SBI証券、手数料ゼロで営業利益771億円。「無料」で過去最高益が出る設計図

SBI証券、手数料ゼロで営業利益771億円。「無料」で過去最高益が出る設計図
この記事で学べること
「無料にしたら潰れる」が常識の中で、なぜSBI証券は真逆の結果を出したのか?
決算の数字を分解すると、"値下げ=損"という思い込みがひっくり返る。
✓ そもそもなぜマネックスやSBIが証券業界に参入できたのか
✓ 手数料を捨てても利益が増える「収益構造の設計」
✓ 競合が「無理」と断言した戦略を実行できた4年間の準備プロセス
✓ Slack、マクドナルド、コストコにも共通する「無料で集めて別で回収する」公式
✓ 143社あった地場証券を51社に追い込んだ「勝者総取り」の代償
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「日本で手数料ゼロは無理がある」
この言葉を口にしたのはマネックスグループCEOの松本大さん。
証券業界で知らない人がおらんレベルの大物。
松本さんの理屈はシンプルやった。
アメリカにはPFOFっていう仕組みがある。
注文の流れを仲介するだけで収益が入る構造で、手数料ゼロでも稼げる。
でも日本にはPFOFがない。
「構造が違うのに、同じことをやるのは無理や」と。
正論やった。
業界の誰もが頷いた。
でもこの発言の4年前、1人だけ真逆のことを言うてた男がおる。
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野村證券の「伝説の証券マン」
北尾吉孝。
SBIホールディングスの会長兼社長。

この人の経歴がちょっとおかしい。
慶應大学を出て野村證券に入社。
ケンブリッジ大学にも留学してる。
ロンドンの投資会社で常務取締役をやり、野村に戻って事業法人部長。
「伝説の証券マン」と呼ばれた人。
普通なら野村で出世して終わる人生やった。
転機は1995年。
野村證券がソフトバンクの株式公開を担当した。
その時に孫正義さんと出会う。
孫さんに「インターネットで金融の世界を変えないか」と口説かれた。
北尾さんは44歳で野村を辞めた。
しかも1人じゃない。
60人の部下が北尾さんを慕って一緒に野村を出た。
北尾さんはこう語ってる。
「この人たちの暮らし向きを、もっと良くしてあげないといけない」
「インターネットの力を借りて、金融の世界に革命を起こそう。それが天命やと思った」
ここから四半世紀かけて、SBIグループを作り上げていく。
でもそもそも、なんで北尾さんみたいな「よそ者」が証券業界に入れたんやろ。

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なぜ「よそ者」が証券業界に参入できたのか
証券会社っていうと、野村とか大和とか銀行系のイメージが強い。
なのにSBIやマネックスみたいな独立系が参入して、しかもトップを取ってしまった。
なんでそんなことが起きたのか。
答えは1999年にある。
「日本版金融ビッグバン」の一環で、株式の売買手数料が完全に自由化された。
それまで100万円の取引に1万円以上かかってた手数料が、一気に数百円まで下がった。
この規制緩和がネット証券にとっての「入口」になった。
理由は3つ。
・圧倒的なコスト差:店舗なし、営業マンなし。対面証券の10分の1以下の手数料を出せた
・インターネットの普及:Windows 95以降、PCが家庭に入り始めた。24時間いつでも発注できるネット証券は、日中動けないサラリーマンに刺さった
・アメリカの成功モデル:1975年にアメリカで手数料が自由化されて、チャールズ・シュワブみたいなディスカウント証券が大成功してた。「日本でも同じことが起きる」と読めた
銀行系証券の営業利益率は7〜10%。
店舗と人件費が重いから。
一方、ネット証券は20%超。
同じ証券業でも、コスト構造がまるで違う。
ここに北尾さんが目をつけた。
「インターネットで金融を変える」は孫さんの受け売りちゃう。
構造的に勝てる市場が、規制緩和で開いたタイミングやった。
で、その北尾さんが2019年にぶち上げたのが、あの宣言。

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「3年以内に全手数料を無料化する」
2019年10月。
北尾さんがこの宣言をぶち上げた。
きっかけはアメリカのロビンフッド。
手数料ゼロで企業価値が7,000〜8,000億円に急成長してるのを見た。
「日本でも時間の問題」と判断した。
ただし、宣言してすぐ無料にはしてない。
ここが北尾さんの異常なところ。
宣言から実行まで4年かけてる。
その間にやったのは「手数料がなくても利益が出る体制づくり」。
・投資信託の取扱数を約2,600本まで拡大
・外国株式の取扱いを9カ国に対応
・信用取引の基盤を強化
・システムを増強(口座数が倍になる想定で)
収益の柱を手数料以外に移してから、手数料をゼロにした。
「タダにする」が先ちゃう。
「タダにしても稼げる仕組み」が先やった。
北尾さんの座右の銘は中国古典の「信・義・仁」。
論語の教えと、ネット証券の革命。
組み合わせがバグってるけど、この人はそれをマジでやった。

