1日1杯未満の飲酒でも複数のがんリスク上昇につながるという研究結果
「少しお酒を飲む程度なら大きな問題はない」と考えている人は多いかもしれません。しかし、ワシントン大学の研究チームが飲酒とがん・心血管疾患・2型糖尿病・認知症などの関係を調べたところ、少量の飲酒でも複数のがんリスク上昇につながることが示されました。
Health effects associated with alcohol consumption: a Burden of Proof study | Nature Health
https://www.nature.com/articles/s44360-026-00139-5
One Drink of Alcohol a Day Raises Your Risk of 10 Cancers, Study Warns : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/one-drink-of-alcohol-a-day-raises-your-risk-of-10-cancers-study-warns

これまでに行われてきた研究では少量の飲酒でも一部のがんや肝疾患のリスク上昇につながることが示されており、低~中等量の飲酒が心血管疾患・2型糖尿病・認知症のリスク低下につながるという報告もありました。こうした飲酒と疾患との関係を整理するため、ワシントン大学のシャオチェン・ダイ氏、エマニュエラ・ガキドゥ氏らの研究チームは1961年から2023年までに発表された843件のコホート研究・症例対照研究を再評価しました。
研究チームが分析対象としたのは乳がん・大腸がん・食道がん・喉頭がん・口唇および口腔がん・咽頭がん・肝臓がん・胃がん・膵臓がん・前立腺がんという10種類のがんで、がん以外にも心血管疾患・2型糖尿病・認知症・肝疾患・感染症などが対象に含まれています。
飲酒と各疾患の関連の強さを比較するため研究チームは「Burden of Proof」という枠組みを用いて分析を行いました。これは研究間のばらつきやバイアスを考慮し、証拠の強さを0~5個の星で評価する方法です。なお、研究チームは飲酒量を「1日あたりの純アルコール量」で扱い、純アルコール10gを「1杯」相当としています。
分析の結果、飲酒量は調査対象としたがんすべてのリスク上昇につながっており、膵炎・肝硬変などの慢性肝疾患・下気道感染症・結核・心房細動・心房粗動のリスク上昇にもつながっていることが分かりました。また、1日あたり純アルコール10g未満の低用量飲酒でも、胃がんを除く9種類のがんリスク上昇につながっていたとのことです。
特に飲酒との強い関連が見られたのが咽頭がんです。飲酒しない場合と比べた咽頭がんの相対リスクは1日10gの飲酒で1.16倍、20gで1.56倍、40gで2.73倍、76gで4.24倍と推定され、研究チームは咽頭がんについて5つ星の強い関連があると評価しています。
以下のグラフは咽頭がんについて、飲酒量と相対リスク(RR)の関係を示したものです。横軸は1日あたりの純アルコール量で0に近いほど飲酒量が少なく、10gが研究チームのいう「1杯」に当たります。縦軸のRRは飲酒しない場合を1とした相対リスクで、1を上回るほどリスクが高いことを意味します。点は個々の研究データ、曲線は複数の研究をまとめた推定値を示しており、飲酒量が増えるにつれて曲線が上がっていることが分かります。

食道がんについても、横軸の飲酒量が増えるにつれて縦軸の相対リスクが高くなる傾向が示されています。点にはばらつきがあるものの、複数の研究をまとめた曲線は全体として右上がりになっています。

また、喉頭がん・大腸がん・口唇および口腔がんは3つ星、食道がん・乳がん・肝臓がん・膵臓がん・前立腺がんは2つ星に分類されました。がん以外では肝硬変などの慢性肝疾患・膵炎が3つ星、心房細動・心房粗動・下気道感染症などが2つ星でした。
一方で研究チームは、2型糖尿病・アルツハイマー病などの認知症・虚血性心疾患・虚血性脳卒中・出血性脳卒中について、低~中等量の飲酒でリスクが下がり、飲酒量が増えるとリスクが上がるJ字型またはU字型の関係が見られたと報告しています。以下のグラフは虚血性心疾患について飲酒量と相対リスクの関係を示したものです。低~中等量の飲酒ではリスクが低下する一方で、飲酒量が増えるとその関係が弱まり、さらに飲酒量が増えると反転する形になっているのが分かります。

ガキドゥ氏はサイエンス系メディアのScienceAlertに対し「アルコールと健康をめぐる科学は本当に複雑」だと述べ、過去研究で使われた飲酒量は自己申告に基づいており、食事や喫煙習慣など病気のリスクに影響する他の要因をどの程度考慮しているかも研究ごとに異なるため、今回の分析を飲酒の推奨ではなく「どこで証拠が強く、どこで弱く、どこで混在しているのかを示す複雑な地図」として受け取るべきだと説明しています。