映画「鬼滅の刃」が"前作超え"も現実味を帯びる訳

異例のロケットスタートを切った『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』。写真は十二鬼月・上弦の参である猗窩座。強大な力を持ち、炭治郎たちの前にたちはだかる(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
今年1番の注目映画『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が7月18日から公開され、初日4日間で興収73.1億円(動員516万人)と破格のロケットスタートを切った。
【画像12枚】劇場版「鬼滅の刃」。圧巻の映像美を誇る本作の雰囲気はこんな感じ!

(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
公開3日間では興収55.2億円(動員384万人)。国内歴代興行収入1位の記録を樹立した前作『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年10月公開/404.3億円)の同成績(興収46.2億円、動員342.5万人)を大きく上回り、オープニング成績、初日成績、単日成績で歴代記録を更新した。
すでに、今年上半期のNo.1ヒット作『名探偵コナン 隻眼の残像』(144億円〜)超えを確実にし、前作の404.3億円を超えるかが話題の焦点に移っている。
映像美に圧倒され物語に引き込まれる
先週末のシネコンは、スクリーン占拠したほとんどの上映回がほぼ満席という盛況ぶりだった。今週末は若干上映回数を減らしそうだが、先週末とほぼ変わらない上映状況をキープするだろう。
ひとつの注目ポイントは来週末からの8月上旬だ。そこでも同じ規模であれば、前作に迫る数字が一気に現実味を帯びる。

公開3日間の興収は、オープニング成績、初日成績、単日成績で歴代記録を更新した(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
そんな本作は、作品としてもそれだけの見応えがあり、誰もが楽しめるだろう素晴らしい内容だった。
冒頭から、近未来の陰鬱なSF感が漂う無限城を舞台にした、息つく暇もない戦闘アクションシーンの連続。怒りがみなぎる鬼殺隊の面々の迫力に圧倒されながら、自然に彼らに気持ちを引き寄せられて、作品に見入っていく。

不死川実弥(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
そして、その映像の美しさと、無限城に吸い込まれるような大迫力の描写にあっという間に魅了され、気づけば独特な世界観の物語に引きずり込まれている。
芸術的とも言える唯一無二の映像美
原作の物語を知っていても、映像作品として触れる本作は、また別の異なる魅力に溢れている。背景を主にした精巧なCGアニメーションと、キャラクターまわりの躍動感溢れる2D作画のリンクは、芸術的な美しさの映像に仕上がっていた。
とくに柱や鬼殺隊と鬼たちとの殺陣シーンや、柱それぞれの「呼吸」の技が描かれるシーンこそ、本作の映像演出の真骨頂だろう。

我妻善逸(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
CGと手描き2Dを組み合わせる作品はほかにもあるが、緻密で精巧なCG描写のクオリティの高さは突出し、その重なり合いの妙によるシーンの迫力、リアリティ、臨場感、緊迫感のすべてが一体となった美しき世界は唯一無二。その完成度で、他の追随を許さないクオリティを誇っている。
今後の焦点は、リピーターがどこまで伸びるかだ。前作を超えるには2900万人前後の動員が必要で、その道程は途方もなく長い。
公開週末こそ大きな追い風が吹いたが、その勢いをどこまで維持できるか。この先には懸念点がいくつかある。

冨岡義勇(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
公開週のシネコンスクリーン占拠がいつまで続くか
懸念点のまずひとつは、国内歴代興収No.1となった前作は、コロナ禍の特殊な状況下で公開されたことだ。
2020年春から夏にかけて世界的に映画製作は滞り、洋画大作の供給はストップ。シネコンに新作が枯渇していたなか、長期のスクリーン占拠が記録的ヒットにつながった。
一方、平時の今回は、『国宝』や『スーパーマン』『F1/エフワン』など大ヒット中の話題作が潤沢にあり、この先には劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』や『ジュラシック・ワールド/復活の大地』など大作も控える。
前作公開時とは周囲の状況がまったく異なる。公開週末のシネコンのスクリーン占拠がいつまで続くかは不透明だ。週を経てスクリーン数、上映回数とも減っていくだろう。そんななか、いかに長く話題性を持続できるかがカギになる。

時透無一郎(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
もうひとつのポイントが、本作は155分と上映時間が長いこと。前作は117分と見やすかった。それでも個人的には前作ラストの戦闘シーンが長く感じてしまった。本作は3つの戦いが描かれることもあるが、ラストの戦闘シーンをはじめ、作品全体として長い。

(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
もちろんコアファンにとっては、それがいいのだろう。ただ、大多数の一般層にとってはどうか。映像に圧倒的な迫力と臨場感があるから、気づけば手に汗握り、全身に力が入る緊張状態が続く。そんななか、ときに陰鬱な空気にも覆われる独特な世界観の物語が2時間半を超えると、体力的にも精神的にもなかなかハードだ。
本シリーズの見どころのひとつだが、延々と続く劇場版の戦闘シーンは観客を選ぶかもしれない。コアファン以外は、1回でお腹いっぱいになってしまいそうな感がある。
個人的には、もう少し見やすい尺だったら、繰り返し観に行って詳細を楽しみたいとも思う。リピーターの数と再訪の頻度に、尺の影響はあるだろう。

(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
SNSでは前作のほうがよかったという声も

(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
そして、見応えのあるラストだが、前作と比較すると余韻は薄い。前作はラストの炎柱・煉獄杏寿郎の死闘のインパクトが強烈過ぎたこともある。
映画が終わっても、映画館から出ても、その日の夜も、ずっしりとのしかかるような物語から抜け出せない余韻に引きずられた。それを今回も期待していると、ちょっと弱いと感じるかもしれない。
ただ、もちろん本作も手に汗握るシーンの連続で、シリーズおなじみの終わったと思わせてさらに先があるラストシーンにも見応えがある。完結に向かう3部作の第一章として、次作に引っ張る見事な終幕だった。
SNSでは、総じて本作に対して好意的なリアクションが多いようだが、一方で、前作のほうがよかったという一部の声も少なからず見られる。大ヒット作に賛否はつきものであり、称賛一辺倒にはなかなかならない。

胡蝶しのぶ(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
さまざまな論調があってこそ健全なシーンであり、そこから話題が喚起され、注目度が急騰することもある。興収400億円超えには、コアファンだけでなく、一般層のリピーターが欠かせない。
前述のスクリーン数の維持ともつながるが、そのためには世の中的な盛り上がりをいかに継続させるかがポイントになり、賛否を含めた声はその種にもなるだろう。
公開直後の現在は、SNSもネットニュースも本作の記録的ヒットスタートの話題でもちきりだ。この勢いをどこまで維持できるか。いまはまだ最終的な興収の予測が立たない状況であり、前述のポイントが前作超えの懸念点として浮かび上がる。
劇場3部作の次作へ高まる期待

甘露寺蜜璃(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
本作はまさに映画というメディアで最大限に映える作品であり、スクリーンでこそ真価が発揮されるコンテンツであることを感じさせる。巨大なスクリーンに映る美しい映像と臨場感溢れる大音響のなかでこそ、その世界観に没入して作品を全身で感じることができる。
本作を鑑賞した誰もが、残りの2作への期待を大いに高めただろう。劇場版3部作での終幕は、ファンが望む最高の締めくくりになるに違いない。まずは本作の興行がどこまで伸びるか注目したい。