「申し訳ない気持ちになってしまいました」朝ドラヒロイン・高石あかりがインタビュー中に突っ伏したワケ

膨大なセリフも「以前の200倍くらい早く覚えられるように」, トミーさんとのシーン「台本に書かれた以上のお芝居ができた」, 吉沢亮さんの13キロ減量を見て圧倒された, 高石さんがインタビュー中、テーブルに突っ伏したワケ, 「信じられない光景を目にしているという不思議な感覚」

『ばけばけ』で主人公を演じた高石あかりさん 写真提供:NHK

朝ドラこと連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK)がいよいよ最終回を迎える。松江の没落士族の娘・小泉セツをモデルにした怪談好きの主人公トキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)の物語で、トキは小泉八雲をモデルにした異邦人ヘブン(トミー・バストウ)と結婚し、明治維新後の日本で生きていく。ヘブンは晩年、『怪談』の本を出すが、トキがリテラリーアシスタントとして共同作業のようなことを行い、それがとても生き生きと描かれた(第120回)。主人公を演じた高石あかりさんは朝ドラヒロインをやるのが夢だったという。取材は第23週の放送中に行われた。夢をかなえ、夢をやりぬいたいまの心境を聞いた。役者として「ばけ」ることはできたのだろうか。(聞き手・構成/ライター 木俣 冬)

膨大なセリフも「以前の200倍くらい早く覚えられるように」

――「ばけばけ」を1年やって(放送は半年だがその半年前から撮影がはじまっていてトータル1年がかりになる)、変わったことはありますか。

 1年やってセリフ覚えが相当早くなりました。これだけは確実に変わったと思います。月曜がリハーサルで、火曜から金曜まで毎日撮影があるので、セリフが覚えにくいと言っている時間などなく、ただただ覚えるしかなくて。以前の200倍くらい早く覚えられるようになりました(笑)。

――BK(NHK大阪放送局)制作の朝ドラは大阪で暮らしながら撮影をするのが常。今回、大阪で長期生活した経験によって変化したことはありますか。

 自炊を以前よりするようになりました。『ばけばけ』をやるにあたって、絶対にこの1年、健康でいなければいけないと思って、食事だけはちゃんとしようと。決しておろそかにしないように、夜、時間があるときは自炊をしていたし、お弁当を作ったり、土日はご飯を作って運動もしたりしていました。その流れで自炊は撮影が終わってもいまだに続けています。

トミーさんとのシーン「台本に書かれた以上のお芝居ができた」

膨大なセリフも「以前の200倍くらい早く覚えられるように」, トミーさんとのシーン「台本に書かれた以上のお芝居ができた」, 吉沢亮さんの13キロ減量を見て圧倒された, 高石さんがインタビュー中、テーブルに突っ伏したワケ, 「信じられない光景を目にしているという不思議な感覚」

――演技巧者の俳優の方々がたくさん出演していました。いい意味での対抗心がわきあがるようなことはありましたか。

 いや、なかったです。

――ない、ですか。

 対決心なんてまったくなく、学ぶことばかりで、皆さんの芝居を全面的に受けることしか考えていませんでした。みなさん、すばらし過ぎて、こっそり皆さんの芝居を学ぶような気持ちで見ていました。とくに相手役のトミー・バストウさんや松野家の人たちから得るものは大きかったです。岡部たかしさんはふじきみつ彦さんの脚本の演じ方の正解を持っていらっしゃる気がして、最初のうち、それをとことん学ぼうという姿勢で吸収するように心がけていました。

 トミーさんは自由な俳優です。こうしなければいけないと思ってしまいがちな私とは正反対でした。台本に書かれているものがすべてであり、それが正解ではあるのですが、トミーさんはそれを超えることができる。ヘブンを生きているから、本番で台本を飛び越えていくように感じることがよくありました。

 通常なら、セリフをひとつ言い終えたら、そこで気持ちが落ち着くものですが、トミーさんはセリフを言い終わっても気持ちが収まらないことがよくありました。

 例えば、第18週でトキが洋妾と思われて石を投げられたとき激怒したヘブンに「わたしは大丈夫ですけん」と言う場面。「大丈夫ですけん」のあともトミーさんは怒りが収まらず、そこに私も乗っかって感情がヒートアップしていって、台本に書かれた以上のお芝居ができました。トミーさんからはエネルギーの分量の大きさのみならず、いろんな角度から脚本を読むことを学びました。

――松江に久しぶりに戻ったとき、げっそり痩せた錦織(吉沢亮)と再会したトキが一瞬言葉を失くすような表情をしておずおずと「お達者ですか」と訊ねる髙石さんの表情がよかったです(第114回)。

 一瞬なのに見てくださりありがとうございます。

吉沢亮さんの13キロ減量を見て圧倒された

膨大なセリフも「以前の200倍くらい早く覚えられるように」, トミーさんとのシーン「台本に書かれた以上のお芝居ができた」, 吉沢亮さんの13キロ減量を見て圧倒された, 高石さんがインタビュー中、テーブルに突っ伏したワケ, 「信じられない光景を目にしているという不思議な感覚」

