【綾瀬はるかさんインタビュー】気にし過ぎるけど、マイペースでもあって。両極端で、友達からは〝宇宙だよね〞って(笑)|映画『人はなぜラブレターを書くのか』
俳優としての確かなキャリアを重ねながらもかわいらしさを失わず、周囲を明るく照らす華やかなスターオーラをまとう俳優の綾瀬はるかさん。邦画界屈指の気鋭監督、石井裕也さんによる映画『人はなぜラブレターを書くのか』で主演を務めています。映画のこと、田舎暮らしへの思い、綾瀬さんに聞きました。
掲載:2026年4月・5月合併号

【綾瀬はるかさんインタビュー】気にし過ぎるけど、マイペースでもあって。 両極端で、友達からは〝宇宙だよね〞って(笑)|映画『人はなぜラブレターを書くのか』
あやせ・はるか●1985年3月24日生まれ、広島県出身。最近の主な出演作は、映画『レジェンド&バタフライ』『リボルバー・リリー』『ルート29』、ドラマ『義母と娘のブルース』『ひとりでしにたい』、昨年のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』では語りを担当した。是枝裕和監督による映画『箱の中の羊』が公開待機中。
〝運命の日〞を境に、過去と今をつなぐ物語
2000年3月8日、地下鉄日比谷線で列車脱線衝突事故が発生する。当時、高校生だった富久信介さんが犠牲に。20年後、一通のラブレターが信介さんの家族に届く――。映画『人はなぜラブレターを書くのか』は、
この実話を基に!?と驚く奇跡の物語。綾瀬はるかさんが、長い時を経て、信介さんに手紙を書く寺田ナズナを演じた。
「脚本を読むと、学生時代の二人がキラキラしていて、甘酸っぱくて。やがて突然に〝その日〞が訪れ、周囲の人たちが揺れていきます。過去があって、現在に至り、未来を感じる。その流れがすてきだなって。涙が止まらず、心が揺さぶられました」
新聞でこの逸話を知った石井裕也監督は、自ら脚本化。ナズナ役には、監督自身の亡き母への想いが託された。
「初めてお会いしたときか、撮影の途中だったか、監督はお母さまを早くに亡くされ、ご自身も父親になって。死んだら終わりではなく、どこかでつながっている。生と死って意外と境目がないのかも、というお話をされていました。私も、数年前に父を亡くして。いつでも近くにいる、そんな感覚は確かにあるなって」
古民家ダイニングを楽しげに切り盛りし、いつも太陽のように家族を照らすナズナ。ひそかに抱える葛藤をにじませることもない。
「ナズナって、〝着きましたよ〜ん〞なんて言うんです。そんな朗らかな雰囲気を、どうしたら自然に表現できるかなと。旦那さんとの関係も、常にマイペースで。つらいことがあっても『まあまあまあ』なんて言って、明るさでごまかしてしまう。『夫婦っていうのはそういうもので』と言われ、へ〜って(笑)」
そう屈託なく笑う綾瀬さん。ナズナには10代の娘がいる、つまりは母親役だが、綾瀬さんっていくつになっても〝かわいい女の子〞の空気をまとう稀有な人。
「映画の終盤、ナズナが家族に秘めた思いを明かすシーンは、前日にリハーサルをしました。大波のように、ぶ〜ん!と動くナズナの感情をどう表現するか? ポジショニングを確認したり、監督から、どう撮ってほしいか聞かれたり。(カットを割らない)長回しでしたが、本番では何度かテイクを重ねました」
17歳のころと、大人になってからと、物語は〝運命の日〞を境に行ったり来たり。通学電車でのナズナと信介との淡い想いのやりとり。進学校に通いながらプロボクサーを目指す信介のひたむきさ。家庭を築いたナズナが生活を大切にする姿、夫婦のさりげなくも固い絆。地に足のついた人物と実感のこもったエピソードが、〝実話が基の奇跡〞で想像する物語を軽〜く超える。
「映画は静かに始まり、不思議な世界に連れていかれるよう。自分が出ていないシーンも多く、新鮮で、深く感情移入して泣いたり笑ったりしました。悲しいシーンもありますが、亡くなった人への想いがなくなることはなく、やがて希望につながる。誰もが前を向いて歩いていく、そんなすがすがしさがあります。なぜラブレターを書き、どんな奇跡が起きるか、ぜひ観ていただきたいです」
