「手柄を横取りする課長」「部下を利用する部長」上司の出世欲を断罪しても全く意味がない理由

感情論を越える視点転換

 最近、若い世代の間でよく聞く「上司ガチャ」という言葉。どんな上司に当たるかは運任せで、自分では選べない――そんなもどかしさを端的に表している。しかし、そもそも上司を変える力はほとんどの人にない。だから「当たり・ハズレ」にこだわっても意味はなく、不満を運のせいにしていては自分の成長の機会を逃してしまう。本連載「上司ガチャという虚構」では、上司を「良い・悪い」で単純に裁くのではなく、無駄な労力に振り回されず、自分の成長や適応力に目を向ける視点を探る。変化の激しい職場で、自分の市場価値をどう磨き、キャリアをどう守るか。そのヒントを丁寧にひも解いていく。

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「また課長に手柄を持っていかれた」「部長は自分の評価のために部下を使っているだけだ」。キャリア相談の現場では、こうした声を耳にすることが少なくない。自分が積み上げてきた成果が正当に評価されず、他者の実績として扱われていると感じれば、不満や虚しさが募るのは自然なことだ。その感情は軽視できない。

 ただし、ここで一度立ち止まる必要がある。上司の行動を出世欲の表れだと決めつけ、敵対的な姿勢を強めたところで、状況が改善するとは限らない。相手を批判することは気持ちの整理にはつながるが、組織の動きそのものが変わるわけではない。むしろ視野が狭まり、取り得る選択肢を自ら減らす結果になりかねない。

 重要なのは、感情に引きずられることではなく、現実を冷静に見ることだ。組織は評価や権限が重なり合う場であり、成果が誰の実績として示されるかは力関係や役割分担の影響を受ける。その前提を踏まえたうえで、自分にとって最も合理的な行動は何かを考える必要がある。感情の正しさを争うよりも、立場をどう高めるかに意識を向けたほうが、結果につながりやすい。

理職に集中する昇進意欲

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上司のイメージ(画像:写真AC)

 まず、「管理職ほど昇進を望む傾向が強い」という点は事実だ。マイナビの「管理職のキャリア意識と昇進意欲に関する調査」(2025年)によれば、正社員全体の昇進・昇格意欲は46.2%にとどまる一方、部下を持つ管理職や課長級では

「6割」

を超える。一般社員と比べ、課長や部長クラスのほうが昇進意欲は明確に高い。

 もっとも、それは名誉を求める気持ちだけで説明できるものではない。給与を引き上げて生活の安定を図りたい、裁量や予算の権限を得て自らの判断で仕事を進めたいといった現実的な動機が背景にある。現場を動かす権限を求める姿勢は、組織に属する立場として不自然なものではない。

 では、なぜ一部の管理職は部下の成果を自らの実績として扱うような振る舞いを見せるのか。ここには個人の資質だけでは説明できない事情がある。

 現在の管理職は強い負荷を抱えている。自身の仕事への意欲が下がるなかで、上層部からの要求と現場からの要望に挟まれている。競争が厳しい環境では、優秀な部下が将来の競争相手になるという不安も生まれる。成果を自分の管理下に置こうとする行動は、人格の問題というより、余裕のなさからくる自己防衛の側面が大きい。

昇進意欲の活用可能性

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昇進の祝福イメージ。

 以上を踏まえると、問いは明確になる。上司の昇進意欲は、本当に自分にとって排除すべき存在なのかという点だ。見方を変えれば、それは活用できる要素でもある。上司が昇進すれば、より大きな予算を動かす立場となり、人事への影響力も強まる。他部署との交渉力も高まる。その影響は、部下の立場にも及ぶ。

 組織論やキャリア研究では

「スポンサーシップ」

という考え方がある。助言を与えるメンターとは異なり、スポンサーは実際に引き上げる力を持つ存在を指す。権限や影響力を持たない上司にその役割は果たせない。昇進を目指し、実際に力を得た上司こそが、部下の機会を広げる立場に立つ。

 重要なのは、感情的に反発することではなく、自らの立ち位置をどう築くかだ。上司に過度に迎合する必要はないが、互いの利益が重なる形を意識することは現実的な選択である。

 たとえば会議では、結論部分を上司に委ねる一方、分析や具体策の説明は自ら担い、実務能力を示す。資料でも責任者として上司の名を立てつつ、作成者として自分の関与を明確にする。これはへつらいではなく、役割分担の明確化である。上司には成果を主導したという実感を与え、自身は実行力への評価を積み重ねる。

 そうした関係が築ければ、上司が昇進する局面で、信頼できる担当者として引き上げられる可能性は高まる。それは感情論ではなく、組織内での合理的な判断の帰結である。

倫理と現実の線引き

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上司の出世欲を活用するキャリア戦略。

 もちろん、虚偽の報告やハラスメントに関わる必要はない。そこには明確な一線を引くべきだ。ただ、「あの人は昇進しか頭にない」と切り捨てる前に、その上司が昇進した場合、自分にどのような利点があるのかを考える余地はある。

 組織は感情よりも権限や立場の動きによって動く。上司の意欲を否定するのではなく、その方向性を踏まえたうえで自分の立場を高める視点もある。結果として自分の機会が広がるのであれば、それは現実的な選択だ。

 理不尽に見える出来事も、力関係の中で捉え直せば、対応の幅は広がる。感情的な対立にとどまらず、状況をどう活かすかを考える姿勢が、職場での選択肢を増やすだろう。