SBI証券、手数料ゼロで営業利益771億円。「無料」で過去最高益が出る設計図

この記事で学べること, 「日本で手数料ゼロは無理がある」, 野村證券の「伝説の証券マン」, なぜ「よそ者」が証券業界に参入できたのか, 「3年以内に全手数料を無料化する」, 手数料ゼロの収益構造を分解する, 楽天証券が「同日発表」に追い込まれた日, 「無料」の爆発力を数字で見る, Spotifyとも、スマホゲームとも違う, 手数料ゼロの「代償」, まとめ:「無料で稼ぐ」は金融だけの話ちゃう

SBI証券、手数料ゼロで営業利益771億円。「無料」で過去最高益が出る設計図

この記事で学べること

「無料にしたら潰れる」が常識の中で、なぜSBI証券は真逆の結果を出したのか?

決算の数字を分解すると、"値下げ=損"という思い込みがひっくり返る。

✓ そもそもなぜマネックスやSBIが証券業界に参入できたのか

✓ 手数料を捨てても利益が増える「収益構造の設計」

✓ 競合が「無理」と断言した戦略を実行できた4年間の準備プロセス

✓ Slack、マクドナルド、コストコにも共通する「無料で集めて別で回収する」公式

✓ 143社あった地場証券を51社に追い込んだ「勝者総取り」の代償

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「日本で手数料ゼロは無理がある」

この言葉を口にしたのはマネックスグループCEOの松本大さん。

証券業界で知らない人がおらんレベルの大物。

松本さんの理屈はシンプルやった。

アメリカにはPFOFっていう仕組みがある。

注文の流れを仲介するだけで収益が入る構造で、手数料ゼロでも稼げる。

でも日本にはPFOFがない。

「構造が違うのに、同じことをやるのは無理や」と。

正論やった。

業界の誰もが頷いた。

でもこの発言の4年前、1人だけ真逆のことを言うてた男がおる。

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野村證券の「伝説の証券マン」

北尾吉孝。

SBIホールディングスの会長兼社長。

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この人の経歴がちょっとおかしい。

慶應大学を出て野村證券に入社。

ケンブリッジ大学にも留学してる。

ロンドンの投資会社で常務取締役をやり、野村に戻って事業法人部長。

「伝説の証券マン」と呼ばれた人。

普通なら野村で出世して終わる人生やった。

転機は1995年。

野村證券がソフトバンクの株式公開を担当した。

その時に孫正義さんと出会う。

孫さんに「インターネットで金融の世界を変えないか」と口説かれた。

北尾さんは44歳で野村を辞めた。

しかも1人じゃない。

60人の部下が北尾さんを慕って一緒に野村を出た。

北尾さんはこう語ってる。

「この人たちの暮らし向きを、もっと良くしてあげないといけない」

「インターネットの力を借りて、金融の世界に革命を起こそう。それが天命やと思った」

ここから四半世紀かけて、SBIグループを作り上げていく。

でもそもそも、なんで北尾さんみたいな「よそ者」が証券業界に入れたんやろ。

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なぜ「よそ者」が証券業界に参入できたのか

証券会社っていうと、野村とか大和とか銀行系のイメージが強い。

なのにSBIやマネックスみたいな独立系が参入して、しかもトップを取ってしまった。

なんでそんなことが起きたのか。

答えは1999年にある。

「日本版金融ビッグバン」の一環で、株式の売買手数料が完全に自由化された。

それまで100万円の取引に1万円以上かかってた手数料が、一気に数百円まで下がった。

この規制緩和がネット証券にとっての「入口」になった。

理由は3つ。

圧倒的なコスト差:店舗なし、営業マンなし。対面証券の10分の1以下の手数料を出せた

インターネットの普及:Windows 95以降、PCが家庭に入り始めた。24時間いつでも発注できるネット証券は、日中動けないサラリーマンに刺さった

アメリカの成功モデル:1975年にアメリカで手数料が自由化されて、チャールズ・シュワブみたいなディスカウント証券が大成功してた。「日本でも同じことが起きる」と読めた

銀行系証券の営業利益率は7〜10%

店舗と人件費が重いから。

一方、ネット証券は20%超

同じ証券業でも、コスト構造がまるで違う。

ここに北尾さんが目をつけた。

「インターネットで金融を変える」は孫さんの受け売りちゃう。

構造的に勝てる市場が、規制緩和で開いたタイミングやった。

で、その北尾さんが2019年にぶち上げたのが、あの宣言。

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「3年以内に全手数料を無料化する」

2019年10月。

北尾さんがこの宣言をぶち上げた。

きっかけはアメリカのロビンフッド。

手数料ゼロで企業価値が7,000〜8,000億円に急成長してるのを見た。

「日本でも時間の問題」と判断した。

ただし、宣言してすぐ無料にはしてない。

ここが北尾さんの異常なところ。

宣言から実行まで4年かけてる。

その間にやったのは「手数料がなくても利益が出る体制づくり」。

・投資信託の取扱数を約2,600本まで拡大

・外国株式の取扱いを9カ国に対応

・信用取引の基盤を強化

・システムを増強(口座数が倍になる想定で)

