オルバン政権の大敗は「世界の右傾化」を巻き戻すきっかけになり得るか

4月12日、ハンガリー議会総選挙の結果を受けて勝利宣言した中道右派野党「ティサ(尊重と自由)」のマジャル党首。
アメリカからバンス副大統領が「応援演説」に駆けつけたこともあって世界中の注目を集めたハンガリー議会総選挙は、16年間にわたって強権を振るってきたオルバン首相が敗北を宣言した。投票率は過去最高との79%に達した。
定数199の同国議会で、オルバン首相率いる与党フィデス・ハンガリー市民同盟は55議席に後退。マジャル氏率いる中道右派の新興野党「ティサ(尊重と自由)」が憲法改正も可能になる3分の2以上(138議席)を獲得し、圧倒的な勝利を収めた。
「東欧のトランプ」との異名も取ったオルバン政権下のハンガリーは、自国ファーストの思想を欧州連合(EU)にねじ込みたいアメリカやロシアにとって、足がかりとしての位置づけだった。
実際、EU加盟国として拒否権を有するハンガリーは、重要なタイミングで欧州の意思決定を内側から揺さぶる「トロイの木馬」のごとく振る舞ってきた経緯がある。
例えば、ロシアがウクライナに侵攻した2022年。オルバン政権はエネルギー輸入制限につながる(EUとしての)制裁に拒否権を行使する方針を示し、大幅な修正を勝ち取った。
より具体的に言うと、ロシア産石油の海上輸送による輸入禁止は合意に至ったものの、ハンガリーの主張が通ってパイプライン経由の輸入は禁止対象から除外された。ハンガリーは安価なロシア産石油を、ロシアは自国産石油の輸出先を、それぞれ確保することに成功した。
また、翌2023年にも、ウクライナに対する500億ユーロ相当の追加支援について、ハンガリーは加盟国の中で唯一反対。賛成する上での交換条件として、凍結されていたEU補助金の拠出を求め、最終的にその一部が認められた。
この補助金凍結は、オルバン政権による裁判所の独立性の制限などを受け、EUの基本原則である「法の支配」順守に懸念があるとして、欧州委員会が決定した措置だった(詳細は後述する)。凍結の解除は、ウクライナ支援の合意を優先するため、EU側が原則を曲げた形だ。
他にも、ハンガリーと他のEU加盟国が衝突ないし対立したケースは枚挙に暇(いとま)がない。
このように、長年「内なる敵」だったハンガリーの政治姿勢が、今回の選挙結果を経て変容するならば、政治・経済面での統合深化を模索するEUにとって大きな意味を持つ。
目先の話で言えば、加盟国がロシア産エネルギー資源からの脱却を目指す中、ロシアへの依存を域内外交の道具のように扱ってきたオルバン政権が退場することで、EUのエネルギー安全保障政策は統一感が強化されると予想される。ウクライナ支援やロシア制裁の実効性も高まるだろう。
西側諸国の常識が全く通用しない人物

4月12日、支持者の前に姿を見せたハンガリーのビクトル・オルバン首相。
オルバン政権はこの16年間、選挙制度の恣意的な変更やメディアの独占的統制、司法の独立性はく奪などを通じて、民主主義の手続きを利用しつつ、その本質が空洞化されるように動いてきた。
とりわけ金融市場では、政権初期の2013年に中央銀行であるハンガリー国立銀行の独立性が毀損されたことで大きな注目を集めた。
具体的には、当時オルバン首相の右腕だったマトルチ国家経済相が中銀総裁に任命され、経済成長を優先させたい政権の意向に沿った超低金利政策や中小企業向け融資プログラムなどが強引に展開されるようになった。
マトルチ総裁在任中の中銀から複数の財団に送金され、同総裁に便宜を図るために使われたとの汚職スキャンダルも同国内では大きな話題を呼んだ。
欧州委員会はオルバン政権に対し、中銀資本の政府予算への流用などについて、財政ファイナンス(政府発行の国債を、中銀が通貨を発行して直接引き受けること)に類する行為として警告を繰り返してきた。
しかし、オルバン政権がその警告を国家主権への介入だとして無視し続けたため、欧州委員会は先述のような「法の支配」原則順守への懸念に関する制裁措置と合わせ、300億ユーロ規模の資金凍結を実施するに至っている。
前節で触れたウクライナ支援賛成の(事実上の)交換条件として凍結解除された102億ユーロの補助金もそうした制裁措置の一部だ。

