ローマ教皇を攻撃したトランプの下から去る保守票…11月の中間選挙を乗り越えられるのか

プロテスタントの支配的立場は消滅, 教皇は政治目的で話していない, トランプの攻撃は的外れ, 中南米でトランプの姿勢は長く記憶される

11日間のアフリカ訪問の初日、アルジェリアでのミサ(4月13日) SIMONE RISOLUTI-VATICAN MEDIA-ABACA-REUTERS

※この記事は後編です。前編「」はリンクからご覧ください。

トランプと教皇の対立は、共和党の抱える戦略的な課題を浮き彫りにしている。24年の大統領選でトランプは、近年の共和党候補の中では飛び抜けて高いヒスパニック票の得票率を記録した。特にテキサス州やアリゾナ州、ネバダ州、フロリダ州の労働者階級の男性の支持を集めた。だがカトリックとトランプの「連携」は決して盤石ではなかった。

もともとアメリカには、カトリック信徒の国家への忠誠心に対する不信感が、政治に大きな影響を及ぼしてきたという長い歴史がある。1850年代のノウ・ナッシング党や1920年代のKKK(クー・クラックス・クラン)がカトリックを排斥したのも、60年の大統領選挙でカトリックのジョン・F・ケネディに対してプロテスタントの反発が起きたのも、そうした不信感が背景にあった。カトリック信徒の最終的な忠誠の対象は教皇であり、アメリカの主権への脅威だというわけだ。

とはいうものの、トランプが攻撃している教皇はシカゴに生まれ中西部で育ち、アメリカ国民に広く親しまれている人物だ。トランプがレオ14世を攻撃するということは、アメリカ人の同胞を、しかも自分よりもはるかに人気の高い人物を攻撃することにほかならない。CNNのアナリスト、ハリー・エンテンは「大統領はアメリカで最も人気のある人物を攻撃するという、特大の過ちを犯していると思う」と言い切った。

トランプと教皇の衝突の裏で、トランプを大統領に押し上げた政治運動にも亀裂が生じている。トランプ当選のために手を組んだキリスト教徒の2つのグループ、つまりカトリックと福音派が争っているのだ。

プロテスタントの支配的立場は消滅, 教皇は政治目的で話していない, トランプの攻撃は的外れ, 中南米でトランプの姿勢は長く記憶される

昨年5月の就任時にはバンスがバチカンを訪れ一対一で面会 SIMONE RISOLUTI-VATICAN MEDIA-ABACA-REUTERS

プロテスタントの支配的立場は消滅

ニューハンプシャー大学のミシェル・ディロン教授(社会学)は、カトリックとアメリカのプロテスタントとの緊張関係について長年、研究してきた。「かつてアメリカの権力を握っていたのは主流派プロテスタントだったが、その支配的立場は消滅した」と、ディロンは言う。「トランプ政権においては福音派の熱情がポピュリズムのエネルギーをもたらす一方で、カトリックの伝統主義が政策を主導する立場の人々の多くに強い影響をもたらしている」

トランプ政権には、さまざまなキリスト教勢力が集まっている。宗教右派との結び付きが強い福音派プロテスタントのピート・ヘグセス国防長官、マルコ・ルビオ国務長官はカトリック教徒で、バンス副大統領も近年になってカトリックに改宗した。

だが、トランプがSNSで教皇を公然と攻撃し、自分をキリストに模した画像を投稿する騒ぎを起こした後、削除したのは画像だけだった。

「レオからの手紙」発行人のクリストファー・ヘールは、この判断にMAGA(アメリカを再び偉大に)運動の保守派連合に対する見方が表れているとみる。「自分をイエス・キリストになぞらえた画像はカトリック以上に福音派を怒らせるものだったと思う。カトリックは教皇攻撃の投稿に怒ったが、こちらは削除されなかった」

両者の対立は、神学上の深い分断も浮き彫りにした。1960年代の第2バチカン公会議以降の「正義の戦争」論に基づく現代カトリックの教義では、戦争を道徳的に正当化することは極めて難しいとされる。「アメリカ」誌サム・ソーヤー編集長によれば、「戦争を正義と認めることはほぼ不可能」だ。

教皇は政治目的で話していない

だがバンスやヘグセス、キリスト教ナショナリズム運動とつながりがある敬虔な南部バプテスト派のマイク・ジョンソン下院議長らは、戦争を異なる道徳観で捉えている。

「受難の主日」に当たる3月29日、レオ14世はこう説いた。「私たちの神イエスは戦争を拒絶する『平和の君』である。誰も戦争を正当化するために利用することはできない。イエスは戦争を行う者たちの祈りに耳を貸さず、それを退ける」