――吉沢さんが13キロ近く、痩せたことを俳優としてどう感じましたか。

 減量することは聞いていましたが、痩せてからはじめてお会いしたとき、その前に会ったときとあまりにも違っていたので驚きました。錦織という役に対する熱量に圧倒されました。役に合わせて自分の体の形を変えるのは相当なことです。しかも1カ月で約13キロとは、心身ともにすごく大変だったと思いますが、それを感じさせないように現場では全然大丈夫ですというふうに言っていて、絶対大丈夫じゃないはずだけれど、その強さと役に対する熱量みたいなものをじかに感じるだけでも役者として得られるものは大きかったです。

――極限まで自分を変えてみた役作りの経験はありますか?

 若干、体重の増減をすることはあります。例えば、幼い役を演じるときはちょっと痩せようとか、そういうのはありますが、吉沢さんのような経験はしたことがないです。

――『ベイビーわるきゅーれ』(高石さんの代表作、非正規労働者の女性ふたりが殺し屋をやっているバディもの)のようなアクション作品をやるときはおそらく体を鍛えますよね。

 なかったです……。稽古を数日やっただけなので。

――ゆくゆく自分も追い込んでみたいと思いますか。

 思います。吉沢さんが役にのめり込む姿がすてきだと思ったので、いつか自分も挑戦できる作品があるのであれば、しっかりと取り組みたいです。

――最終週はトキが『思ひ出の記』というヘブンとトキの回想録のようなものに着手するとのことなので、おそらくヘブンとの別れがあると思いますが、いかがでしたか。

 いつかは来るであろうと思っていた瞬間が、どう描かれるだろうかとずっと気になっていました。いざ台本を受け取ったら、その描かれ方が想像と違っていました。でもそれが『ばけばけ』らしくて。決して壮大なストーリーではない日常を描いた作品だからこそ残せる寂しさがそこにはありました。なんて表現したらいいかわからないけれど、ドラマはセツさんの書いた『思ひ出の記』に近い空気感を感じられます。

高石さんがインタビュー中、テーブルに突っ伏したワケ

膨大なセリフも「以前の200倍くらい早く覚えられるように」, トミーさんとのシーン「台本に書かれた以上のお芝居ができた」, 吉沢亮さんの13キロ減量を見て圧倒された, 高石さんがインタビュー中、テーブルに突っ伏したワケ, 「信じられない光景を目にしているという不思議な感覚」

――『思ひ出の記』という小泉セツさんが書かれた本を『ばけばけ』に出演するにあたり参考に読んだうえで臨まれたそうですが、読んでどんなふうに思いましたか。

 そこに書いてある一言がとても印象に残っています。「あっけなかった」という言葉です。

 ヘブンとの別れはそのセリフ通りなのですが、見た人に文字通りの「あっけない」だとは思ってほしくないので、この言葉を出していいのかわからなくて(初期のインタビューで既に語っている。「八雲さんが亡くなった時、『あっけなかったです』と書いてあります。書き方はすごくあっさりしているけれど、私はものすごく強い感情を受けました」)。そのセリフにはさまざまな意味が込められていると思うから。

――最終週でトキがヘブンさんを縛りつけてしまったと気づいて苦悩します。子どもが生まれたときも捨てられたらどうしようと悩んでいました。そういうトキの気持ちを同性として高石さんはどう感じましたか。

 トキはとにかくヘブンを愛していて、ヘブンが幸せであってほしい、応援したいという気持ちが強かったと思います。なので、ヘブンにフィリピンへ行ってみたい気持ちがあったら、トキも子どもも置いて行ってほしい、子どもは自分で育てようと思っていたのではないでしょうか。

 でも、心でそう思っても、いざそうなると体調が悪くなって、その結果、引き止めることになってしまった。そしたら安心しちゃったのかな。……ああ、ちょっといま、私はトキの気持ちになって、ヘブンさんに申し訳ない気持ちになってしまいました(テーブルに突っ伏して悩み始める。その姿がトキと重なった)。

 なんでだろう、なんでそんなことしちゃったんだ?一緒にいることがあたりまえになっちゃったのかな。それこそ最初はヘブンが周りから異人として偏見の目で見られているときに、ヘブンも同じ人間ですよとかばっていたトキがいつの間にか、みんなの期待に沿うように「洋装でないといけない」とか、こうあるべきだとか、そういうふうにヘブンを縛る立場になっていった。『思ひ出の記』を書いていて、それに気づいたトキは一気に自分への恨めしさが募っていきます。そこは最も残酷で、『ばけばけ』らしいと思いました。

――人間の深い部分を突いていますね。出産シーンを演じるのが夢で、それもやることができたうえにご自身のお誕生日だったそうですが、赤ちゃんや子どもとのシーンはいかがでしたか。

