難航する日米関税交渉、トランプ氏の誤算

米国のハワード・ラトニック商務長官とジェミソン・グリア通商代表部(USTR)代表は、日本との数週間にわたる交渉の末に貿易協定で合意に至らなかったことを受け、圧力を強めることを決めた。

事情に詳しい複数の関係者によると、5月下旬に日本の当局者が米首都ワシントンに到着した際、ラトニック氏とグリア氏は、両国が早期に合意に至らなければ、交渉テーマが、ドナルド・トランプ大統領が最近課した関税の緩和から追加の懲罰的措置へと移行し始める可能性があると警告した。ラトニック氏とグリア氏は、米国に輸出できる自動車の台数に上限を設けるよう日本側に要求する可能性があると述べた。これは「輸出自主規制」として知られる政策だ。

しかし、日本の当局者は一歩も引かなかった。交渉に詳しい関係者らによると、日本側は当初から、トランプ氏が課した25%の自動車関税を維持するいかなる合意にも応じない、と米国側に伝えていた。この膠着(こうちゃく)状態は続いている。

トランプ氏は6月30日、日本政府との交渉を打ち切ったように見えた。同氏は自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に、日本は「深刻なコメ不足に陥っているにもかかわらず、われわれのコメを受け入れようとしない」と投稿した。実際には、日本は世界貿易機関(WTO)協定の下、米国産のコメを毎年数十万トン輸入している。トランプ氏は「われわれは彼らに書簡を送るだけだ」とも述べた。これは、米国に支払うべき額を貿易相手国に指示するという、同氏の度重なる公約に言及したものだ。

カナダで開催されたG7サミットでトランプ米大統領(右から4人目)ら各国首脳(6月16日)

トランプ氏は前日のFOXニュースのインタビューで、日本宛ての書簡がどのような内容になるかを示唆していた。「親愛なる日本様、話はこうだ。貴国は自国の車に25%の関税を支払うことになる、分かっているか? だからわれわれは日本に車を渡さない(車を売らせない)。彼らはわれわれの車を受け入れないのだから」

トランプ氏は自身が「解放の日」と呼ぶ4月2日に数十カ国に対する「相互関税」を発表し、後日発動したが、すぐにその一部を停止した。ホワイトハウスは7月9日までに一連の貿易協定を締結すると明言した。日本との対立は、それがどれほど困難なことであるかを示している。

複数の協定交渉を試みているトランプ政権高官らは、目標や日程について互いに矛盾した発言をすることがある。トランプ氏が書簡送付に言及したことで、状況はさらに混乱している。トランプ氏が相互関税を課すために用いた緊急権限の合法性を巡り、7月下旬に連邦控訴裁判所の審理を控えていることも、不確実性に拍車をかけている。

関税の一時停止措置の期限さえも疑問視されている。6月27日、スコット・ベッセント財務長官が一部の国は延長される可能性があると示唆した後、トランプ氏がさらなる不確実性をもたらした。同氏は記者会見で「われわれはやりたいことができる」と語った。「延長することもできるし、短縮することもできる。私は短縮したい」。ところが1日には、期限延長は「考えていない」と述べた。

この混乱した状況に日本などの国々は困惑している。米国側が何を望んでいるのか、いつまでに合意をまとめなければならないのか分からずにいる。これまでのところ、トランプ政権は英国と限定的な貿易協定を結び、中国と「関税休戦協定」を結んだだけである。交渉プロセス全体に影を落としているのは、トランプ氏が以前、取引しない国々に対しては「解放の日」関税を復活させると約束していることだ。そうなれば、市場が再び混乱しかねない。

ホワイトハウスのクシュ・デサイ副報道官は、政権は「米国の産業と労働者を置き去りにしてきた不均衡な貿易協定の再交渉に、貿易相手国と24時間体制で取り組み続けている」とし、さらなる協定が実現する日は近いと述べた。

右から赤沢再生相、ベッセント米財務長官、ラトニック米商務長官(ワシントンで5月1日)

トランプ氏に近いケビン・クレーマー上院議員(共和、ノースダコタ州)はインタビューで、グリア氏と一連の交渉について話し合ったとし、政権が公言しているよりも合意には時間がかかるかもしれないと語った。

