習近平国家主席が唱える「中華民族の偉大な復興」とは 揺れ続ける「中華」のかたち

『民族がわかれば中国がわかる』安田峰俊著(中公新書ラクレ)
中国軍の戦闘機が海上自衛隊の哨戒機に異常接近した。日本への威嚇が続く中、習近平国家主席が唱える「中華民族の偉大な復興」の向かう先が気になる。中国には「夷狄(いてき)(周辺の異民族)」を「中華」の下に見る中華思想がある。習氏の言う「中華」はどこまで広がっているのか。
『民族がわかれば中国がわかる』安田峰俊著(中公新書ラクレ)によると、中国には多数派の漢族をはじめ56の民族区分があり、中国人が携帯する身分証には民族も記載されている。「中華民族」はその上位にある概念とされる。
少数民族を識別する基準は居住地や言語といった要素だけではなく、「当局が漢族以外の人々を統治するため、行政上の必要から作った識別の枠組みとしての性質も強い」といい、例えば「回族」は漢語を話すイスラム教徒のこと。習政権下では、漢族の歴史や文化・言語を中華民族の規範として位置付ける風潮が顕著になっているという。

『中華とは何か』松下憲一著(ちくま新書)
著者は、現在の中国は世界一巨大な単一民族国家を作る道を歩もうとしているのではないかと懸念を示す。本書の執筆動機を、中国の沖縄に対する介入姿勢が本格化し、「中国的な『民族』の政治化」が日本とも無縁でなくなってきたからだと記している。
「気づけば誰もが中華」
『中華とは何か』松下憲一著(ちくま新書)では、「誰でも中華になれる」「気づけば誰もが中華になっている」のが中華の本質で、あらゆるものを内部に取り込んで膨張する性質が中華文明拡大の要因だとしている。中華と夷狄の差は「文明を有するか否かの差」で、血統の違いではないそうだ。

『倭寇とは何か』岡本隆司著(新潮選書)
本書は中国史を遊牧民の視点から捉え直したもの。中国史の特徴として、王朝交代と中華文明の持続の2つを挙げる。王朝交代に合わせて分裂と統一が繰り返され、秦から清の2000年のほぼ半分が異民族王朝。それでも中華文明が存続した理由は、中華思想にあると指摘する。
中華思想には、夷狄も感化されて中華になるという融合的な側面もある。中華世界の支配者は有徳者で、民族や出自は関係ない。この思想を異民族の支配者が利用し、中華文明を保護することで支配を正当化した。中華民国の時代には、多民族を統合するため「中華民族」の創出を目指して少数民族の漢民族化が推し進められた。現在はその流れが加速しているという。
改革開放で過熱
『倭寇(わこう)とは何か』岡本隆司著(新潮選書)は、華人と夷人の混成である倭寇の「華夷同体」構造が今も中華を揺さぶっているとみて、習政権を読み解く。
倭寇は日本列島も包み込む華人の貿易ネットワークで、海外と通じて体制に反抗した。「夷」が勝ちすぎると政治的な遠心力が強まって「華」を損なう。改革開放や香港の一国二制度も「華夷同体」に相応し、習政権誕生時は改革開放で市場が過熱して「夷」が勝ちすぎる局面になっていた。習氏の強権ぶりは中央に背きかねない「華夷同体」を抑え込む役割だと説明できるという。逆に「華」が勝って「夷」から経済的な効能をうまく引き出せなくなった例として、毛沢東の施政を挙げている。 (寺田理恵)
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『民族がわかれば中国がわかる』安田峰俊著(中公新書ラクレ・1100円)
『中華とは何か』松下憲一著(ちくま新書・1078円)
『倭寇(わこう)とは何か』岡本隆司著(新潮選書・1760円)