なぜ“ナース”を題材に? 朝ドラ制作スタッフが「興味を持ったキッカケ」に納得した〈風、薫る第2回〉

『風、薫る』第2回より 写真提供:NHK
今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第2回(2026年3月31日放送)の「風、薫る」レビューです。(ライター 木俣 冬)
「疫病の時代」明治と、「コロナ禍」の令和
明治時代「トレインドナース」(正規に訓練された看護師)として人々のために働いた一ノ瀬りん(見上愛)と大谷直美(上坂樹里)。このふたりのバディ物語は朝ドラによくある子ども時代をすっ飛ばして最初から本役(大人)の見上愛と上坂樹里が登場。前置きなしにぐっと本題に入っていく。
「一時の風に流されず己が頭で考え、行く先を決めるのが大事だ」
「学ぶことはときに世を渡る翼となり、身を守る刀になる」
元家老である父・信右衛門(北村一輝)がりんに語る言葉。これが物語の核になるだろう。
刀から学問へ、武力の時代が終わりよりよく生きるための学びの時代へ、それが明治時代。病を治す医療も発達し、そこにりんや直美が携わっていく。
いまはまだその以前、りんと直美は出会っていない。
栃木の実家で「江戸娘一代双六(すごろく)」で遊ぶりんは、女性の上がりは「奥様」と認識している。でも奥様は地味だとも感じている。そんな彼女に縁談が舞い込んだ。しかし彼女には気になる幼なじみ・虎太郎(小林虎之介)がいて……。
その頃、近隣には疫病コロリが蔓延(まんえん)しはじめていた。話がどんどん進んで、タイパを大事にする令和の視聴者にはうれしい設計だ。
制作統括・松園武大チーフプロデューサーが『風、薫る』の構想を思いついたきっかけは疫病――コロナ禍だった。
「5年前、世界的パンデミックを起こした新型コロナウイルスは、ある日突然、私たちから日常を奪っていきました。外食や旅行が出来なくなり、大切な人に会うことも簡単ではなくなりました。まだ何者かも分からないウイルスが猛威をふるう中、徹底的に患者に寄り添い、励まし、“コロナ”と戦う看護師たちの姿に勇気づけられたことを克明に覚えています。そんなことから看護の歴史に興味をもち、『疫病の時代』とも呼ばれる明治の二人のナースのパイオニアに感銘を受けたことが、この企画の始まりでした」(NHK公式サイトより。制作発表された25年1月当時)
原案と原作、何が違う?
コロナ禍の始まりから6年、生活はもとに戻ってきたものの、あのしんどさは忘れられない。医療従事者の存在がこんなにもありがたいと実感したことも覚えている。それも明治時代の医療従事者の先駆者たちがあってこそ。『風、薫る』ではその歴史の一端を見ることができそうだ。
ドラマの原案、田中ひかる『明治のナイチンゲール大関和物語』(中公文庫)にはこんな記述がある。
「江戸時代に日本へ上陸したコレラは、地域によって『トンコロリン』『鉄砲』などと呼ばれたが、頓死を意味する『コロリ』という呼び名が最もよく使われていた。綾は『最近魚屋さんが来ないのも、コロリのせいだ』と続ける。
この年、四国の松山から各地に広がったコレラが猛威をふるっていた。年末には全国の死者数が一〇万人を超える。防疫を目的に魚介類をはじめとする生鮮食品の販売を禁止した地域もあり、生活の糧を失った漁師たちが米問屋を襲うという事件が各地で発生していた」
大関和(1858〜1932)はりんのモチーフになっている人物。トレインドナースとして疫病と向き合った。綾とは大関の大切な友人。ドラマには登場しない。『明治のナイチンゲール大関和物語』にはドラマのもうひとりのモチーフである鈴木雅も登場する。あくまで原案は大関が主人公で、ドラマの直美に当たる鈴木が登場するのは電子書籍だと全体の4分の1が過ぎた頃だ。
ドラマと原案の大きな違いは鈴木の扱い。鈴木は大関と同じく武家の出で、教育も十分受けていて英語が堪能だった。ここがドラマとは大きく違う。『風、薫る』は生まれ育った環境の違う女性ふたりのバディストーリーとなり、鈴木をモチーフにした直美はみなしごで貧しい生活をしている。教会で育ったのでポルトガル語ができる設定だ。
これらの改編によって『明治のナイチンゲール〜』は「原作」ではなく「原案」となっているのであろうと推測される。原作だとここまでの改編は許容されるか、原作者次第であろう。今回は、原作に忠実に描くのではなく、オリジナルの物語を発想するうえでのアイデアとして使用。ただ、原案はドラマを見るうえでの前提を学ぶには最適だ。当時の様子が克明に調べてあって勉強になる。
ちなみにモデルとモチーフも、原作と原案の関係に近い。その人にかなり近づけた場合はモデル、あくまで参考程度なのはモチーフ。
村祭りの美人姉妹が眼福
原案との違いはほかにもある。りんの父母の設定だ。
原案の大関の父は、妻に学問をさせ馬術も習得させる先進的な人だった。
一方、ドラマの信右衛門は保守的。美津(水野美紀)が畑で働きたいと言っても「私はこの白い手が好きなのだ」と首を縦に振らない。彼は妻を「お姫様」視している。でも美津は、夫に大事にされている白い手で武芸(なぎなたなど)もしっかり会得して、いざとなると毅然(きぜん)とする。そこはアクションのできる水野美紀らしい見せ場もある。
前作『ばけばけ』のヒロイン・トキの父(岡部たかし)は明治維新によって武士としてのアイデンティティを失い立ち尽くすしかなかった。『風、薫る』も『ばけばけ』も同じ時代であり、すすんで農業に従事しているように見えた信右衛門は心の片隅に武士への思いがくすぶっている。
信右衛門は学問を刀に置き換えた言葉を発しながら、実はこっそり納屋に刀を隠し持っていた。それをりんが見つけて目を丸くする。
時代が変わる悲哀を通奏低音に、コロリがひたひたと流行り始めている。だが村祭りが中止にならず、村人たちが密集しにぎやかだ。りんは家族4人で祭りを楽しむ。
もしかして祭りの途中でコロリ患者が出て――という悲劇になるのではないかとドキドキしながら見たが、祭りはただただ楽しい。ひとつだけ、虎太郎と目が合い、りんが近づこうとしたら、信右衛門に仕えていた忠実な中村義正(小林隆)に悪気なく阻まれてしまう。残念!
