B級アクション映画の夏、到来。ジョン・ウィック最新作『バレリーナ』

Image: Liongate|雪のアルプスに舞い降りた火炎放射の殺し屋イヴ(アナ・デ・アルマス)

脳のスイッチを切ってしまえ。

そんな悪魔のささやきに屈してしまった…。

映画批評をやってる手前、それは絶対やらないことにしてるんですが、 こんな豪華キャストは久々なんで、つい…。結論から言ってその見方で正解でした。

辛口レビューを書くとよく「脳のスイッチ切って楽しんじゃえよ」って言う人いますよね。いつもの自分なら「名画ならその必要ないんだけどね」って言い返したりしてるんですが、こと『バレリーナ』に関しては別。

駄作でありながら、めくるめく名シーンの連続で、そんな屁理屈どっかに飛んじゃってました

内容的には頭使わなくてもわかるストーリー展開で、どこにでもある冷酷無比な復讐劇。なんだけど、アクションシーンがすばらしくて、こんな薄っぺらなストーリーによくもまあこんな超ド級のアクション突っ込んできたなーって呆れてしまうほど。気づいたら思考完全停止で見入ってたってな次第です。

まずはあらすじを

時系列的にはシリーズ第2作と第3作の間。主役イヴ(アナ・デ・アルマス)は孤児。ジョン・ウィックの古巣の犯罪組織ルスカ・ロマで暗殺の訓練を積んで復讐に挑みます。不幸な生い立ちの説明はよくできてるんですが、「父親を殺したやつに地獄を見舞う」という話がメインで、バレエ学校の話やら何やらは隅に追いやられてます。

まあ、キアヌ・リーヴス主演の第1作も犬を殺された復讐劇でしたが、今回はそれが「父親」になっただけ。単純明快です。

イヴはいろいろ聞き回って殺人の背後にある組織に辿り着くわけですが、話としては全然おもしろくありません。シーンごとに何が起こるかは、映画の冒頭でほぼ見当がつくというか。わかり切ってることなんで。

めまぐるしくシーンが変わる

そんなことより出色なのはレン・ワイズマン監督率いるチームの演出で、シーンごとに舞台も戦闘スタイルも凶器もガラリと変わっちゃうんです。路地のカーチェイスは口あんぐりだし、地下の戦闘シーンでは手りゅう弾が飛び交うわ(冷静に考えるとあり得ない状況)、火炎放射のシーンもあるわで、我を忘れて見入るとはこのこと。

あまりにも傑作なので、ほかのことは一切気にならなくて、気にならなくなってることにも気づかない状態。ダイナミックでイノベーティブなアクションにただただ身を沈めていたい、と心から思ってました。もちろん、デ・アルマスのスター性は言うまでもありません。カリスマ性ありすぎ。外伝の続編が待たれます。

Image: Lionsgate|ジョン・ウィック(キアヌ・リーヴス)。出番が少ないけど展開のキーロールを握る

ジョン・ウィックは出ないほうが…

イヴを取り巻く脇役陣はアンジェリカ・ヒューストン、ランス・レディック、イアン・マクシェーン、ガブリエル・バーン、ノーマン・リーダスといった『ジョン・ウィック』シリーズの新旧さまざまな顔ぶれ。最終的にはキアヌ・リーヴスも出てきますが、これは逆効果。あまりにも作品のフォースが強く高まりすぎて、イヴもジョン・ウィックも弱く見えてしまうと感じました。

どっかで登場させないとシリーズ作の体裁が整わないし興行的にアレなのはわかるんですが、ジョン・ウィック、出ないほうがよかったわ

ジョン・ウィックは要らないけど、もっとおもしろいストーリーは要るし、もっといいキャラクター設定、もっと深いエモーションも必要。でもそうやってバランスよく作っちゃうと、それはもはや『バレリーナ』じゃないんだよね。

『バレリーナ』は脳みそOFFにして超絶アクションに没頭したい人ならともかく、それ以外のものも求めてる人にはまったく刺さらない映画です。

前作までのエモさがないのは終盤に差し掛かることにはもうわかってたけど、それが不思議と怒りにはならなくて。映画館出て半歩で忘れちゃうストーリーなのにアクションは絶対忘れない真のエンターテインメント。青い薬と赤い薬じゃないけど、どっちか選べって言われてる気がしました。

日本は8月劇場公開です。