48年愛される自家焙煎コーヒーチェーン深い魅力

大阪メトロ江坂駅から徒歩3分の場所にある、ヒロコーヒー本店(写真は以降すべて筆者撮影)
48年前そのままのノスタルジックな空間に浸る
“昼ドラ”を覚えているだろうか。昼ドラとは昭和から平成にかけて、平日12~13時頃に放送されていた主婦向けドラマのことだ。不倫や友情のもつれなど、ドロドロかつジェットコースターな展開に胸踊らせていた人は多いはず。そのなかで、奥様たちが情報交換をしたり、「逢瀬」に使われていた老舗喫茶店をイメージしてみてほしい。
【画像を見る】550円~で食べられるヒロコーヒーのモーニングはこんな感じ! 小麦と水だけで作る山食パンに、サイフォン式で淹れる世界基準のコーヒー
蔦の這う外壁に、レトロなランプが光るレンガ造りの内装。カウンター内で微笑む、人の良さそうなマスターと、サイフォンのコポコポとした音……。

レンガ造りの壁面に、蔦と紅葉の緑が映える外観
「主人ったら、またあの人と密会してるのよ……」 そんなセリフが聞こえてきそうな、まさに昼ドラそのままの喫茶が大阪にある。昭和47年創業の、ヒロコーヒー本店だ。
同店があるのは、大阪メトロ江坂駅から徒歩3分のオフィス街である。レンガの焼き色のコントラストが味わい深い外壁に、生い茂る蔦。重厚な扉を開くと、同じくレンガの壁に、銅版画や油絵がかかる、クラシカルな空間が広がる。
もちろん、カウンターではサイフォンがコポコポ。ステンドグラスの窓や照明も美しく、ヨーロピアンテイストの木製家具が、歳月を経た味わいと艶を放っている。ジノリやウェッジウッドのコーヒーセットが収まる、どっしりとした食器棚も存在感たっぷりだ。
……と、かなり優雅な雰囲気に浸れる空間なのだが、値段が庶民的なのも大きな魅力だ。8~11時に提供されるモーニングは550円~で食べられる。
さっそくそのお得なモーニングの紹介をしたいところだが、少しだけ、ヒロコーヒーの成り立ちと、コーヒーに対する情熱を伝えさせてほしい。

ガラスの照明器具が印象的なカウンター。中央に立っているのは㈱ヒロコーヒー 代表取締役社長の山本光弘さん
「変えたくても、変えようがない」本店の佇まい
「今の時代はこういう内装をやるレストランはないと思います。当時と違って、ものすごくお金がかかりますし」と語るのは、㈱ヒロコーヒー 代表取締役社長の山本光弘さん。15歳から働いたレストランでコーヒーに魅了され、専門店での修行を経て、18歳で独立。ここ江坂にヒロコーヒー1号店をオープンした。
現在は大阪・兵庫に20店舗を展開しており、そのほとんどはシンプルでスタイリッシュなデザインだ。だが、思い入れのある本店の佇まいは当時のまま。「変えたくても、変えようがないんですよ」と笑う。

創業当時からのステンドグラスから陽射しが差し込む
世界基準の品質と「のれんの味」を
ヒロコーヒーの一番の特徴は、自家焙煎コーヒーにある。創業時は焙煎された豆を仕入れていたが、「鮮度が高い豆を、自分でブレンドして納得のいく味作りがしたい」と3年目に焙煎機を購入。味を追求し、生産から抽出までの各段階で厳しい評価基準をクリアしなければ名乗れない「スペシャルティコーヒー」を提供する環境を整えていった。

