老朽化進む「中央道」 10年で半数が50年選手! 渋滞と工事の深刻化を読み解く
開通60年目前の危機感
中央自動車道(以下、中央道)は、首都圏と中京圏という日本の主要都市圏を結ぶ幹線高速道路である。起点は東京都杉並区の高井戸インターチェンジ(IC)。神奈川県、山梨県、長野県、岐阜県を経て、終点は愛知県小牧市の小牧ジャンクション(JCT)に至る。本線に加え、大月JCTから富士吉田ICまでの支線を含めると、総延長は約368kmに及ぶ。
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中央道は戦後の高速道路整備計画において、早期の開通が見込まれていた。しかし、東名高速道路(以下、東名)との建設優先順位の争いや、山岳地帯におけるトンネル開削の難航などが影響し、着工から全線開通までに長い時間を要した。初開通は1967(昭和42)年12月、全線が開通したのは1982年11月。開通までに約15年を要した。
2025年6月時点で見ると、初開通からまもなく60年、全線開通からも約45年が経過する。交通量も年々増加傾向にあり、1日あたりの利用台数は以下のとおりだ。
・1982年度:約15万台
・2017年度:約22万台
35年間で約7万台の増加となった。ネットワークの広域化により一時的な減少傾向も見られたが、現在も全線開通時を上回る交通量を維持している。累計利用台数は2021年度末時点で約38億台を突破した。
こうした長年の利用により、道路構造物の老朽化が深刻化している。とくに、初開通区間にあたる高井戸IC~八王子ICや、中京圏に位置する中津川IC~小牧JCTなどは交通量が多く、劣化が進行している。このほか、以下の分岐点も交通の要衝として知られ、負荷が集中している。
・八王子JCT
・大月JCT
・双葉JCT
・岡谷JCT
・土岐JCT
開通から年数が経過した区間、また交通量の多い区間では、老朽化のスピードがとくに速い。そのためNEXCO中日本は、2018年から段階的にリニューアル工事を実施している。抜本的な補修によって、今後の安全な交通機能の維持が求められている。
延べ10区間に及ぶ長期工事

中央道諏訪IC~岡谷JCTも2025年度にリニューアル工事が実施予定(画像:都野塚也)
中央道では、2025年度に計10か所で集中工事が予定されている。対象区間と工期は以下のとおり。
・高井戸IC~八王子IC:5月上旬~5月下旬
・国立府中IC~八王子IC:通年
・八王子IC~八王子JCT:通年
・上野原IC~大月IC(下り線):2026年1月上旬~10月
・韮崎IC~須玉IC:5月上旬~11月下旬
・小淵沢IC~諏訪南IC:8月下旬~11月下旬
・諏訪IC~岡谷JCT:8月下旬~11月下旬
・岡谷JCT~伊那IC:4月上旬~7月下旬
・松川IC~中津川IC:5月上旬~12月上旬
・土岐JCT~小牧東IC:5月上旬~12月中旬
高井戸IC~八王子ICは例年5月に実施される集中工事。それ以外の区間は、いずれも老朽化に対応したリニューアル工事である。工期は最短でも3か月以上、通年にわたる長期工事が大半を占める。
とくに国立府中IC~八王子ICは、渋滞のボトルネックとされる区間である。ここでは車線拡張にともなう長期工事が進行中だ。また、土岐JCT~小牧東ICは交通量の増加に加え、小牧ハイウェイオアシスの開業を見据えた改良工事が行われる見込みだ。
多くのリニューアル区間では、1車線を規制して工事を行うため、通行は片側1車線に制限される。例えば韮崎IC~須玉ICでは、工事期間中に3kmの渋滞で1時間以上を要するケースも発生している。
国立府中IC~八王子ICの工事では、他路線でも導入されつつある「シフト工法」が採用されている。この手法では、工区を分割しながら車線を移動させることで、常時2車線以上の通行を確保する。全体の工期は5年以上を要するが、工事中の渋滞を最小限に抑える利点がある。
1兆円超リニューアル予算

中央道調布IC~八王子ICは、すでに開通からまもなく58年を迎える(画像:都野塚也)
高速道路の歴史は意外と古い。1963(昭和38)年7月、名神高速道路の栗東IC~尼崎ICが最初に開通した。それ以降、主要幹線に加え、並走路線や地方間を結ぶローカル路線も整備されてきた。
こうした経緯により、多くの路線で老朽化が進んでいる。NEXCO中日本の管轄では、開通から50年以上経過した路線の割合は年々増加している。
・2024年:約30%
・2034年:約50%
10年後には、半数近い路線が50年超の「老インフラ」となる見込みだ。さらに、交通量の増加や大型車の積載量増により、老朽化は一層進行している。
一方で、この半世紀で日本の建設技術や工事機材は大きく進歩した。従来は部分的な補修にとどまっていたが、近年は根本的な修繕で、当初の性能を回復、もしくはそれ以上を実現するリニューアル工事が本格化している。
NEXCO中日本では、2015年3月に初のリニューアル工事プロジェクトを事業化し、総額約1兆5675億円の予算を計上。2024年3月には、新たに約4788億円を追加した更新計画も事業化された。
なお、高速道路の新設には1kmあたり約50億円が必要とされる。中央道(全長約368km)を全面的に新設すれば、少なくとも約1兆8400億円が必要になる計算だ。中央道は山岳区間が多く、トンネルも多いため、実際の建設費はさらに膨らむ可能性が高い。
つまり、中央道全線を新設する費用で、NEXCO中日本全体の大規模更新が実施できることになる。今後も高速道路は日本の物流と経済を支える重要インフラであり、リニューアル工事はその持続性を確保するうえで不可欠な取り組みである。
渋滞が招く経済損失

