体力の"8要素"のうち加齢と共に衰えやすいのは?

「なるべく疲れない選択をする生活」が、さらなる体力低下を招いています(写真:buritora/PIXTA)

50代あたりから、「あーーしんどい」「身体が痛む」「体力が落ちる」……こういった悩みを抱える方が増えてきます。「年齢を重ねれば仕方がないこと」だと思われがちですが、本当でしょうか? 体調の変化は、本当に年齢のせいなのでしょうか?
アメリカスポーツ医学会認定運動生理学士のフィジカルトレーナーが合理的に体調をととのえるセルフメンテナンスの基礎知識を伝授する。
※本稿は『60歳で最高の体調 1カ月で変わるロジカルメソッド』から一部を抜粋編集してお届けします。

「私はもう年だから」と、年齢を言い訳にしてしまうこと。「今さらやっても」と、可能性を自ら閉ざしてしまうこと。それこそが、じつは「加齢による衰え」の最大の落とし穴なのです。

【イラストで解説】「筋力」「瞬発力」「筋持久力」…体力“8つの要素”はこれだ!

今日よりも明日、今年よりも来年、自分史上最高の動ける身体を手に入れることは、いくつになってからでも可能です。なぜなら、それはあなたの「年齢」ではなく、「行動」にかかっているのですから。

では、具体的にどんな「思い込み」が、私たちの可能性を狭めているのでしょうか。そして、それは本当に通説どおりなのでしょうか。順番に見ていきましょう。

通説1「年を取ると体力が落ちる」は本当か?

階段を上がるのがつらい。

駅までの道のりが長く感じる。

重い荷物が持てない……。

年齢を重ねるにつれ、「体力が落ちてきたなあ」と感じる場面が増えていきます。するとどうしても、なるべく疲れない方法を選ぶようになってしまいますよね。

階段の代わりにエスカレーターを使う、歩く代わりにタクシーを使う、店まで行く代わりにネットショッピングを使う……。でも、この「なるべく疲れない選択をする生活」が、さらなる体力低下を招く悪循環を生んでいるのです。

ところで、あなたは「体力が落ちてきた」という言葉を使うとき、どんな場面を想像していますか。じつは私たち専門家は、体力を次の8つの要素に分けて考えています。

「体力」には8つの要素がある

(イラスト/中村知史)

(イラスト/中村知史)

①筋力:重い物を動かす力です。荷物を持ち上げたり、重い扉を開けたりするときに使います。
②瞬発力:素早く力を出す能力です。ダッシュしたり、ジャンプしたりするときの力がこれにあたります。
③筋持久力:同じ部分を動かし続ける能力です。長時間の家事や作業に必要です。
④柔軟性:身体の柔らかさ、関節の動く範囲のことです。立ったまま床のものを拾ったり、高いところに手を伸ばしたりするときに必要な能力です。
⑤全身持久力:長時間の運動に耐える力です。息切れしにくさと言い換えてもいいでしょう。
⑥敏捷性:素早く方向転換したり、急に止まったりする能力です。人混みを歩くときや、咄嗟の動きが必要な場面で使います。
⑦巧緻性:細かい動きをコントロールする能力です。箸を使うときや、ボタンを留めるときなどに必要です。
⑧バランス感覚:身体のバランスを保つ力です。片足で立ったり、でこぼこ道を歩いたりするときに使います。

この視点で見ていくと、年齢を重ねたことで体力を構成する8つの要素すべてが落ちている人はあまりいません。若い頃から今にいたる生活によって、落ちていった体力、維持できている体力があり、なかには20代よりも50代のほうが向上している体力があるのです。

1つ目の通説「年を取ると体力が落ちる」の真偽を確かめるため、多くの中高年の8つの体力がどのような傾向にあるかを見てみましょう。

私はフィジカルコーチとして、パーソナルジムの他に、さまざまな業界団体や企業の集まりで健康増進のためのセミナーを指導することがあります。

こうした現場を通じて見聞きしてきた、中高年の人たちの言う「体力が落ちた」は、8つのうちのどの体力を意識しての言葉かというと、主に「全身持久力」の低下です。

小走りをした後、階段を上がった後の息切れ、長距離を歩いた日の身体の重たさなど、若い頃には感じなかったしんどさ。この感覚は日常生活の中で感じるわかりやすい変化です。

でも、日頃からウォーキングやジョギングをしている人は、中高年になっても「全身持久力」は下がりません。ただし、ジョギングをしているから体力が低下していないというわけではないのです。8つのすべての体力が維持できているかというと、そうではないのが難しいところ。

「自分は日頃から身体を動かしているから」と健康に自信のある人も、気づかないうちに他の能力は低下している可能性があります。

認識している体力低下と、身体に起きている体力低下には違いがある

たとえば、手先を使う細かい作業が苦手になってきていたら「巧緻性」の低下かもしれませんし、お子さんや甥っ子、姪っ子、お孫さんと公園で遊んでいて遊具の上に立つと身体がぐらぐらするなら「バランス感覚」が落ちているのかもしれません。

また、筋トレは欠かさずやっているのに、ふとした日常動作で肩や腰を痛めることがありますが、これは「柔軟性」が低下しているからかも。

筋トレは、①の筋力、②の瞬発力、③の筋持久力を向上させますが、この3つはいずれも筋肉をギュッと縮ませる能力。柔軟性は逆で、筋肉を伸ばせる能力です。

運動習慣がある人もない人も、柔軟性が低下してきたことに対して「体力が落ちてきた」とは言いません。

しかし、年齢を重ねながら何も対処していないと最も落ちやすいのが柔軟性です。そして、筋肉が伸びにくくなると可動域が狭くなり、それは怪我につながります。

これは深刻なレベルでの体力低下ですが、なかなか自覚しにくいのです。

でも、知識があれば対処できます。たとえば、筋トレと並行してストレッチを意識的に行なうようになれば、柔軟性は少しずつ向上しますから、中高年になっても若々しくて体力のある身体を維持できるわけです。

本人が認識している体力低下と実際に身体の中で起きている体力低下に違いがあること、1つひとつの体力の要素は何歳からでも対処次第で向上させることができることを頭の片隅に残しておいてください。

加えてここで強調してお伝えしておきたいのは、8つの体力の変化は必ずしも「年齢」と関係しているわけではないことです。しつこいようですが大事なことなので繰り返し言いますね。体力低下の主な原因は「やらなくなったこと」にあります。年齢を重ねるにつれて、知らず知らずのうちに身体を動かす機会が減っているだけなのです。

これは希望のある話で、使わずにいて低下しているものは、意識して使うようにすると向上します。つまり、年を取ったから体力が落ちたわけではないのです。