4月15日、ジョンソンは教皇の説教に「驚いた」と語り、「正義の戦争論」に言及。一部の戦争は道徳的に正当化され得るという考えは「キリスト教神学で十分確立された教義だ」と主張して、トランプやバンスの発言はイラン戦争の重大性への「深い理解」の反映だと述べた。

この「確立された教義」論は、カトリックの教義が欧米の古い神学的伝統に今も依拠しているという前提に立っている。だが、欧米はもはや教会全体を代表する存在ではない。

実際、教会の重心は既に移動している。今ではカトリック信徒の約40%が中南米にいる。アフリカは20%強で、ほぼヨーロッパと同じ。一方、北米はアメリカとカナダを合わせて6.6%程度でしかない。

戦争や移民、公共の善に関するレオ14世の発言は、長年の教会の教義を明快に述べたにすぎない。従来と違うのは、「アメリカ人教皇」の権威と共に語ったという点だ。こうなると、「外国人の見解」として簡単に切り捨てるわけにはいかない。

「教皇は政治的目的で話しているのではない。個人的意見を述べているわけでもない」と、ニューハンプシャー大学のディロンは指摘する。「聖職者として、教会が客観的に道徳的と考える道を明快に語っている」

トランプの攻撃は的外れ

レオ14世が約50年前に数学を学んだビラノバ大学でカトリック倫理学を研究するエマ・マクドナルド・ケネディ助教は、トランプの攻撃は的を外したと指摘する。

「レオ14世はアメリカの公の場で特異な位置にある。他の指導者のような政治的野心や利害を持たない。だからこそ純粋に、道徳的かつ預言的な発言をする代え難い特別な力がある。それがドナルド・トランプをいら立たせている。トランプはこの分野で張り合うことはできないからだ」

ただし、この道徳的権威は政治の外に存在するわけではない。むしろ政治そのものを動かし始めている。

共和党にとって、それが戦略的にどう影響するかは不透明だ。24年の大統領選を戦った共和党の保守連合は、接戦州の中南米系カトリック教徒を含む労働者階級の票に依存していた。この連合は経済的なアピールと文化的保守主義の微妙な均衡の上に成り立っていた。カトリック票は今年11月の中間選挙の接戦区でも大きな比率を占める。小さな変化でも大きな影響を持ち得る。

変化は既に始まっている可能性がある。ポリマーケットなどの予測市場では、民主党が下院の多数派を奪還するとの見方が優勢だ。

中南米系のトランプ支持率は低下傾向にある。フロリダ国際大学の26年3月の全米調査によれば、支持率30.7%に対し不支持率は66.7%。24年に共和党支持へ舵を切った集団の動きが明らかに逆転している。

中南米でトランプの姿勢は長く記憶される

共和党系の政治コンサルタントで中南米系の動向に詳しいマイク・マドリッドは本誌にこう語った。「反カトリックを公然と打ち出したトランプ政権の攻撃的姿勢は(中南米系の間で)長く記憶されるだろう」

マドリッドによれば、タイミングは共和党にとって最悪に近い。人気上昇中の教皇との対立が深まるなか、共和党は選択を迫られている。対立を続けるのか、それとも11月の中間選挙前にカトリック票への政治的ダメージを食い止めるのか。

マドリッドはこう語った。「アイルランド系も中南米系も、根底から感情を揺さぶられている……今回はレベルが違う。レオが(信徒たちから)とても愛されているからだ」

発言の撤回をほとんどしないトランプが引き下がる兆候はない。キリストが自分を抱き締める画像など、SNSで挑発的な投稿を続けている。バンスやジョンソンらも教皇批判をさらに強めている。

プロテスタントの支配的立場は消滅, 教皇は政治目的で話していない, トランプの攻撃は的外れ, 中南米でトランプの姿勢は長く記憶される

「救世主」画像を取り下げた後にも自身のSNSではこんな投稿を TRUTH SOCAL(※画像をクリックすると投稿に飛びます)

それでも教皇の威信は揺らいでいない。トランプ政権が予想していなかったのは、戦いを挑んだ相手が「脅しの利かないアメリカ人」をトップにいただく組織だということだ。

「カトリック教会はこの政権より長く存続する」と、ディロンは言う。「長い外交史を持ち、アメリカとも舞台裏で協力を続け、世界各国と関係を維持してきた。本物のグローバルな組織なのだ」

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