【NHK朝ドラ「ばけばけ」第22週開始】 またもやトキ(高石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)にすれ違い? 妊娠とフィリピン行きが示す“岐路”

 高石あかりがヒロイン・トキを演じる「ばけばけ」(毎週月~土曜午前8時、NHK総合ほか)。第22週「アタラシ、ノ、ジンセイ。」は、作家としての夢と新しい命の誕生という二つの“新しい人生”が交差する週になりそうだ。英語を学ぼうと奮闘するトキと、フィリピン滞在記という新たな挑戦に心を傾けるヘブン(トミー・バストウ)。そこへ突然、妊娠の知らせが訪れ、夫婦の未来を大きく揺さぶることになる。祝福とすれ違いが同時に訪れる、静かな転換点が描かれた。

■英語を学ぶトキと、ヘブンの未来

 第22週前半で印象に残るのは、必死に英語を学ぼうとするトキの姿勢である。ヘブンの指導法は、アルファベットの読み書きから順に覚えるのではなく、ひたすら英文を耳で覚え、発声を繰り返すというもの。

 幼い頃から学校に通えず、読み書きの基礎すら十分に学べなかったであろうトキにとって、それはあまりにも難しいやり方のように思えてならない。幼少期、まだスポンジのようにあらゆるものを吸収できる脳ならまだしも、成人してからの語学学習は難儀である。

 それでもトキは諦めない。西洋人の夫を持つ日本人妻・ラン(蓮佛美沙子)と親しくなり、英語の覚え方を尋ねる。するとランは、紙に書いて覚えたと教えてくれた。そこからトキは、書生の丈(杉田雷麟)や正木(日高由起刀)にも助けを求めながら英単語を書き、必死に学び直していく。

 トキの姿には、人生をやり直そうとする女性の努力が見える。かつて貧しさのなかで働き続け、学ぶ機会を奪われてきた彼女が、遅ればせながら自分の未来を切り開こうとしている自己実現の香り。しかし、そのころヘブンの視線は、すでに日本の外へ向いていた。

 アメリカにいるイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)から届いた手紙は、彼に「フィリピン滞在記」という新しい仕事を提示するものだった。渡航費も滞在費も出版社持ち、期間は約2年。作家にとって、これ以上ない条件である。ヘブンは「一人ならすぐにでも」と英語でつぶやく。

 未来へ進もうと努力するトキと、別の未来を見つめ始めたヘブン。その距離は、静かに広がりつつある。

■印税1000円が示す意味とは?

 その流れを決定づけたように思えるのが、『日本滞在記』の印税1000円だった。

 丈によれば、この金額は、贅沢さえしなければ5年から10年は暮らせる額だという。それはヘブンにとって、作家として生きていけることを示す成功の証であり、自分一人で異国へ行っても家族には迷惑をかけないと確信できる材料でもあった。

 これまで彼は、教師という安定した職業を持ちながら執筆してきた。しかし印税1000円は、その生活の重心を大きく揺るがす。もはや日本にとどまり、教師を続けながら書く必要はない。新しい土地へ行き、新しい物語を書くことこそが作家の道だ。

 ここで見えてくるのは、家長としてのヘブンの姿である。松野家の生活を支えているのは彼だが、その未来を決める権利もまた彼の手にある。松江から熊本へ、そして次はフィリピンへ。家族はその決断に従う形で移動してきた。

 夢を追う作家としての情熱と、家族を導く家長としての力。その両方がヘブンという人物のなかで、強く動き始めていた。

■トキが選んだ優しい嘘と新しい命

 そのころ、トキの体調は日に日に悪化していた。激しい眠気、食欲不振、そして突然倒れ込むほどの衰弱。医者は貧血だと診断するが、真相は別にあった。道端でうずくまってしまったトキを正木と丈が病院へ運び、そこで告げられたのは妊娠だった。

 松野家は喜びに包まれる。フミ(池脇千鶴)も司之介(岡部たかし)も声を上げて喜び、トキを祝福する。新しい命が家族に加わる。それはまさに、第22週のタイトル「アタラシ、ノ、ジンセイ。」を象徴する出来事だった。

 しかし、トキの表情だけは浮かない。すでに彼女は、ヘブンがフィリピンへ行こうとしていることを知っていたからだ。もし妊娠を伝えれば、ヘブンの決断は変わるかもしれない。2年間の渡航などできなくなるだろう。しかしトキは、しばらくの間、その事実を告げないことを選ぶ。

 ヘブンの夢を邪魔したくない。家族のために縛り付けることもしたくない。それは、第21週で描かれた“呪いを引き受ける嘘”と同じ構造だった。相手を思うからこそ、本当のことを飲み込む、優しい嘘である。

 しかし問題は、ヘブンがそれを理解できるかどうかだ。彼はかつて、トキがなかなか夫婦になった事実を家族に報告しない心境に、強い衝撃を受けたことがある。日本人の建前を説明してくれた錦織友一(吉沢亮)も、いま近くにはいない。もしヘブンが真実を知らないままフィリピンへ向かえば、二人の間には決定的な溝が残る。

 新しい命が芽吹く一方で、夫婦の未来はまだ定まっていない。

(北村有)

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