池脇千鶴がマンガみたいな走りで名シーン誕生! かつての朝ドラヒロインたちが爪痕を残した〈ばけばけ第123回〉

『ばけばけ』第123回より 写真提供:NHK
今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第123回(2026年3月25日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)
ショック、『KWAIDAN』は売れていなかった
ヘブン(トミー・バストウ)の訃報(ふほう)を聞いて日本にやって来たイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)。よくよく見ると、イライザも特殊メイクで老けて見える。
なぜ外国人の老けメイクは不自然に見えないのだろう。もともと立体的だから皺(しわ)が自然に見えやすいのかもしれない。日本人は凹凸が少なめなので皺メイクすると馴染(なじ)みが悪い気がするのだ。
トキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)がイライザをヘブンの書斎に案内する。
ヘブンが好きそうな日本らしい部屋だとイライザ。通訳は丈(杉田雷麟)が担当している。
「この家を買うとき、夫はほとんど口を出さんかったんですがこの書斎だけは別で、西向きに机を置きたい。あとは万事日本風にと」
その西日の当たる日本風の部屋の棚に大事そうに『KWAIDAN』が飾ってあることにイライザは気づく。
イライザは東京に来るとヘブンが愛していたものが、失われていることを実感すると語る。それを受けてトキはヘブンが東京は地獄と言っていたと笑う。イライザも「イエス」と笑う。
ここまでは、穏やかな空気。それが一変する。そんな地獄の東京で、最後にベストセラーが書けたのがいい思い出だろうとトキが言うと、イライザは怪訝(けげん)そうな顔をする。
「『KWAIDAN』がベストセラーとはどういうことですか?」
ヘブンがそう言っていたと聞いて、まさかとイライザは失笑。
残念だけど売れてないし、評判もまったくない。「KWAIDAN」はそもそも西洋人には読み方が分からないので誰も手にとらない。そんなに率直に言うことないのに。思いがけない真実にトキは呆然(ぼうぜん)となる。どうしてヘブンは最後に怪談なんて書いたのか――。
イライザにとっての謎の答えをトキは知っている。
トキはヘブンのすべてを台無しにしたのか
主題歌明け。「どうして子どもでも読める民話集を書いたのか」とあきれているイライザはWHY WHY WHYと天国のヘブンに問いかける。
なんだかイライザの声に棘(とげ)があり、言葉がわからない司之介(岡部たかし)ですら彼女が怒っているらしいことは感じる。
心配そうなフミ(池脇千鶴)、イライザを見る目が険しい。この人はいつも娘を守ろうとしている。
イライザは「いい思い出を話し合いましょう」と気持ちを切り替えようと提案する。そこは大人だし、知性もある人だから、亡くなった人のことを悪く言うのは礼儀に反すると考えたのであろう。つい、カッとなってしまっただけなのだ、たぶん。
でもトキは気持ちを切り替えることができない。「私のせいなんです」とたどたどしい英語で謝る。アイムソーリーを一応聞き取るイライザだが、英語が話せないトキを小馬鹿にしている節がある。
私が読める本をお願いしたと言うトキに、イライザはやりきれない気持ちになって、机をガン!と大きな音を立てる。トミーもそうで、外国人俳優は感情が激しくなると机を大きな音をさせて叩くようだ。
ヘブンが終わったという人たちをギャフンと言わせる最後のチャンスだったのに、とイライザは再び怒りの火を燃やす(ギャフンとはイライザは言っていないが、そういう意味合いだろう)。
トキはアイムソーリーしか言えない。
イライザは泣きながら「信じられない」とうめく。
「台無しだわ。わかる? すべて、台無しにしたの」
イライザはぶんむくれて帰ってしまう。フミは「とりあえず塩まいておく」とつぶやく。いまの彼女は、まく塩に困っていない。余るほど塩もあるだろう。
シャーロット・ケイト・フォックスは『マッサン』(2014年度後期)では日本人と結婚し日本に来て、日本の習慣を理解していく健気(けなげ)な外国人を演じている。姑(しゅうとめ)や恋敵に厳しくされて苦労している朝ドラヒロインを演じていた彼女が、いまや、朝ドラヒロインを虐める側に。しかも若干日本を見下している側になるなんて、感慨無量である。
丈がイライザを全力で追いかける。ここがうまいのが、外で丈が1回つまずいて転ぶことだ。そうしないとすぐに追いついてしまう。転んだけど立て直し、イライザに追いつく。
「先生はずっと 怪談を書きたかったんだと思います」
丈は怪談を「GHOST STORIES」と英訳する。
丈は、ヘブンは「怪談」をトキに頼まれてしぶしぶ書いたわけではなく、潜在的に「怪談」を書いてみたい意識があったと考える。
池脇千鶴の高速塩まきが最高
「代わりに おトキさんに書いてもらってくれない?」
イライザが唐突にこんなことを言い出す。
来たときは「オトキシショウ」だったのが「おトキさん」になっている。
小説、いや回顧録を、丈に「あなたが書かせるの」と強く言うイライザ。
これには丈も面食らってしまう。
この展開はひじょうに興味深い。イライザは意識しているのかどうかわからないが、これによってトキにも丈にも一歩踏み出させようとしているのだ。