祭りを楽しむりんと安(早坂美海)。こんな美人姉妹(令和ではこういう見方はいけないかも)が歩いていたら、注目の的であろう。早坂美海さんは昨年、連ドラ『愛の、がっこう。』(フジテレビ系)ではホストにハマる女子高生役で出演したフレッシュな19歳。直美役の上坂樹里さんと同世代だ。
りんのパートに注目していたら直美パートについて触れられなかった。東京の直美についてはまた明日。
見上愛は「一ノ瀬りん」をどう演じるか
というわけで、本日は、りん役の見上愛さんのコメントを紹介しよう。
――「風、薫る」の主人公となったお気持ちはいかがですか?
“朝ドラ”は、学校や仕事に行く前や朝の準備をするせわしない合間に毎日15分のドラマを見て「私も一日がんばろう!」と背中を押してくれるような存在なのではないかと感じていました。
そんなドラマに出演することができるのはとてもうれしいことだと思っています。
半年間もの期間、月曜から金曜まで毎日放送しているドラマなんて日本では他にないですもんね。
人の人生を長く濃く描いていくことになるので明るいお話ばかりではないですが、そんな中に少しでも生きる希望や一日をがんばるきっかけみたいなものがあって、それを毎朝見てくださる皆さんにお届けすることができたらいいなと思っています。
放送が近づくにつれ緊張感はだいぶ高まりましたし、どんな映像になっているのか楽しみな気持ちと緊張でいっぱいになりました。
―― 一ノ瀬りんという人物をどのように演じていますか?
りんは、生まれは武家の娘なので芯が強くまっすぐに伸び伸びと育ってきた子で、とても素直な喜怒哀楽の感情を持っています。マイペースではありますが心根が優しく、人のことを常に考えて生きている女性なので、困っている人に手を差し伸べられなかったという出来事が、りんが看護婦を目指す重要なきっかけになっています。
クランクインするまでに8カ月の期間があったので所作や書道や長刀(なぎなた)などのさまざまなお稽古をしました。
それらの積み重ねの中で少しずつりんというキャラクターができてきたように思いますし、実際にお芝居をするなかでは、そのときの環境やお芝居相手の方から感じるものを繊細に受け取りながら演じるようにしています。
脚本が示しているりんというキャラクターをスタッフの皆さんと歩みよりながら、丁寧に少しずつ作っていけたらと日々撮影しています。
フォトギャラリー
主なシーンより
第1週(3月30日~4月3日)
「翼と刀」あらすじ
栃木県の那須で元家老の長女として生まれた一ノ瀬りん(見上愛)。物心ついた頃には父・信右衛門(北村一輝)は帰農し、母・美津(水野美紀)、妹の安(早坂美海)の家族4人で幸せに暮らしていた。そんなある日、りんの人生を大きく変える出来事が起こる。一方、東京では身寄りのない大家直美(上坂樹里)が貧しい暮らしを続けていた――明治という激動の時代にトレインドナースの道を切り拓いた2人の女性の物語がいよいよスタート!
連続テレビ小説『風、薫る』
作品情報
連続テレビ小説「風、薫る」。主人公はそれぞれに生きづらさを抱えた2人の女性。当時まだ知られていなかった看護の世界に飛び込み、傷ついた人々を守るために奔走し、時に強き者と戦う――明治という激動の社会を舞台に、幸せを求め生きるちょっと型破りな2人のナースの冒険物語です。
【脚本】吉澤智子
【原案】田中ひかる「明治のナイチンゲール 大関和物語」
【音楽】野見祐ニ
【主題歌】Mrs. GREEN APPLE 「風と町」
【語り】研ナオコ
【出演】見上愛 上坂樹里 佐野晶哉 小林虎之介 早坂美海 藤原季節 三浦貴大 内田慈 丸山礼 小倉史也 / 根岸季衣 小林隆 髙嶋政宏 片岡鶴太郎 / 多部未華子 原田泰造 水野美紀 坂東彌十郎 北村一輝 ほか
【放送】2026年3月30日(月)開始(全26週130回)