ワークマン「3900円厚底シューズ」走り以外の用途

約6センチの厚底や通気性を考慮した「マンダムフライギアドライランチャー」(筆者撮影)
ワークマンが2023年2月に発売した厚底ランニングシューズ(商品名は「マンダムフライギアドライランチャー」、以下「ドライランチャー」)が人気を呼んでいる。
【写真を見る】走り用途以外に、歩行サポートや“スタイルアップ効果”も支持されているワークマンの厚底ランニングシューズ(3900円)
価格は税込みで3900円。今年2月には消費者ニーズに応えた新商品「ハイバウンスファントムライド」(ハイバウンス)も発売したが、同じく3900円となっている。
これまで職人向けの作業靴が多かったワークマンが、ここにきて一般向けの靴を相次いで投入する理由は何か? 同社に取材した。
直近1年間は7万5000足を販売
まずは「ドライランチャー」の現在の販売状況を聞いてみた。
「25年3月から26年2月までの直近1年間では約7万5000足でした。前年が約5万足だったので、前年比150%となり、大きく伸びています」
広報部の小雀杏実氏はこう説明する(以下、発言は同氏)。
一般に国内のスポーツシューズ市場では、年間に10万足、ランニングなどの専門分野では数万足売れればヒットといわれる。前年比1.5倍の7万5000足は販売好調といえるだろう。どんな人が買っているのか。
「購入者の中心年齢層は30代から60代で、男女問わずご利用いただいています。現在はホワイトとブラックの2種類を用意しており、お好みで選ばれています」
実際に使った人の反響はどうか。
「『軽いので歩きやすい』『歩いても疲れにくい』という声が多いです。この商品は約6センチの厚底で、前足部の蹴り出しをサポートする底構造、ソール側面からシューズ内部に通気するターボドライシステムを搭載し、通気性がよく蒸れにくいのも特徴です」
一方で従来の商品は「履きにくい」という声もあった。
「さまざまなご意見を踏まえて、25年8月より商品をリニューアルしました。現行モデルは、かかと部分に高めのヒールタブを入れて足入れしやすくしています」
「3万歩を歩いても疲れない」という声も
少し前、「万博で3万歩歩いたけど疲れなかった」という投稿が話題となった。他にも「仕事で毎日3万歩歩くがこの靴はクッションがよく、一番疲れにくい」という声もあった。
「見た目はランニングシューズですが、走りやすさだけではなく『歩きやすさ』にもフォーカスし、トライ&エラーを繰り返しながら開発しました。特に『厚底による衝撃吸収』と『通気構造による快適性』を評価いただき、『3万歩歩いたけど疲れない』というご意見につながったと考えています」
実はこの商品を開発したのは「丸五」(本社:岡山県倉敷市、1919年創業)だ。100年以上の歴史を持つ「地下足袋」で知られ、地下足袋で培った素足感覚を応用した商品も多い。

広報担当の小雀杏実氏に着用してもらった「マンダムフライギアドライランチャー」(3900円)。長く歩いても疲れにくい構造を実現しただけではなく、後段で説明する“スタイルアップ効果”も支持される理由(筆者撮影)
「ワークマンは初期の段階から丸五さんと取引しており、職人向け作業用品では地下足袋、安全スニーカー、祭り足袋、安全長靴などを販売しています。
19年以降、当社の業態が女子店、カラーズ店(ワークマンカラーズなど)に広がり、一般カジュアルへ販路が拡大。丸五さんも当社の考えに賛同いただく形で新商品を開発。一般利用者向けにアップデートしたのが、『マンダムフライギアドライランチャー』です」
作業靴として職人に支持されていた「蒸れにくい中空のソール構造」を生かし、ドライランチャーでは2層構造化。通気性だけでなくクッション性も向上させたという。
「開発当時は一般用に厚底が流行していたわけではないので、派手に見えすぎないボリューム感も意識して開発し、幅広い世代に訴求したと聞いています」
「日常の移動距離が長い人」という鉱脈
「ドライランチャー」はランニング用としての機能を備えるが、前述したように、より需要があったのは一般生活者だった。
特に都市部の生活者は「長距離歩行」が多い。通勤・通学も電車利用で、休日の外出も公共交通機関が中心だ。クルマ移動の地方生活者よりも平均歩行数が多いというデータもある。
「商品を市場に投入してわかったのは、想定以上に日常生活に根差したニーズがあったことです。例えばホワイトカラーやそれに近い職種の方の『仕事靴』としてのニーズ。また、年齢性別問わず通常利用できる靴としてのニーズの高さも発売してから学びました。
このアイテムで知った鉱脈を生かし、機能はそのままに都市部の日常生活で、より使いやすいデザインの『マンダムドライランチャーアーバン』という新商品も投入予定(26年8月頃展開予定)です」
筆者も日常生活でよく歩く。都内の直営店で「ドライランチャー」を購入してみた。
試し履きで足入れすると横幅が少しタイトだった。歩くうちに気にならなくなるが、足型によっては合わない人がいるかもしれない。ただ、弾むように歩く厚底は刺激的だった。

