「車載カーナビは使いません」このまま消滅? スマホ優先の約8割「持っているのに使わない」はなぜ起きているのか

車内ナビから外部環境への移行

 メンバーズ(東京都中央区)が実施した調査(対象1507人)は、車載カーナビの現状を明らかにしている。利用は「車載カーナビ層」「スマートフォン層」「併用層」にわかれるが、ひとつ目立つ点がある。すべての対象者が、乗車前にスマートフォンで経路の検索を済ませていることだ。移動の中心にある目的地の選択や経路の確認は、乗る前の段階で終わっており、その多くはスマートフォンのアプリやカレンダー、SNSといった日常の情報の流れのなかで処理されている。

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 ナビの主導は、すでに車内から外のデジタル環境へ移っている。乗車後に車載カーナビへ目的地をあらためて入力する行為は、情報を写し替える作業に近い。この状況では、車載カーナビは中心的な役割を失い、大手IT企業の仕組みの下に位置づけられている。

 スマートフォンを主に使う層の約8割は車載カーナビを持っているが、それを使っていない。その理由として

・普段通る道しか運転しないため(25.2%)

・地図データが古いため(22.4%)

・スマートフォンの方がナビ機能が優秀なため(22.2%)

が挙げられている。ここにあるのは、日常の道具として定着したスマートフォンが移動前の判断を担い、車載カーナビが担ってきた役割が小さくなった結果だろう。

操作負担が生む利用差

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「カーナビデバイスの使い分け実態に関する定量・行動観察調査」(画像:メンバーズ)

 車載カーナビ層のなかには、少し説明のつきにくい現象がある。

・ルート案内の正確さに満足(51.5%)

・不満なポイントはない(37.1%)

と評価されており、製品の性能そのものが否定されているわけではない。それでも利用は広がっていない。このずれの背景には、入力にかかる手間と得られる利点の

「釣り合いの悪さ」

があるだろう。目的地の設定や経路の確認、渋滞を避ける判断は、すでにスマートフォンの使い慣れた操作と、日々の行動履歴を踏まえた情報の上で整えられている。どれだけ車載カーナビの精度が高くても、乗車後に同じ作業をもう一度行う負担は小さくない。操作のしやすさや過去の利用情報を持つスマートフォンの方が、移動前の準備として無理のない選択になっているのだ。

 ここで起きているのは、どちらのナビが先に使われるか――という問題である。日常に入り込んだスマートフォンは、車に乗る前の段階で移動の判断をほぼ固めている。この流れのなかで、優位はすでに形を持ち始めているのだ。

更新の速さが左右する価値

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「カーナビデバイスの使い分け実態に関する定量・行動観察調査」(画像:メンバーズ)

「地図データが古いため(22.4%)」が上位に入っている事実は重い。機能への不満という段階を超え、情報の価値を決める基準そのものが変わったことを示している。

 かつては目的地を正しく示すことがナビに求められる中心だった。しかし今は、情報がどれだけ早く更新されるかが重視されている。道路網のように変化の少ない情報だけでなく、渋滞や店舗の営業状況、駐車場の空きといった、その時々で変わる情報が移動の判断を左右するようになっている。

 車載カーナビの更新が年単位で行われるのに対し、スマートフォンは短い間隔で最新の状況を反映する。この差は、多くの利用者から集めた走行情報をすぐに集め、すぐに反映する流れの速さにある。情報は時間がたつほど価値が下がる。

 常に新しい状態を保てる仕組みを持つスマートフォンに対し、外と切り離された仕組みの車載カーナビは、この時間の流れに追いつきにくい。結果として、道案内の精度が高くても「古い」という評価から抜け出せない状態が続いているのだ。

収益構造の変化と無料アプリの台頭

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「カーナビデバイスの使い分け実態に関する定量・行動観察調査」(画像:メンバーズ)

 これまで自動車メーカーは、車内の体験の多くを自社のなかで完結させてきた。しかし今では、ナビの中身を支える要素が地図データ、検索機能、交通情報の配信、スマートフォンの基本ソフトへとわかれ、それぞれを動かしているのは自動車メーカーではなく大手IT企業である。その結果、完成車メーカーは車という器をつくる立場にとどまり、中身の動きを左右する力を弱めている。

 この変化は収益の仕組みにもはっきりと違いを生んでいる。車載カーナビは車の購入時の追加料金や地図更新の費用で収益を得てきた。一方でスマートフォン向けの地図アプリは基本的に無料で使え、広告や利用者の情報をもとに収益を上げている。同じ目的の道具に見えるが、仕組みは大きく異なる。費用を追加で払わずに使えるスマートフォン側へ利用が流れるのは自然な流れでもある。

 調査では、スマートフォン層が使う地図アプリは

・Googleマップ(68.2%)

・Yahoo!カーナビ(11.4%)

・Appleマップ(8.9%)

となっている。車載カーナビを持つ人が約8割いるにもかかわらず、IT企業のアプリが優先されている現状は、ナビの主導権がすでに自動車メーカーの手を離れ、

「複数の外部企業にわかれている」

ことを示している。車という閉じた空間にあった価値が、通信や情報の流れを担う外の仕組みに移り、メーカーは移動体験から得られる収益の入口を失いつつあるのだ。

位置精度を支える車両連携の強み

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カーナビ利用の実態調査。

 しかし、車載カーナビがすべて不要になるわけではない。

 スマートフォンを使わない理由の1位は「運転中にスマートフォンの操作をしたくないため」(30.6%)であり、安全を優先する意識はいまも根強い。また前述のとおり、車載カーナビ層の51.5%がルート案内の正確さに満足し、37.1%が不満はないと答えている点は、厳しい車内環境でも使える専用機としての信頼を裏づけている。

 スマートフォンは、高い建物に囲まれた場所やトンネル、地下駐車場では位置の精度が落ちやすい。これに対し車載機は、車両の各部と連動し、タイヤの回転や車体の傾きといった情報を重ねて位置を補う。そのため、環境が変わっても現在地を保ちやすい。目的地の手前で案内が終わる車載カーナビの仕様と、駐車場の入口まで導いてほしいという利用者の要望は、車と一体になった仕組みが力を発揮しやすい領域を示している。

 車載カーナビが使われない理由を性能の問題と見るのは正確ではない。問題は競う場そのものが変わったことにある。目的地へ導く機能は広く行き渡り、価値は移動の前後にある動きのある情報へと移っている。これから求められるのは、検索や計画といったスマートフォン側の領域で競うことではない。

 スマートフォンからの指示を受け取り、実際の走行を安全に終えるための役割である。情報の入口はスマートフォンに任せ、最後の難しい場面を支えるところに意味が残る。そこに車載機の立ち位置があるのだろう。