【細江純子のシン・ヨモウマ話(10)】藤沢和雄師が手がけた「女優」グランアレグリアの素顔~安田記念

細江純子さん

ホースコラボレーター・細江純子さんが今週の『シン・ヨモウマ話』でピックアップするのは、2020年安田記念など古馬マイル芝GⅠを完全制覇したグランアレグリア。馬優先主義の〝ザ・ホースマン〟藤沢和雄調教師が育て上げた名牝の素顔とは-。もちろん、春の古馬最強マイラー決定戦の予想にも要注目です!

かつて単身でアイルランド競馬を見に行った際、憧れの一人である名伯楽、ダーモット・ウェルド調教師の厩舎に足を運びました。

その際、ウェルド師が「僕の中で日本のホースマンといえば、岡部幸雄だね」と。「朝の調教時、コースに羊が何頭か迷い込んできたんだけど、その際、岡部は馬上でスッと鐙(あぶみ)を長くしてカウボーイのように羊をコースから遠ざけ、またスッと鐙を短くしてキャンターに向かったんだ。あんな風に自然に溶け込む乗り手を日本人で見たことがなかったから驚いたね」と、当時の光景を懐かしむように話されていました。

そして今年の初めに岡部さんと食事をする機会に恵まれ、その話をすると、同じくヨーロッパで修行を積み、馬づくりをともにした藤沢和雄調教師の話に発展。常に馬の気持ちや性格と向き合う調教メニューや過程の話をしながら、在厩期間の長い時代が懐かしくなりました。

藤沢師といえば、数々の名馬を輩出するとともに、最後まで〝馬の一勝よりも一生〟を大事に歩まれた方。引退前の最後のダービーでも、キングストンボーイの青葉賞2着で出走権を手にしながら「この馬の将来を考えると回避がベター」と馬優先主義を貫いた師。これには厩舎スタッフも「この馬でしかダービーに出られなかったので、先生ラストの年に出走できてよかったねと話していた。出ないと聞いたときには驚きでしたが、やはり先生らしいな、すごいなと改めて思いました」と話していました。

2020年安田記念を制した〝女優〟グランアレグリア。あのアーモンドアイを破る快演だった

また取材する側となって初めて藤沢厩舎を訪ねた際、目と耳を使って管理馬をチェックしているかと思うと、洗い場では匂いで馬の爪の病気を感じ取り、担当者に指摘。そして厩舎入り口には鷹が存在するなど、まるで海外の厩舎にいるようでしたし、少しの間だけでしたが、ご一緒していると藤沢師が人間というより動物に思えてくるような不思議な感覚に…。

そんな師の管理馬で安田記念の覇者といえば、牝馬のグランアレグリアでしょう。私は「女優」と呼んでいるのですが、彼女はパドックで見せる姿と返し馬に行ってからが別馬で、「パドックはまだ本番ではないでしょ」と言っているかのような雰囲気でした。

そんな話を調教助手として担当した〝ナベチャン〟こと渡部貴文さんにすると、うなずきながら「わかる。彼女はとにかく頭の良い馬だったから。ちょっとした変化を過敏に感じ取るタイプで、ある日、僕が無意識に馬装の手順を違えた際、ジロッとこっちを見て〝なんで? 違うでしょ〟と問いかけてきた。あっと思い、謝っていつも通りに仕直したんだけど、とにかくその日は機嫌が悪かった。だから僕は、グランアレグリアと接するときは一日のルーティンを崩さないように、同じようなリズムにしていた」とのことでした。

馬優先主義を貫いた藤沢和雄調教師。グランアレグリアも名伯楽のもとでその才能が最上級に開花した

そして藤沢師については「先生は馬の能力を一瞬で見抜く力がすごかった。そして距離適性や適正な時期に関しても」と。5歳時にデビューし、無傷の5連勝でスプリンターズS(4着)に参戦したレディブロンドはその代表例でしょう。

また通常、関西の競馬場で関東馬が日曜日に競馬を走った際、レース後に馬運車で美浦帰りとなるのですが、師はレースで消耗した馬を運ぶのは酷すぎると滞在を選択。しかも翌月曜日は競馬場が全休のため、業務上の都合で火曜日帰りにしていたのです。

レース後、トレセンではなく牧場へと戻すケースも多くなった今では考えられない話。改めて、藤沢師には〝ザ・ホースマン〟の仕事ぶりを感じるレースを多く見せてもらった気がします。

さぁ、安田記念。能力的には⑬ソウルラッシュと⑩ジャンタルマンタルだと思うのですが、ソウルラッシュはパワータイプゆえパンパンの良馬場が少し気になりますし、ジャンタルマンタルは香港での一戦がメンタル的にどう出るか心配なところも…。そして良馬場を想定すると、間隔をあけて一発ありそうなのが⑭ウォーターリヒト。

この3頭を中心に考えつつ、内めの枠がプラスに働きそうで馬券的な妙味からも気になるのが④ウインマーベルと⑤レッドモンレーヴ。東京マイルは流れ次第なので、ここはあの手この手で幅広く馬券を買います。

それでは皆さん、ステキな安田記念を。ホソジュンでしたぁ。

■グランアレグリア 父ディープインパクト、母タピッツフライ、母の父タピット。2016年1月24日生まれ、鹿毛の牝9歳。現役時は美浦・藤沢和雄厩舎に所属。北海道安平町・ノーザンファームの生産馬。19年に桜花賞でGⅠ初制覇を果たし、JRA賞最優秀3歳牝馬を獲得。4、5歳時に20年安田記念、スプリンターズS、マイルCS、21年ヴィクトリアマイル、マイルCSとマイル以下のGⅠを5勝し、2年連続で同賞最優秀短距離馬に選出された。古馬マイル芝GⅠ完全制覇は史上初。重賞勝利はほかに18年サウジアラビアRC(GⅢ)、19年阪神カップ(GⅡ)。戦績15戦9勝。総獲得賞金10億7381万3000円。馬名は「大歓声(スペイン語)」

■細江 純子(ほそえ・じゅんこ) 1975(昭和50)年3月12日生まれ。愛知県出身。武豊騎手に憧れ、96年にJRA初の女性騎手としてデビュー。2000年に日本人女性騎手として初の海外勝利(シンガポール)。01年の引退後はホースコラボレーターとしてさまざまなメディアで活躍し、フジテレビ系『みんなのKEIBA』、関西テレビ系『競馬BEAT』に出演中。X(旧Twitter)のフォロワー数は現在22万超。