歌舞伎役者の娘として生まれて 寺島しのぶさんが語る映画「国宝」

 大ヒット中の映画「国宝」。原作の吉田修一さんの同名小説(朝日新聞出版)から続いて描かれているのは、歌舞伎の世界の「血筋」と「本筋」の生きざまだ。映画に出演した寺島しのぶさんは、七代目尾上菊五郎の長女として生まれ、結婚して生まれた長男・眞秀(まほろ)さんが現在、歌舞伎の舞台に立つ。映画出演を通して感じた素直な想いを聞いた。

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 歌舞伎の世界の血筋は親から子へ受け継がれるもの、本筋はその屋号に代々伝わる型や様式を指し、基本的に歌舞伎役者の息子へと受け継がれる。

 寺島さんは2007年にローラン・グナシアさんと結婚し、12年に長男・眞秀(ルビ・まほろ)さんを出産。眞秀さんは4歳から歌舞伎の舞台に立ち、23年5月2日には初代尾上眞秀を名乗り、歌舞伎座で初舞台を踏んだ。だが祖父・尾上菊五郎の“血筋”は引いているものの“本筋”ではなく、そこにはひとつクッションのようなものが置かれているのだ、と寺島さんは言う。

「眞秀本人も男親が歌舞伎役者じゃないとこれが現状ということをよくわかっている。それでも『やりたい』というので、私は全力でサポートします。親が歌舞伎役者ではなくても輝いている先輩役者さんたちが今は沢山存在していますから。喜久雄みたいなスーパースターが出てくると、個人的には『素晴らしいじゃない! 喜久雄、頑張れ!』という気持ちになってしまう」

映画「国宝」のワンシーン ©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

■「血」か「芸」かの問い

「国宝」の大きなテーマである「血」か「芸」かの問いは深いのだ。

「半二郎は芸を知っている人だから、喜久雄をぱっと見た瞬間にその素質を動物の勘で嗅ぎ分けてしまったんだと思うんです。同時に危険も感じたでしょう。『あ、この子は俊ぼん(俊介)よりよくなるかもしれない』と。天性の華やかさに女形に向いている顔つき、さらに俊ぼんにはない、そこはかとない『闇』の魅力みたいなものが喜久雄にはあった」

 陰と陽のような二人を演じきった吉沢亮と横浜流星、そしてそれぞれの子ども時代を演じた黒川想矢、越山敬達に、寺島さんは惜しみない賛辞を送る。

「大ヒットの大きな要因は亮くんと流星くんの二人が築いた関係性でしょう。撮影中も二人は大変な場面を支え合って、切磋琢磨して、それがお芝居にも出ている。そして李相日監督もスタッフさんも全員が歌舞伎というものに真剣に取り組み、リスペクトしてくださった。この映画はだからこそ生まれた『賜物』なんだと思います」

■歌舞伎役者にはなれない宿命を背負って

 歌舞伎一家に女性として生まれ、歌舞伎役者にはなれない宿命を背負ってきた寺島さん。映画に舞台に道を見いだし、いまや唯一無二の俳優となった。

「やはり『血』を持っているっていうのは、それはそれですごいんですよね。私自身、舞台の前にブルブル震えるほど緊張することがある。そんなときは鏡を見て『父と母のそして御先祖の血を引いているんだから、私にはできる、絶対にできる!』と念じて出て行きます。でも『血』は芸を後押ししてくれる半面、邪魔になることもある。いつまでも寺島しのぶは父と母の娘だとプロフィルに書かれますしね。この世界に居る限り、血は切っても切れないものなんです」

 この5月に眞秀さんが出演した、八代目尾上菊五郎、六代目尾上菊之助(11)の襲名披露公演。同世代と共演した「弁天娘女男白浪」の舞台上でも「血」を強く感じたという。

「白浪五人男が並ぶ『稲瀬川勢揃い』の場面で、子供達が揃うと、みんな父親はもちろんのこと、お祖父様に仕草やセリフの言い回し、もちろん顔も似てるんですよ。うわ、血だ!って思います。眞秀の南郷力丸という役は父に習いましたが、父は弁天役者ですから一度も演じたことはない。だから眞秀のオリジナリティでやるしかなかったんです。もちろん色んな役者さんからもアドバイスをいただきましたが。1カ月舞台にたってみると子供達も日々変わっていき切磋琢磨して堂々と立っている。眞秀に彼らみたいな父親はいないけど、舞台に立つことで自分なりの見せ方の工夫やコツを掴もうとしている。私もできるだけ見て、毎日気づいたことを眞秀に話します。千秋楽まで兎に角発見し続けて欲しいんです。」

「国宝」という映画が歌舞伎への新たな興味のきっかけにもなればとも願っている。

「2万円のチケットを尊いと思って観劇してくださる方々を絶やさないためにも、歌舞伎ファンの一人として歌舞伎が更に発展し世界へと普及されていくことを切に願います」

(構成 フリーランス記者・中村千晶)