児童文学ファンに薦めたい! 【アニメ化で大反響】とんがり帽子のアトリエ・話題の漫画家が明かす「神展開」の作り方 「絶望的」な状況を作り出す秘密
アニメ化で大注目、世界的に評価される『とんがり帽子のアトリエ』の著者・白浜鴎さんに、「神展開」を生み出す、創作の原点や舞台裏をインタビュー。

©白浜鴎/講談社
物語の圧倒的な密度と、緻密な世界観が支持を集め累計750万部超の『とんがり帽子のアトリエ』。
作者・白浜鴎(しらはまかもめ)さんのクリエイティビティは、一体どこから湧き出てくるのでしょうか。
今回の第2回では、原点となった児童文学の体験から、一風変わった「お話作りのプロセス」まで、そのインプットとアウトプットの秘密に迫ります。
【とんがり帽子のアトリエ】
累計発行部数750万部突破、アイズナー賞をはじめ数々の賞を受賞、世界各国で高く評価されているファンタジー作品。魔法への憧れを抱く少女・ココは、魔法使い・キーフリーと出会い、大きな秘密を知る。魔法使いたちが隠した「絶対の秘密」とは──。
ファンタジーの原点は「恐怖」かもしれない

▲白浜さんのアトリエの壁一面を埋め尽くす、蔵書の数々。世界的な名作から意匠を凝らした装幀本まで、ここにある膨大なインスピレーションが、豊かな発想を形づくる欠片となっている。
──『とんがり帽子のアトリエ』を読んでいると、子どものころに夢中で読んだ『はてしない物語』や『ナルニア国物語』のような、王道ファンタジーのワクワク感を思い出します。白浜さんにとって、特に影響の大きかった作品は何ですか?
白浜鴎さん(以下、白浜): いちばん好きなのは、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』ですね。特に、後半で主人公のバスチアン少年が、どんどん闇堕ちしていくストーリーが大好きなんです……。子どもの頃はあの展開が本当に怖くて(笑)。
「怖いからどうにか助かってほしい」という自分自身の入れ込み方がすごくて、今でも一番記憶に残っているのはそのときに感じた「怖い」という感情なんです。「なんで読者の私にわかることが、バスチアンにはわからないの!?」という、あどけない危うさにヤキモキしていました。
──その「ヤキモキ」は、今の作品にも繫がっているのでしょうか?
白浜:『とんがり帽子のアトリエ』では、そのヤキモキをもう少し世界に対して広げています。「この制度でうまくいくはずがないのに、どうしてみんなそれを守り続けているの?」というように、世の中の仕組みに意識をスライドさせて描いています。
今の現実社会で感じる矛盾や理不尽さ、疑問や葛藤と、ファンタジーの世界が地続きに感じられるかも……というのは、昔読んだ作品たちの影響が大きいのかもしれません。
背伸びして培った世界への好奇心
──他にも、多くの児童文学を通ってこられたそうですね。
白浜:当時は、映画の『ロード・オブ・ザ・リング』や『ナルニア国物語』でファンタジーが盛り上がっていた頃で、私も流行に漏れず海外の児童向けファンタジーを夢中で読んでいました。
異国のハードカバー小説を読んでいるのはちょっとかっこいいかも…! みたいな、子どもなりの背伸びもあったと思います。

白浜:他には『ローワンと魔法の地図』シリーズや『ダレン・シャン』など、学校の図書室で人気の児童文学は夢中になって読んでいました。
国内作品だと『クレヨン王国』シリーズも好きで、よく読み返しました。教訓めいたホラーっぽさが怖くて、時々眠れなくなったりしていました(笑)。
ファンタジー作品に明るく楽しいイメージを持たれる方も多いと思うのですが、私が惹かれていたのは寓話的で、少しシビアでダークな世界観のほう。小野不由美さんの『十二国記』なども当時学校で話題だったのを覚えています。
──大人になってから、改めてファンタジーの面白さをどう捉えていますか?
白浜:『ナルニア国物語』『指輪物語』などもそうですが、ファンタジー作品が書かれた時代背景を見ると、世界情勢が不安定な時期だったりするんです。
現実に起きている激動やしんどさを、別の世界に置き換えながら理解しようとしたり、考え直したり……。世界が不安定な時こそ、ファンタジーは求められるのかもしれないなと感じています。
私自身、もともと旅行が大好きで、家の近所ではない『外の世界』にすごく興味があるんです。本を読むことは、そのまま本の中で旅行をしているような感覚ですね。
──ものすごい量を読まれていたのですね。
白浜:平均的な読書量より少し多い程度だったと思います。その代わり、子ども時代はマンガをあまりたくさん読めていなくて。両親の本棚にあった手塚治虫先生や大友克洋先生、萩尾望都先生や山岸涼子先生のマンガを繰り返し何度も読んで育ちました。
バイトをはじめてからそれまでの反動でたくさん読むようになり、最近は『鋼の錬金術師』(荒川 弘) を一気に読んで「すごい!面白い!」と感動しました。
「絶望的」な状況をあえて作り出す
──15巻の「帷蛭時戻し作戦」での展開など、作中では読者も息を吞むような解決策が提示されます。あのような複雑な仕組みや「答え」はどうやって導き出しているのでしょうか。