工事渋滞のイメージ(画像:写真AC)
工事期間中、どの程度の渋滞が発生するのか。韮崎IC~須玉ICのような深刻な混雑が他の区間でも起きるとすれば、無視できない問題となる。過去の渋滞データを振り返る。
高井戸IC~八王子ICでは、毎年5月に平日夜間の集中工事が実施されている。2024年5月10日(金)19時の時点では、以下の渋滞が確認された。
・上り線:国立府中IC~府中スマートICで約4km
・下り線:首都高4号新宿線で約12km
この結果、通常は33分で走行可能な「西新宿JCT~八王子JCT」間の所要時間が、次のように大幅に延びた。
・上り線:72分
・下り線:75分
上下線ともに、通常の倍以上の時間がかかった計算となる。
2025年に予定される松川IC~中津川IC、および土岐JCT~小牧東ICのリニューアル工事でも、ピーク時には次のような渋滞が予測されている。
・平日:約5km
・休日:約10km
・3連休・大型連休:約15~18km
この場合、通常より大幅に長い所要時間が必要になると見られる。
渋滞による影響は幅広い。沿道住民の日常の移動に加え、物流業・観光業、さらには医療体制にも及ぶ。実際に、日本赤十字社・長野県赤十字血液センターの公式サイトでは、渋滞による医療物資の遅延リスクについても注意喚起がなされている。
また、集中工事やリニューアル工事の影響で、多くの車両が一般道や他路線へ迂回する。その結果、周辺道路の混雑も深刻化する傾向があり、渋滞の影響範囲はきわめて広い。
利用者視点の工事戦略

不満を持つ利用者のイメージ画像:写真AC)
集中工事やリニューアル工事に対して、実際の利用者が感じている負担や不満には以下のようなものがある。
・工事規制の範囲が必要以上に長い
・工事をしていない区間でも車線が規制されている
・同じ区間で何度も工事が行われている
・同時期に多数の区間で工事が実施されている
・渋滞が長く、所要時間が大幅にかかる
前2項の背景には、安全確保という事情がある。近年では工事従事者の安全対策が強化されており、実際の作業場所に加えて、余裕をもった規制区間の設定が求められている。加えて、工事前の準備や資機材の移動なども必要となるため、作業時間以上に長い規制が敷かれるケースも多い。
後3項に関しては、国土交通省やNEXCOが「利用者視点の工事マネジメント」の考え方を導入している。その一例が集中工事である。個別に何度も規制するのではなく、短期間で集中的に作業を行うことで、年間の工事回数と渋滞の発生頻度を抑える狙いがある。
実際に東名高速では1988(昭和63)年度から集中工事が導入され、工事回数は以下のように削減された。
・実施前:約4300回/年
・実施後:約2670回/年
結果として、工事による交通規制は約4割減少し、渋滞時間の大幅な短縮にもつながった。
また、ピーク時の混雑を避ける工夫もなされている。複数区間の工事時期が重ならないよう調整し、ゴールデンウィークやお盆、年末年始といった多客期を避ける配慮も行われている。
渋滞の問題は依然として深刻だが、国土交通省やNEXCOは、早期の工事情報提供によって、迂回ルートや通行時間の分散利用を促す取り組みを進めている。
代替ルート建設の費用課題

情報発信が広がるイメージ(画像:写真AC)
国土交通省やNEXCOは、集中工事やリニューアル工事による渋滞対策を多角的に検討している。渋滞抑制の観点では、中央道の国立府中IC~八王子ICにおける車線シフト方式が効果的とされる。この方法は工事期間が長期にわたるが、工事中でも渋滞の深刻化を抑えられる利点がある。
ただし、長期工事にともなう継続的な費用捻出が必要であり、道路幅が十分でなければ導入は難しい。代替ルートを新設して既存道路の工事を行う手法もあるが、建設費用の負担が大きい課題が残る。そのため現実的には、既存の迂回ルート活用や通行時間帯の分散が促されている。
しかし、利用者が慣れない地域で工事が行われる場合、迂回ルートがわからず混乱を招くことが多い。道路管理者は工事情報や迂回ルートを迅速かつ多様な手段で周知する責任がある。現在はサービスエリアの情報板や電光掲示板、テレビ、ウェブサイトなどで情報発信を行っている。
それでも、迂回ルート利用や時間帯分散の推奨はまだ十分とはいえない。利用者の関心を高めるとともに、発信側のさらなる努力と工夫が求められている。
交通量対応の半断面施工導入

