みそきん「5000万食突破」一体どれぐらい凄いのか

早くも累計5000万個を突破した「みそきん」。その凄さとは?(写真:筆者撮影)
即席カップめん「みそきん」の勢いが止まらない
チャンネル登録者数計2000万人以上、動画の総アクセス数180億回突破を成し遂げた人気YouTuber・HIKAKIN(ヒカキン)監修の即席カップめん「みそきん」シリーズの販売数が累計5000万食を超えた。
【画像】税込322円と強気な価格設定の「みそきん」、スープの完成度や麺のクオリティは…
累計5000万食といえば、最近では、厚生労働省『日本人の食事摂取基準』で定められた33種類の栄養素と、おいしさの完全バランスを両立した日清食品の通年ブランド「完全メシ」が同じ数字を叩き出している。しかし、完全メシは2025年9月時点で約60のカテゴリー、200以上のメニューを取り揃え、22年5月30日の発売開始から3年3カ月を費やし、累計5000万食の売り上げを達成した。
その点、みそきんはどうだろう。HIKAKIN PREMIUM(ヒカキンプレミアム)という独自のブランドを立ち上げ、23年5月9日に即席カップめん「みそきん 濃厚味噌ラーメン」及び即席カップライス「同 濃厚味噌メシ」を新発売。

「みそきん」パッケージ(写真:筆者撮影)
25年10月25日には初の新味「辛みそきん 濃厚辛味噌」を展開しているが、いずれも数量限定のスポット商品で、シリーズの累計アイテム数はたったの3つ。累計5000万食を達成するまでに費やした期間は、完全メシの衝撃を塗り替える約2年10カ月の短さだった。
しかも、全国のあらゆる小売店に並ぶ通年ブランドに対し、みそきんはセブン-イレブン1社のみに限定されたチャネルでの数字なのだから、その異常な回転率は推して知るべしだろう。

「みそきん」某所のセブンイレブンでの陳列状況(写真:筆者撮影)
最近でこそ多くのユーザーが手に取れる状況に落ち着いたが、数量限定の制約と相次ぐ転売目的による即完売状態に生産が追い付かず、再販されてもすぐに品薄となる状況が当たり前になっていた時期も記憶に新しい。
これは余談だが、中学来の旧友から「(今回の再販で)やっと……やっと『みそきん』買えたよー!!」とLINEで連絡があり、みそきんを手に満足そうな笑みを浮かべるご子息の写真が添付されていた。
そのご子息は今年の春から小学2年生、即席カップめんのヘビーユーザー層とされる年代には達しておらず、日常的にカップ麺を食べることもないそうだ。それなのに「みそきん」に強い興味を持ち続けていた理由については、1960万人の登録者数を誇るメインチャンネル『HikakinTV』の視聴者層に小中学生が多いことで説明がつくだろう。実際、当初の販売開始から今日に至るまで、純粋に「みそきん」を求めている層の多くがHIKAKIN氏のファンであることは想像に難くない。
しかし、みそきんの人気は一過性に留まらなかった。
HIKAKINのことはよく知らないけど、そんなに話題なら食べてみたい。心理学でいうところのバンドワゴン効果(ある選択肢を支持する人が多ければ多いほど、その選択肢が魅力的に見え、さらに支持者が増える現象)や、カリギュラ効果(他者からある行為を禁止されると、かえって関心や欲求が高まり、その状況に対するフラストレーションが増幅する現象)、さらにスカーシティ効果(入手困難なものほど欲しくなる心理現象)、SNSでの共感・信頼感の共有など、これでもかと欲求を刺激する条件が揃い、普段はカップラーメンにすら興味もないユーザーの心まで掴んだ。
カップ麺研究家から見た「みそきん」の実力は?
では、ひとつのカップラーメンとしての実力はどうなのか。SNSには好意的な感想だけでなく「値段相応の味じゃない」「HIKAKINが有名だから売れてるだけ」などのネガティブな意見も飛び交っている。

「みそきん」のスープ。深みのある白湯系の豚骨をベースに、白味噌の魅力を立て、なおかつニンニクも分かりやすく利かせている(写真:筆者撮影)
カップ麺研究家の目線から語らせてもらうと、特筆すべきはスープの作り込みだ。深みのある白湯(ぱいたん)系の豚骨をベースに、これでもかと白味噌の魅力を立て、なおかつニンニクも分かりやすく利かせているが、すりごまの芳ばしいコク、オイルに含まれる野菜を炒めたような調理感、さらに香辛料の絶妙な掛け合いで一辺倒な印象を与えない。

