6時間睡眠を5日間続けると、認知機能は“泥酔状態”まで低下 仕事を休めない日本人の「睡眠負債」がもたらす損失

起床後16時間で“免許取消レベル”まで認知機能が低下, 6時間睡眠を5日間続けると“泥酔状態”に, トップパフォーマンスで活動できるのは「起床後10時間程度」, 「休むよりまし」と思い、不調のまま出勤する日本人, 「ちゃんと寝る人」が評価される社会が理想

6時間睡眠を5日間続けると、認知機能は“泥酔状態”まで低下 仕事を休めない日本人の「睡眠負債」がもたらす損失

「感情×睡眠マネジメント」をテーマにしたイベントに、EQ(感情マネジメント)の専門家である池照佳代氏と睡眠医学のプロである石田陽子氏が登壇。科学的な知見と実践的なアプローチをもとに、感情と睡眠をマネジメントし、パフォーマンスを向上させるためのヒントを探ります。本記事では、睡眠不足が認知機能に及ぼす影響について解説しました。

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起床後16時間で“免許取消レベル”まで認知機能が低下

池照佳代氏(以下、池照):質問をたくさんいただいているんですが、この時点でというよりも、もしかするともう少しお話しいただいてからご質問に答えていただいたほうがいいかなと思います。なので先生、お話を進めていただいてもいいですか?

石田陽子氏(以下、石田):はい、わかりました。では、その2に入ります。ストレスと、もう1つ私たちの感情マネジメントに非常に関係がある中枢神経、認知機能のところにいきたいと思います。睡眠は自律神経のバランスを正常化するだけじゃなくて、脳や脊髄といった中枢神経を整えて、認知機能によって生産性を高めます。

この認知機能は睡眠で最高の状態にクリアされて、覚醒している間に減衰し、やがて枯渇するというリズムを持っています。認知機能が枯渇すると、復活のために睡眠を求める。これを科学的には「恒常性のリバウンド」と言い、眠気の正体の1つです。

こちらの図は、アルコール血中濃度と身体機能の関係を示したものです。身体機能、集中力は下がっていくんですが、気分という点ではアルコールを飲むと最初はリラックスしてご機嫌になることがわかっています。飲みすぎるとそうでもなくなって最後は死んでしまうんですけれども、運転などをしない限りは、リラックスのためにはほろ酔いもいいでしょう。

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次に、アルコール血中濃度と認知機能の関係を「精神運動覚醒検査(PVT)」というもので示した図がこちらです。PVTは、睡眠業界ではパフォーマンスや他覚的な覚醒レベルの尺度として用いられるんです。

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(アルコールを摂取すると)気分で言うと1回ちょっと上がったんですけれども、認知機能だけで言うと、本当に滑り落ちるように真っすぐに認知機能が下がっていくんですね。認知機能が下がると、運転技能が低下するという影響が出ることがわかっています。これは科学的な絶対事実で、道路交通法では、飲酒運転が厳しく禁じられています。

ちなみに0.03パーセントが免許停止基準、0.05パーセントが免許取消基準のアルコール血中濃度です。左右の図を見ていただくとそっくり同じですね。左の縦軸は同じです。

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見れば見るほどそっくりなんですが、先ほどのように左の図はアルコールを飲めば飲むほど認知機能が下がりますよという図で、右の図は起床してから起き続けている時間、連続覚醒時間が増えれば増えるほど、どんどん判断力を失っていきますよという図です。

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免許取消基準の0.03パーセントぐらいまで認知機能が低下するのは、起床後16時間。6時に起きたとしたら22時ですね。運転していれば免許停止なんです。……だから、22時に運転するのは危険なんですよ。でも、22時に家でくつろいでいるとしたらリラックスの時間なので、ちょうどいいですよね。

6時間睡眠を5日間続けると“泥酔状態”に

石田:さっきハイパフォーマーの1日の図で示したとおり、自律神経が副交感神経優位になるのもだいたい22時ぐらいなので、自律神経にとっても認知機能にとっても、22時がとてもリラックスにいいところなんですね。

