ハイウェイラジオ「42年の歴史に幕」なぜ今“一斉放送”は役割を変えるのか? 自動運転時代へ進む「つながる道路」とは

ハイウェイラジオの廃止と移行

 高速道路を走る際、ふとラジオのスイッチを入れて交通情報を確かめる。そんなドライバーの日常に長く寄り添ってきたハイウェイラジオが、ひとつの節目を迎えようとしている。

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 1983(昭和58)年12月、東名高速道路の多摩川橋付近とおよそ2kmにわたる港北パーキングエリア付近の2地点で産声を上げたこのサービスは、当初、7時から19時までの時間限定で運用が始まった。それがいつしか全国の路線へと広がり、道の状況を知るための欠かせない公的な手段として親しまれてきた。

 ところが、インターネットの広がりや技術の進歩を受け、NEXCO東日本は2026年4月、由木文彦社長の会見を通じてハイウェイラジオを順次廃止し、新しい音声アプリ「ドラコ(Doraco)」へ役割を引き継ぐ方針を明らかにした。

 こうした動きの裏には、設備の老朽化や維持管理のコストを抑えるといった経営側の事情だけでなく、社会全体の変化も深く関わっている。スマートフォンが普及したことでラジオを聞く習慣そのものが減り、さらには将来の自動運転を見据えて、情報の届け方をより高めていく段階に入った。すべての車に同じ内容を流すこれまでのやり方は、いま走っている場所や進む方向に合わせて、最適な中身を個別に手渡す仕組みへと広がりを見せている。

 42年続いたハイウェイラジオの幕引きは、高速道路の情報インフラがより進んだ形へと移り変わる道筋を、鮮明に描き出している。

固定設備からモバイルへの転換

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放送継続に不可欠な路傍の設置物(画像:写真AC)

 今回の幕引きが伝えているのは、40年近く続いてきた情報のやり取りが途絶えるということではない。むしろ、その中身が大きく進化を遂げる点にこそ本質がある。放送が終わった後には「ドラコ」という名の新しい音声アプリへ、その役割が引き継がれる。これまでのように道路脇の設備に頼り切るのではなく、個々の手元にあるスマートフォンを使い、走る場所を問わず機能するサービスへと、いよいよ重きが移ってきた。

 従来のようなサービスを維持するには、電波を飛ばす「空中線」と呼ばれる特殊なケーブルを、中央分離帯や路肩に沿っておよそ3kmにわたって敷き詰めなければならなかった。放送の始まりと終わりを知らせる看板もそうだが、こうした設備は常に厳しい外気にさらされており、古くなれば取り替える手間がどうしても欠かせない。

 特に、中央分離帯に張られたケーブルは定期的な張り替えを要し、その維持管理は現場にとって大きな負担となっていた。道路網全体が古くなり、手入れの重みが増すなかで、限られた機能しか持たない固定の設備を使い続けることは、運営の効率を見直す上でも、新しいやり方に道を譲る時期に来たのだろう。

 同時に、ドライバーの情報集めも大きく変わった。走る前にウェブで規制を確かめ、走行中はアプリで状況を掴む流れが、いつのまにか当たり前になっている。守るべき設備に費やす力が膨らむ一方で、利用者の求めるものが通信サービスへと移っている現状は、技術が進んだことによるひとつの帰結といえる。物理的な縛りがある放送設備から、クラウドとつながる柔軟な仕組みへの移行。それは道路の運営をこの先も長く続けていくための、必然的な広がりである。

個別最適化する情報配信の形

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AIによるデータ収集と最適化(画像:写真AC)

 情報の伝え方が変わる。それは単なる手段の変更ではなく、交通の動かし方そのものを根本から変えていく可能性をはらんでいる。「ドライブ」と「コネクト」を掛け合わせた新アプリ「ドラコ」は、全地球測位システム(GPS)による位置情報を生かし、ひとりひとりに必要な中身を選び取って届ける。これまではすべての車に同じ情報を一斉に流すしかなかった。しかし、これからは進む先で起きている渋滞や天候の崩れといった出来事を、それをまさに必要としているドライバーだけに、直接知らせる仕組みが整いつつある。