現在は使用されていないが、今も店内に4kgの焙煎機が飾られている
仕組みはこうだ。まず、海外から生豆のサンプルを取り寄せ、世界基準でコーヒーの品質を評価できる職人「Qグレーダー」がテイスティング。そこで総合評価80点以上のスペシャルティグレードのカップだけが買い付け対象となる。
次に、買い付けた豆を複数のパターンで焙煎し、「品質と持ち味が最も活かせる煎り具合」を山本さん自らが決定。最後に、これも山本さんが、「自分が最もおいしいと感じる配合で」ブレンドする。
「コーヒーの味はあくまで好みなので、正解はありません。だから私が味を決める。レストランでいうところの、オーナーシェフとしての役割を担っています。自分の信じる味が『のれんの味』とでもいうべきものなんです」
「のれんの味」を守るため、山本さんは48年間毎日、5~10杯のコーヒーを味見し続けているそうだ。
「ええ! 毎日10杯も飲んで、健康は大丈夫ですか?」とつい心配になって聞くと、「寿司屋が毎日寿司を握って寿司嫌いになりますか? それは愚問というものですわ」と、鋭いツッコミが返ってきた。たしかに愚問でした。失礼しました。

壁面には銅版画も。レンガのアーチの意匠も美しい
さらに驚くことに、仕入れる生豆の75%は、品質を保つために独自で構築した認証システム「HIRO CERT認証」を受けているという。
認証を受けるためには、農薬や肥料の管理状況から従業員の労働環境、トレーサビリティまで、20に及ぶチェック項目にパスする必要がある。それを、パナマ、コスタリカ、ブラジル、インドネシアなど、世界各国にある取引農園が理解し厳守してくれているのだ。
コーヒーの抽出についても150~177時間の研修を受ける必要があるが、「コーヒーの味は、原料が5割、焙煎が3割、抽出が2割。マニュアル通りに手順を守れば、子どもでも正しく淹れられる」と山本さん。あくまでも味の決め手は豆にあるということだろう。

カウンター席では、サイフォン式のコーヒーを淹れる姿が間近に。かぐわしい香りがうれしい
モーニングは9種類! オプションでサラダも
さて。期待が高まったところでご紹介するのが、開店8~11時までにオーダーできるモーニングである。主役は、自家焙煎コーヒーと自家製パン。全9種類、550~820円と手頃な価格に加え、プラス150円出せば、コーヒーをポットで淹れてくれるお得なセットだ。
ポットのコーヒーはだいたいカップ1.6杯分。「もっと飲みたい」という人は、プラス200円でお代わりもできる!
また、モーニングのコーヒーは、ブレンド4種、ノンカフェイン、日替わりのシングルオリジン1種からチョイスできる。濃いめがお好みなら「ストロング・ブレンド1977」、香り高く余韻が心地いい「クラシック・マイルド・ブレンド」も捨てがたい。だが、初めて訪れるならおすすめは一番人気の「オーガニック・ブレンド いながわ」だ。

モーニングのコーヒーメニュー。「オーガニック・ブレンド いながわ」以外のコーヒーは、季節で入れ替わることも
どのコーヒーであってもここ本店はすべて、サイフォン式でじっくりと抽出してくれる。他店舗はすべてペーパードリップだそうなので、特別感がうれしい。サイフォン式のほうが、よりしっかりと豆の味わいが出るそうだ。
続いて自家製のパンは、イギリス山食パンのトーストから、クロワッサン、エッグ・マフィンなど目移りしてしまう全9種がそろう。個人的におすすめなのは「ハムエッグ・トースト」780円だ。
今回はそれにポット150円を付け、さらに、最近健康面が気になるため、グリーンサラダ230円を付けてオーダーした。
こうなると合計1160円とちょっと高額に感じるが、グリーンサラダは単品では280円なので50円お得であることは伝えておきたい。