 子役たちは本番中にどこかに行ったりして、いろんなとこから叫び声が聞こえてきて(笑)。とても刺激的な撮影で楽しかったです。母親の役も演じてみたかったもののひとつで、それが今回の朝ドラで叶えられたのもうれしかったです。自分にもきっと母性というものがあるのではないかと思っていて、それが今回、子どもたちに対して出たらいいなと思いながら演じました。でもそれは見た方の判断なので、見ていただけたらうれしいです。

――波乱万丈な朝ドラヒロインを演じて、クランクアップしたときのお気持ちを教えてください。

「信じられない光景を目にしているという不思議な感覚」

 最後のシーンを撮り終わった後、少し待っていてくださいという風に言われて待っていたら、バンっと扉が開いき共演者の皆さんがたくさん来られていたんです。私のクランクアップのためにわざわざ大阪まで来てくださる温かいお気持ちに幸せを感じました。スタッフ、キャストの皆さんから拍手をいただいたときは、やり遂げたという感覚よりは、状況がまだつかめていないような、ありえない信じられない光景を目にしているという不思議な感覚でした。

――朝ドラの経験が今後のキャリアにどう生きると思いますか。

 ふじきみつ彦さんからトキというキャラクターは高石さんのままでやってくださいと言われて、私ってなんだろう?と思いながら現場に立ったら、自然に私のなかからトキという人格が出てきて、そこからはセリフや行動に対して違和感がなくやれました。

 演じながら、自分の過去の経験がよみがえってきたりとか、前に感じた感情みたいなものが出てきて重なったり、いままで経験したことのない経験を味わいました。それまでの私は、役を作りこんで、その役で生きることだけに集中していて、そこに自分の感情が入ることはなかったのですが、『ばけばけ』では素直にリアルに近い感覚が出た気がします。

――トキと自分を重ねたそうですが、プライベートでトキが出てくることはありますか。

 それはないです。カットがかかったら自分に戻る感覚はありました。役を引きずっちゃうとなかなかつらいです。例えばトキが石を投げられ傷を負った週は、1週間、ずっと毎朝泣く場面から撮影スタートしていて、そのときはトキが自分のなかから出てくるのを抑制していました。

 前室ではスタッフやキャストが集まるのですが、私にはひとりになる時間が必要で、スタッフの方が私が1人になれる空間を作ってくださって。そのおかげでちゃんといい意味でトキと自分の線が引けた気がします。こういった役への取り組みを今後、別の作品でまたやれるかはわからないですが、今回、得られた感情のわく瞬間や瞬発力をこれからの芝居にも必ずつなげていきたいと思います。

――最終回をご覧になるかたにメッセージをお願いします。

 トキを半年間見守ってくださった皆さんには、苦しさやうれしさやいろいろな感情が生まれるであろう1話になっています。ぜひ最後までに見届けていただきたいと思います。

【プロフィール】

2002年12月19日、宮崎県生まれ。主な出演作に、ドラマ化もされた映画『ベイビーわるきゅーれ』シリーズのほか『遺書、公開。』『夏の砂の上』『禍禍女』、ドラマ『墜落JKと廃人教師』シリーズ『わたしの一番最悪なともだち』『御上先生』『アポロの歌』、Netflix『グラスハート』、などがある。2023年、第15回TAMA映画賞の最優秀新進女優賞、2026年第50回エランドール賞を受賞した。

膨大なセリフも「以前の200倍くらい早く覚えられるように」, トミーさんとのシーン「台本に書かれた以上のお芝居ができた」, 吉沢亮さんの13キロ減量を見て圧倒された, 高石さんがインタビュー中、テーブルに突っ伏したワケ, 「信じられない光景を目にしているという不思議な感覚」

フォトギャラリー

主なシーンより

膨大なセリフも「以前の200倍くらい早く覚えられるように」, トミーさんとのシーン「台本に書かれた以上のお芝居ができた」, 吉沢亮さんの13キロ減量を見て圧倒された, 高石さんがインタビュー中、テーブルに突っ伏したワケ, 「信じられない光景を目にしているという不思議な感覚」

連続テレビ小説『ばけばけ』

作品情報

膨大なセリフも「以前の200倍くらい早く覚えられるように」, トミーさんとのシーン「台本に書かれた以上のお芝居ができた」, 吉沢亮さんの13キロ減量を見て圧倒された, 高石さんがインタビュー中、テーブルに突っ伏したワケ, 「信じられない光景を目にしているという不思議な感覚」

連続テレビ小説「ばけばけ」毎週月~土曜 午前8時00分(総合)※土曜は一週間を振り返ります

毎週月~金曜 午前7時30分(NHKBS・BSP4K)

【作】ふじきみつ彦

【出演】高石あかり、トミー・バストウ/吉沢亮ほか

写真提供:NHK

最終回は3月27日(金)