目の肥えたロシア人観客から称賛浴びるマリインスキー・バレエの永久メイ「母国で踊ることは特別」「世界のダンサーは日本が大好き」

大リーグでは大谷翔平はじめ日本人選手の活躍が目覚ましい。世界のバレエシーンでも日本人ダンサーの存在は欠かせない。中でも永久メイは別格の人気を誇る。 AERA2026年4月20日号より。
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舞台の幕が上がる。まばゆい照明の中、登場した永久メイに大きな期待の拍手が起こる。今年1月30日から3日間、東京で行われたガラ公演「ZENITH of BALLET−至高の舞−」では英国ロイヤル・バレエ団のマリアネラ・ヌニェスと高田茜、マリインスキーのディアナ・ヴィシニョーワら、世界のプリンシパル(最高位ダンサー)とともに観客を沸かせた。
「ロシアでも常にベストを尽くしていますが、母国で踊ることはやっぱり特別。ロシアではガラ公演はあまりないので、それができる日本はすばらしいです。私だけでなく、世界のダンサーは日本が大好きなんですよ。観客の熱意もそうですが、舞台裏でもダンサーへのサポートがきめ細かく行き届いている。だから錚々たるダンサーが集まるのだと思います」
■SNSでファン広がる
少し前までバレエは敷居が高いイメージだったが、動画共有SNSの浸透でファン層は年々広がりを見せている。この公演ではケガで降板したマリインスキーの男性プリンシパル、キミン・キムの代わりに、同じ韓国出身の新星、チョン・ミンチョル(21)とパートナーを組んだことも話題になった。韓流アイドルのような雰囲気のミンチョルと踊った「ロミオとジュリエット」第1幕パドドゥ(2人の舞踊)は、フレッシュでノーブルな香気に満ちていた。
「彼は昨年、マリインスキーに入団したばかりで、今回はプロとして日本初舞台。ロシアではバレエが日常に根付いていて、劇場では毎日、違う演目で公演があります。私自身、入団した当初は次から次へと振られる役と、慣れない生活で大変でした。踊りの上では対等ですが、きっと彼も新しい場所で苦労しているだろうなと思って、日常では手助けをするようにしています」
そう相手を思いやる永久は、2017年に17歳でマリインスキーに入団。史上2人目の日本人という上に、同団付属の名門学校、ワガノワ・バレエ・アカデミーから数人しか許されない狭き門に、モナコ王立プリンセス・グレース・アカデミーという「外様」から選ばれたことでも注目の的となった。それから早くも9年目を迎える。
「そうなんです、時がたつのは早い! バレエは一瞬一瞬が大事で、次のチャンスがあると思ってはいけない、明日ではなく今日の舞台でどれだけ100%を出せるかだ、と思って夢中でやってきました。これからはその土台の上に、もっと深い解釈と自分に合った表現を探っていきたい。そう思っているところです」

■誰よりロシアスタイル
可憐さの裏にストイックな完璧主義をにじませる永久は、目の肥えたロシア人観客から「誰よりもロシアスタイルを身に付けたダンサー」と称賛を浴び、愛されている。彼女自身、ロシアバレエへの思いは深い。コロナ禍とそれに続くウクライナ侵攻の時期に、ロシア国外に出たダンサーも多かったが、永久自身の思いは変わらなかったという。
「コロナでいったん日本に帰国した時、自分を見つめる時間ができました。その時、やっぱり私の居場所はマリインスキーだ、と気持ちが決まって、半年後にロシアに戻りました。私自身はきっちりとルーティン化したい性格なんですが、ロシアはいろいろなことが適当。コロナ対策も、日本に比べればずいぶん適当だったように思いますが、そんなところが逆によかったのかも。バレエにだけ集中することができました」
マリインスキーは精鋭たちの集まり。競争はシビアだが、18世紀初頭の創立時から積み重ねられた歴史がそこには脈々と引き継がれている。劇場では本番が始まる前、まだ人がいない客席を眺めながら、トゥシューズの先でトントンと床を鳴らしている時に、パワーが湧いてくるという。
■日本で初の「白鳥」
「伝説のダンサーたちが、ここに立っていた、あそこに座っていた、という話を聞くと、ゾワゾワと鳥肌が立つ感じがして。この劇場で初演された古典作品が、200年後の今も世界中で上演されていて、その原点に触れられる。ごく短いリハーサルの合間に、次々と本番が来る厳しさも、私にとってはラッキー以外の何物でもありません。10年で経験することを5年で勉強させてもらっているから」
そんな永久が子ども時代に夢中で観ていたのは、ヌニェスが踊る英国ロイヤル・バレエ団「白鳥の湖」のDVDだった。厳格なロシアスタイルとはまた違う、ヌニェスの自在でかつ正統性のある踊りは、もう一つの理想だという。
「彼女のバレエからは表情と、心が見えるんです。どの演目でも、彼女だけの何かがにじみ出ていて、『踊り』ではなく『ヌニェス』を見ているというか。想像力を広げてくれるような踊りが、すごく好きなんです」
ヌニェスとは1月のガラ公演で同じ舞台に立った。
「はじめてお目にかかったのは、5年前に彼女がマリインスキーにゲストでいらした時。その時は感激しすぎて泣けちゃって、お顔をまともに見ることができませんでした。今回、本番前のレッスンで一緒の場所にいられたということが、もう幸せすぎて」
そう目を輝かせる永久は、10代のままの初々しさ、純粋さをのぞかせる。
今年9月には東京バレエ団の公演で「白鳥の湖」の主役を踊る。これまで三大古典バレエのうち「くるみ割り人形」「眠れる森の美女」の主役は踊ってきたが「白鳥〜」ははじめて。永久にとって「特別な国」の日本で初の白鳥、黒鳥デビューとなる。観客の期待は膨らむばかりだ。(文中敬称略)
(ジャーナリスト・清野由美)

※AERA 2026年4月20日号
・世界で日本人バレリーナが活躍する理由は? 日本のバレエは4.0時代へ
・バレエ界の18歳シンデレラ 異例ずくめの世界的バレエ団入団
・観客の情が揺さぶられるようなダンサーに 英国ロイヤル・バレエ団 プリンシパル・高田茜