もしも生田絵梨花の“医者の娘”が主人公だったら…架空の朝ドラ『タエちゃん』妄想してみた〈風、薫る第30回〉

『風、薫る』第30回より 写真提供:NHK

今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて12年目の著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第30回(2026年5月8日放送)の「風、薫る」レビューです。(ライター 木俣 冬)

歓迎されない野菜たっぷりのスープ

 本日の見どころは7人のナース服。洋髪に清楚なナース服、ナースキャップに萌える。なんてことを書くとセクハラだろうか。かわいいなんてやわなものではなく、ナース服はナースの誇りの象徴のようなものだ。

 玉田多江(生田絵梨花)の物語がナースの誇りを物語っていた。

 父・玉田仙太郎(吉岡睦雄)や兄のように医者になりたかった多江だが、医者の道はあまりに遠く、せめて看護婦になろうとして、それも父に止められる。

 看護の知識は結婚相手の医者の助けになる程度でいい。明治時代の女性は結婚して夫を支えることが当たり前。そんな状況に絶望した多江はせっかく入った養成所を辞めると宣言した直後、心労がたたったのか、倒れた。

 言い方は悪いが、養成所に本物の患者が生まれた。りん(見上愛)たちは懸命に多江の看病をはじめる。

 トメ(原嶋凛)の提案で、病人には「栄養」が必要とばかりに、お野菜たっぷりのスープを作る。

 喜ばれるかと思いきや……。固形物は口に入れにくい。すりつぶしたポタージュのほうがのどごしがよさそうだ。

 看護には「換気」が大事。シーツを取り替えるときのように風を入れようと窓を開けるが、風がビューっと激しく入ってきて多江の反応は芳しくない。

 余計なお世話だがなぜ先生の部屋にはカーテンはないのか。カーテンはともかく、多江はなんだか寝苦しそうにもぞもぞするが、誰ひとりかゆいところに手が届かない。

 生徒たちは良かれと思って交互にがんばるのだが、思いと行動が噛み合わない。

 そこへバーンズ先生(エマ・ハワード)が持ってきたものは――。

もしも、多江が朝ドラヒロインだったら

 これが欲しかったとばかりに、多江はバーンズの差し出した水を飲み干した。喉が痛いから潤したかったわけだ。野菜ゴロゴロスープはそのあとだ。シーツもしわになっていて、背中に当たって違和感があった。換気はいいが、やり方が悪かった。

「看護婦とは何か」の課題を何ひとつ実践できなかった6人。これまでの授業が何ひとつ生かされてなかったのだ。

 それにしても、だ。6人そろって不勉強という展開はいかがなものか。ひとりくらいできる子がいてもいいのではと思うが、誰かひとり目立つのは避けたいという気遣いだろうか。できる子は多江で、父の患者の診断も適切にしていた。でも、父はまったく相手にしてくれない。

 多江の物語は、朝ドラの題材にもなり得そうだ。

 もしも、多江が朝ドラヒロインだったら。

 明治時代、まだ女性が職業に就くことも、まして医者になることも難しかった時代、女医を目指し、挫折して看護婦となるも、実家を街ではじめて看護婦のいる病院にした主人公の物語――朝ドラ『タエちゃん』。紆余曲折を経ながら、最終的には女医になる。モデルは、明治時代、日本初の女医となった荻野吟子でどうだろう。

 成績優秀ながら前例がないと医者になることを認められず、それでも諦めず、34歳で産婦人科医を開業、日本初の女医となったという人物だ。断っておくが、多江のモデルがこの人というわけではなく、医師の前に看護婦だった経歴もない。あくまで朝ドラで、日本初の女医を描くとしたら、という妄想である。

 荻野吟子は、今年(26年)2月、埼玉県熊谷市がNHK連続テレビ小説(朝ドラ)の誘致に乗り出したという記事が朝日新聞に掲載されていた。実現の可能性があるかもしれない。

 家族が医者で、医者になる物語はすでにある。『梅ちゃん先生』(2012年度前期)で、山本耕史と結婚して潔く引退した堀北真希が主人公の梅子をピュアに演じた。彼女はあえて「劣等生」の設定で、そんな劣等生が戦後の混乱期に医者になるために奮闘する。

