【大阪「甘味処」名店3選】猛暑でも行列が絶えない氷くるみ餅、高麗餅、みたらし団子…愛され続ける“ほんまもん”の味
関西で和菓子というと、どうしても京都を思い浮かべがち。でも、大阪を忘れてはいけません。江戸のころには、“天下の台所”と称された食い倒れの街。長年、地元で愛されている、飾らない、ほんまもんの甘味があります。大阪・関西万博に沸く現地から、夏でも食べたい餅や団子の名品を紹介します。
「かん袋」の氷くるみ餅
明治のころから涼を求めて行列ができた堺の名物

「氷くるみ餅」シングル(餅5個)420円。餅が10個入ったダブル840円もあり、いずれも通年メニュー。写真は撮影用に氷を少しよけたもの。本当は氷にすっぽりと覆われていて、中のくるみ餅は見えない。
「かん袋」というユニークな屋号の店は、大阪唯一の路面電車、通称ちん電が行き交う堺にあります。いわゆる大阪の中心地からは1時間前後かかる。しかも、メニューは、ほぼ1種類。それでも、吹き出す汗もなんのその、どこからともなく客がやってきて、いつも行列を作っています。
目当ては、うぐいす色のあんがかかったひと口大の餅を、削った氷が雪山のように覆った氷くるみ餅です。行列といっても、店も客も心得たもの。サービスは注文から提供まで淀みなく、客もさっと食べて帰っていくから、列の進みはトントン拍子。それがわかっているから、皆、汗を拭き拭き待っています。
たったひとつの甘味を作り続ける鎌倉時代創業の老舗

シール容器入り、壺入りなど持ち帰り商品がずらりと並ぶが、商品はすべてくるみ餅。
「かん袋」の創業は、かなり古く鎌倉時代末期。和泉屋徳兵衛という人が、近隣の寺社に納めるための餅屋を開いたのが始まり。名物のくるみ餅は、堺が貿易港として栄えていた室町時代の中ごろに誕生しました。
5代目の忠兵衛が、明国などから入ってくる農産物であんを作り、ひと口大の餅をくるんで茶菓子を作り、「くるみ餅」と名づけました。当初は塩味でしたが、砂糖が輸入されるようになって、甘い、いまの形になったそうです。「試しに塩味のあんを作ってみたことがありますが、やはり、おいしくなかったですね」と言うのは、27代目の今泉文雄さんです。
うぐいす色のあんは一子相伝の味

「くるみ餅」もシングル(餅5個)410円と、ダブル(餅10個)820円がある。
そして、明治に入り、製氷技術の進歩とともに始まったのが、氷くるみ餅。当時から、涼感を求めて、たくさんの客が列をなしたと言います。氷の山を崩しながら口に運ぶと、とろんとしたコクのある甘いあんがすっきりと、やわらかな餅もキュッと締まって、また違うおいしさになります。
ちなみに、ずんだのような、青大豆のような、きな粉のような独特のコクと甘みのあるあんの製法は、一子相伝。あんの正体は想像するしかないのですが、味は時代に合わせて、少しずつ、少しずつ変えているそうです。

お店に入ったら、まず注文して支払い。番号が記された木札を受け取って空いてる席に座って待つ、というシステム。

進物用には、三重県四日市で焼いてもらっているという壺入り2,030円~も。
くるみ餅が誕生した当時の屋号は「和泉屋」。それが「かん袋」になったのは、安土桃山時代のこと。名付け親は、大阪城を築城した豊臣秀吉だそうです。由来が記されたしおりで往時に思いを馳せながら口に運ぶと、もうひとつ味わいが深くなる気がします。

阪堺電車の寺地町駅からすぐ。堺は千利休の故郷。近隣には、千利休屋敷跡や、彼が愛した銘菓をいまに伝える「本家小嶋」などがある。
かん袋
所在地 大阪府堺市堺区新在野町東1−2−1
電話番号 072−233−1218
営業時間 10:00~17:00 売り切れ次第終了
定休日 火曜、水曜(祝日の場合は営業)
「菊壽堂義信」の高麗餅と氷しるこ
できたてのみずみずしいあんこが沁みるオフィス街の避暑地

「高麗餅」(粒あん、こしあん、白あん、抹茶あん、胡麻あん)はお茶がついて800円。
注文が入ると、求肥餅とあんを手にのせて握り、指の節でさっと角を形作る。「1分もあれば、できてしまいます」と語るのは、18代目の久保哲也さん。これを粒、こし、白、抹茶、胡麻の5種作り、緑鮮やかな抹茶をテッペンに皿に盛る。客はできたてを、あんがしっとりみずみずしいうちに口に運ぶ。そんな握り寿司のような菓子が、高麗餅です。
粒あんは丹波大納言小豆、白こしあんは備中白小豆、こしあんは備中小豆と最高級の豆を使用。すべて店内で炊いています。無理せず、おいしく炊ける分だけ、というこのあんが、どれも本当に香りよく、しっとりと、上品な味わいなのです。

表から見える店名は、ガラス越しに立てかけてある表札だけ。その向こうには、もうひとつの銘菓「梅干し」がディスプレイ。
創業は江戸後期(1830年ごろ)。船場で、商家の人々に茶席用の菓子などを作っていましたが、戦後、ビジネス街である北浜に移転。高麗餅は15代目が、“お待たせせずに、さっと出せるものを”と、65年ほど前に考案しました。「材料も作り方も当時から変わっていませんが、代々の店主によって指の大きさが違いますから、形は少しずつ違いますよ」というのも、この菓子ならでは。
高麗餅という名は、この菓子を贔屓にしていた歌舞伎役者で八代目の松本幸四郎さんが、自身の屋号である高麗屋と、店の近くにある高麗橋をかけて命名したそうです。
夏だけのお楽しみ。なめらかなこしあんを飲むように味わう氷しるこ

