資さんうどん「急拡大でも味ブレず」いったいなぜ?

おそるおそるなじみの味を食べてみると…, 全国展開は「水」の把握から始まる, 新店ができるたびに、一から味を確かめる, 「職人の感覚」を言語化する, 出店拡大で強固になった「資さん」らしさ

東京1号店としてオープンした「資さんうどん」両国店。福岡県民の筆者はオープン後に「果たしてどんな味なんだろう」と気になって訪問(写真:筆者撮影)

──2025年2月24日、ちょうど1年前。

【写真を見る】筆者が資さんで毎回必ず頼むかしわうどんはこんな感じ

資さんうどんの東京1号店が両国にオープンした。

福岡で生まれ育った人にとって、資さんうどんは“日常”だ。

だからこそ、一部の県民の間で「離れた土地でも、本当にあの味になるのか」という関心が広がったのは記憶に新しい。何を隠そう、筆者もその一人だ。

「東京の資さんはどんな味なんだろう?」

味を確かめてみたく、東京出張の折に両国店を訪ねてみた。

土地が変われば水も違うし、気候も湿度も違う。東京に出てきた資さんは、果たして“資さん”たりえるのか……!?

おそるおそるなじみの味を食べてみると…

半信半疑で注文を済ませ、緊張の面持ちでかしわうどんを口に運んだ瞬間、「わざわざ東京まで来て、何をしているんだ」という気分になった。

あまりにも、いつもの味だったのだ。

おそるおそるなじみの味を食べてみると…, 全国展開は「水」の把握から始まる, 新店ができるたびに、一から味を確かめる, 「職人の感覚」を言語化する, 出店拡大で強固になった「資さん」らしさ

おなじみの味で迎えてくれたかしわうどん689円(税込み)※金額は店舗によって違います(筆者撮影、両国店)

おそるおそるなじみの味を食べてみると…, 全国展開は「水」の把握から始まる, 新店ができるたびに、一から味を確かめる, 「職人の感覚」を言語化する, 出店拡大で強固になった「資さん」らしさ

麺はこんな感じだ。一本一本が結構長く、つるんとした喉越しを楽しめる(写真:編集部撮影)

麺の感触は福岡のうどんにしては、歯ごたえがあり、博多うどんと讃岐うどんの間のような食感。もっちりした柔らかさに、豊かな弾力を併せ持つのが特徴だ。

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かしわうどんは、スープの表面に鶏の脂が浮いている。この脂がスープの味に奥行きと深いうま味を与えている(写真:編集部撮影)

スープは九州各地で水揚げされた鯖を使った鯖節が最大の特徴。「あごだし」を基本とする、福岡のうどんとは一線を画している。甘味と混ざり合い、塩味のカドが取れたまるみのある味わいの中で、鯖節の風味がキリッと際立つ。

そして、おなじみの白地にピンクの「資」文字が入った紅白のかまぼこ。東京にいるのに地元を感じる……福岡の日常と変わらない味が、両国にもあった。

一口食べると、東京にいるのに、福岡の自宅周辺の風景や家族の顔が浮かぶ。やらなきゃいけない仕事の連絡も思い出した。一歩も動いていないのに、非日常の東京から、現実の福岡に戻ってきた。これこそ、慣れ親しんだ資さんの味だ。

うどんチェーンは全国展開において“最も再現が難しい料理”のひとつであるはずだ。材料も分量も工程も同じにすれば再現できる…そんな単純な話ではない。

北九州発祥のうどんチェーン「資さんうどん」は、長く地域に根付いた存在として親しまれてきたが、近年は九州全県に加え、関東や関西、中国地方にも出店を重ね、エリアをまたいで利用される店へと広がった。店舗数はこの数年で急増。2018年に38店舗だったものが、現在は90店を超え、今年中には120店規模に達する見込みだ。

これだけ全国展開を続けながら、どのように「資さんうどんの味」を守り広げていこうとしているのか。その裏側は、想像以上に地道で、終わりのない改善の積み重ねだった。

全国展開は「水」の把握から始まる

うどんチェーンが全国で「その店らしい品質」を保つために、難関になるのは環境の違いだ。では、その現実を資さんうどん自身はどう捉えているのか。株式会社資さんの社長・佐藤崇史さんに尋ねてみた。

