投資で大損→それでも絶望しないワケに納得! ばけばけが描く異色の朝ドラ像〈ばけばけ第103回〉

『ばけばけ』第103回より 写真提供:NHK

今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第103回(2026年2月25日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)

呪われた女、登場

 奇妙な女性(芋生悠)に出会ったトキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)が話しかける。

 言い伝えを「あのよかったらちょんぼし、教えてもらえんでしょうか」。

「ちょんぼし?」と女性は言葉の意味がわからない。

 そこへ茂吉(緒方晋)という薪を背負った人物が来て、フミに「おイセから引き離したほうがよか、呪われる」と忠告。

 女性はイセ。彼女は呪われた女だというのだ。

「ちょっと茂吉さん 人の噂(うわさ)は稲を枯らしますよ」

「枯れた稲でも赤子は育つたい」

 どういう会話……。

 でもトキは「おもしろい」と目を輝かせている。

 トキのこういう興奮した顔、久しぶり。清光院で、おばけが出るとワクワクしているときに戻ったようである。

怪談好きな女性が、怪談好きな西洋人と出会って、結婚する話だったはずの『ばけばけ』がこのところ、怪談が全然出てこなくなっていた。ここへ来て、久方ぶりに怪談話になりそうな気配が立ち込めてきた。

 主題歌明け。いつもの不穏な曲。場所は学校。

 新聞によれば学校がなくなるのは決まってしまいそう。ヘブンの同僚のロバート(ジョー・トレメイン)は、東京の学校で雇ってもらうことになったから、「君の仕事もあるか聞いてあげようか」と持ちかけるが、「いいよ。私は物書きでいく」とヘブンは覚悟を決めている。

 書けるのか。とロバートが聞く。

 今は……けど学校がなくなったら書けるのか? 不安。

 忙しいから書けないわけじゃない。ほかにも書けない理由がある。肝心の題材が見つからないのだ。ヘブンの心を突き動かす題材が。

今度はお金が…

 場面変わって、喫茶店。

 司之介(岡部たかし)が荒金(夙川アトム)とお茶をしている。

 お金はどうなったのだろうか。その話題は出ず、ヘブンが書く題材を探しているという話に。

 それを聞いた荒金は、「ならこぎゃん話はどぎゃんかね?」と語りだした。

「ある男が人から頼まれ事をした。

それは厄介で、男は断りたかった。

ばってん。どうしてもと泣きつかれ、渋々引きうけた」

「頼んだやつは強引じゃの」←司之介のリアクション。これって司之介のことだろうと想像がつく。

「そして男が思っていたとおり、その頼まれ事は失敗に終わる。男は雲隠れすることに決めた」

「いや、わかるのその心は」←雲隠れしたい気持ちに共感するらしい。ウサギ相場のときを思い出す。

「『俺はしばらく雲隠れする。達者でな』。

すると男が言った『大丈夫。父上のように正直に生きていくけん』。

男は目を覚ました。『俺はなんて馬鹿なことを』。

そして逃げるのをやめ、頼まれ事の顛末(てんまつ)を全て正直に話すことにした」

 荒金はそっと包みをテーブルに置く。

 ここまで来て、司之介はお金が増えていると思っているようだ。

 箱を開けると、中身は……。

「いまん話はわしとあんたのことたい」「申しわけなか!」と荒金は頭を下げる。

 ああ、やっぱり。

「よかったらあんたんとこの異人にこの話はしてやってくれ」

「話せるか!」

 これは実に悲劇的な展開。ところが劇伴はかなり呑気(のんき)。そのわけは……。

 司之介は、前に預けて増やした金だけを投資していて、元のお金は損をしていなかった。不幸中の幸い。司之介もそこまでおかしな人ではなかった。

 以前、橋爪國臣CP(チーフプロデューサー)が、なみ(さとうほなみ)について「登場人物を絶望させる責任はとれない」と語っていたが、これもそういうことだろう。この物語ではリアルにとことんおとしめることはしないようだ。

 とはいえ、蓄えはあるに越したことがない、とフミ(池脇千鶴)は怒っている。

 ヘブンだけは「パパさん 家族 ため 増やそうしてくれた ありがとう」と怒らない。まったく人が良すぎる。

 だが、気を良くした司之介が、この話を題材にしてはどうかと聞くと、「いらない パパさん 調子乗るない」と仏の顔も三度までということわざより厳しく二度までであった。

茂吉とイセの言い伝え勝負

 思えば、先週の水曜日も荒金回であった。

 借金コントを2週にわたって展開。希望、絶望、希望をゆるやかな波のように。

 作家の感性と技術的には高く評価できるが、こういうものを好まない層も一定数いるだろう。とくに、生真面目な層には受けないだろう。実際、先週の借金コントは賛否両論であった。

 繰り返すが、感性と技術点は高い、と筆者は思う。

 考えてみようじゃないか。荒金のターンで心がざわついた視聴者は少なくないだろう。ざわつき――心が動くことこそがドラマには重要だ。

 でもふじきみつ彦は、さんざん視聴者の気持ちを揺さぶった割には結果をそう悪くは描いていない。たわいない、な〜んだ、という笑いは、誰も不幸にならない。ぬるめのお風呂が好きな人におすすめのドラマである。

 結局、ヘブンの題材はなかなかみつからない。

 フミの購入した本には食指が動かないヘブンだが、トキが連れてきた吉野イセが言い伝えに詳しいと聞いて興味を持つ。

 丈(杉田雷麟)たちは村上茂吉を連れてきた。

 茂吉とイセの言い伝え勝負がはじまる。

 イセは、襖(ふすま)と人の死にまつわる言い伝え。

「日本らしい すばらしい」とたたえながら、ヘブンはその根拠と実例を聞く。ただの怪談好きではない、ジャーナリストらしさがある。

 イセは、それはわからない、と困った様子。批判されてすねた感じの動きが印象的。

 茂吉は人のぬくもりにまつわる言い伝え。

「ぬくもり 日本らしい」とヘブンは興味を持つが、それはすでにクマ(夏目透羽)が話したことだった。

 いら立つヘブン。

 困ったトキ。

 ヘブンの題材選びと、呪われているというイセがどう結びつくか、ふじきみつ彦先生の筆さばきに期待しよう。

フォトギャラリー

主なシーンより

第21週(2月23日~2月27日)

「カク、ノ、ヒト。」あらすじ

熊本での執筆活動に精をだすヘブン(トミー・バストウ)に安心するトキ(高石あかり)や松野家の面々。そんな中、ヘブンが働く学校が閉鎖されるうわさが広まる。仕事がなくなれば、大所帯となった松野家は生きていくことができない。教師がダメなら、執筆活動で生活費を稼ぐしかない。しかし、ヘブンは学校の仕事に追われてそれどころではなかった。トキたちはヘブンの執筆活動を手助けしようと動き出す。

連続テレビ小説『ばけばけ』

作品情報

連続テレビ小説「ばけばけ」。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描きます。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語です。

【作】 ふじきみつ彦

【音楽】 牛尾憲輔

【主題歌】 ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」

【出演】高石あかり(「高」の表記は、正確には「はしごだか」) トミー・バストウ / シャーロット・ケイト・フォックス 大西信満 芋生悠 ジョー・トレメイン 橋本淳 杉田雷麟 日高由起刀 夏目透羽 / 渡辺江里子 木村美穂 / 蓮佛美沙子 / 岡部たかし 池脇千鶴 ほか

【放送】 2025年9月29日(月)から放送開始