8分間の“説明ゼリフ”が長すぎる!ようやく明かされた朝ドラヒロインの「生い立ち」〈風、薫る第25回〉

『風、薫る』第25回より 写真提供:NHK

今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて12年目の著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第25回(2026年5月1日放送)の「風、薫る」レビューです。(ライター 木俣 冬)

りんと直美が心の内を語り合う

 門限に遅れたりん(見上愛)と直美(上坂樹里)は松井(玄里)から罰として寮内すべての掃除をやらされる。

 日曜の夜に寮中の掃除とはなかなか厳しい。

 ため息をつくりんに、「あんなところから入るって言ったのりんさんでしょ」と直美はむくれる。

 急づくりでそれほど広くもない寮だと思うが、たったふたりでやるにはやっぱり広い。朝までかかってしまいそう。

 掃除をしながら、りんと直美は少しずつ本音を語り始める。

「正しいことが好きなのね」と直美はりんのクセに気づく。確かに何かと「間違えた」「間違えた」と間違いをただそうとする。

「私、昔から間違えてばっかりだから」「間違って人を傷つけないようにしたくて」と言ったうえで「やっぱり聞かないのは間違いだと思うんで聞きます」とりんは思いきって直美に質問する。

「首からお守り下げてますよね。それは秘密ですか? もし吉江さん(原田泰造)や教会の人に知られては困るのっぴきならない事情があるなら、微力ながら私、力に」と言い出す。

 ここでこんなことを聞くこと自体が間違ってないだろうか。

 でも、直美は割とすんなりと「これにそんなに深い意味はないから」と前置きしつつ「それはちょっと嘘(うそ)かもしれない」と本音を話しだす。

「私は教会で育ったけど、神様も心から信じられないの。親、家族、お金、学校、仕事、アメリカ、結婚、祈っても何1つ欲しいものは手に入らなかった。これはお守りじゃなくて、唯一親からもらったものだから。これだけ首にかかってたんだって、捨てられたときに。直美って文明開化の名前も、聖書にちなんで牧師様に適当につけられたんだから」

 おお、一気に直美の生い立ちや心情が説明された。かなり開陳している。さらに直美は語り続ける。

トメが大事そうに抱えていた木箱の中身は

「母はどうも女郎らしくて。あなたの言うとおり、髪と一緒に、自分のこといろいろ断ち切って、みなしごだって最初から打ち明けて、ここでうまくやっていくつもりだったけど。女郎の娘だとは言えなかった」

 そこまで言っちゃうんだ。そして「ブサイクだね」と認めてしまう。

「言わなくていいです。言わなくていいです、言いたくないことは。全部、正直に言うことが正しいとは思いません」

 正しいことをしたいりんだが、言いたくないことを言わないことまで、ただそうという気はない。

 ここまで8分。15分間の半分を費やしているが、とくにひねりはない。工夫があるとしたら、何かが空から降っていること。入学が12月だから冬なので小雪が降っているのだろう。寒いだろ、12月の深夜の外は。

 情緒的な表現をくわえながら、ただただ直美の情報だけが滔々(とうとう)と語られ、なんとなくりんと直美の距離が縮まる。ここでそうしないといけない事情はこのあと数分後にわかる。

 説明ゼリフコーナーが終わると、第24回から引っ張っている木箱の謎が明かされる。

 翌朝、トメ(原嶋凛)は青森の実家から送られてきた真っ赤なりんごをみんなに配る。いいニオイはりんごのニオイだったのだ。

 皮のままでも食べられると言われ、みんなまるかじりする。

「1日1個、りんごば食えば医者いらずだって、西洋では言われじゃんだ。りんごが日本ではやれば、看護婦はいらねぐなるかもしれねえ」

 トメの冗談にみんなは和む。木箱を見てにまにましていたトメを見たとき、ひとり占めしようとしているのかなと思ったがそうではなかった。ギスギスしている皆の空気をりんごを配ることで和らげたのだ。

 そこで直美はここぞとばかり「オブザーブ」の件を語りだす。

「実は昨日、ナイチンゲールの看護を学んだ看護婦の先輩の家をお訪ねして、オブザーブの英語の意味を聞いてきました。看護で使う場合のオブザーブは、『じーっとよく見る』という意味だそうです。相手の様子をこう、包み込むように見続けるような。その方はこうおっしゃっていました。『ナースは医者ではないから、治療はしない。病ではなく人を看るのだ』と」