▲15巻では、かつてない試練が世界を襲い、主人公ココたちが大きな活躍を見せる。〔画像:とんがり帽子のアトリエ(15)〕
白浜:実は、毎回自分が答えに困るような問題を起こすところから始めているんです。最初から答えを用意して問題を作ると、どうしてもご都合主義になってしまうので……。
だから、「私自身、これをどうしたらいいのかわからない!」という絶望的な状況を先に作ることにしています。 そこから必死になって考えると、お話が面白くなると思うんです。
──自分で爆弾をセットして、自分で解除するような……。
白浜:まさにそんな感じの作業です。そうすると、キャラクターの気持ちも乗るんです。本当に絶望的な状況を、締め切りまでになんとかしなきゃ!って。(笑)
──まるでゲームのような、スリリングな手法ですね。
白浜:最近、TRPG(テーブルトークRPG)がすごく好きなんです。今持っている情報やアイテムだけで、対応を考えて難局を乗り切る。ああいうゲームは、確実にお話作りに生きているなと思います。
もちろん計画的にお話を組み立てて描いてもいますが、時々「前の巻で出したあの魔法が使えるかも」「この理論はここで活かせるじゃん」と、手持ちのカードがパチッとハマった瞬間は、本当に気持ちがいいんです!
作家がヒーヒー言いながら苦労してひねり出したものの方が、読んでいる方にも臨場感が伝わって、面白がってもらえるんじゃないかなと思っています。作る側は大変ですけど(笑)。
生活のすべてがインプット! インテリアもこだわり抜く
──作中のキャラクターの衣装や建物、インテリアの描き込みまで素晴らしいですが、普段はどのようなインプットをされているのですか?
白浜:旅先で見てきた景色を写真に撮って参考にしたり、いくつかの国の風景を組み合わせたりしています。
でも、「インプットするぞ!」と意気込むというよりは、普通に生活している中でふと「これ、マンガに使えるかも」と気づくことが多いですね。散歩中だったり、買い物をしていたり。 私、インテリアが大好きで、ついつい物が増えちゃうんです。

──白浜さんの仕事場も、ふと目に入るものがみな、物語の小道具のように素敵なものばかりです。
白浜:ありがとうございます。好きで集めたものばかりですが、まとまりがないような気もしていて……たまに「違うかも!」と思ってそっと片づけるものもあります(笑)。植物も好きで、友人のマンガ家から譲り受けた鉢もあります。
今のマンションもリフォームしたのですけど、まだ理想の空間とは言えなくて……もっとやれるはず(笑)! と思って、今は一軒家を建てるのを目標にしています。好きを一つずつ集めていたら、こうなった、という感じですね。
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多くの児童文学からの影響とともに、実生活でのリアルな経験も織り交ぜられて生まれる白浜鴎さんの作品世界。
実際の仕事場も、ファンタジーの世界そのままのような、風変わりで特別感のあるアイテムで溢れていました。【第3回】では白浜さんの学生時代とともに、進路を考える際のヒントをいただきました。
取材・文/小川聖子
撮影/安田光優
白浜鴎(しらはまかもめ)PROFILE
東京藝術大学デザイン科を卒業後、フリーのイラストレーター、漫画家として活動。『マーベル・コミック』や『DCコミックス』、『スター・ウォーズ』等のアメリカンコミックスの表紙も手がけている。他作に『エニデヴィ』(全3巻/KADOKAWA)など。