おそるおそるなじみの味を食べてみると…, 全国展開は「水」の把握から始まる, 新店ができるたびに、一から味を確かめる, 「職人の感覚」を言語化する, 出店拡大で強固になった「資さん」らしさ

資さんの社長・佐藤崇史さん(写真:筆者撮影)

「まったく同じ材料を使って、同じ分量で作って、レシピ通りにやれば同じ味になるという考え方は、うどんではまったく通用しません」

理由は明確だ。水である。

うどんは、水の料理だ。麺を練るのも水、茹でるのも水、出汁を取るのも水。日本は基本的に軟水だが、地域ごとに硬度やミネラル成分は微妙に違う。九州内でも差があり、関西や関東に出ればさらに条件は変わる。

同じ茹で時間でも、ある地域では硬くなり、別の地域では柔らかくなる。レシピやマニュアルだけでは吸収できない差が出る。

店舗数が増えれば増えるほど、「同じ条件ではない店舗」が増え続ける。そのため、資さんうどんでは、新しいエリアに出店するたびにまず水を正確に把握するところから始める。資さんうどん進出の第一歩は「水の分析」なのだ。どこに差があり、どこを調整すべきか。資さんうどんの総力を挙げ、チームで一丸となり、目に見えない要因を一つずつ洗い出し、修正していく。

「ここを曖昧にしたままでは、次に進めませんから」

新店ができるたびに、一から味を確かめる

おそるおそるなじみの味を食べてみると…, 全国展開は「水」の把握から始まる, 新店ができるたびに、一から味を確かめる, 「職人の感覚」を言語化する, 出店拡大で強固になった「資さん」らしさ

資さんうどん 相模大野店オープン時の行列(写真:資さんうどん)

水質の違いが避けられない以上、資さんうどんでは新しい店舗を開くたびに、必ず行う工程がある。それが、味づくりを担う「商品開発担当者」が現地に入り、実際に一杯を確かめる作業だ。佐藤社長は、このプロセスを欠かさない理由をこう説明する。

「まずは味の責任者が現場を見ることから始まります」

実際に作って食べて考え、数字やマニュアルでは説明できない“違和感”を担当者の五感で探る。

同じ材料、同じ分量、同じ工程でつくっているはずでも、微妙な違和感が生まれることは珍しくない。その理由は、数字や手順書だけでは説明できない要素が重なっているからだ。そして重要なのは、店ごとの特別対応で終わらせないことだ。

ある店舗で起きた問題は、「こういう条件のときには、こう対応する」という形で整理され、次の店舗、さらにその先の店舗へと共有されていく。個別対応で終わらせず、再現可能なパターンとして蓄積していくのが基本方針だ。

「この工程に終わりはありませんが、「味」への深いこだわりを持つ社員一人ひとりが細部まで向き合い続けることで、問題解決の精度は着実に向上しています」

佐藤社長はそう表現する。こうした積み重ねがなければ、「どこで食べても資さんらしい一杯」は成立しない。答えは常に現場にある。資さんうどんの全国展開は、効率化の物語というよりも、ひとつずつ違いを埋めていく地道な実践の連続なのだ。

「職人の感覚」を言語化する

おそるおそるなじみの味を食べてみると…, 全国展開は「水」の把握から始まる, 新店ができるたびに、一から味を確かめる, 「職人の感覚」を言語化する, 出店拡大で強固になった「資さん」らしさ

資さんうどんの麺(写真:資さんうどん)

資さんうどんの麺づくりは、もともと九州にある自社の製麺工場を軸にしてきた。そこでは長年麺と向き合ってきた職人たちが、気温や湿度、その日の生地の状態を見ながら、微妙な調整を重ねてきた。数値では表しきれない感覚の積み重ねが、あの独特の食感を支えてきたのである。ただし、店舗網が広がれば広がるほど、そのやり方だけでは通用しなくなる。

九州から麺を運ぶのには、どうしても限界がある。当初は現地の外部業者に、同じ配合・同じ工程で製造を委ねた。だが、どうしても「資さんの麺」にならなかった。資さんうどんのあの柔らかでモチモチした麺は、店のアイデンティティと言ってもいい特徴である。この麺の食感がブレるわけにはいかない。