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ここからすぐに睡眠して、明日も6時に起きれば認知機能もストレスも復活して、翌日も朝からフルパフォーマンスで働けます。また翌日も起床から12時間以内のパフォーマンスが保たれている間に働いて、パフォーマンスが下がってきたら眠るという生活をすればいいんですね。

ところが眠るのにちょうどいい22時を過ぎて、例えば20時間後の2時まで起きているとどうなるかというと、覚醒状態がちょうど免許取消レベルと同じくらいになるんですね。

認知機能が低下しているだけではなくて、自律神経にとっても矛盾しているので、動脈硬化や自律神経失調の原因になります。夜更かしして残業するのがいかに馬鹿馬鹿しいかということがわかると思います。

1日の連続覚醒時間と累積の睡眠負債でも、同じ程度にパフォーマンスが低下することがわかっています。ちょっと表が見にくいんですが、こちらはパフォーマンスの逆数になりましたので、上に上るほどパフォーマンスが下がっていくという図ですね。

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これが20時間、つまり20日間で1時間ずつ睡眠負債を溜めても、負債のない状態から起きて20時間経っても、同じように泥酔状態になるということがわかっています。

例えば毎日4時間、毎日6時間、毎日8時間眠っていると、じわじわとパフォーマンスが下がっていくわけですね。平日6時間睡眠を5日間という方は多いと思うんですが、6日目の朝には起きた瞬間から免許取消レベルの認知機能しかないんですね。8時間のところも見ていただきたいんですが、8時間(睡眠)でもじわじわパフォーマンスは下がっていくんです。

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この研究では(パフォーマンスが)下がらない睡眠時間は8時間16分ということが計算で出ましたので、8時間睡眠を続けている方も土日は9時間寝て負債を返済していただくと、免許を取り消されないレベルで仕事ができるということですね。

トップパフォーマンスで活動できるのは「起床後10時間程度」

石田:もっと恐ろしいのがこちらの図です。横軸が同じで、四角とかダイヤのプロットは同じ人たちなんですけれども、眠気の自覚なんですね。

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4時間、6時間(睡眠)だと覚醒度やパフォーマンスはどんどん下がっていって、4時間と6時間でギャップがある。ただ、4時間、6時間(睡眠)の人たちを見ていると、2、3日経つと4時間と6時間の差もなくなるし、日を追うごとに差がなくなってくるんですね。

よく考えるとわかりやすくて、目覚めた時からもう寝ぼけているので、自分の眠気がよくわからないんですね。自分の眠気もよくわからない状態の認知機能で仕事をしているわけですから、この状態ではとても感情マネジメントまでは難しいかなと思います。

人間がトップパフォーマンスで活動できる時間は起床後10時間程度です。一般的な就業時間は、休憩1時間を挟んで8時間程度。通勤に1時間かかるとすると、トップパフォーマンスで残業することは不可能なのはもう明らかです。

パフォーマンスを高めたいなら、ともかく睡眠負債がある人は返済すること。できるだけ睡眠負債をしないこと。どうしても負債してしまったら、一刻も早く返済することが大事です。もうこれはお金と同じですね。借りないのが一番、借りたらすぐ返す。借りる前にきちんとマネジメントして、借りないで済む生活をすることが大事です。

「休むよりまし」と思い、不調のまま出勤する日本人

石田:こちらは日本の主要なプレゼンティーイズム原因です。「プレゼンティーイズム」というのは健康経営用語で、通常どおりに出勤しているのに、気分や体調など健康上の理由で生じる損失のことです。具合が悪ければいつものように仕事がはかどらないので、損失が出るというのはわかると思います。

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とはいえ具合が悪いからといって、特に日本人は仕事を休んで医療機関を受診することになる場合はほとんどないんですね。ちょっとした不調なら出勤してしまうのがほとんどですし、有休は元気な時に取っておきたいといって、具合が悪い時はできるだけ出勤するんです(笑)。