 戦後、やがてなくなる女子医学専門学校で梅子は懸命に学ぶ。性別関係なく医大で学べるようにシステムが変化して、女子医学専門学校がなくなるのだ。この時期をドラマの舞台に選んだ理由は、女子医学専門学校がなくなる時期、劣等生の梅子の留年できないハラハラ感を演出するためである(大意)と脚本家の尾崎将也が、『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 梅ちゃん先生』で語っている。

ナースの制服に着替えた7人

 多江と父の確執はわりとあっさり終了する。父・仙太郎はさほど頑固者でもなく、多江に理解を示す。

 多江が見合いに来ないので、仙太郎が養成所の様子を見にくるシーンでよかったのは、仙太郎が病室でネガティブ発言をするとき「患者の気持ちを考えてください。療養中の患者の横でそんな話はやめてください」と多江が言うことだ。

 いつもドラマで気になるのが、患者の横であけすけに話をする場面があることだ。寝ていても聞こえていることはあるもので、聞こえそうな態度は慎む配慮が欲しいということなのだ。『風、薫る』は一貫して、話しにくいことはちょっと場所を変えようとしているところに、看護ドラマの本質を感じられる。

 仙太郎は、多江の看護に対する確たる考えに打たれたのと、患者の診立てが正しかったことで見直したらしい。就職先がなかったらうちで働けばいい。「同僚を叱りつけるようなきつい看護婦は、どこの病院も雇ってくれなさそうだな」とちょっと素直じゃない言い方をする。

 あまりにあっさりゆるしてしまうので、せめて言い方はまっすぐ感動台詞にはしたくなかったのだろう。素直じゃないのは、男性優位社会に生きる男性のちょっとした抵抗か。

 ちなみに多江は、看護を「医者なんかにやらせてあげられない仕事です」と言う。「医者なんかに」と言うことで、看護は決して医者と比べて低い地位ではないという思いが強調される。まあ単純に親子ともども意地っ張りなのだろう。

 父相手にたくさんしゃべった多江にりんが水を差し出す。ようやく気が利いた。

 そして、半年後。

「ここで教えることは、もうありません」とバーンズ先生。早!

「私からのプレゼントです」とバーンズ先生が用意したのは、白い襟と袖がついたナースのロングワンピース。

 ここで、バーンズ先生が実は日本語が話せたことが判明する。

「日本に来ると決めてから勉強しました。あなたたちを育てなければなりませんから」

 先生は徹底して仕事に忠実だった。日本語がわかるから「小姑みたい」というワードにもピクリとしていたのだろう(第26回)。「小姑」とか「天狗」とかいうワードまで理解するとはなかなかである。

 これで、バーンズ先生が帰ってしまうわけではなく、これから看護師としての実践がはじまる。

 第7週は制服姿で実践開始。予告では医療ドラマあるあるの院長先生の回診シーンのようなものがあった。

フォトギャラリー

主なシーンより

第6週(5月4日〜5月8日)

「天泣(てんきゅう)の教室」あらすじ

バーンズ(エマ・ハワード)がようやく来日し、看護の授業が本格的に始まる。直美(上坂樹里)と多江(生田絵梨花)が通訳しながら授業を進めるものの、内容は不可解なことばかり。りん(見上愛)が問いかけても、バーンズは答えを言わず、生徒たちの不満はたまる一方で……。

連続テレビ小説『風、薫る』

作品情報

連続テレビ小説「風、薫る」。主人公はそれぞれに生きづらさを抱えた2人の女性。当時まだ知られていなかった看護の世界に飛び込み、傷ついた人々を守るために奔走し、時に強き者と戦う——明治という激動の社会を舞台に、幸せを求め生きるちょっと型破りな2人のナースの冒険物語です。

【脚本】吉澤智子

【原案】田中ひかる「明治のナイチンゲール 大関和物語」

【音楽】野見祐ニ

【主題歌】Mrs. GREEN APPLE 「風と町」

【語り】研ナオコ

【出演】見上愛 上坂樹里 佐野晶哉 生田絵梨花 古川雄大 菊池亜希子 藤原季節 平埜生成 中井友望 坂口涼太郎 猫背椿 飯尾和樹 筒井道隆 多部未華子 原田泰造 水野美紀 片岡鶴太郎 坂東彌十郎 仲間由紀恵 ほか

【放送】2026年3月30日(月)開始(全26週130回)