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手数料ゼロの収益構造を分解する
2023年9月30日、「ゼロ革命」がスタートした。
国内株式の売買手数料を、現物も信用も完全無料化。

松本さんが「無理」と言った戦略の結果はこうなった。
SBI証券の2025年3月期の決算。
・営業収益:2,389億円(前期比+17.4%)
・営業利益:771億円(過去最高)
・口座数:1,500万口座を突破
・預かり資産:60兆円を突破
じゃあ手数料ゼロで、どこから利益が出てるのか。
収益の内訳を見たら、答えが一発でわかる。
❶ 金融収益(信用取引の金利等):860億円(前期比+30%)
❷ 受入手数料(投信の信託報酬等):566億円
❸ 委託手数料(株の売買手数料):299億円
手数料は全体のたった12.5%。
一番稼いでるのは信用取引の金利で、手数料の約3倍。
SBI証券にとって手数料は「稼ぐ手段」ちゃうかった。
「人を集めるための広告費」やってん。
コストコが年会費で営業利益の約65%を稼いでるのに似てる。
コストコの商品は「会費を払う価値がある」と思わせるためのサービス。
SBI証券の手数料ゼロも「口座を開く理由」を作るためのサービス。
どっちも、お客さんが一番気にするところをタダ同然にして、別の場所で回収してる。
じゃあ、この無料化で一番焦ったのは誰やったのか。

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楽天証券が「同日発表」に追い込まれた日
2023年8月31日。
SBI証券が「9月30日から手数料無料化」と発表した。
するとその日のうちに、楽天証券が動いた。
「10月1日から無料化します」

わずか1日遅れの追随。
楽天はそれまで「内部的に対策は打ってるが、まだ決まってない」と態度を保留してた。
でもSBIが動いた瞬間、選択肢がなくなった。
なんでか。
SBI証券と楽天証券の2社で、個人向け株式委託売買代金のシェアが70%超。
追随せんかったら、楽天の客が全部SBIに流れる。
楽天にとっては「やりたいからやる」ちゃう。
「やらんかったら沈む」やった。
北尾さんが4年前に宣言した時点で、こうなることは決まってたんかもしれん。
先に「壊す」と宣言して、4年かけて準備して、実行する。
追随する側には準備期間がない。
これが「先手を打つ」のほんまの意味。

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「無料」の爆発力を数字で見る
ゼロ革命のインパクトは口座数と預かり資産にはっきり出てる。
・2024年7月:1,300万口座
・2025年3月:1,400万口座(5ヶ月で100万増)
・2025年11月:1,500万口座
預かり資産は1年で10兆円ずつ増えた。
40兆 → 50兆 → 60兆円。
しかもゼロ革命後の1年で信用取引口座が45%増。
これが金融収益860億円の源泉。
無料にしたら人が来る。
人が来たら預かり資産が増える。
預かり資産が増えたら金利と信託報酬が増える。
この好循環が回り始めたら、手数料なんかなくても利益は伸び続ける。
この「無料で集めて別で稼ぐ」構造、実は金融以外でもいくらでも見つかる。
マクドナルドのアプリクーポンがまさにそう。
アプリは無料。でもアプリ会員は非会員に比べて来店頻度が約2.5倍、デジタル注文の客単価は約20%高い。
クーポンという「無料の入口」が、来店頻度とアップセルで回収される構造。
SBIの手数料ゼロもマクドナルドのクーポンも、やってることの本質は同じ。
「お客さんが一番気にするコスト」をゼロにして、別の場所で回収してる。
ただ、SBIのフリーミアムは普通のフリーミアムとは根本的に違うところがある。