いつかは故郷の広島と二拠点居住できたら
映画のメインロケ地は千葉県香取市佐原地区。田園風景が広がり、夕景が美しく、〝小江戸〞と呼ばれる懐かしい町並みが続く。「自然に囲まれ、ああいうところで暮らしたら雑念がなくなりそう」と綾瀬さん。撮影中にテイクアウトしたお寿司が、「ネタが大きくておいしかった!」と言う声も弾む。ナズナは畑での野菜づくりにも熱心で、穫れた野菜はそのままカフェのメニューに。「そんな生活、どうですか?」と尋ねると、「すごくいいですよね!」と食い気味に答える。
「大地からパワーをもらえそう。あんなお店があったら絶対に行きたくなります。自分で店をやって、何種類ものおかずをつくるのは大変そうですけど(笑)」
そんな想像を楽しむ姿は、田舎暮らしへの興味を感じさせる。
「山と海、どっちがいいだろう? 山って木がもりもりしていて、土に触ったり、山登りができたり。大自然のなかにいる感覚がいい。山登りは最近、全然できていませんけど。海もいいですよね。海って、そこに海があるだけでいい。潮の香りがしたり、砂浜をはだしで歩くだけで気持ちいいし。それで最近、暮らしながら古民家を改修するテレビ番組を観て、面白そう〜、手伝いに行きたい!と思ったり」
出身は広島市。「母親は自家栽培をやっていて」と綾瀬さん。
「シーズンごとに、だいたいのお野菜はつくっています。それでダイコンを穫ってきて、そのままお料理に使うという生活です。本当にナズナみたい。普段食べている野菜とは、味がぜんっぜん違うんです。こんなに新鮮な野菜がすぐ手に入るなんて、最高のぜいたく。実家に帰ると、いつもそう思います」
以前は農作業も楽しんだが、今は「穫れたばかりの野菜でつくったご飯を食べるだけ!」とも。
「お正月にはハクサイと、庭で穫れたダイコンやシュンギクを入れたお雑煮を食べるんです。本当においしい。だからお正月は、朝起きたらもう、〝お雑煮食べたい!〞って思うんです。いつか二拠点居住できたらいいなって」
与えられた役を創造し、監督の想いのこもった演出のもと、その道のプロであるスタッフの力を借りながら、同じように役を構築した俳優とシーンをつくり上げる。俳優は、人間という複雑な生き物と切り離せない。
「常にいろいろな人に囲まれ、ず〜っと頭が動いている。〝次はこれ、その後にあれ〞といつも焦らされる感覚があります。だから〝無になりたい〞と思うことはあって。自然のなかはリラックスできます。心も頭も解放〜!って」
そう言って明るく笑う姿は、日々焦りを覚える人にはとても見えないけれど。

いつでもフレッシュ!でいられる秘密
綾瀬さんっていつでも、どんな役をやっていてもフレッシュ。慣れたり倦んだりするのとは遠いところで、俳優という仕事と向き合っているように見える。そのままを伝えると、「うれしいっ、それを目指してます!」とまた笑う。オンとオフの切り替えが、ものすごく得意とか?
「カットがかかっても役が抜けない方もいらっしゃいますけど、確かにそれはないかも。それでも若いころは、〝いつもオンで〞〝ずっとその役を持っていなきゃ〞という想いが強くて。でもある監督に〝オンとオフをつけたほうが、いいお芝居ができる〞と言われました。〝大変なシーンほどオフに〞と言われ、それを心がけています」
それでも休みの日もセリフに追われたり、役のことが必ず頭の片隅にあるそう。
「だから、考えなくていいときは、なるべく脚本を見ないように。ただ……やらなきゃいけないことを後回しにしちゃうところがあって。それでギリギリになって焦っちゃう。夏休みの宿題も、最後の一日にするタイプでした(笑)」
そんな自分の扱い方に、慣れてきたという面もあるそう。
「意気込んでやるよりニュートラルに、自然体でいるほうが周りが見えてきます。相手から受け取ることにも、素直になれる。そういう意味では、肩の力がいい意味で抜けてきたのかも。それでも大変なシーンがあるとやっぱり、1カ月も前から〝嫌だなぁ……〞と思っちゃうんですけど」
気にし過ぎるくせにマイペース、宇宙的な性格!?