ブラックの「ドライランチャー」を購入して使ってみた(筆者撮影)
都内の取材・視察時と2泊3日の国内出張時(1日当たり1万1000~1万2000歩強)でも履いてみた。出張時はもう少し歩くが、今回は一部を仕事関係者のクルマで移動した。
最初は厚底に慣れず、ふくらはぎに軽い疲労感を覚えたが、やがて慣れて快適性が増した。いずれの日も足が疲れにくいのは実感。個人の感想だがご参考になれば幸いだ。
「ランナー向け」に進化させた商品
「ドライランチャー」が好評の半面、「本格ランニングには少し厳しい」という声も聞いた。だから「ハイバウンスファントムライド」(ハイバウンス)を投入したのか?
「日常使いまでを視野に入れた結果、『ドライランチャー』はアスリート特化ではなく総合的な履き心地を高めました。ただ、ワークマンに本格的なランニングシューズがなかったことも事実です。そこで発売されたのが『ハイバウンスファントムライド』です。
この商品は、実際にマラソン大会に出場できる規格(WA=世界陸連ルール:ソールの厚さ最大40ミリまで)をクリアしています。商品特徴としては、独自開発した高反発ソール素材『バウンステック・ユニオン(BounceTECH UNION)』をフル活用しており、当社史上最高の高反発性を実現したモデルでもあります」
これまでの内容を整理すると、「ドライランチャー」(開発は「丸五」)は街中ランニングやウォーキング、仕事用移動にも“疲れない靴”といえる。
一方の「ハイバウンス」(開発は「ワークマン」)はアスリート向けに特化し、大会にも出場できる“跳ねるように走れる靴”だ。どちらも厚底なのは共通している。

「ハイバウンスファントムライド」(3900円)は本格的なランニングシューズとして開発された(筆者撮影)
戦う相手はスポーツブランドではない
ワークマンが掘り当てた鉱脈を「生活文化」や「消費者心理」の視点で考えたい。
ビジネス現場のカジュアル化が進み、足元も革靴が減りスポーツシューズが多くなったのはご存じのとおり。多くの人は仕事着と違和感のない色使いを選ぶ。スポーツブランド+デザインも好まれ、NIKEやadidas、ASICSなどが強い市場だ。
ワークマンはこのビジネスユース層の取り込みも図るが、「こだわりブランドで選ぶ人」ではなく「使い勝手やコスパで選ぶ人」がターゲットとなる。
仕事用シャツと同様、消耗品にそこまでお金をかけない層にとって、3900円は魅力的。耐久性への一定の信頼感もある。有名スポーツブランドは手を出しにくい価格帯だろう。
「厚底」について、ワークマンはこんな見方もしていた。
「女性向けが先行しているソールが極厚(厚底)のスタイルアップシューズは、男性が履けるタイプが圧倒的に少ないのです。
例えば “自然にスタイルアップしたい”男性もおられます。そうしたニーズを、通気孔で分厚く見せない仕組みは、背が高くなるシューズとして、隠れた人気があるのではないかと思っています」
同社の作業靴には年間で50万足販売する商品もある。それに比べると、一般向けの靴(スポーツシューズ)はそこまで浸透していない。だが「機能性+α」の魅力を打ち出して訴求すれば、さらに販売数が伸びるのではないだろうか。