「選挙中は国民のため、当選したら自分のため」戸田恵子のセリフが皮肉すぎて焦る!【あんぱん第82回】

蘭子(河合優実)の言葉に説得力があるワケ, 選挙の皮肉?鉄子(戸田恵子)の叫び, 今田美桜が輝く瞬間はこんな演技だ!, 雑誌の表紙は「母に似ている」と言わせる創作の力とは

『あんぱん』第82回より 写真提供:NHK

日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月曜から金曜までチェックし、当日の感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年続けてきた著者による「見なくてもわかる、読んだらもっとドラマが見たくなる」そんな連載です。本日は、第82回(2025年7月22日放送)の「あんぱん」レビューです。(ライター 木俣 冬)

蘭子(河合優実)の言葉に説得力があるワケ

 のぶ(今田美桜)に長らく渡せなかった嵩(北村匠海)の真っ赤なハンドバッグ。

「こんなにすてきなハンドバッグ見たことない」とメイコ(原菜乃華)は眼を輝かせる。これまで要らないと突き返されてばかりのバッグがついに褒められて、バッグも報われたことだろう。もうメイコにあげてしまえ。

 蘭子(河合優実)は冷静に「え?何年前の話ですか」と尋ねる。

 昭和12(1937)年(第31回)に登場し、現在昭和21年(1946年)9月で、筆者は9年来と思ったが、ドラマでは「8年くらい」とされていた。

「どういてもっと早う渡さんかったが」と羽多子(江口のりこ)。のぶは当時、「筋金入りの軍国少女」だったから、こういう贅沢なものを否定していたのだと嵩は話す。それで羽多子はナットク。このときの目つきに、戦争は終わったのだなと筆者は感じた。

 戦争真っ盛りのときだったら、軍国少女を笑い話的に軽く受け流すことはできなかっただろう。自身もまた表向きは真顔で軍国主義に従っていただろうし、真面目に国に従っているのぶを笑うこともできなかっただろう。

 ここのところ説明セリフ担当だった蘭子はここではツッコミ担当で、嵩になぜ、のぶに気持ちをぶつけないのかと真剣に問いかける。彼女は豪(細田佳央太)に気持ちをぶつけたから説得力がある。

「いまもお姉ちゃんのことを好きながですよね」とはっきり言われてしどろもどろの嵩。たっすいがである。

選挙の皮肉?鉄子(戸田恵子)の叫び

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 羽多子は嵩はやさしいから次郎(中島歩)に気兼ねしているのだと思いやるが、嵩は次郎よりも千尋(中沢元紀)のことを気にしていた。次郎の立場……。

 千尋ののぶを思う強い気持ちにはかなわない。それで告白する勇気が出ないでいたのだ。軍国主義の思い出はおもしろくできるが、千尋の話はそうできない。やっぱりまだ戦争は終わっていないのだ。

 のぶは東京で薪鉄子(戸田恵子)の手伝いをはじめる。

 事務所にのぶが来たとき、鉄子は「国会議員いうがは選挙中は国民のためと耳にたこができるばあ言いいうくせに当選したら自分のためにしか働かんがやき!」と怒っていた。現実世界ではちょうど選挙が終わったばかり。なんだかとっても皮肉に聞こえる。

 鉄子につれられてさっそく街へ活動に出たのぶ。鉄子は市民を前に、飢えた子どもたちの苦境は戦争を引き起こした大人の責任だと力強く演説する。戦争は終わってもその影響はまだ大きく残っている。

 とても忙しそうに動き回る鉄子についていくには、食事をする時間もない。事務補助員の世良則雄(木原勝利)は日本一食べるのが早い。

 のぶはトタンでできた掘っ立て小屋を住まいとして貸してもらえた。これまで住まいに困ったことのないのぶが、いきなりこんな掘っ立て小屋みたいなところでひとり暮らしをするなんて大丈夫であろうか。

今田美桜が輝く瞬間はこんな演技だ!

