「池脇千鶴がすごかった」制作スタッフを驚かせた母親としてのクライマックスシーン〈ばけばけ第108回〉

『ばけばけ』第108回より 写真提供:NHK

今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第108回(2026年3月4日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)

トキ、妊娠する

 丈(杉田雷麟)と正木(日高由起刀)が待合室で心配している。

 トキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)は診察室に。

 今度はヤブ医者(DAIGO)とは違う医者がいる。

 安井順平が演じていて、優秀にもいい加減にも見える。どっちだ?

「松野トキさんもうおわかりですよね」と医者は穏やかに言う。

 もしかして? 医者が次の言葉を言うのをトキは何度も「待ってください」と遮る。

 その顔を見て医者は「もう言わんでよかね」「おめでとうございます」「この様子だと生まれるのは11月頃ですね」

「おめでたです」という決まり文句を言わないところがいい。

 そして主題歌。今日の主題歌は倍速で聞くと軽快でいいと思う。

 トキは丈たちと一緒に帰宅。でも、フミ(池脇千鶴)たちがいる部屋に入らず、別室にすっと行ってしまう。

 病じゃなかったと丈たちから聞いたフミは察して、トキの元へ。

「もしかしたらなんだけど、あげなんだない?」

「そげ」

 フミはトキに駆け寄り抱きしめる。

「よかったねーー」

 何事かとあたふたしながら入ってくる司之介(岡部たかし)にここでようやく「赤子を授かりました」と「赤ちゃん」ができたとはっきり言葉にする。

「すごいことをしでかしたな」と司之介はトキを絶賛。

「そういうことだったんですね」と丈たちもようやく合点がいったようだ。

「すんません。旦那様より先に聞いてしもて」とクマ(夏目透羽)が殊勝に言う。

 だが、トキは「ヘブンさん(トミー・バストウ)には言わんでおこう」と言い、クマは「松江のしきたりですか」ときょとん。

 そんなサムライダー(サプライズ)なことはしないと司之介。

 すきあらばふざける司之介のテンションに対してトキは深刻。

子どもができたことをヘブンに言えない

 ヘブンにフィリピンで滞在記を書くという大きな仕事が来ているらしい、と聞いた司之介は「異国には行けない」と言う。いや、1人で行くみたいだと言うトキに、子どもができたことだし引き止めるしかないと、とにかくヘブンを外国に行かせない姿勢だ。だが、トキは「ヘブンは書く人になりたいから止められない」と泣く。

 それをフミは険しい顔をして聞いている。

 娘に子どもができたと聞いてからここまでの池脇千鶴の芝居が生き生きしている。橋爪國臣チーフプロデューサーはここも今週のクライマックスのひとつと言う。

「池脇さんの演技は、娘に子どもができてうれしいだけでなく、もう少し深く、トキの気持ちを理解していることが伝わってきます。例えば、トキがヘブンに妊娠したことを話せない気持ちもわかっている。トキの悩みを一緒に共有できる母親なのだというシーン、第108回はなったと思います。あのシーンの池脇さんはすごかった。第108回はある種のクライマックスです」

 最大のクライマックスは、これから109、110回と続く。

 その晩の夕飯は静か。ヘブンに体調を心配されてトキは「まあなんとか」と誤魔化(ごまか)す。

 ロバート(ジョー・トレメイン)の紹介してくれた医者に行こうと言うヘブンに、トキは「なんとかいうのは達者ということですよ」と教える。

「達者、安心」と何も知らないヘブンは呑気(のんき)である。

 翌日(?)、学校でヘブンはロバートにフィリピンにひとりで行くか、行くのを諦めるか迷っていると相談。

「フィリピン滞在は2年。家族や妻を置いていっていいのか、迷っているんだ」というヘブンに、「2年なわけないだろう」とロバートは言う。

「2年たって日本に帰ってきて何か書けるのか、自分でもわかってるだろう。行ったら最後、日本とは永遠におさらばだ」

 つまり、日本にはもう何も書くことはないのだから、日本にいる意味はないとロバートは助言している。

ランから意外なことを聞かされるヘブン

 女中(村岡希美)が呼びに来て、所用で一瞬ロバートが席を外したとき、ラン(蓮佛美沙子)が来て、トキにフィリピン滞在記の話が来ている話をしてしまったと明かす。

 なんだってー というヘブンの顔。でつづく。

 安井順平や村岡希美とほんの少しの出番に演技巧者たちが配置されていて、贅沢な回である。

 子どもができたため女性が仕事を辞めざるを得ないという話はよくある。男性が、仕事と結婚生活と子どもの間で悩む話はあまりドラマで描かれない。実際は、結婚したら、子どもができたら、収入を増やさないといけないから夢を諦めて働こうと考えたり、収入アップを目指したり、男性だって岐路に立たされて悩むもの。

