車いすの夫と結婚した久下真以子アナ 周囲の「未知から来る不安」乗り越えた今「精神的には私のほうが支えられている」

「日本一パラスポーツを語れる女子アナ」として、パラリンピックスポーツの魅力を発信しているフリーアナウンサーの久下真以子さん。2021年には車いすラグビー日本代表の羽賀理之選手と結婚しますが、当初は周囲の「未知から来る不安」により、さまざまな意見がありました。(全3回中の1回)

車いす競技に衝撃を受けた

車いす競技に衝撃を受けた, 「かっこいいな」初対面から4年後に距離が縮まり, 「真以子って普通に彼とけんかするんだ」と驚かれ, 両親に紹介するも心配が勝って…

久下真以子、羽賀理之

東京パラリンピックで銅メダル獲得後、結婚

── 久下さんといえば、「日本一パラスポーツを語れる女子アナ」として知られています。アナウンサーキャリアの中で、パラリンピックスポーツに詳しくなったきっかけはなんだったんですか?

久下さん:2011年、私がNHK高知でキャスターをしていたときに、番組の企画として車いすスポーツの取材を提案しました。そこで出会ったのが高知出身で現在、車いすラグビー日本代表の池 透暢(いけ ゆきのぶ)選手です。当時、池選手はラグビーではなくて車いすバスケットボールの選手として日本代表を目指していました。そこでパラリンピックスポーツと出会い、「すごい世界だな」と感じて取材を重ねるようになりました。

── どのあたりが「すごい世界」だと感じられたのでしょうか?

久下さん:私は当時25歳。車いすスポーツを間近で見たのが初めてだったので「車いすでこんなに速く動けるの?」「車いすでぶつかるの?」「車いすに座ったままで鋭いシュートが打てるんだ」と、車いす競技のパワフルさにまず衝撃を受けました。身体に障がいを持った方ともそれまであまり接したことがなかったので、みなさん自分たちと変わらないような生活をされていることを知りました。

「かっこいいな」初対面から4年後に距離が縮まり

車いす競技に衝撃を受けた, 「かっこいいな」初対面から4年後に距離が縮まり, 「真以子って普通に彼とけんかするんだ」と驚かれ, 両親に紹介するも心配が勝って…

久下真以子、羽賀理之

2022年、世界選手権終了後にオーストラリアにハネムーンへ

── 現在の旦那さん、車いすラグビー日本代表の羽賀理之選手とも、その後の取材で出会ったのですか?

久下さん:2015年にフリーランスとなって東京へ出てきたときに、以前取材した池選手が車いすバスケットボールから車いすラグビーに転向し、都内で合宿をしていると聞いて見学に行ったんです。そこに夫もいたのが初めての出会いでした。練習後はみなさんでごはんに。その後も何度か同じようなことがあり、帰る方向が近かった夫に車で送ってもらうようになりました。

── 羽賀選手の第一印象はどうでしたか?

久下さん:おつき合いしたいとかそういうことは考えませんでしたが、「かっこいいな」とは思いました。「好みの顔だな」と(笑)。夫は穏やかで寡黙なタイプですが、ふたりで話していると何だか居心地がよかったんですよね。ただ、アナウンサーと選手という間柄でしたし、基本的には大人数で会うだけだったので、実際につき合うようになったのは初めて出会ってから3〜4年後でした。

── ちなみに出会いのきっかけとなった池選手はバスケットボールからラグビーへ転身されたとのことですが、車いすスポーツではよくあることなのでしょうか?

久下さん:健常者だとまったく違うスポーツですが、車いすバスケットボールと車いすラグビーは共通する部分が多く、競技替えは珍しいことではないです。車いすラグビーは体育館の中で行い、4対4でプレイするスタイル。ラグビーボールを持って車いすで走り、トライすれば点数が入るので、車いすで走り回るチェアスキルやポジショニング、チーム内の連携や戦略の練り方は、車いすバスケットボールと共通するところがあります。

違うのは障がいの程度です。車いすバスケットボールの選手のほうが、足は不自由だけど上半身は動かせる方が多いのですが、車いすラグビーは四肢(両手・両足)に障がいがないと出てはいけない決まりがあるので、車いすバスケットボールより障がいが重度の選手が多くなります。

「真以子って普通に彼とけんかするんだ」と驚かれ

車いす競技に衝撃を受けた, 「かっこいいな」初対面から4年後に距離が縮まり, 「真以子って普通に彼とけんかするんだ」と驚かれ, 両親に紹介するも心配が勝って…

久下真以子、羽賀理之

婚約中。東京パラリンピックの代表メンバー発表会見にて。選手とメディアという立場で、同じ目標に向かった

── 羽賀選手とおつき合いに至るきっかけは何だったのですか?

久下さん:2018年にオーストラリアで車いすラグビーの世界選手権があり、日本代表が初めて優勝したんですね。彼がお土産を買ってきてくれたので、「お祝いの場を設けましょう」と初めてふたりで食事したのがきっかけでした。その後、東京パラリンピックが近づくにつれて取材の機会が増えましたし、しょっちゅう顔を合わせるようになって、距離が縮まりました。築地でお寿司を食べたら次は漁港が近い小田原へ行こうとか、ドライブ中に車中で聞く音楽で盛り上がって次はカラオケへ行こうとか、どんどん2人で会う次の予定が決まっていき、お互い気が合うことを意識し始めたんだと思います。

── 車いすユーザーの方とおつき合いするにあたって、戸惑いはありましたか?

