北朝鮮出身女性が作る「冷麺」食べた正直な感想

北朝鮮を“脱北”した女性が、千葉の飲食店で本場の北朝鮮冷麺を提供している、という噂を聞いた。店の名前は『ソルヌン』。北朝鮮の言葉で「正月の雪」という意味で、北朝鮮では正月に降る雪は(農業がうまくいくなど)縁起がいいとされており、店名にしているそうだ。

【写真を見る】澄んだスープにタワーのように重なる具材!…日本で食べられる北朝鮮冷麺はこんな感じ

私は2025年12月、中国にある「北朝鮮レストラン」を訪れ、本場の北朝鮮冷麺を計2杯食べた経験がある。

日本に「本場の北朝鮮冷麺」が誕生したワケ,  東京駅から約50分。いざ冬の平日に行列のできる人気店へ… , さっそく北朝鮮冷麺を注文, 千葉の北朝鮮冷麺。初めて食べた忖度のない感想, 老若男女が楽しめる、優しい一杯, 美味しい北朝鮮冷麵以外に、筆者が頂戴したもの

中国にある北朝鮮レストランで食べた冷麺(写真:筆者撮影)

「そうだ、せっかくだから“食べ比べ”をしてみよう」と思い立った私は、2026年2月に神戸空港からスカイマークに乗って羽田空港→京急線で品川→山手線で東京→京葉線に乗って千葉県にあるJR稲毛海岸駅を目指した。

日本に「本場の北朝鮮冷麺」が誕生したワケ

北朝鮮出身の文蓮姫(ムン・ヨンヒ)さんの壮絶な人生については、各種メディアで取材記事や取材動画が数多く公開されている。

私は同店へ訪れる際、いったいどんな人が北朝鮮冷麵を日本で作っているのか、情報を調べていった。詳しくは各媒体に直接アクセスしていただきたいが、私が調べた情報を簡単にまとめると、文蓮姫さんが脱北したのは2015年の25歳の時で、以降は韓国で暮らし始めた(母親と弟は2016年に脱北。父は学生時代に他界)。

母親は北朝鮮の有名ホテル『高麗ホテル』の一角に店を出していた料理人で、2019年に韓国のソウルで、北朝鮮料理を提供する飲食店を開業。この店で文蓮姫さんが働いている際、韓国で焼き肉店を経営していた日本人男性と出会い、結婚。2024年より旦那さんの地元である千葉県での営業を始めた。

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ソルヌンの外観(写真:筆者撮影)

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ソルヌンの入り口(写真:筆者撮影)

千葉市稲毛区にある『ソルヌン』のメニュー表のトップには、このような説明書きが記されている。

≪ソルヌン韓国焼肉 平壌冷麺専門店は、北朝鮮平壌で三代にわたって冷麺屋を運営した店主の家族が、ひとつひとつ直接料理して経営しており、冷麺一杯にも真心と愛が込められて大事なお客様に提供しております。≫
≪ソルヌン韓国焼肉 平壌冷麵の麺は、蕎麦の食物繊維と栄養素が豊富な蕎麦の皮をそのまま製粉して使われており、スープも牛肉・豚肉・鶏肉など、5つの材料で丁寧に作っています。≫

各種報道によると、肉と野菜は日本のものを使っているが、それ以外は毎月韓国にいる母から送ってもらっているそうだ。なお冷麺だけでなく、本場のキムチも自慢の一品らしい。

東京駅から約50分。いざ冬の平日に行列のできる人気店へ…

ソルヌンへのアクセスは、東京ディズニーランドやZOZOマリンスタジアム、幕張メッセへの移動でおなじみの「京葉線」を利用するのが便利だ。東京駅を出発して舞浜→海浜幕張へと進み、乗り換えなしで、35〜40分前後でJR稲毛海岸駅に到着できる。駅から店舗までは約1キロ、片道10分程度なので、首都圏からのアクセスは悪くない。

稲毛海岸駅周辺はイオンなどの商業ビルが建っていたが、全体的に「ああ、千葉だなぁ」といったノホホンとした空気感が漂っていた。店までの道のりはほぼ一本道なので、私と同じ方向音痴の人でも迷う心配はなさそうだ。

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のどかな雰囲気の道を進んでいく(写真:筆者撮影)

店に着いたのは平日の午前11時50分。既に満員だったようで、店の外には2名1組の女性客が並んでいた。ランチ営業は11時30分~14時までらしいが、オープンからわずか20分、しかも冬の平日でこの客入り……。「きっと休日や夏場はもっと混んでいるんだろうな」と目を丸くしながら、順番待ちのリストに名前を書き込んで、その時を待った。

※ディナーは17時~20時まで。定休日は水曜と日曜。来店時はソルヌンの公式インスタで、営業時間を確認するのがよさそうだ。

外で待機して約15分、私の後ろに5名3組の人が並んでいる中、北朝鮮出身の文蓮姫さん本人から「サトウさん、お待たせしました!」と名前を呼ばれた。私が「テレビ見ました!」と伝えると、「ありがとう!」と笑顔で応えてくれた。

