発達障害の子どもの子育てによる親のストレス その原因と抑うつを防ぐための対策とは

発達障害の子どもの子育てによる親のストレス その原因と抑うつを防ぐための対策とは
「障害のある我が子の支援のために親の自由が奪われることは、果たして正しいのか?」
前回のコラム
では、発達障害をテーマにしたフランス映画「My Everything」のAnne-Sophie Bailly監督が作品で投げかけたこの疑問を取り上げ、私はこの問題はフランスより日本の方が根深いと考えました。同時に様々な研究結果から「発達障害の子どもの子育てによる母親の負担」に関して以下の四つが考えられました。
① フランスより日本の母親の方が、子育てに費やす時間が長い
② フランスより日本の母親の方が、発達障害の子どもの子育てのストレスが高い可能性がある
③ フランスより日本の母親の方が、発達障害の子どもの子育て由来の抑うつのリスクが高い
④ 母親がひとり親であれば、ストレスや抑うつリスクは高まる
「発達障害の子どもの子育てによる父親の負担」に関する研究はほとんど見当たらないため、このように母親主語でコラムを進めますが、もちろん子育てをする父親もたくさんいらっしゃいます。性差があるので違和感があると思いますが、今回のコラムで父親の皆さんは、「母親」を「父親」と解釈して参考程度にお読みください。私としては「父親による発達障害の子どもの子育ての研究」も増えてほしいと願っています。
さて、発達障害の子どもの子育ては定型発達の子どもの子育てよりストレスが大きいと多くの研究結果が示しています。では、具体的にどんなストレスがあるのでしょうか? 子育てによる親の抑うつを防ぐためにどんな予防や対策ができるのでしょうか?
映画の主人公で、成人した発達障害の息子を持つ母親Monaは「夜の街で遊び歩いたり、自分の色恋を楽しんだりする」ことで、自分の社会的欲求や承認欲求を補っているように見えました。
おそらく多くの発達障害の子どもの子育てをしている親が、本能的な必然性から、何かしらのストレス発散をして抑うつを予防していると思います。そこで今回のコラムでは、発達障害の子どもの子育てのストレスを切り分けて、より具体的な原因を確認し、対策があるなら抑うつ予防の材料にしてみたいと思います。
その前に、私自身の発達障害の子どもの子育てのストレスについて、意見を明確にします。
「子育てにはストレス発散も必要だよね」
そういう意見もあるかもしれません。
でも、私にはそんな願望が浮かんだことがありません。私は、発達障害の息子との時間をストレスや犠牲と感じたことがありません。息子と過ごす時間より楽しいものは見つかったことがありません。
障害者のいる家族にとって、支援は終わりの見えない戦いで、自分の人生の幸せや自己実現を捨てて、耐え忍んだ「自己犠牲」の上に成り立つもの、と思われがちですが、私はそう感じたことがありません。
息子の将来の幸せは、私の最大の幸せです。幸福量はトレードオフ関係ではなく、相関関係です。
私はアナウンサーになって四半世紀、個人的趣味であるボクシングやフィギュアスケート観戦などを仕事として生きられる幸運に恵まれています。近年は、現在進行形で世界のボクシング史に記録と記憶を刻む井上尚弥選手の練習や日常から試合までを伝える機会をいただけています。「趣味が仕事になる」が、まさか自分の人生に起こるとは思わず、これほど幸せなことはありません。
ただ、それ以上に幸せなことが、息子との時間です。発達障害の息子のために自分の時間と自分の命を使うことに「喜び」と「使命感」を感じます。
そうは言っても、この先の人生で「発達障害の子育て」でストレスを感じる日が来るかもしれない。用意周到、準備万全、転ばぬ先の杖(つえ)。息子のリスクを最小化して穏やかに生きてほしいと思い、今回のような「発達障害子どもの子育て=親のストレス」を勉強し、対策を考えています。
「発達障害の子どもを育てる母親のストレス」の原因

発達障害の子どもの子育てによる親のストレス その原因と抑うつを防ぐための対策とは
「発達障害のストレスは周囲との関係性で構築され、周囲との関係性で緩和される」といわれます。そこでまずは、様々な論文から「発達障害の子どもを育てる母親のストレス」をピックアップしました。発達障害の子どもの親のストレスは、子どもの成長とともに低減すると言いますが、複数の論文からピックアップした「ストレスの原因」は「学生時代の子ども」の内容がほとんどでした。大人の発達障害も親のストレスの原因になることはありますが、今回は学生時代に絞っています。
その上で、ストレスの原因を「子どもとの関係」「家族(親族)との関係」「周囲との関係」で分類しました。
【子どもとの関係にストレスの原因がある】1.子どもが発達障害と診断される前、問題行動の理由がわからず混乱する
2.子どもへの理解と対応が困難である
3.親の言うことを聞かない子どもに対してやり場のないいらだちがある
4.子どもに二次障害がある
5.社会的ひきこもりの状態にある
6.発達障害の支援方法や相談先など知識や情報を得る苦労が負担である
7.発達障害は治るものではないので、悩みの長期化と戦う力が求められる
8.子どもの将来の自立への不安がある
9.子育てのために、自分自身の自由な時間がとれない
10.自分の子どもへの不適切な対応に自責の念が強まる
11.自分の土台が崩れてしまうような自分自身が不確かな状態に陥る
12.ダウン症のような誕生時に分かる障害と発達障害では、障害受容までの期間が異なる(※
発達障害の障害受容は「 螺旋(らせん) 形モデル」で子どもへの肯定と否定を繰り返します
)【家族との関係にストレスの原因がある】13.家族の絆が弱い
14.父母のパートナー関係が良好でない
15.発達障害に関し、家族間で認知のズレがある
16.母親は子どもの問題に早くから気付くが、父親の気付きは遅い
17.母親が家庭や地域で孤立している
18.仕事をしている母親より、専業主婦の母親にストレスを実感する傾向が強くみられる
19.母親だけが子育てに拘束されている
20.家族レジリエンスが低い
21.親戚の理解がなく協力を得られない
【周囲との関係にストレスの原因がある】22.はた目からわかりにくい
23.医療機関から曖昧な診断をされる
24.専門機関の支援がない(足りていない)
25.発達障害の母親同士が交流する場がない(足りていない)
26.学校の教員に発達障害指導の自信がなく、対応が不十分である
27.進級進学の節目で他児との差異を目の当たりにする
28.障害が見えにくく学校から配慮が得られない
29.会社側の理解が得られず女性活躍社会へのハードルになる
30.自分の社会的役割活動に関する制限感がある
31.経済的安定が足りない
これら「母親のストレスの原因」を全て解決できる方法は残念ながらありません。ただ、様々な専門家や民間企業が改善のためにアプローチしている部分でもあります。
「6.発達障害の支援方法や相談先など知識や情報を得る苦労が負担である」は私自身も強く感じた部分で、発達障害支援動画メディア「
インクルボックス
」を自分で作ったきっかけでもあります。子育ては愛情より技術