 これまでの放送が特定の地点を通る際にしか得られなかったのに対し、新しい仕組みでは突発的な事象の手前で注意を促す「安全支援情報」や、出発前に確認できる「お出かけ前情報」など、状況に合わせたきめ細かな案内を可能にしている。さらに、声での操作や多言語への対応も進み、世界中の人々が道を往来する今の社会にふさわしい形へと広がってきた。求めるものを、その瞬間の状況に合わせて手渡す。こうした流れは、これからの高速道路におけるやり取りの、当たり前の姿になっていくだろう。

 デジタル化の波は、高速道路の運営を次のステージへと押し進めている。NEXCO東日本が取り組む「moVisionプロジェクト」は、その先頭を走るものだ。2026年度には東北自動車道の鹿沼インターチェンジ(IC)から宇都宮ICの間で、実際の道を舞台にした実験が行われる。仮想の世界でさまざまな予測を行い、導き出された最善の策を現実の運用に生かす仕組み。道そのものが膨大なデータを生み出し、交通の管理を支える。そんな情報インフラへの変貌が、いま着実に進んでいる。

デジタル依存と公共性の担保

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複雑に交差する次世代通信システム(画像:写真AC)

 デジタルの力で世のなかが便利になる一方で、特定の通信網に頼りすぎる危うさも見え始めている。暮らしのあらゆる場面でスマートフォンへの集約が進むなか、端末の紛失や通信トラブルが起きたとき、道路交通の情報伝達をどう担保すべきか。特に大きな災害で通信が広範囲に途絶えてしまったとき、手元の端末だけに頼る仕組みでは、大切な情報をやり取りできなくなる恐れがある。

 さらに、高齢ドライバーが増え続けるなかで、多機能な道具への切り替えがすべての人にプラスに働くのかという点も考えておく必要があるだろう。これまでのハイウェイラジオは、周波数を合わせるという簡潔な動作だけで、誰もが交通情報を手にすることができた。公的な土台が個人の持ち物へと移っていくことは、サービスの質を磨き上げる反面、情報が届くかどうかを利用者の

・通信環境

・習熟度

に委ねる変化でもある。どんな事態になっても情報を漏らさず届けるための予備の備えをどう守っていくかは、今後の運用において無視できない重みを持つだろう。

 交通情報をめぐる産業のありようも、根底から入れ替わる時期に来ている。2000年代以降、スマホやナビ、GPS、クラウド、さらには各所に配されたセンサーやETC2.0といった要素が、車と道路を動かす仕組みのなかに深く入り込んできた。

 こうした技術が広まったことで、道沿いに大がかりな放送設備を構えておく必要性は薄れてきた。不特定多数に向けて一斉に流す放送形式から、ひとりひとりの求めに応じて中身を届ける配信形式へ――この流れは、映像や音楽の世界で起きた変化と同じ道を辿っている。

 今後は、自ら走る判断を下す自動運転車の普及も見据えることになるだろう。車が瞬時に状況を読み取るための高精度なデータ供給が、これまで以上に大きな役割を担うことになりそうだ。

情報インフラの将来と新たな課題

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効率化と公共性の両立という課題(画像:写真AC)

 ハイウェイラジオの幕引きは、社会環境や利用実績を考えれば筋の通った判断といえる。だが、この進化の過程には、便利さを手にする一方で向き合うべき課題も残されている。

・効率を追い求めること

・公共のサービスとして誰もが等しく情報を得られる公平性

をどう両立させるか。これからの運用において、この点は避けては通れない。

 クラウドを土台にした配信へと移り変わるなかで、災害などの不測の事態に備えた支えを厚くしておくことも欠かせない。情報のあり方がより細かくなり、量も増え続けていくなか、それを受け止めるための強いネットワークを整えていく必要がある。交通情報の受け取り方は、個人端末を生かす形へと収束していく。

 自動運転の広がりなど移動の姿が形を変えていくなかで、使う側と管理する側がこれまで以上に通じ合うことが、将来の道を支える大切な土台となるだろう。