〝揺るぎない〞、綾瀬さんにはそんな印象もある。それぞれの役回りを果たそうとそれぞれに動くスタッフ・キャストを隅々まで感じ取り、動き続ける現場の中で役として立つ。それをサラッとし続ける人。この映画でも一瞬の緩みもなく、物語を照らすナズナとして存在する。「揺るぎ、なかったですか?」と、真意を探るように真っすぐ視線を向ける。
「自分のことはよくわかりませんが、切り替えが得意、そう言われたらそんな気もします(笑)。周りから、よく言われるんです。『難しく考えずにやりこなすよね』って。そんなことないよ!と思うんですけど」
いつも揺るぎないはずの綾瀬さんが、自分を表す言葉には揺れている。「役として、いつも冷静に見えます」と言うと、その言葉はスッと受け入れられた。
「確かに、意外と周りをよく見ているタイプかもしれません。気にし過ぎるところがあるともいえるでしょうけど、そのくせマイペースでもあって。両極端で、友達からは〝宇宙だよね〞って。ある監督にも、〝綾瀬さんの宇宙……スゴイ宇宙ですね〞と言われました(笑)」
宇宙的広がり!? 簡単に底が知れる存在ではないという意味では、どんな役にでも染まれる資質があるともいえそう。まさに俳優向き、という気もする。
「仕事を始めたころは、『向いてない』とずっと思っていました。作品に入る前は『自分にできるかな? みんないい人かな?』と思ってしまって。新しい環境に入ることに、意外と怖がりで。でも現場に知っている人がどんどん増え、安心感が生まれているかも」
年齢やキャリアを重ねることが、単純にプラスになることもありますね?と言うと、「本当に」とうなずく。
「後ろ向きなことを言っていても、一度目標を持ったらガッ!と突き進む。そのストイックさは、好きでなければできないよね、とも言われます。〝そんなことない!〞と思っていましたが、意外とそういうことが好きなタイプかも、と最近思うようになりました」
最近? デビューして4半世紀なのに!?
いつでもゼロから、まっさらな心で演じることと対峙する人にしか言えないだろう。
「もちろん楽しいと思うことはありますが、最初に怖いという気持ちが勝ってしまって。それでも最後には必ず楽しくなるので、無駄に心配症なんですね。それなのに、ぽん!と、誰よりも先に飛び込む。そこも両極端で」
綾瀬さんという人が、少しずつ見えてきた気になる。人とは違う集中の仕方でその場を感じ取り、ここぞで意志を持って自分に集中し、えいや!と高く飛ぶ。背中を押すのは責任感の強さ。真にプロフェッショナルな人だ。
「責任感、もありそうです……(笑)。それで〝最近〞、やっぱり楽しんだほうがいいなって。作品によって現場の雰囲気は違うし、演じる役も、衣装も違う。それってすごく楽しいことで。だから、楽しもう!って」
自分のことがわかり、演技を楽しむようになって。「いい感じですね!」と言うと、「いい感じです」と笑う。シリアスな人間ドラマはもちろん、コミカルなキャラクターも、激しいアクションも。「ピンポイントだと、怒鳴る演技が苦手」と言うけれど、技術面で不安もなさそうに思える。
「でも、びっくりするぐらい心が動かないこともあります。監督のイメージする感情の流れと自分のそれが嚙み合わないことも。じつはさっき言った映画の終盤、長回しのシーンは、10回ほどやりました。『はい、もう一回』でメイクをやり直して本番で泣き、『はい、もう一回』でまたメイクをやり直して。本編で使われたのは、たぶん最後のテイクです」
そんな奮闘の気配を、映画はもちろん感じさせない。ナズナの涙は生々しく、計算された演技というより、ナズナの強い想いがあふれてどうにもならない! そんな悲しみが観る者に衝撃を伴って伝わる。つまり、綾瀬さんはナズナにぴったり。生来の明るさ、年齢を超えたかわいらしさ、人としての揺るぎなさ、芯の強さ。見終えてあらためて、この役をほかの誰ができる?と思わせる。
「ナズナの抱えるものは厳しく、自分にできるか悩みました。でも最初に監督から『(ナズナ役に)綾瀬さん、どうですか?』と言っていただいたみたいで。それでマネージャーから、『これ、監督からのはるかへのラブレターじゃない?』って。そうなの!? じゃあやらせていただくしかないかも!と思ったんですよね」
『人はなぜラブレターを書くのか』
(配給:東宝)

●監督・脚本・編集:石井裕也 ●出演:綾瀬はるか、當真あみ、細田佳央太、妻夫木聡、音尾琢真、富田望生、西川愛莉、菅田将暉、笠原秀幸、津田寛治、原日出子、佐藤浩市 ほか ●4月17日(金)より全国公開
寺田ナズナ(綾瀬はるか)は、夫(妻夫木聡)と娘との3人暮らし。思い立って、ある手紙を書き始める。――24年前。17歳のナズナ(當真あみ)は、通学電車でいつも参考書を読む富久信介(細田佳央太)にひそかな想いを抱く。プロのボクサーを夢みる信介は、世界チャンピオンを目指す川嶋勝重(菅田将暉)とトレーニングに明け暮れる。そして運命の日が。――2024年、信介の父(佐藤浩市)がナズナからの手紙を受け取る……。
Ⓒ2026映画「人はなぜラブレターを書くのか」製作委員会
https://loveletter.toho-movie.jp/
文/浅見祥子 写真/鈴木千佳
ヘア/ASASHI(ota office) メイク/ASAMI TAGUCHI (home agency) スタイリング/吉田 恵
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