発達障害の子どもの子育てによる親のストレス その原因と抑うつを防ぐための対策とは
インクルボックスより、国際医療福祉大学 橋本和明教授インタビュー
その「インクルボックス」でお話を伺った国際医療福祉大学の橋本和明教授は「子育ては愛情より技術」が重要と言っています。インパクトのあるメッセージですが、決して「愛情は要らない」と言っているわけではありません。
発達障害の子どもの子育てに悩んだ母親が相談機関にいくと「愛情をかけて育ててくださいね」と言われることがあります。母親としては、頑張って愛情を注いでいるつもりなのにうまくいかず、ストレスがたまります。発達障害児の場合はなおさらで、ともすると虐待に至ることもあると橋本先生は言います。
このとき、母親も発達障害だったり、その特性を色濃く持つグレーだったりするケースだとますます難しいそうです。「愛情をかける」をうまく理解できない特性があると、子育てがうまくいかなくなってしまう。強烈なストレスになります。
毎日全力で子育てをする母親には、この漠然とした「愛情」を頑張って理解する時間は、正直ありません。それよりも、子育てを「技術」として捉えて、学び、実践することで、子どもは健康に育ちやすくなる。すくすく育つ姿を日々間近で見守るうちに「愛情」への理解が身体に染み込むかもしれない。そう橋本教授は指摘します。
発達障害は遺伝する?
誤解を避けるために、この「親子で発達障害」に関して少しだけお話しします。私は、たくさんのご相談を受けたり、イベントで講演したり、有識者の方々と議論してきた結果、あくまでも個人的な実感ですが「親子で発達障害」というケースは多いと感じます。

発達障害の子どもの子育てによる親のストレス その原因と抑うつを防ぐための対策とは
インクルボックスより、新百合ヶ丘総合病院 高橋孝雄名誉院長インタビュー
「インクルボックス」で取材した新百合ヶ丘総合病院の高橋孝雄名誉院長によると「たとえば、同じ病気が親子で必ずつながっていくということはない。ただアルコールに弱いというような気質が親子で似るというのはある。発達障害に限らず、全てのことが遺伝に関連するかもしれないが断言はできない」とのことでした。
ですので「発達障害の子どもを持つと、親も発達障害」とは言えず、「親が発達障害だと、子どもも発達障害」とも言えません。残念なことに、ここには悪意ある偏見や差別意識が含まれてしまう実例も多々見てきましたので、発達障害に関心のある読者の皆様は慎重にご対応いただきたいと思います。
親のストレスへの対策
今回私が調べた論文で発達障害の子どもの子育てによるストレスへの対策は、
▶「支援してくれる専門家との出会い」
自分に合う専門家がいることで、普通学級、通級、家庭の連携がとれる
▶「家族の支え」
家族間の認識のズレがなく、励ましてもらうことで母親の孤立感がなくなる
▶「同じ立場の母親との出会い」
悩みを話し合えることで、ストレスが発散される
▶「合理化と補償」
子どものできる部分を認め伸ばすことでメンタルバランスを保つ
といったものがありました。
「障害のある我が子の支援のために親の自由が奪われることは、果たして正しいのか?」
フランスから投げかけられたこの問いは、私たち日本人にこそ当てはまる課題です。発達障害支援は長い戦いで、子どもの成長とともに戦局も変わります。
「親の健康があってこそ」は子育ての基本。発達障害の子どもの子育てには、メンタルだけでなくフィジカルにも、なお一層気を配らなければと感じます。
とは言うものの、毎日2~3時間睡眠の生活が10年以上になってしまった私。どうすれば睡眠時間を作れるのか? 私の身体は、いつか、どうにかなってしまうのではないか? 私が倒れたら、息子の日常はどうなってしまうのか? 綱渡りの毎日です。
この辺りも、いつか勉強してコラムでご紹介できればと思います。(赤平大 アナウンサー)
(参考資料)
「発達障がい児とその家族の支援 : 家族レジリエンスの視点から」
「現在の発達障害における母親の精神的ストレスについて」
「発達障害児の母親の精神面の健康と育児上の気がかりに関するFramework matrixを用いた質的研究」
「発達障害児を持つ母親の育児ストレス」
「発達障害者の親の負担感に関連する要因の検討」
「療育施設を利用している発達障害児(疑い含む)の父親の育児実態調査: 父親・母親の比較検討」