さっそく北朝鮮冷麺を注文

カウンター席に案内された私は、迷うことなく平壌水冷麺(税込1200円)と浅漬けキムチ(税込250円)を注文。料理を待っている間はキョロキョロと店内を眺めたり、メニュー表を見たりして過ごした。

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店内の光景。カウンターは8席。テーブルは5卓あるようだ(写真:筆者撮影)

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メニュー表は木製で、デザインが抜群にいい。ちなみに箸とスプーンとコップはステンレス製だった(写真:筆者撮影)

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全部食べたい(写真:筆者撮影)

メニュー表には、私が注文した冷麺以外の北朝鮮料理も載っていた。具体的には、平壌ビビン冷麺、平壌温麺、北朝鮮式のサムゲタン、ユッケジャン。北朝鮮料理は各種税込1200円。その他、炭火焼き肉のメニュー(おそらく旦那さんが韓国で焼き肉店を経営していた経緯等があるからだろう)や、アルコールなどのドリンクメニューもあるようだ。

千葉の北朝鮮冷麺。初めて食べた忖度のない感想

注文から1分ほどでキムチが提供された。が、繊細な冷麺の味を楽しむため、一口も食べずに待つこと約5分……お目当ての平壌水冷麺が運ばれてきた。私の最初の感想は「懐かしいなぁー、これだよこれ!」だ。蕎麦の色をした麺の上には、キュウリや牛肉、錦糸卵がタワーのように重なっている。ゆで卵が添えられている点や、澄んだ色をしたスープも、私が北朝鮮レストランで食べた冷麺と同じだ。

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これだよこれ!(写真:筆者撮影)

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見てるだけで楽しい(写真:筆者撮影)

その一方で、これは“飲食店の工夫の違い”の範囲だと思うが、ソルヌンの冷麺には薄切りのリンゴがトッピングされており、牛肉と豚肉と鶏肉の3種類が楽しめる(私が北朝鮮レストランで食べた冷麺には、リンゴと豚肉と鶏肉は入っていなかった)。

店員さんからの「かき混ぜてお召し上がりください」というアナウンスに従い、私はステンレス製の箸で冷麺をグルグルとかき混ぜた。麺は簡単にほぐれ、すぐに食べられる状態になったが、この点も北朝鮮レストランにはなかった特徴だ。向こうでは“冷麺の団子”のようになっており、全然ほぐれず、食べるまでに苦労した思い出がある。

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ソルヌンの麺は簡単にほぐれた(写真:筆者撮影)

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北朝鮮レストランの麺。複雑に絡み合っているせいか、箸で簡単に持ち上がった(写真:筆者撮影)

さて、冷麺の“味”のほうはどうだろうか。勢いよくスープを口に入れてみると……おお、だいぶアッサリしてる感じだな。北朝鮮レストランで食べた時よりも薄味に感じたが、肉の旨味がスープに潜んでいる上品な感じの味付けは、私が過去に食べたものと似ている。うん、美味しいし、旨い!

老若男女が楽しめる、優しい一杯

麺のほうはどうだろうか。勢いよくすすってみると……おお、モチモチしているけれど、これかなり食べやすいな。中国の北朝鮮レストランで食べた時は「アゴが疲れるわ!」「お爺ちゃんお婆ちゃんにはオススメできないわ!」と突っ込みを入れたくなるほど弾力があった。どうやら千葉の北朝鮮冷麺は老若男女が楽しめる、優しい一杯となっているようだ。

食べている途中でカラシとお酢を入れて“味変”したところ、味にパンチが効いて、2種類の冷麺を食べているような“お得感”があった。「冬よりも夏に食べたほうがより美味しく感じるだろうなぁ」と脳裏に浮かんだ点も、私が北朝鮮レストランで食べた時の感想と同じだ。ちなみにソルヌンのキムチは絶品で、日本のキムチにはない濃い味と強い辛味が最高だった。

店内では文蓮姫さんを含め、4名の店員さんがテキパキと働いていた。店員さん同士でコミュニケーションを取るなど、みんなどことなく海外っぽい感じの働き方をしており、私は「人間らしくてすごくいいな」と感じた。文蓮姫さんは料理を提供したり、たまに椅子で休んだりしながら、上手な日本語でキビキビと働いていた。

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レジ前にはIKKOさんや、プロ野球選手のサインが飾ってあった(写真:筆者撮影)

美味しい北朝鮮冷麵以外に、筆者が頂戴したもの

これは中国の北朝鮮レストランでもそうだったのだが、いざ目の前に本物の北朝鮮出身の人が現れた時、私はその人の育ってきた環境や想いについて、どうしても想像を膨らませてしまう。

命懸けの“脱北”を試みた文蓮姫さんは、私と年齢がほぼ変わらない。不適切な表現かもしれないけれど、今こうして日本で飲食店を営み、笑顔で一生懸命働いている文蓮姫さんの姿を、私は純粋にカッコイイと思ったし、見習いたいと思った。

店を出る際に「ご馳走様でした」と声を掛けたところ、文蓮姫さんと旦那さんを含めた4名の店員さんから、気持ちのいい笑顔で「ありがとうございました!」と伝えられた。

美味しい北朝鮮冷麺だけでなく、大きな勇気と元気を頂戴した私は、「いつかまた絶対リピートしよう」と思いながら、大満足で店を後にしたのだった。