 そこへりんが「私も聞いてきまして……」と続ける。

「あまりまだ辞書には載ってないんですが。オブザーブには『観察する』という訳語が当てられているそうです」

 ともすれば、直美の労力にりんが乗っかってきて水を差しているように感じることもありそうだが、皆、そこまで感じ悪いことを考える人達ではなく、素直に直美とりんの努力に感謝や感心する。

 これでいい。もうギスギスはおなかいっぱいなので、このまま7人は仲良くなってほしい。

「天の使い降臨!」

 こうして7人はその朝、松井に、全員の見解として、看護婦とは何かを発表する。

 東雲(中井友望)「看護婦にとって、最も基本となるのは、病人がいちいち言葉にせずとも、その顔つきや、ちょっとした態度の変化から、気分や体調を察する力を持つことです」

 直美「これこそが、オブザーブ、『観察する』です」

 すばらしい回答を導きだすことができた7人は満足。教室の外で校長(伊勢志摩)がのぞいている。

 こうして「看護とは何か」という日本語訳ができあがった。1冊訳したのか?最後の章だけまとめたのか?

 その晩、残ったりんごでアップルパイを焼こうと盛り上がる。そうすると少しでもみんなで分けられると直美が提案したのだ。

 ここでまた、料理がヘタな直美にはパイを焼くのは任せられないという話になったりして。食事のときは言い出せなかったが、率直に言い合える関係になったということだ。

 女子同士のマウント合戦が長引かなくてホッとした。

 だがここで注目したいのは、残り少なくなったりんごをみんなで分ける工夫を直美が提案することだ。アップルパイが7人が協力体制を結んだ象徴だ。でも結局作らなかったのだが。

 看護学校の食前の祈りがキリスト教式であることから考えると、「アップル」はキリスト教において禁断の果実ではある。7人がある種の禁断の道に踏み出したという暗喩だと考えるのは穿(うが)ちすぎか。

 女子同士のマウント合戦がドラマの骨子になる作品もあるが、『風、薫る』はそうではなく、7人があっという間にそれなりに仲良くなった。脚本家の語る女性同士の会話のリアリティはわかる。女性同士が連帯していくようになる過程のリアリティもこんな感じと考えていいだろうか。

 どんどんいろんなエピソードを見せないと飽きっぽいのが令和の視聴者とばかりに、話は進んでいく。玉田(生田絵梨花)は手紙を読んで眉間に皺(しわ)を寄せ、手紙をくしゃくしゃにする。何かがありそうだ。

 そしてやって来た待望の看護の先生もみんなが想像するすてきな雰囲気ではなかった。

「遠い日本まで、看護を教えに来てくださるぐらいだからきっと優しいお方なんでしょうね」「アップルパイ作ってくださるかもしれませんね」なんて話をしていたら、「しゃんとしなさい!」とものすごく低い声が寮に響く。

「天の使い降臨!」とナレーション(研ナオコ)。

 第6週を前に、またシューッと不穏な風の音がした。

フォトギャラリー

主なシーンより

第5週(4月27日〜5月1日)

「集いし者たち」あらすじ

トレインドナースになることを目指して看護婦養成所の1期生として集まったのは、りん(見上愛)、直美(上坂樹里)をはじめ、多江(生田絵梨花)、喜代(菊池亜希子)、ゆき(中井友望)、しのぶ(木越明)、トメ(原嶋凛)と、年齢も生い立ちも異なる個性豊かな面々。校長の梶原(伊勢志摩)と舎監の松井(玄理)のもと寮生活が始まるが、バーンズ先生(エマ・ハワード)の来日が遅れていて、看護の授業は始まらない。そのかわり、到着までの間に、ある課題が出される。

連続テレビ小説『風、薫る』

作品情報

連続テレビ小説「風、薫る」。主人公はそれぞれに生きづらさを抱えた2人の女性。当時まだ知られていなかった看護の世界に飛び込み、傷ついた人々を守るために奔走し、時に強き者と戦う——明治という激動の社会を舞台に、幸せを求め生きるちょっと型破りな2人のナースの冒険物語です。

【脚本】吉澤智子

【原案】田中ひかる「明治のナイチンゲール 大関和物語」

【音楽】野見祐ニ

【主題歌】Mrs. GREEN APPLE 「風と町」

【語り】研ナオコ

【出演】見上愛 上坂樹里 佐野晶哉 生田絵梨花 小林虎之介 早坂美海 藤原季節 三浦貴大 内田慈 菊池亜希子 丸山礼 根岸季衣 小林隆 高嶋政宏 片岡鶴太郎 多部未華子 原田泰造 水野美紀 坂東彌十郎 ほか

【放送】2026年3月30日(月)開始(全26週130回)