クレーマー氏は「枠組みをまとめるのは簡単で、彼らはその段階にいるが、実際の詳細については長い時間がかかる」とした上で、交渉プロセスには自信を持っていると述べた。「彼らは少し期待を膨らませ過ぎたのかもしれない」

当初の楽観論

ピーター・ナバロ大統領上級顧問(貿易・製造業担当)は4月、トランプ政権は90日間で90件の協定を締結できると述べた。5月上旬に英国と限定的な協定を結んだ後、トランプ氏は今後協定が急速にまとまり始めると確信していると述べた。

政権高官らは、その勢いを維持するために日本に期待を寄せた。日本は第1次トランプ政権下の米国と貿易協定を結んでいた。米国側は、日本には合意に達するインセンティブがあると信じていた。有利な協定を結べば、石破茂首相率いる少数政権への追い風になり得るからだ。  米国は交渉が進む中で関税を引き上げることで、日本などの国々との交渉上の立場を複雑にした。例えば、6月にはトランプ氏が世界的な鉄鋼関税を2倍にした。貿易相手国への事前警告はなかった。木材や半導体、重要鉱物などに対する「国家安全保障関税」は計画段階にあり、一部の国はそれらが発表される前に協定を結ぶことに慎重だ。トランプ政権の好戦的なアプローチは、交渉相手国の一部で政治問題にもなり、米国への協力よりも抵抗を促した。

「われわれは時々、他国にも政治があることを忘れがちだ。貿易は特定の有権者層に直接的・間接的な影響を与えるため、国内政治を活発化させる傾向がある」。オバマ政権でUSTR代表を務め、現在は外交問題評議会の会長を務めるマイケル・フロマン氏はそう述べた。

トランプ氏が4月9日に相互関税を一時停止して以降、日本の交渉チームを率いる赤沢亮正経済再生担当相はワシントンを7回訪問した。同チームは、ラトニック氏と共に米国の交渉を主導しているベッセント氏とグリア氏のスタッフと、ほぼ絶え間なく連絡を取り合ってきた。

リッチモンド地区連銀によると、トランプ氏の日本に対する相互関税は、一時停止前には24%に設定されており、それまでの平均関税率(約1.5%)をはるかに上回っていた。日本側は相互関税の引き下げを求めることに加え、英国が鉄鋼・自動車関税で一部救済を受けたということもあって、業界別関税の引き下げが実現しない協定には一切同意できないと繰り返し述べている。6月、赤沢氏は再度の交渉の後、いかなる協定においても米国の全ての関税が引き下げられなければならないと述べた。

日本の一部の当局者は、相互関税と業界別関税の両方の引き下げか撤廃が実現しない協定に合意すれば、失態を演じたと国内で受け止められ、20日に参院選という重要な選挙を控える石破政権の崩壊につながる可能性があると、ひそかに懸念している。日本の重要なコメ産業の保護低下につながる協定で合意した場合も、選挙で石破政権の逆風となりかねない。

石破首相は交渉打開に向けてG7サミットへ向かった

石破氏は6月、先進7カ国(G7)首脳会議に出席するためにカナダに飛んだ。米国側に落としどころを探るよう迫る狙いがあったが、トランプ氏との会談では打開策は得られなかった。

石破氏は記者団に対し、「双方の認識が一致していない点が残っている」と語った。「自動車というのは本当に大きな国益だ。こういうことの国益を守り抜くために最善の努力を重ねるということに尽きる」

自民党のある有力議員によると、石破氏の側近の一部は、90日間の関税停止期間が終了に近づくにつれて金融市場が不安化すればトランプ氏が折れるのではないかと期待して、関税緩和要求を堅持すべきだと主張している。

トランプ政権のある高官によれば、同氏の顧問らは、合意に至らない場合に日本に追加関税を課す可能性について議論している。協議に詳しい関係者らによると、日米間には自動車関税といった主要な問題で大きな溝が残っているようだ。両国は6月下旬の時点で、協定にそれらの関税を含めるか、あるいは相互関税のみに焦点を当てるかさえ決めていなかった。

USTRのある当局者はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に対し、トランプ政権は日本よりも真剣な提案を提示した貿易相手国との交渉を優先していると語った。