久下さん:2019年、正式におつき合いしてくださいと言われて「はい」と答えたものの、すぐに同棲することになったので、「一緒に住んだらどうなるのかな?」という不安は少しありました。夫は、専門学生のときに交通事故にあってけい椎を損傷したため、胸から下がまひしていて、手は動かせますが不自由です。いちばん戸惑ったのはトイレでしょうか。ときには3時間くらいトイレにこもることもあるので、私はその間、トイレに行けず、外のトイレを使うということがあります。あとは、床に物があると車いすで通れないので、小まめに片づけをしなくちゃいけないんだ、という気づきはありました。ただ、着替えや食事など日常生活でパートナーが介助しなくちゃいけないとか、困ることがあるかというと、そうでもないです。

── つき合うと同時に同棲されたのですね。

久下さん:夫はずっと実家暮らしだったのですが、おつき合いする前に、たまたまひとり暮らしをするためにマンションの一室を買っていたんですね。それがきっかけで一緒に住むことにしたんです。

── お友達の反応はいかがでしたか?

久下さん:よく「真以子って、普通に彼とけんかするんだ」と驚かれます。「普通のカップルだからけんかもするよ」と答えると「障がいがある人に言い返してもいいんだね」と言われたこともあります。障がい者=気をつかわなくてはいけない人、というイメージなんでしょうね。たとえば料理も私ひとりがやるわけではありません。夫は包丁は使えないけどハサミで切る、焼く、ゆでるといったことは分担できるので、「お肉焼いてね」など普通にお願いします。ひとり暮らししようとしていたくらいなので、大抵のことはひとりでできるんですけど、身近に車いすユーザーがいなければ想像がつかないんだと思います。

両親に紹介するも心配が勝って…

車いす競技に衝撃を受けた, 「かっこいいな」初対面から4年後に距離が縮まり, 「真以子って普通に彼とけんかするんだ」と驚かれ, 両親に紹介するも心配が勝って…

久下真以子、羽賀理之

2023年、結婚式の前撮り写真

── 羽賀理之選手とは2年の同棲期間を経て、2021年に結婚されました。互いのご両親に相手を紹介したときの様子はいかがでしたか?

久下さん:私の両親は、最初は驚いていました。夫に対してということではなく、障がい者と結婚することに対してですね。未知からくる心配というか、車いすで生活する方が身近にいないからよくわからないうえ、アスリートの引退後の生活はどうなるんだといった、将来に対する漠然とした不安を抱いたようです。

また、実家の前の急な坂道を、私が車いすを押しながら移動しているのを見て、日常的に介助をしているかのように思ったそうです。介助は、よほどの坂道や悪道ではない限り必要ないですし、普段は自分で手動の車いすを動かしていると言っても信じてもらえなくて。日常生活に介助は必要ない、会社員だから引退しても家族の生活に影響が出るわけではない、ということをていねいに説明しました。

その後、東京パラリンピックに向けて車いすラグビーが盛り上がって夫がテレビに映る機会も増え「この人が娘の夫になるんだな」という理解を深めていったようです。東京パラリンピックで車いすラグビー日本代表が銅メダルを獲得したときはとても喜んでくれて「娘の夫がメダリストなんです」と周囲に自慢していたそうなので、意識がずいぶん変わりました。

── 旦那さんのご両親はどうでしたか?

久下さん:すごく喜んでくれました。夫の母は、夫が専門学生のころに交通事故にあったときのことを思い出したみたいで「車いす生活になった息子が結婚できるなんて思ってなかった」と言って泣いていました。

── 結婚の決め手は何だったのですか?

久下さん:つき合うときから「たぶんこの人と結婚するんだろうな」とは思っていました。20代の若いころは、お金持ちと結婚したいとか、男の人にグイグイとリードされたいとか、いかに「与えてもらうか」ということを考えていた気がしますが(笑)。夫とは何もしゃべらなくても心地いいし、たとえふたりに困難が降りかかったとしても何とかなるだろう、この人となら乗り越えられるだろう、という気持ちになれたんですよね。

結婚式であいさつをしてくれた友人の言葉が私たちの関係をよく表しています。「はたから見れば、健常者が障がい者を支えるカップルに見えるかもしれないけれど、メンタル的には真以子ちゃんのほうが支えられているんですよ」と。本当にその通りだと思います。

2年間の同棲を経て結婚を果たした久下さん。結婚当初から子どもについては夫婦で話し合っており、体外授精の末にお子さんを授かります。妊娠中は順調だったそうですが、胎児はなんと36週ですでに3200gを超えると推定され、37週で計画無痛分娩をすることになるも、15時間踏ん張っても子宮口が3cm弱しか開かず結局、翌日帝王切開で手術することに。予想外の連続でしたが、今は夫婦で協力しながら育児を楽しんでいるそうです。

取材・文/富田夏子 写真提供/久下真以子