吉野家「ラーメン屋も本気」目標ブチ上げの"勝算"

ラーメン提供食数世界一を目指す, 吉野家はなぜ、ラーメンに行くのか, 多角化する牛丼チェーン, とはいえ、フラつきが隠せなかった吉野家, きっと吉野家ならやってくれるだろう!

ラーメン事業への注力を進める吉野家HD。大きな目標を掲げていますが、実現すれば凄いことになりそうです(筆者撮影)

もし本当に実現できたら、「吉野家? あのラーメンの会社の?」と言われる時代が来るかもしれない……。

【画像5枚】全然知られてない? 吉野家の新業態カレー店はこんな感じ

急に何を言い出すのかと思う人もいるだろう。先日、「吉野家」を運営する吉野家ホールディングスが、ラーメン事業の拡大を宣言したのだ。なんでも同社によると、ラーメン事業の売上高を今後5年で5倍に引き上げるという。

「牛丼の吉野家がラーメン? 本業の牛丼にもっと力を入れてよ!」「牛丼屋がラーメン事業なんて上手くいくわけがない」と思う人もいるかもしれない。

けれど、私はこの発表を見て、好感を持った。それはなぜか。ラーメンに対する吉野家の本気(マジ)について考えたい。

ラーメン提供食数世界一を目指す

「ラーメン注力」の方向性は、先日の中期経営計画で発表されたもの。ラーメン事業の売上高を2024年実績の80億円から、2029年度には400億円にまで伸ばし、現在4%ほどの売上高比率を13%まで高める。

さらに、店舗数も500店舗へと広げていく。これらの結果として、2034年度にはラーメン提供食数で世界一を目指していくという。

この目標に向けて現在、吉野家HDはすでに、京都のラーメン店「キラメキノトリ」やラーメン製造会社の「宝産業」などを積極的にM&Aし、傘下に収めている。

しかし、この目標、あまりにデカい。それを確かめるために、「売上高400億円で500店舗」というのが、どれぐらい大きな目標かをみてみよう。

入手できる資料をもとに、競合他社の数値を上げてみると……

日高屋     売上高 約556億円 店舗数 457店舗

リンガーハット 売上高 約479億円 店舗数 559店舗

ラーメン山岡家 売上高 約345億円 店舗数 188店舗

幸楽苑     売上高 約268億円 店舗数 389店舗

丸源ラーメン  売上高 約181億円 店舗数 219店舗

一風堂     売上高 約155億円 店舗数 118店舗

こうしてみると、一風堂や丸源ラーメンよりは大きい規模で、売上高でいえばラーメン山岡家やリンガーハットほどの規模、店舗数でいえば日高屋と並ぶぐらいの規模感である。

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様々なブランドを足し合わせた数値になるだろうが、それでも「日高屋の規模を目指す」と言うのは、なかなか大きな目標だ(写真:編集部撮影)

ラーメンチェーンとしても私たちがよく知っている店が競合になってくる。少なくともどこの街に行っても「吉野家のラーメン屋がある」という状態になるわけだ。

中期経営計画の目標は、一見すると途方もない数値に見えるが、現在のラーメン業界でのちょうどメジャーどころのポジションを狙いにいっている数値だともいえよう。もっともそれを5年でやってのけてしまうというのだから、相当に思い切った発言だとわかる。

吉野家はなぜ、ラーメンに行くのか

吉野家がラーメンに本気なのはなぜか。一つの要因は、事業ポートフォリオの分散化を進めるためだろう。

もともと、同社は牛丼事業の比重が大きく、「牛丼一本足打法」などと表現されることもあった。実際、2000年代にはBSE問題で大打撃を受けたトラウマもある。事業の柱を増やそうとするのは、合理的な考えである。

一方でもう一つの大きな要因として、牛丼業界の飽和も見逃せない。

2025年2月期において、吉野家は牛丼業態を100店舗以上増やす攻めの「出店攻勢」計画を立てていた。

しかし、蓋を開けてみると新規出店数は52店舗(閉店は22店舗)。牛肉やコメの値上がりなどが影響したのだ(ところで、今回のラーメン事業の目標といい、吉野家は都度「攻め」の目標を立てがちなのかもしれない)。

現在の牛丼チェーンを見ていると、その店舗数は、ほぼ横ばいになっている。かつて吉野家・松屋は都心を中心に増加するサラリーマンの需要に応え店舗数を増やしてきた。一方、それよりも後に誕生したすき家は、前2社がターゲットにしていなかった女性やファミリー層の需要を発掘し、郊外に店舗を多く作っていった。こうして全国各地に多くの牛丼屋が誕生した。

しかし、その流れは2010年代半ばで止まってしまう。それ以降、すき家が2000店舗弱、吉野家が1200店舗前後、松屋が1000店舗前後のまま、基本的には横ばいの状態が続いているのだ。