収益の柱を手数料以外に移してから、手数料をゼロにした。

「タダにする」が先ちゃう。

「タダにしても稼げる仕組み」が先やった。

北尾さんの座右の銘は中国古典の「信・義・仁」。

論語の教えと、ネット証券の革命。

組み合わせがバグってるけど、この人はそれをマジでやった。

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手数料ゼロの収益構造を分解する

2023年9月30日、「ゼロ革命」がスタートした。

国内株式の売買手数料を、現物も信用も完全無料化。

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松本さんが「無理」と言った戦略の結果はこうなった。

SBI証券の2025年3月期の決算。

・営業収益:2,389億円(前期比+17.4%)

・営業利益:771億円(過去最高)

・口座数:1,500万口座を突破

・預かり資産:60兆円を突破

じゃあ手数料ゼロで、どこから利益が出てるのか。

収益の内訳を見たら、答えが一発でわかる。

❶ 金融収益(信用取引の金利等):860億円(前期比+30%)

❷ 受入手数料(投信の信託報酬等):566億円

❸ 委託手数料(株の売買手数料):299億円

手数料は全体のたった12.5%

一番稼いでるのは信用取引の金利で、手数料の約3倍。

SBI証券にとって手数料は「稼ぐ手段」ちゃうかった。

「人を集めるための広告費」やってん。

コストコが年会費で営業利益の約65%を稼いでるのに似てる。

コストコの商品は「会費を払う価値がある」と思わせるためのサービス。

SBI証券の手数料ゼロも「口座を開く理由」を作るためのサービス。

どっちも、お客さんが一番気にするところをタダ同然にして、別の場所で回収してる。

じゃあ、この無料化で一番焦ったのは誰やったのか。

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楽天証券が「同日発表」に追い込まれた日

2023年8月31日。

SBI証券が「9月30日から手数料無料化」と発表した。

するとその日のうちに、楽天証券が動いた。

「10月1日から無料化します」

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わずか1日遅れの追随。

楽天はそれまで「内部的に対策は打ってるが、まだ決まってない」と態度を保留してた。

でもSBIが動いた瞬間、選択肢がなくなった。

なんでか。

SBI証券と楽天証券の2社で、個人向け株式委託売買代金のシェアが70%超

追随せんかったら、楽天の客が全部SBIに流れる。

楽天にとっては「やりたいからやる」ちゃう。

「やらんかったら沈む」やった。

北尾さんが4年前に宣言した時点で、こうなることは決まってたんかもしれん。

先に「壊す」と宣言して、4年かけて準備して、実行する。

追随する側には準備期間がない。

これが「先手を打つ」のほんまの意味。

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「無料」の爆発力を数字で見る

ゼロ革命のインパクトは口座数と預かり資産にはっきり出てる。

・2024年7月:1,300万口座

・2025年3月:1,400万口座(5ヶ月で100万増)