リニューアル工事の現場(画像:写真AC)
利用者にとっても、リニューアル工事で実際にどのような作業が行われているのかは関心が高いはずだ。工事内容を知ることで、リニューアル工事への理解が深まる。
主な工事は道路の床板取り替えである。路面が最も負担を受けるため、床板の交換が最重要作業となる。2015(平成27)年度の「高速道路リニューアルプロジェクト」開始当初は、全断面施工で実施された。全断面施工では、上下線のどちらかを対面通行に切り替えて工事を行うが、交通量が多い区間では大規模な渋滞が発生する欠点があった。
近年は交通状況や地形に応じて、上下線のどちらかで片側2車線以上を確保する半断面施工も導入されている。中央道のリニューアル工事も、この半断面施工が大半を占めている。
高速道路の設備のなかで特に老朽化が進みやすいのはトンネルと橋だ。トンネルや橋では床板の張り替えに加え、別の工事も行われる。主なものは、トンネルのインバート設置や覆工補強、橋の高性能床板防水施工や桁補強である。
トンネルは外部からの土砂圧力を受けるため、インバートという土砂圧力を安定させる構造物の設置と、覆工壁の補強を実施する。橋は水による老朽化が進みやすいため、防水性能の高い床板を設置し、耐久性向上のため桁補強を行う。
リニューアル工事の実施箇所を見ると、トンネルや橋が多い。トンネルや橋を走行する際は、こうした背景を理解することで、安全運転に役立つだろう。
走行台数キロの将来予測

これから高速道路は必要か不要か(画像:写真AC)
ここまで大規模な工事を行い高速道路を維持する必要があるのか、高速道路の将来について考える。まずは国土交通省が発表したNEXCO3社の年間交通量の現状と予測を確認する。単位は走行台数キロで、道路交通の総量を示す指標だ。2020年度は約7060億、2030年度は約6870億、2040年度は約5850億と推定されている。日本全体の人口減少や自動車離れにより、今後は高速道路の利用者が減少すると見込まれている。
しかし、日本国内の輸送貨物の約4割が大型車による高速道路輸送で占められている現状がある。今後は積載量の増加にともない、路面への負担も増加すると予想される。物流の観点からもリニューアル工事の実施は意義が大きいといえる。
さらに単純な交通量の減少だけでなく、今後も各地で新たな路線開通が予定されており、高速道路ネットワークの拡大は明らかだ。利用者が安心して高速道路を使い続けるためにも、リニューアル工事は不可欠である。
もちろん、現在の費用負担や環境問題も無視できない。国土交通省やNEXCOを中心に、これらを踏まえたバランスのとれた政策の実行が求められている。
工事理解促進の国とNEXCOの役割

メリットとデメリットの比較も重要(画像:写真AC)
集中工事やリニューアル工事への理解が深まったとしても、利用者の負担や不満が完全に解消されるわけではない。工事による渋滞は避けられず、渋滞がなくても車線規制による走行時の緊張は続く。
特に普段使わない路線での大規模渋滞は、利用者にとってメリットが感じにくく、不満が高まりやすい。そうした地域や区間の工事でも、将来のためだけでなく利用者にとっても有益であることを理解してもらうために、国やNEXCOによるサポートが必要である。
点ではなく線で全体を捉える重要性を伝えることは、現状と将来のバランスをとるうえで欠かせない。国やNEXCOは情報発信の正確性、迅速性、多様性を強化している。
事前の工事情報提供から、リアルタイムの工事状況や渋滞情報まで、多様な形態で発信している。高速道路上の仮設電光掲示板による所要時間表示や、X(旧ツイッター)などのSNSでのリアルタイム情報発信など、工事や渋滞情報の入手手段は増加している。
利用者はこれらを最大限活用し、各自で工事対策を講じることが求められる。
3kmで1時間超の渋滞問題

景色がきれいな中央道(画像:都野塚也)
道路管理者は多様な手法を模索しながら集中工事やリニューアル工事を進めている。中央道でも徐々に、毎年5月に行われる集中工事による渋滞の規模が緩和されている実感がある。
しかし、それでもなお大幅な所要時間を要する渋滞が発生することは避けられない。場合によっては、3kmの距離で1時間以上かかるケースもあるため、利用者にとって渋滞の規模を予測しづらいのが工事渋滞の厄介な点である。
とはいえ、工事に関する情報提供能力は年々向上している。利用者側も、どの情報手段を使い迅速かつ的確に情報を得るかが重要となる。
また、利用者の声やアンケートを踏まえ、今後の工事手法を検討する外部評価型マネジメントの導入にも期待がかかる。現状の利用者の意見を尊重しながら政策を進めることが、これからの課題だといえる。