「麺も徹底的にこだわっています。粉も配合も工程も同じなのに、食感が違う。『これはおかしい』と、当初は社内のメンバーも頭を抱えました」

原因は、やはり水だった。水の性質が変わると、生地の締まり方や弾力の出方が変わり、麺の太さや歯切れにまで影響が及ぶ。理屈としては理解していても、現場で再現するのは容易ではない。そこで資さんうどんが選んだのは、すかいらーくグループの工場を活用し、自社基準で麺づくりを行うという方法だった。

「こちらの基準をもとに、資さんうどんとすかいらーくで、一緒につくる必要がありました」

温度や湿度を精密に管理し、科学的に分析できる環境の中で、職人自らが工場に入り込み、工程を一つずつ見直していく。試作を重ね、食べ比べ、修正する。その作業は半年以上に及んだという。

この過程で進んだのが、「感覚の言語化」だった。これまで職人の経験に委ねられてきた判断を、温度や時間、工程といった形で整理し、再現可能な形に落とし込む。

「職人の感覚だけでは、全国展開は難しい。でも、数字だけでも足りない。その両方が必要でした」

科学的な管理と、職人の舌や手の感覚を組み合わせることで、ようやく「資さんうどん」の麺を再現することができた。現在、関西や関東の店舗で使われている麺は、こうした試行錯誤の末にたどり着いたものだ。完全に同じ条件がそろうことはない。それでも、「資さんの麺」と呼べる水準まで引き上げるための工程が、全国展開を静かに支えている。

おそるおそるなじみの味を食べてみると…, 全国展開は「水」の把握から始まる, 新店ができるたびに、一から味を確かめる, 「職人の感覚」を言語化する, 出店拡大で強固になった「資さん」らしさ

資さんうどんで一番人気の肉ごぼ天うどん。2位が肉うどん、3位がごぼ天うどん、4位がかしわである(写真提供:資さんうどん)

麺と同様、とくにこだわりを語るのが、出汁の管理だ。

どれだけ味のバランスが整っていても、提供時の温度が下がれば客が受ける印象は大きく変わってしまう。だから資さんうどんでは、店舗巡回を行う担当者が、提供直前の状態を確認する体制を取っている。

とくに気温が下がる季節には、営業チームでオペレーションの見直しやルールの追加を重ね、熱々の状態で提供できるよう徹底してきた。

「出汁は作り置きができません。各店舗で毎日取り続けるからこそ、作りたての最高の状態でご提供可能になります。しかし、その分だけ管理の難易度は高くなります」

資さんうどんが出汁に強いこだわりを持つ理由は、ここにある。

出汁の微妙な変化をいち早く察知できる背景には、「お客様の声」を改善まで結びつける仕組みもある。店舗のQRコードアンケート、ホームページ、電話、SNS、Google口コミ――あらゆる声が日々本部に集約される。

「昨日入った声は、今日すべて見られます」

紙アンケート中心だった頃に比べ、デジタル化でタイムラグはほぼ解消された。

現在はさまざまな声をリアルタイムで確認できるため、問題発見から対策を講じるまでの時間が短縮されただけでなく、該当チームが解決に取り組む体制も構築されている。

出店拡大で強固になった「資さん」らしさ

どの飲食チェーンも、規模が拡大するにつれて品質にばらつきが生まれる余地は大きくなる。ばらつきそのものが悪いわけではない。しかし、ばらつきがある限り、多くの人にとって「あの味」として記憶され、あの味を食べに行こうと行動を促す存在にはなりにくい。

資さんうどんでも、新しい地域への出店経験を積み重ねていく中で、かえって味の再現性は高まっていく結果となった。

つまり出店拡大は、「資さんうどんとは何か」を改めて問い直す機会でもあった。資さんうどんが大切にしてきた職人の感覚に頼っていた部分を丁寧に言語化し、すかいらーくの高度なデータ分析を掛け合わせることで「何が資さんうどんの良さなのか」をより確かなものにしていったのだ。

出汁を各店舗で取り続けず、効率だけを考えれば、集中生産という道もあるだろう。それでも資さんうどんが現場での仕込みを手放さないのは、作りたての状態こそが、最も高い価値を生むと考えているからだ。その前提を守るために、手間のかかる管理や調整を日々続けている。

全国展開は、味を均一にするための近道ではない。むしろ、違いと向き合い続ける覚悟を求められる道だ。資さんうどんは、その道を選んだ。

変わらない一杯は、変わらずに生まれるものではない。見えない差と向き合い続けた、地道な変化の積み重ねによって、ようやく近づけるものなのだ。