・2025年11月:1,500万口座

預かり資産は1年で10兆円ずつ増えた。

40兆 → 50兆 → 60兆円

しかもゼロ革命後の1年で信用取引口座が45%増

これが金融収益860億円の源泉。

無料にしたら人が来る。

人が来たら預かり資産が増える。

預かり資産が増えたら金利と信託報酬が増える。

この好循環が回り始めたら、手数料なんかなくても利益は伸び続ける。

この「無料で集めて別で稼ぐ」構造、実は金融以外でもいくらでも見つかる。

マクドナルドのアプリクーポンがまさにそう。

アプリは無料。でもアプリ会員は非会員に比べて来店頻度が約2.5倍、デジタル注文の客単価は約20%高い

クーポンという「無料の入口」が、来店頻度とアップセルで回収される構造。

SBIの手数料ゼロもマクドナルドのクーポンも、やってることの本質は同じ。

「お客さんが一番気にするコスト」をゼロにして、別の場所で回収してる。

ただ、SBIのフリーミアムは普通のフリーミアムとは根本的に違うところがある。

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Spotifyとも、スマホゲームとも違う

「無料で集めて稼ぐ」と聞くとフリーミアムモデルを思い浮かべる。

でもSBI証券のやり方は、他のフリーミアムとまるで構造がちゃう。

Spotifyの有料会員比率は40%

7.13億人のうち2.81億人が月額課金してる。

「一部の人に有料プランを買ってもらう」モデル。

スマホゲームはもっと極端。

課金するのは全ユーザーの2〜5%。

しかも売上の50%を支えてるのは、たった0.19%の「廃課金者」。

SBI証券はどっちとも違う。

手数料をゼロにして1,500万口座を集めた上で、ほぼ全員から間接的に稼いでる。

信用取引の金利は借りた人全員が払う。

投資信託の信託報酬は保有してる人全員から自動で引かれる。

「5%に課金してもらう」んちゃう。

「全員を集めて、全員から薄く広く回収する」。

Slackも似た構造を持ってる。

無料プランで使い始めたチームが、過去のログを遡りたくなった瞬間に有料転換する。

チーム単位の有料転換率は30〜40%

過去の会話が「人質」になって、心理的に抜けられんくなる。

SBIも同じで、口座に預けた資産と取引履歴がロックインになる。

普通のフリーミアムは「無料の中から有料客を探す」。

SBI証券やSlackは「無料にすること自体が、全員をロックインする仕組み」。

この違い、でかい。

ただしSBIの戦略は、壊した側にも代償を残してる。

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手数料ゼロの「代償」

光だけ見てたらフェアちゃう。

この戦略がもたらした影のほうも見ておく。

まず地場証券の壊滅。

SBIと楽天がゼロ革命をやる前から、地場証券は苦しかった。

でもゼロ革命で状況が決定的になった。

・2007年度、地場証券の数:143社

・2023年度、地場証券の数:51社

・純営業収益:2,220億円 → 600億円(約7割減)

主要な顧客だった地域の富裕層が高齢化して、相続した世代がネット証券に口座を移す。

そこに手数料ゼロ化が重なった。

対個人の株式売買や投信販売では、もう地場証券に収益が落ちん。

廃業するか、金融商品仲介業者に業態転換するか。

選択肢がその2つしかない証券会社が増えてる。

北尾さん本人は東洋経済のインタビューで「証券会社は淘汰される」と言い切ってる。

ゼロ革命は「証券投資の大衆化」という大義を掲げてるけど、その裏側で92社の地場証券が消えた。

SBI証券自身にもリスクはある。

委託手数料は前期比18.9%減の299億円

金融収益と投信報酬が伸び続ける保証はない。

株式市場が冷え込めば、信用取引も預かり資産も減る。

1,500万口座を抱えるシステム投資とサポートコストも膨らみ続ける。

「無料で人を集めるほど儲かる」は、裏返せば「集めた人を支えるコストも増え続ける」ということ。

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まとめ:「無料で稼ぐ」は金融だけの話ちゃう

SBI証券がやったのは「値下げして耐える」ちゃう。

「値段をゼロにして、別の仕組みで回収する設計」やった。

で、この公式は金融に限った話ちゃう。SBI、コストコ、マクドナルド、Slack。業種はバラバラやけど、やってることの構造は全部同じ。明日からできることもまとめてみた。

1. 一番目立つコストをゼロにして、別の場所で回収する

・SBI証券: 手数料ゼロ → 金融収益860億円で回収

・コストコ: 商品を原価ギリギリで売る → 年会費48億ドルで回収(営業利益の約65%)

・マクドナルド: クーポン無料 → 来店頻度2.5倍・客単価20%UPで回収

・共通点は「お客さんが一番気にする接点」をゼロにしてる

明日からできること

自分のビジネスで「お客さんが一番値段を気にしてるもの」と「本当に利益が出てるもの」を分けてリストにしてみる

2. 「仕組み」が先、「ゼロ」は後

・北尾さんは宣言から4年かけて、手数料以外の収益源を育ててから実行した

・投信2,600本、外国株9カ国、信用取引基盤、システム増強

・Slackも同じで、過去ログという「ロックイン」があるから無料プランが成り立つ

明日からできること

値下げや無料化を考える前に、「その代わり何で回収するか」を1つ決める。回収の仕組みがないなら、まだ無料にするタイミングちゃう

3. 先に壊したほうが市場を取る

・楽天は準備期間なしで追随するしかなかった

・追随しなかったマネックスは別の道(資産管理型)に切り替えた

・Epic Gamesも毎週ゲームを無料配布して、後発ストアなのにユーザーの16〜18%を有料購入者に転換させた。先に「無料」を仕掛けた側がルールを作る

明日からできること

業界で「いずれ起きる変化」を1つ書き出して、「先にやったらどうなるか」をシミュレーションしてみる

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手数料ゼロで過去最高益。この一見ありえへん結果の裏には、「何を捨てて、何で回収するか」の明確な設計があった。無料は魔法ちゃう。設計やった。

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