物量で圧倒する中国、その空軍力はいかほどか? 海でも空でも着実に大きくなる脅威

物量で圧倒する中国、その空軍力はいかほどか? 海でも空でも着実に大きくなる脅威

5月初めに軍事衝突したインドとパキスタン。トランプ米政権の仲介もあり、5月10日に停戦で合意しましたが、話題になったのはパキスタン空軍の中国製戦闘機「殲(J)10C」によるインド空軍機の「撃墜」でした。現地からの報道が錯綜しているものの、米軍関係者もインド空軍のフランス製戦闘機「ラファール」が撃墜された事実を確認したそうです。

中国航空ショーで公開された中国の新型国産戦闘機「殲10」=2008年11月、中国広東省珠海

SNSでは「中国製戦闘機がフランス製戦闘機を撃墜した」という話題で持ち切りになりました。前回のニュースレターでは、中国海軍が艦艇数で米海軍を圧倒していると指摘しました。それでは、中国空軍に目を転じると、その実力はどれほどのものなのでしょうか。

元自衛隊幹部らによれば、中国軍は当初、ミグやスホイといった旧ソ連製戦闘機を使っていました。今回パキスタン空軍の撃墜で注目を集めたJ10は、2000年代初めに中国が初めて本格的な運用に踏み切った独自戦闘機です。ラファールやF15 Eなどと同じく、4.5世代戦闘機として位置付けられています。航空自衛隊の元幹部は「カタログの能力だけをみれば、J10Cとラファールは互角と言える」と語ります。中国空軍機の開発の特徴は、当初もくろんだ能力の7~8割しか達成できなくても実用化を進め、短いサイクルで開発を重ねていくことだそうです。

中国軍機の弱みと強み

そんな中国軍機の弱みはエンジンと言われてきました。これまで中国は、おそらく旧ソ連・ロシア製戦闘機を分解して研究開発したとみられています。空自の元幹部は「ロシア製エンジンは西側と比べ、推力や瞬発力では負けないが耐久性に欠ける」と語ります。例えば、航空自衛隊も採用しているF15戦闘機の場合、整備をきちんと続ければ、同じエンジンで約4万時間飛行することも可能だそうです。

ところが、ロシア製のスホイ戦闘機の場合、2万~3万時間飛行する間にエンジンを5回も6回も交換する必要があるのだそうです。中国製戦闘機も同じ問題を抱えている可能性があります。空自の元幹部は「J10の価格は30億円から40億円程度で、F16戦闘機の半分くらいと安い。ただ、ライフサイクルが短いし、エンジンも取り換えるため、結局高くつくかもしれない」と語ります。

一方、パキスタン軍のJ10Cがラファールを「撃墜」する際に使ったとみられているのがPL15空対空ミサイルです。最大射程は200キロとも言われています。これに対し、ラファールが装備しているミーティア空対空ミサイルの射程は100キロ以上です。元幹部は「PL15は通常のミサイルと同じロケットモーター方式だが、ミーティアは独自のエンジンを積んでいるから、射程はかなり大きいはずだ」とも語ります。

進む次世代戦闘機開発と米中の競争

こうしてみると、J10Cが本当にラファールを撃墜したのであれば、相当な戦果と言えるかもしれません。元幹部も「本当に撃墜が事実なら、J10Cにとって大きな実績になる」と語ります。

中国空軍の実力はほんの20年くらいまで、日米には全く歯が立たないと言われていました。中国空軍機は推力が弱いため、航続距離も長くなく、機動性にも欠けると言われていました。パイロットの技術も未熟で、中国軍機に対して対領空侵犯措置(スクランブル)を行った経験がある空自のパイロットたちは「ロシアのパイロットとは比べ物にならない粗雑さで、ぶつかるのではないかとひやひやしたことがよくあった」と語っていました。

中国軍機は依然、エンジンの耐久性という問題を抱えているのかもしれません。

ですが、その不安を打ち消すのに十分なほどの物量を誇ります。最先端技術の開発競争でも負けていません。ステルス戦闘機のJ20が実用化され、最近では次世代(第6世代)戦闘機とされるJ35の情報も流れています。最先端の戦闘機はヘッドマウントディスプレーを使い、パイロットの視点をそのままロックオンにつなげる技術などが導入されています。空自元幹部も「中国は当然、こうした技術を保有しているとみるべきだ」と語ります。

中国の最新鋭ステルス戦闘機「J20」も公開飛行し、着陸した後、地上でも初めて展示された=2022年11月8日、珠海、奥寺淳撮影

第6世代戦闘機は、自律型無人戦闘機(CCA)を従えて作戦を行う人工知能(AI)を搭載した有人機になると言われています。AIで米国と最先端を競う中国であれば、米国より優秀な戦闘機を開発できるかもしれません。

また、中国は世界最大のドローン(無人機)大国です。防衛研究所政策研究部の池上隆蔵1等陸佐によれば、中国は1990年代からドローン開発に力を入れてきました。2010年代後半には水上艦からのドローン運用も行われているようです。22年8月の台湾周辺の大演習では、弾道ミサイルの射撃とドローンによる誘導や効果確認を組み合わせ、より迅速・正確な攻撃能力を保有している可能性も指摘されています。中国の報道によれば、23年末時点に中国で登録された民用ドローンは127万機に達し、民用ドローンを開発する企業は2300社にのぼっています。自衛隊統合幕僚監部が4月10日に発表した資料によれば、中国ドローンに対する対領空侵犯措置は、23年度の8回から24年度は23回と急増しています。

空自元幹部は「J10は空自のF15、J20やJ35は空自のF35に対する最大の脅威と言える」と語ります。海に加えて空でも、中国軍の脅威は着実に大きくなっている。そんなことをいやでも想起させたインド空軍のラファール戦闘機撃墜事件でした。