開業10年「バスタ新宿」は今どうなっているのか? 高速バスの一大施設が果たしてきた功績
いま高速バスは、燃料高騰などを背景に飛行機の運賃上昇が続く中、低価格での長距離移動に欠かせない存在になっている。
【写真】開業10周年を迎えたバスタ新宿とその周辺で
大学生など若年層では、「ヤコバで推し活に行ってきた」など、ヤコバ(=夜行の高速バス)という言葉もさらっと使われるようになった。
こうした需要を受け止める拠点、バスタ新宿を久しぶりに覗いてみた。訪れたのは5月中旬の週末、午前9時半ごろ。

この日、富士山五合目行きの客の大半は外国人だった(筆者撮影)
バスの発着場がある4階の広い待合室の座席は、乗車を待つ客ですべて埋まり、壁際で立って待っている人も少なくない。見たところ3割程度が外国人観光客である。
9時45分発の「富士山五合目行き」のバスに乗り込む客を確認すると、富士山人気を反映してか、8割程度が外国人であった。
約10分おきの出発でも2時間半以上が満車
後述するが、河口湖・富士山方面へのバスの需要はきわめて高い。インフォメーションセンターの窓口には、「河口湖方面のバスが満席の場合は、JR中央線と私鉄の乗り継ぎをご利用ください」という貼り紙がしてあり、その下に「次に空席のあるバスは12時15分」と表示してあるほどだ。

河口湖方面は3号車まで出しても満席(筆者撮影)
この掲示を見たのが9時半過ぎだったので、10分おきくらいに発車する河口湖方面のバスは、以後2時間半以上がすべて満車ということになる。
なお、この窓口の脇には、バスタ新宿のスタンプが置かれているが、見ていると押印に訪れるのは外国人ばかり。しかも、多くが立派な御朱印帳を持っていて、それに押していた。

バスタ新宿のスタンプの印影(筆者作成)
日本では親子向けのスタンプラリーが人気だったり、昨年の大阪・関西万博でもスタンプラリーを楽しんだ人が多かったりと、日本人の“スタンプ集め”人気は健在だが、インバウンドの間でも楽しんでいる人が多そうに見受けられた。
さてバスタ新宿は、開業時から15バースの停車場に、118の運行事業者により最大1625便が発着するという日本一の規模であったが、その状況は基本的には今も変わっていない。
これまでの最大発着本数は、17年の大型連休中の5月6日で1720便。開業から23年12月末までの1日平均発着本数は1日1223便で、利用者はおよそ1日平均で2万1000人であった。

バスタ新宿から甲州街道越しの新宿駅南口(筆者撮影)
ただし、利用者が順調に伸びてきたわけではない。2020年に始まったコロナ禍は高速バスの利用も直撃したからだ。
開業2年目(17年4月4日~18年4月3日)の利用者が1076.9万人あったのが、コロナウイルスの蔓延が続いた20~21年の5年目には228万人へと急減、そして現在も最盛時には戻っていない。
また、運行事業者数も100社程度に減って、開業時には届いていない。コロナ禍で運休・休止した路線で復活していない便が少なくないからである。
人気の絶えない夜行バス(特に河口湖行き)
それでも、特に遠距離の夜行バスの需要は高く、出発のピークは22~23時台で、逆に到着便は午前6時台にピークを迎える。下表は5月のある平日の22時台の出発便をまとめたものである。

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これを見ると、わずか1時間の間に50本ものバスが出発していることがわかる。しかも、羽田空港、木更津といった近距離の行き先以外は、ほぼすべて夜中じゅう走行する“ヤコバ”である。最も多い行き先は京都、大阪などの関西方面だ。
ちなみに、令和4年度の方面別の利用者数(昼行便も含む)のトップ5は、以下のようになっている。