* * *
Spotifyとも、スマホゲームとも違う
「無料で集めて稼ぐ」と聞くとフリーミアムモデルを思い浮かべる。
でもSBI証券のやり方は、他のフリーミアムとまるで構造がちゃう。
Spotifyの有料会員比率は40%。
7.13億人のうち2.81億人が月額課金してる。
「一部の人に有料プランを買ってもらう」モデル。
スマホゲームはもっと極端。
課金するのは全ユーザーの2〜5%。
しかも売上の50%を支えてるのは、たった0.19%の「廃課金者」。
SBI証券はどっちとも違う。
手数料をゼロにして1,500万口座を集めた上で、ほぼ全員から間接的に稼いでる。
信用取引の金利は借りた人全員が払う。
投資信託の信託報酬は保有してる人全員から自動で引かれる。
「5%に課金してもらう」んちゃう。
「全員を集めて、全員から薄く広く回収する」。
Slackも似た構造を持ってる。
無料プランで使い始めたチームが、過去のログを遡りたくなった瞬間に有料転換する。
チーム単位の有料転換率は30〜40%。
過去の会話が「人質」になって、心理的に抜けられんくなる。
SBIも同じで、口座に預けた資産と取引履歴がロックインになる。
普通のフリーミアムは「無料の中から有料客を探す」。
SBI証券やSlackは「無料にすること自体が、全員をロックインする仕組み」。
この違い、でかい。
ただしSBIの戦略は、壊した側にも代償を残してる。

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手数料ゼロの「代償」
光だけ見てたらフェアちゃう。
この戦略がもたらした影のほうも見ておく。
まず地場証券の壊滅。
SBIと楽天がゼロ革命をやる前から、地場証券は苦しかった。
でもゼロ革命で状況が決定的になった。
・2007年度、地場証券の数:143社
・2023年度、地場証券の数:51社
・純営業収益:2,220億円 → 600億円(約7割減)
主要な顧客だった地域の富裕層が高齢化して、相続した世代がネット証券に口座を移す。
そこに手数料ゼロ化が重なった。
対個人の株式売買や投信販売では、もう地場証券に収益が落ちん。
廃業するか、金融商品仲介業者に業態転換するか。
選択肢がその2つしかない証券会社が増えてる。
北尾さん本人は東洋経済のインタビューで「証券会社は淘汰される」と言い切ってる。
ゼロ革命は「証券投資の大衆化」という大義を掲げてるけど、その裏側で92社の地場証券が消えた。
SBI証券自身にもリスクはある。
委託手数料は前期比18.9%減の299億円。
金融収益と投信報酬が伸び続ける保証はない。
株式市場が冷え込めば、信用取引も預かり資産も減る。
1,500万口座を抱えるシステム投資とサポートコストも膨らみ続ける。
「無料で人を集めるほど儲かる」は、裏返せば「集めた人を支えるコストも増え続ける」ということ。

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まとめ:「無料で稼ぐ」は金融だけの話ちゃう
SBI証券がやったのは「値下げして耐える」ちゃう。
「値段をゼロにして、別の仕組みで回収する設計」やった。
で、この公式は金融に限った話ちゃう。SBI、コストコ、マクドナルド、Slack。業種はバラバラやけど、やってることの構造は全部同じ。明日からできることもまとめてみた。
1. 一番目立つコストをゼロにして、別の場所で回収する
・SBI証券: 手数料ゼロ → 金融収益860億円で回収
・コストコ: 商品を原価ギリギリで売る → 年会費48億ドルで回収(営業利益の約65%)
・マクドナルド: クーポン無料 → 来店頻度2.5倍・客単価20%UPで回収
・共通点は「お客さんが一番気にする接点」をゼロにしてる
→ 明日からできること
自分のビジネスで「お客さんが一番値段を気にしてるもの」と「本当に利益が出てるもの」を分けてリストにしてみる
2. 「仕組み」が先、「ゼロ」は後
・北尾さんは宣言から4年かけて、手数料以外の収益源を育ててから実行した
・投信2,600本、外国株9カ国、信用取引基盤、システム増強
・Slackも同じで、過去ログという「ロックイン」があるから無料プランが成り立つ
→ 明日からできること
値下げや無料化を考える前に、「その代わり何で回収するか」を1つ決める。回収の仕組みがないなら、まだ無料にするタイミングちゃう
3. 先に壊したほうが市場を取る
・楽天は準備期間なしで追随するしかなかった
・追随しなかったマネックスは別の道(資産管理型)に切り替えた
・Epic Gamesも毎週ゲームを無料配布して、後発ストアなのにユーザーの16〜18%を有料購入者に転換させた。先に「無料」を仕掛けた側がルールを作る
→ 明日からできること
業界で「いずれ起きる変化」を1つ書き出して、「先にやったらどうなるか」をシミュレーションしてみる

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手数料ゼロで過去最高益。この一見ありえへん結果の裏には、「何を捨てて、何で回収するか」の明確な設計があった。無料は魔法ちゃう。設計やった。
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