ちなみに2023〜2024年で見ると、吉野家の「出店攻勢」があったため、牛丼チェーン全体での店舗数は2.0%増加で以前よりも上昇傾向にある。ただ、吉野家が結果として出店計画を縮小させたことを踏まえると、やはり「牛丼」だけで拡大することが難しい様子が見て取れる。

多角化する牛丼チェーン

さらに、吉野家を焦らせるのが、同業他社の動きだ。牛丼チェーンの飽和に対応して、事業の多角化を進めている。

松屋は近年、とんかつ業態である「松のや」を順調に拡大。2018年4月には150店舗だった同ブランドは、現在194店舗にまで成長している。コロナ禍を挟んでいるが、順調な歩みだといえるだろう。

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3ブランドを複合させた併設店。松屋ブランドを活かしながら、新たな業態を開発、定着させてきた(筆者撮影)

あるいはすき家も同様だ。

この春先に発生した「ネズミソ汁」事件で全店舗の営業時間を23時間にしたり、数日間ほとんどの店舗を閉鎖したりなどしたが、実際の売り上げは2割減ほどで済んだ。

まだまだ予断を許さぬ状況だが、経営的に深刻なダメージがあったとは言い難い。

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女性やファミリー層の需要を発掘し、郊外から店を広げていったすき家(筆者撮影)

これには、そもそもすき家を運営するゼンショーグループが、海外での寿司デリバリーをはじめとするグローバルファストフードなどの店舗数・売上高を大きく増やしていることも大きい。すき家だけでなく、国外までをも含めた業態で戦うホールディングスになっているわけだ。

2025年2月期の決算によれば、吉野家HDでも、吉野家事業単体でも増収減益。はなまるうどんが増収増益と順調に伸びているものの、ホールディングスの中で圧倒的な店舗数を誇る吉野家以外の軸足を見つける必要は、確かにあるといえるだろう。

とはいえ、フラつきが隠せなかった吉野家

こうした事情が重なったところで、事業多角化の試みが大々的に繰り広げられることになる。ただ、焦りからだろうか、その歩みにはどうも「フラつき」が隠せなかったのが正直なところだ。

2024年12月には新業態の「カレー専門店 もう~とりこ」と「から揚げ専門店 でいから」をオープン。さらにその前年の2023年には牛カルビ丼やスンドゥブ専門店の「かるびのとりこ」も開業している。

ただ、これら吉野家自身が開発した新規業態がうまくいっているかといえば、少し答えに困ってしまう。

例えば「かるびのとりこ」は2026年度までに30店舗を目指す予定ではあったが、現在は6店舗を構えるのみ。これから猛烈な勢いで増やす可能性も残っているが、一般的なレベルでは、とくに話題になっていない。

こちらもオープンしたばかりで成否を判断するのは早いが、「もう〜とりこ」も、なぜか1号店が浅草六区のど真ん中。ストリップ劇場である「浅草ロック座」の隣にある。国内外からの観光客が多く集まる地での堂々たるオープンである。観光客の多くはカレーが好き、ということを見込んでのことだろうか。

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「もう~とりこ」の外観。こんな店舗もオープンしている(写真:大関まなみ)

そのようないくつかの業態が必ずしも好調といえないなかで、ラーメン事業については比較的うまく進んだ。吉野家のラーメン事業の特徴は、M&Aで拡大をしているところにある。他の新業態のように、自社でフォーマットを作るのではない。

思えば、同社のうどんブランドである「はなまるうどん」も、もともとは別の会社であった。

「0→1」より、「1→100」のほうが得意な会社……なのかはわからないが、いずれにせよ、M&Aの積極さを見るとラーメン事業への本気度が見え隠れするし、「そっちのほうが、戦略的には筋がいいのでは?」と感じさられるのだ。

きっと吉野家ならやってくれるだろう!

ということで、まとめるとラーメン事業へのいっそうの注力は「清々しいな、吉野家」というところで好感を持ったのである。

もちろん、不安要素がないわけではない。まだそれほどまでに実績がない段階で「かなりの規模のラーメン事業を作る」とブチ上げているし、どことなく数字のほうが先行している雰囲気もある。

しかし、吉野家にはきっとまだまだ私たちには知らせていない秘策があるのだろう。でなければ、ここまで大胆な目標は出せまい(はずだ)。

中期経営計画を見ると、ラーメンの勝ち筋の一端が垣間見える。例えば、宝産業の買収によってハラル向けスープの製造を行ったり、ヨーロッパにスープ製造拠点を拡充させたり……といったことを行うようだ。

吉野家は「ラーメン世界一」を実現できるのか。今後の施策を待ちながら、吉野家の「ラーメンの5年間」をじっくりと追っていきたい。

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