亡くなった偉大な人物が常に目の前をちらついているトキと丈。トキは学がないコンプレックスを克服し、丈は兄を超えられないコンプレックスをトキのリテラリーアシスタントになることで超えることができるかという課題がラスト3話、イライザによって突きつけられた。
イライザは才媛設定なので、怒りよりもヘブンの回顧録を出版することで、ヘブンの名誉回復をしようと合理的に考えただけかもしれない。
いずれにしても怒っていたイライザが急にトキに回顧録を書かせようと言いだすところはかなり唐突で、ここももうちょっと時間をかけて書いてほしかった気がする。
いずれにしてもシャーロット・ケイト・フォックスは『ばけばけ』では朝ドラヒロインに立ちふさがる姑や恋敵的役割である。
唐突な提案を残し立ち去るイライザを猛然と追いかけてきたのはフミだ。
走りながらイライザの足跡に塩をまいていく。池脇千鶴がスタスタスタと素早く漫画のキャラのような、走り塩まきを見せる。なかなかの名シーン。イライザもトキも丈も霞んでしまう。『ほんまもん』(2001年度後期)のヒロインだった池脇千鶴もまた『ばけばけ』に爪痕を残した。
一部始終を聞いた司之介は、「KWAIDAN」はいい本だと言う。「雪女」は勘右衛門(小日向文世)が松江で雪女と会った話がもとになっていて彼にとっても勘右衛門にとっても宝物になっていた。そう、ヘブンの『KWAIDAN』出版の意義とはこういうことであろう。消えゆく日本人の記憶を書き残すこと。
イライザが言うトキにしか書けないものとは何か。絵ですかね、とクマ(夏目透羽)。
でもトキは絵だって幼稚だろうと考える。自分がやってきたすべてのことがヘブンの能力を貶めることになったのだと思いこんでしまった。
「頭の中が今ぐちゃぐちゃだけん」トキは1人、部屋に籠もってしまう。書けないと部屋にこもるのはヘブンみたいだ。
「ごめんなさいパパさん」とひとり部屋でべそをかくトキ。
あと2回しかないのに、主人公がこんなに落ち込んじゃっていていいのだろうか。
さて、ここでイライザ役のシャーロット・ケイト・フォックスのコメントを紹介しよう。
――高石さんとの共演の感想を教えてください。
あかりさんは私が今まで出会った中で最も明るく、そして喜びにあふれ、とても勤勉な女性の一人だと思います。彼女の仕事への取り組み方には感銘を受けただけでなく、演技をすることへの喜びにあふれている様子にも心を打たれました。この二つを兼ね備えていることは非常に重要です。彼女が自分の仕事を心から愛していることが伝わってきます。それは長くすばらしいキャリアを築いていく人物の証と言えると思います。
――東京編の撮影で、印象的な出来事やシーンを教えてください。
今回2歳の娘を連れて来日しました。撮影中、娘はまだ時差ボケがありグズッていたのですが、皆さんがオモチャをくれたり遊んでくれたりと大変お世話になりました。
池脇さんの内なる光は、今までの経験の輝きが、とても明るく放たれていらっしゃるのだと感じました。スタッフやキャストの皆さんへのお心遣いはとても美しく、すばらしく、朝ドラヒロイン経験者であったこと、納得!でした。
丈役の杉田さんもすばらしい俳優です。彼の深み、もろさ、そして演技力は非常に印象的でした。また一緒にお仕事ができたらと思っています。
――まもなく最終回を迎えます。視聴者の方にメッセージをお願いします。
ご覧いただきまことにありがとうございます!この番組をお届けするために、スタッフとキャストがとても尽力していることを私も知っています。ですから、視聴者の皆さんにこの番組をお届けし、共有できる事をとてもうれしく思っています。
スタッフとキャストの皆さんはきっと疲れていると思いますので、もし街で見かけたら、どうか優しく接してくださいね。すてきな元気を出してもらうために、スイートな言葉をかけてあげるのもいいかもしれませんね♪(スマイル)
フォトギャラリー
主なシーンより
第25週(3月23日~3月27日)
「ウラメシ、ケド、スバラシ。」あらすじ
トキ(高石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)の2人で書き上げた『KWAIDAN』がアメリカから届く。幸せいっぱいな家族たちだが、その数日後、ヘブンの体調が急変。亡くなってしまう。そんな中、アメリカからイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)が訪れる。ヘブンの死を悼む中、トキがきっかけでヘブンが『KWAIDAN』を書いたと知ったイライザは、トキにヘブンのことを書いてほしいと依頼する。
連続テレビ小説『ばけばけ』
作品情報
連続テレビ小説「ばけばけ」。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描きます。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語です。
【作】 ふじきみつ彦
【音楽】 牛尾憲輔
【主題歌】 ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
【出演】高石あかり(「高」の表記は、正確には「はしごだか」) トミー・バストウ / シャーロット・ケイト・フォックス 円井わん 濱正悟 杉田雷麟 夏目透羽 水野智則 / 渡辺江里子 木村美穂 / 岡部たかし 池脇千鶴 ほか
【放送】 2025年9月29日(月)から放送開始