モーニングのパンは全9種類がスタンバイ。いずれも西宮にある自社のベーカリー「麦蔵」で焼かれ、毎日届けられている
素朴なパン×まろやかコーヒーの絶妙コンビ

これが本日オーダーしたモーニングセット。ハムエッグ・トースト&コーヒー780円+ポット150円+グリーンサラダ230円=合計1160円
では、早速食べていこう。まず、「オーガニック・ブレンド いながわ」をポットから注ぐと、やわらかな焙煎香が立ち上った。
ひと口飲んでみると、コクがありながらもまろやかで、後口はすっきり爽やか。コロンビア、メキシコ、グアテマラと3カ国のオーガニック豆をブレンドしたものだそうで、「コーヒー初心者から愛好家まで幅広く愛されている」というのも頷けるクセのない味わいだ。
続いて手を伸ばしたのはハムエッグ・トースト。イギリス山食パンの上に、ハムと半熟目玉焼き、マヨネーズがとろ~り。パンはザクザクと硬めの食感で、最初は「硬っ!」とビックリ。 ところが噛んでるうちに、じわ〜っと小麦の旨味が口の中に広がって、「これ、クセになるやつやん」と思わず呟いていた。

噛むほどに染み出す小麦のうま味に、ハムの塩気、黄身のまろやかさ、マヨネーズのコクが絶妙に混じり合う
聞けばこちらのパンも、こだわって造っているそう。
「海外産の2種類の小麦を使い、イーストを使わずに天然酵母で一晩発酵。50分かけて焼きあげています。使用する材料は小麦と水のみで、一切添加物は使いません。日本のやわらかいパンと違って、ヨーロッパのパンに近いですね。素朴な味わいを目指しています」
そこに「オーガニック・ブレンド いながわ」を合わせると、コーヒーのまろやかな風味がパンの素朴さをグッと引き立ててくれる。
お次はサラダの出番だ。野菜は日替わりだそうで、この日は、レタス、アボカド、ミニトマト、パプリカが色鮮やかに。シャキシャキのレタスのみずみずしさをベースに、アボカドのクリーミーさやトマト、パプリカの酸味が生き生きと感じられた。
そこに玉ねぎドレッシングがジューシーさを添え、トッピングされたフライドオニオンは食感のアクセントに。コーヒーやパンにも負けない満足感の高い脇役だった。

ボリュームたっぷりのグリーンサラダ。ドレッシングは、筆者がこの日選んだ玉ねぎドレッシングのほか、クリーミーバジルドレッシングも用意されていた。ドレッシングの種類は3、4カ月ごとに変わるそうだ
お土産には世界レベルのコーヒーを「7割価格」で
すっかりお腹が満たされたら、店を出て右へ曲がって徒歩10秒のところにある「ヒロコーヒー ギャラリー本店」に立ち寄ろう。

ヒロコーヒー本店から徒歩すぐの「ヒロコーヒー ギャラリー本店」。お土産を買うのにもってこい
ここでは、常時約40種類ものコーヒーが「比較的お買い得に」購入できる。というのも、関西はコーヒーの価格が都心に比べて安い傾向があるそうだ。
「『ゲイシャ』という人気品種も100g 1200〜1500円です。東京なら2000円はくだりません。ほかのスペシャルティコーヒーも東京の6、7割くらいで、出張で訪れた方が大量に買っていかれます。『こんなに品質が良くて安いんだ』って、皆さん驚かれます」

ドリップコーヒーだけでもこんなに種類が!
たしかに、その価格差はかなり大きい……! お土産に大量買いする出張族の気持ちがよーくわかる気がする。
売れ筋は手軽なドリップコーヒーと、紙パックに比べて雑味が入りにくいという、ボトルタイプのリキッドコーヒー。暑くなるこれからの季節には、クオリティの高いコーヒーの味わいをギュッと閉じ込めたゼリーもよく売れるそう。ひとひねりした大阪土産としても喜ばれることうけあいだ。
本物へのこだわりが詰まった、正統派の喫茶店
関西在住の筆者は、中学生時代からヒロコーヒーを知っている。いや、知っているつもりだった。しかし、今回訪れて改めて、その魅力と奥深さを発見した。派手さはないが、長年の経験と本物へのこだわりが詰まった、正統派の喫茶店文化がそこにはある。
大阪メトロ江坂駅は、新大阪駅の2駅隣だ。関西に泊まり出張の際は、ぜひ少し早起きして、新幹線乗車前に訪れてみては。