を恐れる気持ちよりも、目の前の警察による取り締まりや、周りからの怒りを避けたいと思うのは、生活者としてごく自然な心理だろう。自分を守ろうとすればするほど、リスクの少ないロービームを選び続けるしかない。この理不尽な板挟みが、優れた機能を死蔵させている大きな壁になっているのだ。

性能が生む事故削減効果

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ITARDA INFORMATION No.147に掲載された高機能前照灯装備車と非装備車の夜間歩行者死者数比較(画像:ITARDA)

 オートハイビームにまつわる不和は、技術が広まる速さに私たちの理解や振る舞いが追いついていないことを映し出している。だが、希望がないわけではない。ITARDAの報告に目を通すと、2019年から2022年の統計では、高機能前照灯を備えた車は、そうでない車と比べて、夜間に歩行者が亡くなる事故が100万台あたりで6割も少ない。自動ブレーキの働きを差し引いても、ライトの性能だけで死者を3割減らす力があることがわかっている。

 最近は、前述のとおり、相手がいる場所だけを暗くする「ADB」という仕組みも普及し始めた。これはハイビームを保ちながら、対向車のドライバーがまぶしくないように光を遮るため、すれ違う瞬間も遠くまで見通せる。小糸製作所によれば、こうした仕組みの普及率はまだ10%台だが、軽自動車にも広がりつつあり、周りに迷惑をかけるという不満もいずれ解消されていくだろう。

普及と活用のギャップ

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オートハイビームの理想と現実。

 もっとも、中身がよくなるだけでは不十分だ。ITARDAは、すでに街を走っている車の機能がすべて正しく使われていれば、事故はさらに6割以上減らせたはずだと指摘する。持っていることと使いこなすことの間には、まだ深い溝がある。性能のよい仕組みが高価なモデルに偏り、安い車との間で安全の質に差が生まれている現実も重い。

 操作の仕方がバラバラな現状も、利用をためらわせる高い壁となっている。ただ便利なものを載せて終わりにするのではなく、誰もが迷わずに使え、互いに安心して道を譲り合える環境を整えていくことが求められているのだ。