 ヘブンはトキと子どものみならず、一家を支えなくてはならない。一家どころか書生や女中までも。昔は男尊女卑で、女性の地位が低かったと言われるが、長男が家族全員面倒を見ないといけないという重責を担っていて、長男にきょうだい全員がおぶさっていたということも聞く。

 我が祖父も勉強が好きだったけれど学校に行かずに独学しながら働いて、弟を学校に通わせ、妹たちの生活も見ていた。男性――とくに家長的な人物は大変なのだ。という明治の日本のルールにヘブンは従っている。明治時代、社会進出したかった女性はしんどかっただろうけれど、男が家庭を守るものと決められていた男もつらいよ、なんじゃないだろうか。

 ふじきみつ彦は、育児をしながら執筆活動をしていて、仕事の時間が限られてしまうが、前向きにとらえているというようなことをインタビューで語っていた。たぶんヘブンのほうに感情移入しているだろうと筆者は推察する。

 では、最後にトキを診察する医師、黒田を演じた安井順平さんのコメントを紹介しよう。

「橋爪プロデューサーから連絡があり、ワンシーンだけなんですが安井さんに出演していただけないか、と打診がありました。二つ返事でOKしました。橋爪さんには『ブギウギ』で大変お世話になったご縁もあり、恩返しができるならと断る理由もありません。これは橋爪さんとの友情出演です。 

 もう一つのご縁でいうとウチの劇団が奇しくも2024年に小泉八雲の話を舞台でやっていたという奇縁も。ほんのワンシーンではありましたが、トキさんに幸せを告げる素敵なシーンに参加できて感無量です。幸せのお裾分けをいただきました。 

 撮影当日、大阪入りするとスタッフさんから『お帰りなさい』と言われたのがなんとも嬉(うれ)しかったなぁ」

 安井さんの所属する劇団イキウメが上演したのは『奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話』、旅館にやってきたふたりの刑事が、滞在しているわけありな小説家から小泉八雲の怪談を聞く。怪談と現実の話が入り混じっていく不思議な話で、 安井さんは刑事のひとりを演じていた。

『ばけばけ』も『奇っ怪』も小泉八雲の書いたものから発想を大きく飛躍させて書かれた物語。安井さんの登場で、小泉八雲を現代で繋いでいる人達がいることを認識できたような気がする。

フォトギャラリー

主なシーンより

第22週(3月2日~3月6日)

「アタラシ、ノ、ジンセイ。」あらすじ

トキ(高石あかり)は熊本でラン(蓮佛美沙子)と出会い、交流を深める。ヘブン(トミー・バストウ)と同じく西洋人の夫ロバート(ジョー・トレメイン)をもつラン。英語もできるランをトキは慕っていく。そんなある日、ヘブンの元に一通の手紙がアメリカから届く。その差出人はイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)だった。日本を離れ、世界を巡って各地の滞在記を書いてほしいという依頼に、ヘブンは魅力を感じる。

連続テレビ小説『ばけばけ』

作品情報

連続テレビ小説「ばけばけ」。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描きます。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語です。

【作】 ふじきみつ彦

【音楽】 牛尾憲輔

【主題歌】 ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」

【出演】高石あかり(「高」の表記は、正確には「はしごだか」) トミー・バストウ / シャーロット・ケイト・フォックス 大西信満 夙川アトム ジョー・トレメイン 原ふき子 橋本淳 杉田雷麟 日高由起刀 夏目透羽 / 渡辺江里子 木村美穂 / 蓮佛美沙子 / 岡部たかし 池脇千鶴 ほか

【放送】 2025年9月29日(月)から放送開始