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バスでないと不便なところが多いかと思いきや、大阪、名古屋、仙台までは新幹線で行けば2時間前後だし、羽田空港も複数の鉄道のルートがある。河口湖だって、先述のようにJR中央線と富士山麓電気鉄道(富士急行線)を乗り継げば到着できる場所だ。
やはり、低廉な価格と乗り換えのない利便性が、需要を満たしていると思われる。この順位は年度によって多少の変動はあるが、河口湖は毎年ほぼ不動のトップだ。
データ上だけでなく、実際にバスタを訪れてみても、河口湖方面の混雑が“ホンモノ”であることを実感できる。
「新宿~河口湖」間は、特急(JR特急+富士急行線)を利用すると2~2時間半、大人1人4000円前後(片道)だが、高速バスだと1時間45分前後で2200円あまり。
時間でも鉄道に負けていないし、特急利用の鉄道に比べると費用も半額近い。河口湖は富士五湖の玄関でもあるし、富士登山の富士吉田ルートの入口にもあたる。
なお、バスタ新宿の3階には、東京観光情報センターという観光案内所があり、データ上では利用者の半分弱、45%が外国人の利用となっているが、訪問した日に着物の“制服”を着たスタッフは、「今は外国人の方が多い感じです」と話してくださった。
わかりづらかったバス停を「可視化」した功績
さて、10周年を迎えたバスタ新宿について、筆者はこの施設が果たした最大の功績は、高速バスを「可視化した」ことだと考えている。
それまでは新宿駅周辺に乗り場が分散しており、利用する人以外、そこが高速バス乗り場だということは非常に認識しづらかったものだ。
それが、利用者の多いJR新宿駅南口を出た正面に「バスタ新宿」と大きく書かれた建物が目に入るようになったし、新宿駅とバスタ新宿の間を通る甲州街道に目をやれば、バスタに出入りする高速バスが連なっているのが目に入るようにもなった。

バスの様子が見える化されたことでインバウンドにもわかりやすくなった(筆者撮影)
さらに、夏休みや年末年始などの休暇時に、テレビ局が帰省客やレジャー客にインタビューをする場所としてもたびたび登場する。メディアの側から見れば、そこへ行けば確実に移動で混み合っている様子や、「これから家族でふるさとの秋田へ帰ります」といったおあつらえ向きのインタビューが取れるからであろう。
なお、バスタ新宿開業のあと、東京駅にバスタ東京八重洲が開業し、今年になって八重洲第二期のターミナルも増設されたが、乗り場が地下でなおかつ東京駅と直結とは言えない微妙な距離にあり、こちらは利用者以外の目には留まりにくい。
ここまでバスタ新宿について記してきたが、こうした高速バスを支えているのが高速道路である。
東名阪を結ぶ最も混雑する大動脈、東名高速と名神高速に、新東名、新名神というバイパスができたほか、全国でも高速道路の整備が進む。東京湾アクアラインが、房総半島への利便性を劇的に変えたことは、誰もが認めるところだろう。
一方で、線路や踏切、変電所、駅舎といった走行に必要なインフラを自前で設置、整備しなくてはならない鉄道は、大都会の通勤路線と新幹線網以外は経営的にかなり苦しい状況になっている。近年は廃線のニュースも珍しくなくなってきた。
わが国は台風、豪雨、地震といった自然災害も多いが、鉄道の場合、その被害からの復旧は原則として鉄道会社自身が担わなければならない。
一方で、仮に高速道路を含む道路が不通になっても、バスの運行会社はその復興を直接担うことはない。国やNEXCOなどの道路管理者がやってくれるからだ。
「道路栄えて廃線ばかり」とならないように
全国、津々浦々に便利な高速バス網が広がることは、富裕層でなくても気楽に移動が保証されるという点ですばらしいし、それにバスタ新宿も大いに貢献しているが、「道路栄えて廃線ばかり」「バスの陰で鉄路消え」となってしまっていいのかということは、私たち一人ひとりが考えるべき問題でもある。そんな複雑な思いを胸に抱きながら、バスタを後にした。