イランの制空権奪ったイスラエル、いまだ未達成のロシア

石油精製施設から立ち上る煙が、イラン首都テヘランの住宅街の上空を覆う(15日)
イスラエルはイランへの攻撃開始から48時間以内に、首都テヘランを含むイラン西部の制空権を手にしたと発表した。イスラエルの戦闘機は高価な長距離ミサイルに頼ることなく、イラン上空から爆弾を投下し始めた。
大国ロシアの空軍は、3年半に及ぶウクライナとの戦争でこれをまだ成し遂げていない。2022年2月の侵攻直後に首都キーウ制圧に失敗して以降、ロシアの軍隊が過酷な塹壕(ざんごう)戦から抜け出せず、甚大な損失を出し続けている理由の一つが、制空権を奪えないことだ。
イスラエルは15日、この優位性を生かし、イラン西部に設置された数十基の地対空ミサイルを破壊し、イラン革命防衛隊(IRGC)の情報部門トップとその副官を殺害したと発表した。
二つの戦争は多くの面で大いに違っている。例えば、イスラエルの対イラン軍事作戦には通常の地上戦の要素がないことだ。だが、世界の軍関係者が注視する両紛争でいま起きていることは、軍事戦略担当者が何十年も前から知っていることを裏付けた。それは、空を制する者が全てを制するということだ。
「二つの軍事作戦は、全体的な軍事目的を成功させるために、制空権がいかに根本的に重要かを示している」。米空軍退役中将でミッチェル航空宇宙研究所の所長を務めるデービッド・デプチュラ氏はこう述べた。同氏は2001年、アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンと国際テロ組織アルカイダに対する有志連合の空爆作戦を指揮した。
「ロシアとウクライナの戦争では、どちらも制空権を握れない場合、どうなるかが如実に分かる。膠着(こうちゃく)状態と消耗戦への突入だ」と同氏は言う。「イスラエルとイランの戦争では、イランの一部の制空権を握ったことで、攻撃の自由を妨げられなくなった」

イスラエル中部ネタニヤの上空で戦闘機が空中給油する様子(15日)
イスラエルによる最初の空爆には、第5世代ステルス戦闘機F35(イスラエルが独自の改良を加えたもの)が使用された。イランの防空網の大半が制圧された今、F15やF16といった旧型戦闘機も参戦している。イスラエルはさらに、ミサイルに比べて安価ではるかに数が多い統合直接攻撃弾「JDAM」や誘導爆弾「SPICE」の投下も開始し、壊滅的な被害を与えている。
「わが軍は過去24時間でテヘランに至る空路を確保し、空中突破戦を実施した。IAF(イスラエル空軍)のパイロットは命の大きな危険を冒し、イスラエルから数百キロ離れた場所を飛行しながら、何百もの異なる標的を正確に攻撃している」。イスラエル軍のエヤル・ザミール参謀総長はこう述べた。
イスラエルは現在「攻撃用兵器を全て使用する能力があり、より大規模かつ効率的に、幅広く展開できる」。英空軍退役中将で現在は英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)中東事務所を率いるマーティン・サンプソン氏はこう述べた。同氏はシリアとイラクで過激派組織イスラム国(IS)に対する英空軍作戦を指揮した。「イスラエル側からすると作戦の目的は破壊と弱体化だが、イランにはその能力がない」
イスラエルはイランに対する作戦を策定する際、ロシアの失敗、そしてウクライナの成功から確かに教訓を得たようだ。だが軍事関係者やアナリストらによると、これまでの最も明白な教訓は、イスラエル空軍がもともとロシア軍よりも有能であり、ウクライナがイランよりもはるかに防衛能力が優れているということだ。
「イスラエルはイランの防空網に対して奇襲を仕掛け、圧倒的優位を確立した。それはウクライナの防空網に比べてあらゆる点ではるかに容易な標的だった」。ロシア軍とウクライナ軍の専門家であるカーネギー国際平和財団のマイケル・コフマン上級研究員はこう指摘した。「またイスラエル空軍とロシア空軍の質的能力の非対称性は大きく、容易に見て取れる」
ウクライナと同様、イランも敵と空中戦を戦って生き残れる戦闘機を持っていない。しかしウクライナと異なるのは、イラン政府が敵機の自国領空での活動能力を大幅に阻害できたはずの地上配備型防空システムの組織化に著しく失敗したことだ。
これは何よりも政治の誤算が招いた致命的な結果だった。イラン政府は数十年にわたって防空システムへの投資を後回しにし、その代わりに自国のミサイル部隊と代理勢力による抑止的な火力を重視していた。

イスラエルがレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラを標的にして、首都ベイルートを空爆した後、大量の煙が発生する様子(2024年)
だがイランの抑止力の主要な役割を担うレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは昨年、イスラエルの攻撃で壊滅的被害を受けた。その後、シリアのアサド政権崩壊によってイランとの物理的な連携が断たれた。それに続くイスラエルのシリア防空施設への爆撃により、イスラエル軍機がイランに向かう際に妨害されることなく使用できる空の大動脈が生まれた。
同様に決定的なのが奇襲という要素だった。ウクライナ軍司令部は2022年2月、移動式防空システムの大部分を分散し、隠せたが、それは差し迫るロシアの侵攻を米国の情報機関が警告したおかげだった。ウクライナの都市上空でロシアの戦闘機が何機か撃墜されたため、ロシアの有人機は前線を越えて作戦を行うのをやめた。この状況は現在も変わらない。ウクライナ領内の標的を攻撃するため、ロシアは限られた数の巡航ミサイルや弾道ミサイル、あるいは低速で搭載量の少ない無人機(ドローン)に頼らざるを得ない。一方、ウクライナは自国製ドローンで反撃に出ている。
2022年のウクライナとは異なり、イランは不意を突かれた。一つには、6月15日に予定していた米国とイランの核協議が進展しなかった場合、攻撃を始めるというイスラエルの敵を欺く警告が原因だった。実際には2日早く始まった。

ロシアの無人機に向けて対空砲を発射するウクライナ軍部隊
イスラエルの特殊作戦部隊はイランにひそかに侵入し、作戦開始に合わせて短距離ドローンでイランの重要な防空資産を破壊した。これは約2週間前にウクライナの情報機関がロシアの戦略爆撃機を爆破した時の手法にそっくりだ。それと同時にイスラエルは、イラン軍指導部の多数の暗殺に成功した。これも優れたスパイ活動が可能にした作戦だった。
「基本的にイスラエルがイランに行ったことは、ロシアがウクライナにやりたかったことと同じだ。ロシアは諜報(ちょうほう)活動を通じてウクライナ政権に潜入し、首を落とせると考えていた」。イスラエルの地政学アナリスト、マイケル・ホロウィッツ氏はこう述べた。「だがウクライナ社会は強靱(きょうじん)で、そう簡単に入り込めなかった。一方、イランでは政権が非常に不人気で、イスラエルへの協力者は容易に見つかる」
イスラエルの攻撃によって軍事標的だけでなく民間人の犠牲者が多数出たにもかかわらず、イランは弾道ミサイルの一斉射撃をイスラエルの都市に向けて続けており、同国にも死者と破壊が生じている。だが少なくとも当面は、時間がイスラエルに味方しているようだ。
「これは数のゲームであり、イスラエルが優位に立っているように見える。彼らは今、自分たちに向けて発射されているミサイルを直接攻撃できるからだ。結局、ミサイルを攻撃する最も有効な方法は、空中を飛んでいる時ではなく容器に格納され、地上にある時だ」。米空軍退役大将で地球規模攻撃軍団(AFGSC)の元司令官ティモシー・レイ氏はこう述べた。「イスラエルは今、優位性を着実に生かしているのだ」
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――筆者のヤロスラフ・トロフィモフはWSJ外交担当チーフコレスポンデント