なぜ外国人観光客は「日本の包丁」に熱狂するのか “潰さずに切れる”技術 包丁メーカーは過去最高の業績 自国に持ち帰りは大丈夫?

「海外向けに積極的な宣伝をしていないにもかかわらず、店で実際に日本の包丁の使いやすさを試し、感動してそのまま購入する外国人観光客も増えています」
そう話すのは、大阪と東京に店舗を構える包丁専門店「タワーナイブズ」のオーナー社長、ビヨン・ハイバーグさん。
日本刀にルーツを持つ鍛造技術を用いた、食材の味を生かす日本の「包丁」の人気が高まり、業界はいま活況を呈している。
東京商工リサーチによると、全国の調理用包丁メーカーのうち、5期連続で業績比較が可能な38社の最新決算(2024年9月〜2025年8月期)は、売上高167億3300万円(前期比2.5%増)、利益6億2300万円(同44.5%増)で、いずれも過去最高を記録した。
この調査を担当した同社情報本部・情報部の小林祐大さんは、こう話す。
「コロナ禍の巣ごもり需要や、ふるさと納税の返礼品として採用されることが、販売機会の拡大につながっています。それだけでなく、日本の包丁は欧米などでも人気が高く、近年は輸出に力を入れているメーカーも増えています。日本食そのものが世界的に人気があることもあり、レストランに限らず、家庭用としての需要も根強いのです」
■一本でほとんどの用途に
前出のタワーナイブズでも、コロナ禍以前から外国人観光客による包丁の購入は増えているという。ハイバーグさんはこう語る。
「一番売れているのは洋包丁です。両刃で、肉も魚も野菜も切れる万能タイプですね。中でも三徳包丁は人気で、家庭なら一本でほとんどの用途に対応できます」
包丁は大きく、和包丁と洋包丁に分けられる。和包丁は、素材の良さを生かす和食において、食材を潰さずに切ることが重視される。そのため、刃先は薄く鋭角で、片刃構造になっている。

一方、洋包丁は刃の両面に傾斜のある両刃構造で、切れ味に加え、一本でさまざまな食材に対応できる汎用性が重視されている。
多くの人が誤解しているが、現在、日本の家庭でも洋包丁が使われているように、日本のメーカーも和包丁だけを作っているわけではない。海外メーカーも同様で、日本の包丁というイメージが強い三徳包丁を製造している。
日本の包丁は海外製のものと何が異なるのか。
「日本の包丁は、炭素を多く含んだ鋼を使うことが多い。これは刀作りにも通じる技術で、ほかの刃物にも広く用いられてきました。ただ、鋼だけで作る本焼きの包丁は、落とすとガラスのように欠けてしまうことがあります」(ハイバーグさん)
鋭い切れ味を実現できる半面、使い方を誤ると、骨に当たった際などに刃が欠けることがある。一方、ヨーロッパの包丁に使われてきた鋼材は、炭素量が0.3〜0.5%程度と比較的硬くないため、多少ぶつけても欠けにくい。
■地下鉄やバスで検査
そのため、外国人観光客が初めて日本の包丁を使った際、戸惑うこともあるという。
「日本料理では骨をガンガン切ることはあまりありませんが、外国人の中には『包丁は強く叩いて使うもの』というイメージを持つ人も少なくありません。店で体験するときに、野菜を叩くように切る方には『あなたにはこの包丁は合わないですよ』とはっきり伝えます。一方で、正しい使い方を見せると、『こんなに楽に切れるの?』と驚かれます」(同)
ところで、気になるのは、海外からの観光客が日本で包丁を購入し、自国に持ち帰ることができるのか、という点だ。
「基本的には飛行機の預入荷物として持ち帰れますね。スーツケースにしっかり入れて預ければ、普通は問題ありません。ただし、国や時期によってルールが変わることがあります。例えば中国では、飛行機での輸送は問題なくても、空港を出た後に地下鉄やバスで検査があるんです。そのため、スーツケースに入っていても止められることがあります」(同)

国によっては、刃物を所持していること自体が違法とされる場合もある。中国以外でも、鉄道の利用時などに検査されるケースもあるという。
「スペインの高速鉄道のような特急列車で持ち込めないこともあります。また、フィリピンでは選挙期間中、包丁の持ち込みがかなり厳しくなります。飛行機でも持ち込みを禁止される場合があります。そのため、選挙シーズンが近づくと、フィリピンのお客様には注意を促しています」(同)
■きちんと良いものを
各国で愛される日本の包丁だが、人気の高まりによって注文量が生産能力を上回るメーカーもあり、需要に供給が追いついていないのが現状だ。ハイバーグさんも、この状況に甘んじてはいけないと話す。
「包丁を買おうと思っても品切れという状況は不健全ですし、品質がきちんと保たれているかという不安もあります。それに今後、商品への理解が十分でないまま観光客に広く販売されるようになれば、これまで築いてきた日本の包丁の評判が損なわれかねません。また、品質を維持するためには職人を増やしていかなければならない。だからこそ、若い職人たちには、きちんと良いものを作れるように育ってほしいと思っています」
日本の包丁の切れ味が、外国人観光客だけでなく、日本人の間でも再認識されれば、この業界はさらに盛り上がっていくはずだ。
(AERA編集部・古寺雄大)
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