4月7日、アメリカのバンス副大統領もハンガリー議会総選挙の「応援演説」に駆けつけた。
どんな国内改革が予想されるか
次期首相に就任するマジャル氏はすでにオルバン体制の解体に着手したと報じられている。
その詳細はまだ明らかになっていないが、明確に親EU路線を打ち出して大勝した経緯から、前節で述べたような中銀にまつわる汚職の是正はもちろん、司法の独立性回復やEU加盟国の難民受け入れ分担などで歩み寄りが期待できるだろう。
そうなれば、凍結されていた資金拠出が再開され、経済も潤うことになる。同時にその資金は、国内改革の原資としても活用される。
オルバン政権下のハンガリーは、外資系企業に対する差別的な課税や不透明な公共事業の発注が横行し、その不透明な投資環境から資金が国外に逃げていた。
マジャル氏は外資系企業に対する差別的な課税について段階的に撤廃する方針を表明している。税収は当然減少するものの、凍結されていた資金からの拠出を得られれば改革を進められる。
同氏は総選挙前の決起集会でそれらの改革を総称して「ハンガリー・ニューディール」と呼んだが、実現するかどうかは何をおいてもEUとの関係修復にかかっていると言える。
「世界政治の右傾化」トレンドは巻き戻るのか
最後に、オルバン政権の退陣が世界の政治経済に及ぼす影響にも触れておきたい。
直感的には、右傾化する国際政治の節目といった印象があるし、実際にメディアなどではそうした指摘が多い。本当にそうなるのだろうか。
オルバン首相が欧州の右派勢力にとって象徴的な存在だったことは間違いない。
2024年6月、オルバン首相はオーストリアの自由党(FPO)やチェコのANO 2011(前者は極右、後者は中道右派とされる)とともに、欧州議会の反EU会派「欧州のための愛国者(PfE)」を立ち上げた。直後の欧州議会選挙では議席の12%弱を占める第3勢力となり、同首相の影響力を示す形となった。
同会派は、2027年のフランス大統領選挙で本命視される同国の国民連合(RN)、イタリアの同盟(Lega)、オランダ自由党(PVV)、スペインのVOXなど右派ないし極右勢力との距離も近いため、オルバン首相の退場がそれらの勢力に戦略修正を強いる可能性はある。
一方、域外に目を向けると、トランプ米政権は表立って欧州の右派勢力に対する支持を表明してきたし、ロシアもその流れに乗ってきたので、オルバン政権の崩壊は相応の影響をもたらすだろう。

ハンガリーの有権者は親ロシア派のオルバン首相率いる与党フィデス・ハンガリー市民同盟にノーを突きつけた。
とりわけ、トランプ政権は2025年12月に発表した国家安全保障戦略(NSS)の中で、欧州委員会が主導するEUの現体制を非民主的と断じた上で、加盟国への主権返上を(米国として)支援する方針を掲げている。端的に言えば、アメリカが与しやすいようにEUを内部崩壊させる戦略だ。
オルバン政権率いるハンガリーはまさにその橋頭堡(きょうとうほ)つまりは最前線基地だったわけで、そうした経緯を踏まえれば、オルバンの挫折はトランプの挫折との見方が出てきても不思議はない。
とは言え、オルバン首相が退場するからと言って、欧州議会の反EU会派まで消滅するわけではない。
そもそも、マクロ経済環境として高インフレと低成長が続く限り、いかなる勢力であれ政権が継続的な支持を得るのは難しく、ハンガリーの体制崩壊はそうした典型的なパターンにすぎないかもしれない。国民の生活が苦しい時期には、現行体制への不満から極端な主張が受け入れられやすいからだ。
その点を踏まえて言えば、オルバン政権の退陣がリーマンショック以降の世界を席巻する政治の右傾化を巻き戻すきっかけになるとは、現時点では確信を持って言えないし、EU加盟国で本当にトレンドとして右傾化が進んでいるのかどうかすら定かではない。
あえて何か結論めいたことを言わねばならないとすれば、急進的な自国第一主義は力強く見えるかもしれないが、持続可能性が約束されているわけではない。その分かりやすい前例を示したという意味において、今回の選挙結果は国際政治の節目と言える面もあるのかもしれない。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。