「年100万円の学童費」働く親が語る「小1の壁」正体

学童のお迎え「17時半退社では間に合わない」, フルタイムで働くことを諦める母親たち, 「あと30分長く預けられれば…」, 月5万〜10万円でも選ばれる民間学童, 必要なのは“個人の工夫”ではなく仕組みの更新

子どもの門出は嬉しくもあり、親にとってはさまざまな試練の始まりでもある(写真:筆者撮影)

子どもが小学校に上がるタイミングで、多くの共働き家庭が直面する問題がある。いわゆる『小1の壁』だ。
小1の壁とは、子どもの小学校入学を機に、仕事と子育ての両立の難易度が一気に増す現象を指す。保育園時代に成立していた生活リズムが崩れ、働き方の見直しを迫られる家庭が少なくない。背景にあるのは、学童保育の利用条件や時間の制約といった、放課後の預け先にまつわる問題だ。
どこに預けるのか、何時まで預けられるのかーー。一見シンプルに見えるこの問題が、実は働く親たちのキャリアを大きく左右している。
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学童のお迎え「17時半退社では間に合わない」

「保育園時代より早く会社を出ないと、学童のお迎えに間に合わないんです」

【クリックして画像を見る】小1の壁とは、子どもの小学校入学を機に仕事と子育ての両立の難易度が増す現象を指す

都内で働く会社員のAさん(30代・小1の母)はそう語る。Aさんは週5日出社のフルタイム勤務で、通勤時間は片道約1時間。保育園時代は定時の17時半に退勤し、残業をしても19時半までにお迎えに行けば生活が成り立っていたという。

しかし小学校入学後、その前提は崩れた。子どもを公立学童に入れたものの、基本の預かり時間は18時まで。延長を利用しても19時が上限だという。

「少しでも残業があると間に合わない日が出てきてしまって……。結局、時短勤務に切り替えました」

本来はこれまでの働き方を継続し、昇進も視野に入れていたが、現実的には難しかったと話す。Aさんのケースは決して特別な例ではない。小1の壁問題は父親よりも母親側に表れやすい傾向にあるが、それには日本の就労構造も関係している。

共働き世帯であっても、日本では家事・育児の多くを女性が担う風潮が強い。男性側の長時間労働は未だ蔓延化しており、結果として“迎えに行ける側”の母親が働き方を調整せざるを得ない状況が生まれやすい。

この放課後の数時間の制約は、単なる時間の問題ではなく、家庭内の役割分担とも結びつきながら、母親のキャリアに影響を及ぼしている。

フルタイムで働くことを諦める母親たち

学童のお迎え「17時半退社では間に合わない」, フルタイムで働くことを諦める母親たち, 「あと30分長く預けられれば…」, 月5万〜10万円でも選ばれる民間学童, 必要なのは“個人の工夫”ではなく仕組みの更新

小学校生活が始まると、かつての“ラン活”が遠い昔のように感じられる(写真:筆者撮影)

筆者自身も昨年第1子が小学校に入学したが、実際に子どもが進学するまでは「学童に入れさえすれば、仕事との両立は可能だろう」と安易に考えていた。フリーランスという比較的柔軟な働き方をしていることもあり、問題を深刻に捉えていなかった面もある。

しかし、子ども同士が同学年の会社員ママたちに話を聞く中で、その認識は変わっていった。

「今までは延長保育に頼れていたけど、4月からは絶対に残業できない……」

「祖父母も夫も頼れないし、もういっそのこと仕事辞めた方がいいのかな」

入学式が近づくにつれて、ママ友からそんな話を聞く機会が増えていったのだ。実際に筆者の知る限りでは、子どもの入学を機に時短勤務への切り替えや、転職に踏み切った母親たちが少なくとも3人はいる。

なぜママ友たちが働き方を変えなければならなかったのか。その理由は至ってシンプルで、“親の終業時間”と“学童の閉所時間”が噛み合わないのだ。

厚生労働省の資料によると、公立学童の閉所時間は18時前後が中心で、延長を含めても19時までの施設が多数を占める。一方で、フルタイムで働く場合、通勤時間を含めると帰宅時刻が19時を超えるケースは珍しくない。

通勤時間や突発的な残業を考慮すると「19時まで預かり可能」であっても、十分とはいえない家庭が一定数存在するのだ。

また、問題は時間だけではない。学童の利用をめぐっては定員の問題もある。筆者が住んでいる地域では、一定条件さえ満たせば希望者全員が公立学童を利用できる仕組みだが、都内では施設数が足りず、希望しても入れない場合がある。

公立学童においては、誰もが利用できるとは限らないという不確実性を抱えているのが現状だ。

参考:放課後児童クラブの基準等について|厚生労働省

公立学童には明確なメリットがある。利用料が月数千円程度、地域によっては無料など、とにかく安価なのだ。学校内や近隣施設にあるため、安心感が高い点も魅力のひとつといえよう。子どもにとっても、同じ学校の友達と過ごせるという利点がある。