この原因の第1位、第2位の「肩こり」とか「睡眠不足」で会社を休んで病院に行こうという方はまずいないんですね。これは全労働者のプレゼンティーイズムを平均した額なんですけれども、そのようなちょっとした不調によって1人あたり1ヶ月に5万円、6万円という損失が発生しています。ということは、20万円、30万円の人もいるし0円の人もいます。

(プレゼンティーイズム原因の)第2位の睡眠不足で言うと、例えば1時間の遅刻はアブセンティーイズムという(勤怠に穴のあく)損失にはなりますが、睡眠負債が1時間ある場合は睡眠負債があるまま8時間働くよりも、7時間働いたほうが損失の総額は小さくなります。

みなさんは休むよりましだと思って出勤しているんですが、ほとんどの不調の場合は、療養して復活してから出勤したほうが損失は少ないです。もちろん睡眠負債のない状態で8時間働けば損失はゼロなので、それが最高です。

睡眠不足でプレゼンティーイズムが発生することに納得がいかない方はいないとは思います。先ほどお見せしたスライドのように、「俺だって眠い時は働かないよ」って言うかもしれないんですが、先ほどお見せした睡眠負債と眠気のスライドのように、眠気はあんまり当てにならないんですね。パフォーマンスは自覚的な眠気ではなくて睡眠不足の度合いに相関します。

このプレゼンティーイズムの14項目の金額は、すべて睡眠不足の度合いと相関することもわかっています。睡眠負債による日本の経済損失は18兆円以上と試算されています。睡眠負債は努力や気合いでは解決できません。負債を返済するしかありません。

感情マネジメントにこそ認知機能が必要です。睡眠負債がある限り、優れた感情マネジメントを発揮することはできません。感情マネジメントの細かいテクニックを身につける以前に、睡眠負債を返済しておきましょう。

「ちゃんと寝る人」が評価される社会が理想

石田:池照さん、認知機能の枯渇について、何かご意見やご質問等ありますか?

池照:いやぁ、かなり負債を負っていたなって思いますね(笑)。

石田:(笑)。

池照:私自身も、まだあまり残業にうるさく言われない時代に20代、30代を過ごしていたので、本当にここで言うのもお恥ずかしいはばかられることですが、残業時間の多さをちょっと武勇伝風に語るというか。「いやぁ、今月は100時間いっちゃったよ」みたいなことを平気で言っていましたね。

石田:言っていましたね(笑)。

池照:周りにもそういう方々がたくさんいらっしゃいましたし、はっきり言うと、パフォーマンスがどうやって影響しているのかまで考えていなかったと思います。

働き方が本当にどんどん変わってきて、いろんな法整備も行われてきた時に、「あれっ? あの時にやっていた残業時間って、今考えたら非常に自分の時給を低くしていたな」ということにやっと気づいた。

石田:そうなんですよね。

池照:気づいた時には時すでに遅し、変な武勇伝だけがあるという感じですよね(笑)。そう思いました。

石田:私もこの後、自分の恥ずかしい過去をみなさんにお見せします(笑)。

池照:ありがとうございます。多くの方が私と同じように……と言ったら本当に大変失礼なんですが、がんばっちゃっていたと思うんですよ。がんばることでなんとかその場を取り繕うというか、なんとかその場を生き延びていたので、身体のメカニズムを考えない「がんばり」が、実は「最高の成果」を逃す要因になっていたことに今気づきました。

石田:誰も教えてくれなかったですしね。ただ、今はもうこういう時代になってしまって、状況的にも変わっているので、あの時にあれができたのはほかにもいっぱい要因があったと思うんですよね。

池照:はい。

石田:ただそこだけが変わったわけではなく、今は社会全体が変わっているので、これからはちゃんと寝る人が評価されるというのがトレンドになってくるといいなと思いますし、実際そうなってきつつあるんじゃないかな? 自分の時給を高める人がきちんと評価される時代になってくればいいと思います。

さっきも言ったように、ここに上司の方とか経営者の方がいらっしゃるようでしたら、そういう方をしっかり評価していく世界にしていただきたいと思います。