「みそきん」調理後はこんな感じ(写真:筆者撮影)
あえて奇を衒った要素を削ぎ落とし、うまみのレイヤーを重視しながらも適切なフックを利かせている、この絶妙なバランスとセンスは他では味わえない。

「みそきん」調理前の様子(写真:筆者撮影)
また、25年5月24日のリニューアル(新みそきん)以降、従来は搭載していなかった肉具材やフライドガーリックなどを追加し、うまみやニンニクに厚みを持たせている。しかし、元祖「みそきん」の魅力を1mmも壊すことなく、極めてストレートな進化を遂げていると感じた。

「みそきん」麺リフト(写真:筆者撮影)

「みそきん」別添えの特製香味油(写真:筆者撮影)
白味噌から感じられる老舗食堂へのリスペクト
ちなみに「みそきん」のルーツは、HIKAKIN氏が幼少期から愛してやまない、新潟県上越市にある「食堂ニューミサ」とされている。同商品が赤味噌ではなく白味噌をメインに据えているのは、老舗食堂へのリスペクトに他ならない。

パッケージでは、濃厚味噌の味わいの訴求が(写真:筆者撮影)

若かりし日のHIKAKINの写真も(写真:筆者撮影)
通年販売しない理由
これほど完成度が高いのに、なぜ通年販売に踏み切れないのか、なぜ数量限定なのか――。
その理由について、実はHIKAKIN氏本人が発信している。何度も再販と即完売を繰り返してきた「みそきん」だが、本来は何カ月もかけて売る量がたったの1日で売れてしまうと。つまり、けっしてスカーシティ効果を狙っているわけではない。熱狂的な需要に対し、まったく生産が追い付いていないのだ。
にもかかわらず、これだけの量を、これだけ短いスパンで再販できている。これについては製造者である日清食品の生産能力の高さ、そしてセブン-イレブンという巨大なインフラの賜物といっても過言ではない。

製造者は日清食品(写真:筆者撮影)
もちろん、セブン-イレブンの独占による在庫リスクのコントロールや、いつでも買えるようになった瞬間に失われる、祭りのような熱狂というステータス性の消失など、それらを懸念している側面も存在するかもしれない。ただ、数え切れないほどの通年商品や限定品がひしめく市場において、たったひとつの商品のために、数カ月分のラインを何度も確保すること自体が深刻なこと。
そのため日清食品の既存ラインを圧迫しないように、緻密なスポット生産を計画する必要がある。その物理的な制約こそ、通年販売に踏み切れない理由の本質だ。
そして、繰り返しになるが「みそきん」は人気YouTuberの道楽ではない。
26年3月現在、NB(ナショナルブランド)における縦型ビッグのカップラーメンは、271円(税別)の希望小売価格を事実上の標準としている。一方で「みそきん」は、NBでもPBでもない、その境界線を溶かした特定チェーン専用の専売商品。いわゆる留型(とめがた)と呼ばれる立ち位置だ。通常、留型は各社のインフラを活かし、NBよりも安く売られる傾向があるが、販売価格は相場を大幅に上回る299円(税込322円)となっている。
セブン-イレブンの各店舗には、1食あたり198円(税込213円)で販売されているセブンプレミアムの「BIG」シリーズが存在するため、ユーザーの「高い」という心理が働くのも無理はない。

「みそきん」は税込み322円で販売されている(写真:筆者撮影)
それでも、筆者は値段相応の価値があると感じている。
「みそきん」からは真摯な想いが伝わってくる
確実に「HIKAKIN」という特別なバリューは備わっているが、それは知名度の話だけではない。彼の気合や覚悟、そして “おいしいものを届けたい”という真摯な想いが、ひとつのカップラーメンを通じてひしひしと伝わってくる。それを頭ごなしに「まずい」と一蹴しているユーザーは、たかがカップ麺と見下さず、あらためて向き合う時間をつくってみてほしい。
なぜこのスープにこの麺を合わせたのか、なぜリニューアルでニンニクを強めたのか、なぜ元祖「みそきん」には肉を入れなかったのか――。その理由を探しながら、ひとつずつ自分なりの考察を広げると、それまでは無意識にスルーしていた味のピースに気が付くこともある。
なぜこんなにも「みそきん」は人気なのか、もっと真剣に考えてみてもいいのではないだろか。
これは単なるインフルエンサービジネスの成功例ではない。作り手の純粋な執念であるプロダクトとマーケットが共鳴し、消費者の潜在的な渇望を顕在化させ、未曾有の熱狂を創出した、前代未聞の稀有な事例なのだから。