一方で、働く親の視点から見ると課題も少なくない。

最も大きいのは、やはり閉所時間の問題だ。フルタイム勤務、とりわけ出社が前提の働き方では対応しきれないケースも多い。多くの公立学童では送迎サービスを提供しておらず、親の送迎が難しい場合は、子ども自身で通所・帰宅しなければならない。家が遠い子の場合は、安全面を考慮して必然的にお迎えが必須となり、結果として親の行動が制約される。

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長期休み中の学童用お弁当作りも、小1の壁のひとつといえる(写真:筆者撮影)

公立学童は安価で利用しやすい一方、現代の共働き家庭のスタイルに対応しきれていると言いがたい側面もあるのだ。

「あと30分長く預けられれば…」

「学童の閉所時間があと30分長ければ、もしかしたら働き方を変えずに済んだかもしれない」

Aさんはそう語る。

「仕事自体は好きなので、前よりも任される業務の幅が変わってしまったのが精神的にちょっときつい。でも、我が家は家計の問題で公立学童以外の選択肢がなかったから、どうしようもないかなと……」

Aさんの場合、放課後に生まれる数時間の制約が、キャリア選択を狭めてしまった。学童の環境や条件の違いが、母親の働き方の自由度の差につながっているともいえる。

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子どもが小学生になると、宿題サポートという親の日常業務も増える(写真:筆者撮影)

月5万〜10万円でも選ばれる民間学童

こうした中で注目されているのが民間学童の存在だ。小1の子どもを週5日民間学童に預けているBさんは、こう話す。

「正直、費用負担はかなり大きいです。我が家の場合、月額利用料は約9万円。ただ、そのおかげでフルタイム勤務を維持できているので、辞めるという選択肢は考えにくいです」

施設によって差はあるが、多くの民間学童では19〜20時頃までの預かりに対応し、送迎サービスや習い事がセットになっているケースも多い。

親にとっては時間的な制約が大きく緩和される一方、子どもにとっても多様な経験ができる環境が整っているのだ。

「言い方は悪いけど、お金で時間と心の余裕を買っている感覚に近いですね」

ただし、この選択肢は誰もが取れるものではない。民間学童の費用は月5万〜10万円ほどと、公立学童に比べて高額だ。さらに民間学童の数は地域差も大きく、利用できる家庭はある程度ふるいにかけられてしまう。

すべての家庭がBさんのように民間学童をフル活用しているわけではない。

実際には、公立学童と民間サービスを併用したり、長期休みだけ民間学童を利用したりと、複数の手段を組み合わせて乗り切っている家庭も多い。

筆者の子どもが小学校に入学した際も、学童の利用状況に関するアンケートが実施されたが、クラスの2〜3割程度の家庭は公立学童と民間学童を併用しているようだった。単一の仕組みだけでは対応しきれないことから、各家庭が試行錯誤している実態がうかがえる。

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小学校入学後は、子どものメンタルや健康ケアに時間を要する家庭も少なくない(写真:筆者撮影)

『共働き家庭と子どもの預け先問題』というテーマでいうと、待機児童問題を背景に、国による保育園の整備はここ数年で進んだ印象が強い。以下の表を見ると、2017年のピーク時には2万6081人いた保育園の待機児童数は、25年には2254人にまで減少している。

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待機児童数と保育所等定員数(画像:こども家庭庁「 保育所等関連状況取りまとめ:令和7年4月1日 」より筆者作成)

(外部配信先では図表を閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

未だ『隠れ待機児童』という問題は残ってはいるものの、数字だけ見れば、国が保育園の待機児童問題に策を講じている様子がうかがえる。

一方で、学童保育の待機児童問題については、依然として各家庭に委ねられている部分が大きい。こども家庭庁が公表している資料によると、25年の公立学童の待機児童数は1万6330人。近年では1万人規模で推移しており、待機児童数の数は高止まり傾向にある。

さらに見逃せないのが地域格差だ。都市部では民間学童という選択肢が豊富に存在する一方、公立学童の待機児童問題が深刻化している。逆に地方では公立学童に入りやすいものの、民間学童の選択肢が限定的なケースも多く見られる。

参考:令和7年 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況(令和7年5月1日現在)|こども家庭庁

必要なのは“個人の工夫”ではなく仕組みの更新

『小1の壁』は、子どもの成長に伴う一時的な問題ではない。放課後の預け先と時間の制約が、親の働き方やキャリアの選択肢に影響を与える構造的な課題だ。

現状では、多くの家庭が個人の工夫でなんとか日々を回している。しかし、それはあくまで最適解ではなく、現実的な対応に過ぎない。

公立学童の開所時間の見直しや、民間サービスとの連携、企業側の働き方改革の推進など、対応策は考えられる。しかし、いずれも個別の家庭の努力だけで解決できる問題ではない。

重要なのは、共働きが前提となった社会に合わせて、“小学生の放課後の過ごし方”そのものを社会全体で再設計していくことではないだろうか。

どの学童を利用するかによって、働き方の自由度が変わる現実がある。そしてそこには、親のキャリアだけでなく、未来を担う子どもたちの幸せも関わってくる。だからこそ、これは個人の問題ではなく、社会全体で向き合うべきテーマなのかもしれない。