 のぶは浮浪児の見回りを担当することになった。そこでアキラ(番家玖太)が盗みの容疑をかけられているところを目撃。アキラとは以前、取材でのぶが東京に来たとき、カメラをすった少年である。浮浪者のいるところに八木(妻夫木聡)あり。八木はアキラを助ける。

 のぶが「月刊くじら」の嵩の四コマを見せると、八木の表情がほんの少し和んだ。妻夫木聡のかすかな表情の変化が見事。

 八木の表情の変化をのぶは見逃さない。

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「あいつの絵や物語は人の心を動かす」と言いながら八木は厳しい顔になり、浮浪児の盗みは生きる術として染み付いたものだと、「きれいごとでは何も解決しない」とのぶに語る。

 つまり、嵩が漫画を描くことで生き残れたように、浮浪児は盗みを働いている。逆をいえば、子どもたちに盗みではない生きる術を身に着けさせる必要があるということだ。

 それでものぶは浮浪児と向き合おうとする。誰かがハーモニカで吹いている「荒城の月」が物悲しい。

「リンゴの唄」など戦後を明るくさせる唄もある一方で、このように無情の哀切を歌った唄も流れている。それが戦後なのだろう。焼け跡の虚しさ、そこで歯を食いしばって生きていく人々。

 警察に追われるアキラを親戚の子を預かっているのだと毅然とかばうときののぶの瞳は権力に動じない強さを放っていた。これまでずっと目が揺らいでいたのぶが、ついに強い意思を放ちはじめている。こういうときの今田美桜はとても輝く。

雑誌の表紙は「母に似ている」と言わせる創作の力とは

 警察は浮浪児を捕まえては施設に送る。それを「狩り込み」という。「狩り込み」は同じ朝ドラの『なつぞら』(19年度前期)や『虎に翼』(24年度前期)にも出てきた。

 浮浪児のなかには話すことを持たない(持てない)子もいるが、アキラのように心を開く子もいる。のぶは辛抱強く、浮浪児たちと接して彼らを救う手立てを思いつくことができるだろうか。

 アキラは『月刊くじら』の表紙の女性が母親に似ている気がすると言い、でものぶにも似ていると言う。誰もがのぶに似ているという嵩の絵。ひとりの女性への強烈な思慕が、アキラのように母の思い出と重なる。おそらくそれが創作の力というものなのだ。

 のぶのもとに蘭子からのはがきが届く。そこには『月刊くじら』の最新号の編集後記に、のぶのお別れの言葉が載っていると記してあった。

 高知新聞から出ている書籍『やなせたかし はじまりの物語:最愛の妻 暢さんとの歩み』にのぶのモデルである小松暢さんの書いた編集後記が載っている。これはドラマでは引用されないのだろうか。

 嵩のモデル・やなせたかしが月刊高知で書いた漫画はふんだんに引用されているが、小松暢さんの文章は引用されない。主人公はのぶなのになぜ。

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フォトギャラリー

主なシーンより

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第17週(7月21日〜25日)

「あなたの二倍あなたを好き」あらすじ

のぶ(今田美桜)は嵩(北村匠海)に「先に東京に行って待っている」と言って高知新報を去る。その夜、琴子(鳴海唯)からのぶに気持ちを伝えないままでいいのかと聞かれた嵩は、思い立って飛び出していく。翌朝、赤いハンドバッグを抱えた嵩が若松家にやって来るが…。東京に着いたのぶは、そのまま鉄子(戸田恵子)に同行する。せわしなく動き回る鉄子に必死についていくのぶに、鉄子は徹底的に浮浪児の話を聞いて回るよう命じる。こうして東京での生活が始まるが…。

連続テレビ小説『あんぱん』

作品情報

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連続テレビ小説「あんぱん」。“アンパンマン”を生み出したやなせたかしと暢の夫婦をモデルに、生きる意味も失っていた苦悩の日々と、それでも夢を忘れなかった二人の人生。何者でもなかった二人があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでを描き、生きる喜びが全身から湧いてくるような愛と勇気の物語です。

【作】中園ミホ

【音楽】井筒昭雄

【主題歌】RADWIMPS「賜物」

【語り】林田理沙アナウンサー

【出演】今田美桜 北村匠海 江口のりこ 河合優実 原菜乃華 鳴海唯 倉悠貴 木原勝利 津田健次郎 戸田恵子 妻夫木聡 ほか

【放送】2025年3月31日(月)から放送開始