「氷しるこ」750円。夏は、ほかに氷ぜんざいやかき氷(宇治金時、金時)がメニューに登場。
店内の喫茶では、高麗餅や季節の上生菓子のほか、あんを使った季節の甘味も楽しめます。そのひとつが、夏の氷しるこ。こちらも「あんのおいしさが感じられる冷たい甘味を」と、15代目が考案。こしあんと氷を攪拌し、削った氷と求肥をのせた、いたってシンプルな仕立てですが、きめ細やかなこしあんのおいしさが堪能できる喉越しのいいメニューです。

テーブルのみの店内。奥には、義太夫節の太夫で、人間国宝の山城少掾直筆の額が飾られている。

気さくな18代目店主の久保哲也さん。店を継ぐ前は百貨店に勤務していたそう。
オフィス街のど真ん中。表には暖簾もかかっておらず、看板も出ていません。気をつけていないと通り過ぎてしまうひっそりとした佇まいですが、客は入れ替わり立ち替わり、電話もひっきりなし。こんなに品のいい菓子を、気取らずに楽しませてくれるのですから、その人気も納得です。

大阪取引所などがある北浜駅から歩いて3分ほど。
菊壽堂義信
所在地 大阪府大阪市中央区高麗橋2-3-1
電話番号 06-6231-3814
営業時間 10:00~16:30(喫茶11:00~16:00)で売り切れ次第終了
定休日 土曜、日曜、祝日
「喜八洲総本舗 本店」のみたらし団子
行列ができる商店街のみたらしは、“焦げ”もええように

「コゲ少なめ」「コゲ普通」「コゲ多め」「コゲコゲ」から焼き加減が選べる「みたらし団子」1本120円。
香ばしい匂いに食欲をそそられるみたらし団子は、俳句の世界では夏の季語。発祥の地である関西では、夏の風物詩として親しまれています。そのみたらし団子の名店「喜八洲総本舗 本店」が、阪急・十三(じゅうそう)駅西口を出てすぐ、商店街の入口にあります。
ここは焼き加減が4段階から選べるのが、ほかにないところ。串には、焼き目がつきやすく、たれが絡みやすいよう、あえて俵形にしたという団子が5つ。焼き加減を伝えると、直火で炙り、たれにドボン! とくぐらせて渡してくれます。
創業者が考案したという独自のたれがまた、昆布文化が根付く大阪らしい。北海道釧路産の昆布で引いたダシをベースに、香川県産のたまり醤油と白ざら糖で味つけし、葛でとろみをつけています。
昭和23年、淡路島伝承の技を受け継ぐ酒饅頭を看板に創業

みたらし団子を始めて間もない、昭和36年に増築した時の記念写真。最前列真ん中に初代の中田治吉さん。
初代の中田治吉さんが、発祥の地とされる淡路島の酒饅頭本家からその技を受け継ぎ、この地で甘党の店を構えたのは、1948(昭和23)年のこと。酒麹でふっくら膨らんだ香りのよい酒饅頭は、ほどなく人気を集め、多い時で4万個も売れたといいます。
それから10年ほどして登場したのが、みたらし団子です。百貨店への出店や、「だんご3兄弟」の大ヒットなどがきっかけとなり、あれよあれよという間に、酒饅頭をしのぐ一番人気に。次第に、“もうちょっと炙って”“コゲ、少なめに”なんて言う常連客が増えてきて、いっそ焼き加減を選べるようにしたら面白いのでは!? と、いまの形にしたそうです。旨みを感じる甘じょっぱいたれと、焼き目の香ばしさをまとったやわらかな団子は、1本では到底終われません。

写真はコゲ普通。初めての人はまずはこれから。

昆布だしを使ったたれは、当初は珍しかったそう。5本入り600円のほか10本入りもあり。
店名にある“八洲”は、日本の古い呼び名。初代が「菓子業で日本中の皆さまに喜んでいただこう」と命名しました。現在は、80歳の2代目、中田八朗さんと、3代目となる雄介さんが二人三脚で暖簾を守っています。みたらし団子と酒饅頭の2枚看板をはじめ、花ぼた餅、きんつば、焼きもちなど、気のおけない浅(朝)生菓子を中心に、すべて自社で手がけています。
サイズも味も横綱級!! 取り寄せできる力士最中で夏バテ撃退

「力士最中」1個 230円。3個、5個、10個箱入りなどあり、電話で取り寄せできる。きんつば、三笠も取り寄せ可。
最後にお取り寄せできる和菓子をひとつ。“力士”の名のとおり、9cm×9cmの種に粒あんがぎっしり詰まった総重量140gという超ド級サイズの最中です。食べ切れるのかと不安になりますが、大納言小豆を白ざら糖ですっきりと炊いた粒あんは、風味豊かで甘さ控えめ。意外にもいけてしまいます。きんつばもまたジャンボなサイズ。商店街の名店は庶民の味方なのです。

平日でも並んでいることが多いが、手際がいいので作業を見ているうち、あっという間に順番がやってくる。店内に腰かけるスペースが少しある。
喜八洲総本舗 本店
所在地 大阪府大阪市淀川区十三本町1-4-2
電話番号 06-6301-0001
営業時間 10:00~20:00
定休日 火曜